尾白鷲の仲裁
ここはとある北の国、鮭の遡上する河のほとり。長い旅と出会いを終えた鮭が、息も絶え絶え浅瀬を彷徨う。
上空を旋回していた一羽の鳶がそれに気付き、翼を窄めると急降下。あっと言う間に迫る影に鮭は逃げようとするも間に合わず、羽撃いて減速した鳶の爪に掴み上げられてしまう。
それでも最期の力を振り絞って爪から逃れたものの、砂利だらけの河原に叩きつけられてしまう。
鳶はバランスを立て直して降りようとするが、そこには河原をうろついていた烏がちゃっかり駆けつけていた。そうして鳶と烏で鮭の取り合いが始まった。
お互いに翼を拡げ、嘴で突きかねない勢いだ。そこに大きな鳥が上空から舞い降りる。
「おい、その方らは何を騒いでおるのだ」
「へい、この鳶の野郎があっしの魚を横取りしようとしやがったんでさ」
「やいやい、お前は別名通り大嘘鳥だな。おいらが捕った魚だぞ」
「なるほど、鳶が捕った魚をおぬしが横取りした、と言うんじゃな?」
「ちっ、ばれちゃあ仕方ねぇ。大体捕った魚を落としたのがいけねぇんだ」
「ふざけるなよ、お前が突っついてきたから落としたんだぞ」
「てやんでえ、魚が暴れたのをこっちの所為にするんじゃねぇ」
「つまり、魚を捕ったのは鳶、落としたのも鳶、烏はそれを拾ったと言うわけか」
「「おっしゃる通りで」」
「ふむ鳶よ。その方の言い分は、『魚は捕った者の物』で相違ないな?」
「その通りで」
「おい烏、おぬしの言い分は、『魚は拾った者の物』で相違ないな?」
「へい、さすが分かってらっしゃる」
「つまりだ、この魚は鳶の言い分では烏の所有物ではないし、烏の言い分では鳶の所有物ではない、そうであろう?」
「「へい」」
「あい分かった。それではこの魚はこの鷲が責任もって処分しよう」
「尾白鷲の旦那、そりゃねぇよ」「勘弁しておくんなせぇ」
「何を言うか、鳶は捕えた魚を逃して一尾の損。烏は魚を横取りできず一尾の損。鷲は仲裁の方に一尾ずつ召し上げる処を一尾で済まし、一尾の損。
これぞまさしく三方一尾の損ではないか」
「けっ、尾は白くても腹ン中真っ黒じゃねぇか」
間が開いてしまいましたが、鳥シリーズ第三弾です。鳥視点ではなく、三羽の掛け合いですが。
去年Facebookに投稿したものをベースに前段を追加しました。
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