第3話 孤独で人は死ぬのか?
これは勝手な持論だが、人は孤独で死ぬと思う。家出したのはいいものの、私は独りだ。これから先数十年、独りで生きていくのは流石に辛いものがある。多分数週間で発狂して死ぬ予感しかしないしそれは困る。とはいえそう簡単に行動を共にする人間を見つけられるはずも無い。そこで考えたのはヒューマンショップで人を買う事だ。倫理観が欠如しているとは思うけどもうこれ以上いい考えが思い浮かばない。たまたま偶然とはいえヒューマンショップが有名な街に来たのだ、これもきっと運命だろう。
ヒューマンショップが有名と言われるだけあって、至る所にヒューマンショップが建ち並んでいる。しかもヒューマンショップの中にも専門店というのがあるらしく、女専門・男専門・子供専門・若い青年専門・老人専門・・・なんなら魔物専門店すらある。魔物はヒューマン扱いなのか・・・?いくつかのヒューマンショップを見て周っているところ、狭い裏路地を発見した。さすがにこの先は何も無いだろうと思いつつ好奇心に負けて入っていく。路地裏を抜けると、木箱に腰掛けて煙管を吸っている老人が目に入った。
「・・・おや、こんな寂れたところに来るなんて珍しい」
「おじさん、こんにちは。ここはなんのお店ですか?」
「ああこんにちは。挨拶が出来るのは良い事だ。ここはヒューマンショップだよ。まあ、高値で購入すると謳っている店が多すぎて最近は殆ど仕入れていないが」
「ふうん・・・」
「子供が入る店じゃない・・・と言いたいところだが、見たところ訳ありだね。見ていくかい?」
「是非!」
そう応えると、老人は煙管を置いて腰を上げた。そして小さな鈴の音を鳴らしながら扉を開ける。扉を開いた状態でこちらを見たため、甘えて老人と扉の間をすり抜けて店に入った。店内の照明はいくつか電球切れを起こしていて、辛うじて残っている電球もチカチカと点滅している。かつては沢山の人が入っていたのであろう独房のような場所は空の状態になっており、誰もいない空間が先まで広がっていた。
「さっきの言葉には少し間違いがあってね。殆ど仕入れていないと言ったが、実際は全く仕入れられていないんだ。残っているのは1人だよ」
「1人?」
「ああ。着いておいで」
老人の後ろを着いて暫く歩くと、建物の端に到着した。先程は誰もいないと思ったが独房らしき部屋の中を覗くと隅に小さな塊があることに気がつく。塊というか、人間だ。多分、私と同じくらいの。
「仕入れたのは1か月前。あんなナリだから表のヒューマンショップはどこも買い取らなかったらしくてね。だからこんな寂れたところに売られたというわけさ」
「あんなナリって?」
「ああ、この状態じゃあ見えないな。今出そう」
老人はズボンのポケットから小さな鍵を取り出して鉄格子を開いた。その音を聞いたせいか中にいる少年はビクッとして、顔を上げる。・・・あ。
「ほら、来い。・・・見ての通り、顔の半分は火傷で爛れているし左腕が無い。ここに来てから飯は食わせてはいるが栄養失調か何かでガリッガリだ。どこも買い取りたがらないわけだよ」
「なるほど分かりました。じゃあ、私がこの子買いますね!」
「は?ああいや、買い取ってくれるなら嬉しいが・・・本当にいいのか?今にも死にそうだぞ?」
「買いますね!いくらですか?」
「・・・物好きもいたものだ。まあ、深くは聞かないことにするよ。売れ残りみたいなもんだし3万でいい」
「はい、ピッタリですね!ありがとうございました!」
リュックに突っ込んだ貯金箱から3万を取り出して老人の手に握らせた。余談だが、さっきまで見ていたヒューマンショップだとこれくらいの子供は数百万で売られていたのだ。破格過ぎる。それは置いておいて呆然としたように突っ立っている少年の右手を掴み、店外に向かって走り出した。パーティメンバーゲットだぜ!
人と人との関わりには、まず最初に自己紹介と相場が決まっている。老人のヒューマンショップを出て暫くすると小さな空き地があったため、その中のコンクリート片に腰掛けて休憩をした。少し走っただけなのに疲れた、体力付けよう。
「えっと、私はエレナ!5歳!家出して一人旅してるよ!あなたは?」
「・・・10歳。名前は・・・ルイ、です」
「え、10歳?10歳なの!?」
「は、はい・・・」
「ええ、体格同じくらいだから同い歳かと思ってた・・・。敬語じゃなくていいよ、私歳下だし」
「いえ・・・ご主人様には、敬語でないと・・・」
「・・・ねえ、ちょっと聞きたいんだけど、あのヒューマンショップに入るまではどこに居たの?あ、言いたくなかったら答えなくていいからね」
「加虐趣味のある名家のご子息に買われて居て・・・そのご子息に買われる前もヒューマンショップに・・・。買われては売られてを繰り返していたので・・・」
ルイによると、顔の火傷と左腕の切断は前に居たご子息のところでやられたんだと。胸糞だね!ルイの目には諦めのようなものが浮かんでいて、多分また売られると考えているだろうことが容易に想像できた。しかも、一番最初にルイを売ったのは両親らしい。わあ、胸糞のオンパレードだー!
「ルイ、いい?私はルイが嫌だって言うまで手放すつもりはないからね!私の旅にずっと着いてきてもらうからね!なんなら家族扱いするから!取り敢えずちゃんとした服着よう!私の服になっちゃうけど、後でちゃんとした服買おうね、それと美味しいものいっぱい食べよう!はい決定!」
「え、いえ、でも自分は奴隷なので・・・」
「家族ですー!私がルールですー!私のことはエレナって呼んでね、敬語禁止ね、いい?」
「う、あ・・・」
「いいね?」
「・・・う、ん」
自分でも引くほどのゴリ押しである。ルイは混乱しているようだけど、申し訳ないが私がルールだ。横暴なんて知ったことか。ルイは家族、決定。ルルフル家?知らん知らんもう捨てた。私の家族はルイだけだ。金で買った家族って聞こえは悪いけど、信頼関係は後から築いていけばいい。取り敢えずリュックから服と靴を取り出してルイに着て貰った。というかルイの体が垢やらフケだらけだから銭湯に連れて行って、ついでに無造作に伸びた髪を切りに床屋に行こう。やることは山積みだ。