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第2話 まず向かうのは大きな街

 


 カーテンロープで庭に降りてそのまま塀に向かってダッシュ!塀を乗り越えて遠くへ遠くへ走り続けた。自由だわっしょい!

 私が住んでいた洋館と言うべき家はちょっとした丘の上にあり、その丘の下方にはこぢんまりとした街があった。産まれてからずっとあの家の中で世界が完結していた私にとって初めての街で、見るもの全てが新鮮だった。魔法を使って掃除している主婦、耳が尖っていたり尻尾や角が生えている人、活気のある商店街。目新しいものが沢山あってキョロキョロしたまま宛もなく歩いた。ふと目に入ったのは探検隊組合の支店だ。何度もいうがここは魔法世界。魔法があるし、魔物もいるし、ダンジョンもあるし、魔物を倒すための探検隊もいる。ちなみに、お手伝いさんのような内容も探検隊に依頼する事が出来るらしい。庭の雑草抜きとか。



「まずは遠くに行かなくちゃいけないよね」



 出来るだけ早くあの家から離れたい私は迷いなく探検隊組合の支店に入っていった。中に入ると様々な種族の人達がいてなんとなく萎縮してしまうが、なんとか足を動かして依頼専用カウンターらしき場所に向かった。



「お姉さん、こんにちは!依頼したいんですけどここで出来ますか?」

「あらあら可愛い依頼者ねぇ。お父さんかお母さんはいる?」

「いないけどお金はあるよ!えっと、お使いで私一人で行くように言われたの!」

「そうだったの、小さいのに偉いわねぇ。じゃあ、お名前と依頼内容をどうぞ」

「エレナです。大きな街・・・えっと、ヒュデール・シティに行きたいから連れてって欲しいです!」

「なるほど。移動手段は空・地上の2種類から選べるわ。空は依頼料が高いけれど速く着けて、地上は安いけれど時間がかかるの。どちらがいい?」

「空!」

「承りました。依頼を受けることが出来る探検隊をピックアップするから、少し待っててね」



 そう言うと受付のお姉さんはカウンター内の紙束をペラペラと捲り始めた。お使いで一人で来たっていうのは我ながらいい誤魔化し方だったと思う。この世界は私くらいの年齢の子供が一人でお使いするのは珍しくないから不審ではないだろうし、依頼内容も前世で言うタクシーだ。怪しいことはないだろう。先程家出したルルフル家は名のある家ではあるが、私は落ちこぼれすぎて誰にも紹介されたことがない。つまり、誰も私のことを知らない。なんでもできるぞやったね!



「おまたせしました。今依頼する事が出来るのはこの3名です」

「えっと、なんで金額がみんな違うんですか?」

「空での移動と言っても方法が全て同じな訳ではないのよ。脚で掴む、背に乗せる、腕で抱える。脚で掴まれての移動は快適とは言えないでしょう?だから安め。逆に背に乗るのは快適だから高め。腕で抱えるのは安定しているけど密着しなくちゃいけないから、他の2人の真ん中くらいの値段設定なの」

「なるほど・・・じゃあ、この腕で抱える方法のシークさんにお願いします」

「かしこまりました。今呼び出すからちょっとまってね」



 有り余る額の金を持っているとはいえ、節約出来るなら節約しないといけない。でも脚で掴まれたくはないから抱っこでいいや。私5歳児だし、シークさん?もそんなに大変じゃないはず。

 お世辞にも座り心地がいいとは言えない待合室の椅子で待機していると、目の前に大きな影が現れた。やっと来たのかと思い顔を上げると、2メートルはありそうなマッチョなおじさ・・・お兄さんが現れた。背中にはコウモリみたいな羽付きだ。



「お嬢ちゃんが今回の依頼者か?」

「シークさんですか?それなら、私が依頼者のエレナです!お願いします!」

「ああ、よろしく。お嬢ちゃんみたいなちっこいの抱き抱えるのは慣れてないからなぁ。痛かったら言ってくれよ。で、ヒュデール・シティだよな?」

「はい!」

「分かった。料金は先払いだから先にあっちのカウンターで会計を済ませてくれ」

「了解です!」



 小走りで会計カウンターに向かう私の後ろを大股でゆっくり歩きながらシークさんが着いてくる。私一応走ってるのに歩きで着いてこられるとか悲しい・・・足短いから仕方ないけどさ。少し落ち込みながらも会計を済ませて背後にいるシークさんに向き直る。条件反射のように両手をシークさんに向かって広げると、シークさんも腕を広げて私を抱き抱えた。わあ、筋肉の安定感すっごい。



「んじゃ、飛ばすぞー」

「はーい」



 抱っこされた状態で探検隊組合の支店の外に出ると、羽を広げたシークさんが空に羽ばたいた。やっばいこれすごい楽しい。自分で飛んでるわけじゃないけど飛んでるって感じがする。家出して良かった、すごく楽しい。首を曲げて眼下を眺めていると、しばらく黙っていたシークさんが口を開いた。



「にしてもなんでヒュデール・シティなんだ?あそこ、有名なモンって言ったらヒューマンショップくらいだろ?」

「ヒューマンショップ?」

「なんだ、知らないのか。あー、あれだ、人間を売り買いする所だよ。・・・いや、ガキに何言ってんだ俺。悪い、今のは忘れてくれ」



 ・・・ヒューマンショップ、とな。申し訳ないけど私はそこに何があるのか全く知らなかった。家でのお勉強中に地図を見て、この付近で1番大きな街という印象が残っていたからそこを指定しただけなのだ。出来ればもっと離れたかったが、なにせ地理が全く覚えられなかったせいで他の都市名が全然出てこなかったのだ。くそう、地図を持ってこればよかった。いつもこうだ、昔から出掛けてから不足物に気付いて買い直すことになる。全く持って嫌になる。



「ヒュデール・シティが見えてきたぞ」

「おお、おっきい」

「どの辺で降りればいい?」

「んー、じゃあれ、鐘がある塔の前でお願いします」

「わかった」



 シークさんはそう言うと少しずつ降下して行き、ゆっくりと地面に降り立った。空を飛んで移動する人は珍しくないようで誰もこちらを見向きもしない。大都市にテンションが上がりながらもシークさんに礼を言うと、シークさんは「ガキ一人なんだから気をつけろよ」と言ってまた空に羽ばたいた。きっと元々居たあの支店に帰ったのだろう。飛び立っていったシークさんを見送り、見えなくなった所で私は歩き出した。・・・ヒューマンショップに向かって。



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