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第五十二話「あみ出せ! 必殺技!!(前編)」


「ナフベル先生殿」

「ん? どうした? シルティア」


 授業後の休み時間、シアがてこてこ教壇へと向かう。


「この教科書には小醜鬼(ギロ)以外の妖魔固体種について書かれておらんようなのじゃが?」


 質問は先ほどの授業内容の復習……というよりも、もっと先についてのものらしい。


 私とシアは家庭教師であるオルディシア先生に先行して色々と習ってるからなぁ。

 やはり気になるらしい。


「あぁ、上級妖魔についてか……」


 ナフベル先生は困ったような表情で顎に手を置いて唸ると……。


「初等部では妖魔については軽く触れるだけと決まっていてな。さらに踏み込んだ部分は中等部の領域となる」


 少し考えた後に言葉を選ぶように口にした。


「いきなり情報過多にすると他の生徒が付いていけんからな」

「ふむ……」


 本来なら、この学年までは動植物についてしか学んでいない。

 魔物については今日触れたばかり。

 その状況でいきなり大量の情報を与えてしまっては生徒も混乱する。

 だから妖魔の基礎についてのみ学ぶようカリキュラムが組まれている。

 という事らしい。


 実際、(おれ)とシアはシアの母親であるオルディシア先生から中等科の二年生くらいまでの教育は先行して教わっている。

 我が家は英才教育なのだ。


 なので、妖魔には先ほど教科書に出てきたゴブリンのような小醜鬼(ギロ)の他に、醜鬼(ギロロ)大醜鬼(ギギロロ)王醜鬼(ギギキロロ)小魔鬼(ヴェル)魔鬼(ヴェルヴァ)大魔鬼(ヴェルヴァロ)王魔鬼(ヴェルヴァロウズ)と呼ばれる固体が存在する事を知っている。


 例えるならば小醜鬼(ゴブリン)醜鬼(ボブゴブリン)大醜鬼(オーガ)王醜鬼(トロール)小魔鬼(インプ)魔鬼(デヴィル)大魔鬼(デーモン)王魔鬼(ディアボロス)といった感じだ。


 前世の言語に訳すと大体こんな感じの固体種が存在しているらしい。


 ちなみに巣窟(ケイブ)黒球(クラック)なんてのも前世の言語に訳した感じで脳内変換しているだけで、実際に音に直すと巣窟(ジェド)黒球(ガユカ)だったりする。

 どちらも、それぞれどこかの少数部族語で、洞穴や裂け目と言う意味で、巣窟(ケイブ)黒球(クラック)を現している。


 それはさておき。

 上級妖魔の存在はレアだ。

 基本的には、いたとしても醜鬼(ボブゴブリン)大醜鬼(オーガ)王醜鬼(トロール)小魔鬼(インプ)まで。

 それ以上の上級妖魔の存在は極稀だ。


 妖魔が何を基準に進化しているのか。その真相は謎に包まれている。

 一説によると、黒球(クラック)を破壊されて、黒球(クラック)が転移するたびに、何度も多く殺された個体が選別されて外界の脅威に対応するために進化するのではないか、という意見もあるらしい。


 だが、黒球(クラック)転移説事態が未だ推測の域を出ていないため、これらの議論は学会でも常に難儀しているのだそうな。


 妖魔の上位種は大きさと特徴の違いで区別できる。


 醜鬼(ボブゴブリン)から王醜鬼(トロール)までは、とにかくドンドンでかくなる。


 醜鬼(ボブゴブリン)はせいぜい大柄な獣人族の中でも背の高めな固体と同等レベルだが、王醜鬼(トロール)まで進化しているともはや巨人の如き体躯にまで至るという。


 小魔鬼(インプ)は特殊な固体で、翼が生えているため、飛行による三次元駆動が厄介な相手となる。


 だが、それだけではない。


 翼の生えている固体。小魔鬼(インプ)魔鬼(デヴィル)大魔鬼(デーモン)王魔鬼(ディアボロス)は魔法を使うのだ。

 それぞれ得意とする属性を持ち、それにより肌や髪の色が異なり、その属性に該当するブレスや光弾、レーザーのような魔法を使用するのである。


 そして、これらも進化するにつれて巨体になる。


 さらに、上位妖魔は特徴として、角が生えている固体が存在する。

 そして角付きは各自固有の特殊能力を持つらしい。


 熱や電撃、毒に耐性をもっていたり、傷の回復速度が異常に早かったりと、とにかく厄介な相手が多いのだそうな。


 角の数に応じて保有する異能の数が増え、角の大きさに比例して能力の脅威度も高まるという。


 そして進化するにつれ巨大な姿となり、その力も当然比例して高まっていく。


 さらに、一段階巨大な固体になるにつれ、岩のような肌となり斬撃に強い固体になっていたり、内臓を含め鋼のように強靭な肉となり刺突攻撃に強く進化していたり、金属の如き強固な骨を持ち打撃攻撃に耐性を持っていたりと、物理攻撃に対する防御力も高くなっているのだという。


 これこそが、妖魔という種の恐るべき真の恐ろしさなのだ。


 けどまぁ、余程運が悪くない限り上位固体などと遭遇する事は、まず無いらしい。


 妖魔自体、ほぼほぼ殲滅されているに等しいとされる昨今。

 最初の授業で習うのは基本の小醜鬼(ゴブリン)だけでいい、という事なのだろう。


「シルティアはもうそんなとこまで学んでいるのか。勉強熱心なのはいいことだ」


 頭を撫でられるシアの姿がそこにあるのだった。




 ちなみに妖魔と聞いて、コボルトやオーク、ミノタウロス、リザードマンといった種族を想像する者もいるかもしれない。

 (おれ)がそうだった。


 だが、残念な事にこれらは妖魔には含まれない。


 なぜなら、それら種族は獣人族に含まれるからだ。


 喪失者(ロスト)の話はいつだかに触れたと思うが、この世界の獣人は、人との混血が進んだ結果、その本来の力を失っている。


 遥か古の昔において、古代魔法文明の遺跡から出たデータによると、その時代の獣人たちは、牛族ならミノタウロスのような。豚族ならオークのような、犬族ならコボルトのような、顔まで完全に獣の姿をしていたと伝わっている。


 そして、今の獣人族とは比べ物にならない程の力を持っていたらしい。


 稀に先祖帰りでそういった固体が生まれる事が今でもあるらしいが、そういった固体は古代種(オールドブラッド)と呼ばれ珍重され、大切に育てられる。


 実際にあらゆる能力が桁はずれに優れているらしい。

 なので、偉い地位に付く場合がほとんどだ。


 ゆえに、どこぞのゲームやアニメのように蛮族や亜人なんて扱いを受ける事はありえない。


 そんな事をすれば返り討ちにあう。というか無礼者扱いで必罰確定である。


 それはさておき。




 授業は終わってホームルームも終わり、放課後。


 部活動の代わりのような感じで行われる各自流派鍛錬倶楽部への合間時間。




 なにやら教室のすみに集まってコソコソと密会を始める生徒の姿が。



「どうするでありますか」


 黒髪ダブル三つ編みお下げにビン底眼鏡な純人族のカタリナが小声でなにやら相談してるもよう。


「とは言ってもなぁ。何もうかばねぇよ」


 夕日の赤に照らされた明るく輝く紫の髪を窓から吹く風になびかせつつ、お洒落な可愛らしい帽子を指先でクルクルとまわしながら、いつものように男の子みたいな口調で答える小さな姿。小人族(ショーティ)のエミリーだ。


「尻からぶっ放す以外思いつかんわい」


 可愛らしい声音で下品な言葉を口にしているのは夕焼け色の如く明るいオレンジ色のツインテールが可愛らしいドワーフ族のナタリーだ。


 つまり、いつもの純族(ピュア)トリオである。


「お前はいつもそれだなぁ」

「確かに意表は付けるかもしれませんが有効な場面が限られるでありますぞ」

「じゃあどうしろっちゅうんじゃいっ」


 なにやら険悪な雰囲気になりかけている御様子。


 なれば。


「どうしたの~?」


 間に入って問題を解決してあげようじゃないか。


「うむ、ミリア殿でありますか」

「どうしたもこうしたもないわい。良いアイデアがちっとも浮かばんのじゃい」

「良いアイデア?」

「うむ、明日の授業の宿題で出すアイデアがなぁ」

「さっぱり思い浮かばずにこうして三人で相談していたのでありますよ」


 そういえば。

 明日は魔法の授業時間にオリジナル魔法レシピの発表会があるんだったか。


 この世界の魔法は独特だ。

 制限次第でいくらでも魔法を強化できるし、強化の変わりに魔紋登録を減らして多彩な魔法を使えるようにしたりと色々工夫ができる。


 今までは基本的な詠唱魔法だったり、そこから派生させた様々な制限レシピだったり、できる事とできない事、うかつにやると危険な事とやっちゃダメな事。そして様々な、よく使われる制限例などを教えてもらった。


 今回はそれらを踏まえて独自のレシピ。つまり、オリジナルで考えた制限と魔法の組み合わせを発表する事になったのだ。


「何も思いつかないであります」

「いきなり考えて来いって言われてもよぉ」

「思いつかんわなぁ」


 うんうんと唸るトリオ達。


 新しい魔法の限定を自分で考えて強くなるために工夫を行う。

 この世界で生きていく上で必要な技術である。


 というか、みんなわりと独自の魔法色々使えるはずなのにね。


 改めて新しく考える、となると悩んじゃうのかねぇ?


 (おれ)はわりといくらでも無限に思いつく方なんだけどなぁ……。


「やはり全裸か」

「全裸しかないのう」

「全裸以外思い浮かばないであります」


 いやいや、どんな魔法使うつもりなんだよ。

 全裸はダメだよ。いろんな意味で危険だよ。


 装甲的な意味でも危ないし、絵ずら的な意味でもアウトだよ。


 まぁ確かに全裸になるって制限なら割と厳しめだしそれなりに補正かかって強力かもしれないけど……。


 でも人としてアウトだよ。もっと自分を大事にしようよ。


「じゃあアイデア一、全裸、と」


 可愛らしい丸文字でノートに書き出すエミリー。


 やめようね。


「他に何があるかのう」

「じゃあ全裸で尻の穴をおっぴろげて尻から放出するというのはどうじゃろう」

「確かに、そこまですれば強力な奴をお見舞いできるかもしれないであります」


 これはまずい。

 この子たちだけで考えさせちゃダメだ。

 何か良いアイデアは無いだろうか。


 と頭を捻らせ孤独な戦いに身を投じていると。


「何してるの~?」


 夕日の赤に照らされてヒラヒラと飛んで来る小さな姿。


 掌サイズのフェアリー族少女、リルルだ。


 金色の髪を風になびかせながら(おれ)の周囲を一回りするとリルルは肩へチョコンととまる。


「うん。実はね」


 かくかくしかじかと説明すると。


「じゃあみんなで考えよ~」


 ヒラヒラ飛んで行き、どこからともなくアリスを連れて来ると。


「まぁまぁ、考えるときはリラックスだよ~」


 そんなこんなで、なぜかお茶会が始まってしまうのだった。



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