第4話 紅い瞳は呪われているとか誰が言った
ルイが着ていたボロボロのロングTシャツを剥ぎ取り、リュックに詰めていた黒いシャツとスボンと靴を取り出した。惚けているルイに無理矢理着せるとサイズがピッタリでなんとなく悲しい気分になってしまう。10歳児が5歳児と同じサイズってどうなんだ。
「やっぱり垢とかすごいし銭湯行こう!」
「でも、お金が・・・」
「私が持ってるから大丈夫!行こ!」
ルイの右腕を掴んで路地裏から表通りに移動する。沢山の人を見たルイは顔を青くして俯いたが、私が真横に引っ付くと安心したように顔を上げた。確か、さっきこの辺に銭湯があったはずだと思いながら足を進めると少し先に銭湯らしき建物が見えた。早足で向かい、暖簾をくぐると真正面に番台があった。
「いらっしゃい。子供2人かい?」
「はい!あの、一緒に入りたいんですけど大丈夫ですか?」
「うーん、まあ子供だしねえ・・・見たところどっちも5歳か6歳だろ、いいよ」
「ありがとうございます!」
「しっかりした子だねえ」
番台のおばあさんに2人分の料金を聞き、ピッタリ払ってから女風呂の脱衣所に向かった。私は別に男風呂でも良かったのだけど、ルイが「女の子が男風呂に入るのは・・・」と言って渋ったから女風呂だ。10歳が入っていいのかとは思うけど、どう頑張ってもルイは10歳には見えないし大丈夫だろう。うん、バレなきゃ問題ない。真昼間というのもあってか女風呂には誰もいないし多分大丈夫大丈夫。
風呂に入って、犬を洗うようにルイの体をガシガシとスポンジで擦る。擦れば擦るほど垢が出てきて椅子の下が黒ずんでいくから少し楽しくなってきた。体が洗い終わったら次は髪の毛で、シャンプーを泡立てて髪が見えなくなるほど泡で覆いながら洗う。ずっと切っていないせいか背中まであるくせっ毛の黒髪は洗うのが少し大変だ。苦戦しながら洗っていると、水と泡で重くなった髪のせいでルイの頭が少し後ろに傾く。カクッとした勢いに驚いたルイは目を開けてしまい、ずっと前髪で見えなかった紅い瞳と私の目が合った。
「あっ・・・い、痛っ!」
「うわっ!泡が着いた手で目隠ししたらそりゃ痛いって!」
目が合った瞬間、何を思ったのかルイは手のひらで自分の両目を覆った。だが悲しいかな、流しきれていなかった泡がまだ手のひらに残っていて、両目に泡が入ってしまったのだ。急いで顔の泡を落としてタオルで目の周りを拭くとルイは涙目になって顔を顰めていた。ルイ曰く、この瞳を見られなくないとの事だ。髪の泡を流しながら話を聞くとどうやらこの瞳が原因で親に捨てられたという。ルイの家系は代々黒髪黒目なのに、ルイだけ紅い瞳で産まれてしまい気味悪がられて売られたと。わー、胸糞要素が増えたぞー!
「ルイの瞳って綺麗だから見えないの勿体ないのになぁ」
「で、でも、呪われてるから・・・」
「いやいや、紅い瞳とか珍しくないし、なんなら青やら黄色やら緑やら桃色やらの瞳の人がいっぱいいるんだよ?黒目以外が呪われてるならこの世の大多数が呪われてるよ」
「そ、うなの・・・?」
「そうだよ。だから、安心してね」
「・・・うん」
全身の泡を流し終わるとルイの体がピカピカして見えた。泥やら垢でさっきまでは分からなかったけど、きめ細かい白い肌に緩く波打っている黒髪、そしてタレ目の中の紅い瞳。肋骨が浮き出るほどガリガリな点を除けばルイは結構なイケメンだ。まあ、顔の右半分は火傷で変色しているし左腕も二の腕あたりから切断されてしまってはいるが、それを差し置いてもイケメンだと思う。そんな事を考えながら、ルイを湯船に入れて自分も体を洗い始めたのだった。