第二十九話「朝からダイナミック・リターンズ!」
「くっ……やるね。シア」
「お主もなかなか……やるではないかっ」
接戦が繰り広げられていた。
全速力で駆け抜けていく景色。
動いているのは世界ではない――私たちだ。
「負けられないっ」
「わらわもじゃっ……負けるわけには――いかんのじゃっ」
言葉と共に風圧力場で跳躍し、疾風のように前へと出るシア。
一方、私は推力風圧を器用に三段階調節し、曲がり角を華麗に曲がる事で前に出る。
「ぐぬぬっ」
「これでっ」
さらに風圧力場を放ち虚空を蹴る事で加速する私。
あらゆる魔法を駆使し、二人、全速力で駆け抜ける。
壁を蹴り、空を蹴り、走る、走る、走る。
そんな風に私達が目指しているのは――トイレだ。
うん。またやらかしたよ。
迂闊だった。
怖いからって三人でベッドで寝れば、またこうなる事くらい予測できたはずなのに……。
「ララはずるいのじゃ。なぜあんなタイミングですんなり入れるのじゃ?」
「なんでだろうね。そういうとこ要領良いよね」
ゴールが見えてきた。
ここまで勝負は僅差。
「うぉぉぉーーっ!」
「うぬぅぅーーっ!」
生理現象がかかっているがゆえ、乙女としてはしたない声を上げつつも、扉に手をかける。
「勝った!」
素早く推力をかけてスライドするようにトイレへと滑り込む。
「ぐぬぅぅーっ、覚えておくのじゃーっ」
シアの声がフェードアウトしていく中、扉を閉めてするりと便器へと腰掛ける。
――勝利の瞬間である。
ちなみにシアはたぶん、昨日の私みたいに窓から外へと飛び出しながら撒き散らしている頃合だと思われる。
――ふぅ、一安心。今日はビッグな方だったから負けるわけにはいかなかったんだよね……。
スッキリ、スッキリ。
あれから着替えてお風呂に入り、今は朝食の時間だ。
テーブルにはいつもどおり、庶民では滅多に御目にかけられない高級食材様が鎮座ましましていた。
「うぬぅ~……」
ご機嫌ななめなシアがいた。
「ほら、おかず少しあげるからご機嫌直して~」
「巨大百眼迷彩陸蛸一口で許してやらんこともない」
「はいはい、巨大百眼迷彩陸蛸ね。あーん」
「あ~ん」
見た目はグロテスクだけど、食感と濃厚な旨みに定評のある巨大百眼迷彩陸蛸の足の煮付けをシアの口に放り込む。
「ン~ッ。うま~いのじゃ~っ!」
ほっこりと笑顔になるシア。
これで笑顔が買えるなら安いものだ。
「もう一口っ」
「だーめ、一口だけだよ~」
「むぅ、けちんぼさんじゃのぅ」
頬をふくらませるシア。ご機嫌は直ったようでいつも通りの可愛らしいシアだ。
「仲いいね~」
ララちゃんがうらやましそうにこちらを見ていた。
「うむ、死闘を繰り広げた宿敵じゃからのぅ」
もむもむと巨大百眼迷彩陸蛸を租借し続けるシア。クニクニしてて美味しいよね。
ちなみに、今日の朝食は。
巨大兎耳一角猫の耳入り香草野菜炒め。
巨大百眼迷彩陸蛸と巨大岩貝宿借牙魚の煮付け。
人型歩行果実の乳発酵液ソースかけ。
白いフワフワのパン的な物体。
の、四種です。
ちなみに巨大兎耳一角猫っていうのは、名前の通り、大きな兎耳の一本角を生やした猫さん。
大きさ的に虎さんに近いかな?
お肉は臭みが強くて比較的安売りされるんだけど、耳の部分が食感と旨みが詰まっててコリコリしてて美味しいのだ。
香草野菜にもとてもあう。
ちなみにお肉の方も嫌いじゃないんだけどね。美味しいし、多少癖はあるから好き嫌いがわかれるみたい。
で巨大百眼迷彩陸蛸っていうのは……なんか、大きめな蛸さんらしい。
全身に無数の眼があって、当然触手にも眼が沢山ついている。色は何か紫と緑を混ぜたようなテラテラした異様な色。
見た目はとてもグロテスク。名前の通り、迷彩能力も持っていて、全身の色を変えて周囲に溶け込む恐ろしい狩人なんだそうな。
味の方は――とっても美味しいです!
まずは眼の部分がプリプリのトロットロで、触手の身の部分がもうコリッコリのクニックニでたまらないっ!
味も濃縮されてて旨みたっぷり。病み付きになるくらいに美味しいの。私も俺君も大好き。シアもララちゃんも大好き。みんな大好き! な、ハズレの無い一品なんだよ~。料理人さんの味付けもグッド!
眼のレンズ部分もグニグニと噛んで飲み込めるから、あっちの世界の魚の眼とかより喰いやすいんだよな。
さて、お次は巨大岩貝宿借牙魚だね。この子はね。巨大ウツボさんなのだそうな。しかも、ヤドカリみたいに、巨大な岩に寄生して、岩ごとズリズリ移動して、待ち伏せて襲い掛かってくるんだって。
危なくなると岩に身を隠すからけっこう戦いづらい相手らしいよ。
臭みも無いし、むしろ癖のある香りが食欲をわかせる。食感もお肉に近い魚って感じ。旨みもたっぷり油も乗ってジューシー。煮付けにするとタレに油とか旨みがほどよく混ざってより美味しくなる感じ。
人型歩行果実は名前の通り、人型の走る果実さんです。熟すと樹からポトって落ちて自走しはじめます。相方を見つけると、二人で抱きしめあって地面に埋まって、また樹になって成長していく、という習性があるんだそうな。
相方を探して「ミーッ、ミーッ」って泣いて歩いてる所を捕まえるんだって。なんだか可愛そう。
でも味は凄く美味しい。星葉樹の若甘丸果実の次くらいに美味しい。香りだけでいえば、星葉樹の若甘丸果実の上をいく。なのでジュースなんかにも最適。甘みが強くてほんのり酸っぱい。
で乳発酵液って言うのは、牛っぽい生き物の乳を発酵させたヨーグルトみたいな奴です。酸味があって香りが凄く良い。お腹にも良い健康食です。これに糖分を加えて甘みを付けると……とてもフルーツに合うソースができあがります。
最後に白いフワフワのパン的な物体。これはもう、モッチモチのフワッフワなパン。こっちの世界にも小麦に似た植物があって、それを使って作ります。作り方もたぶんほぼ同じ。
「美味しかった~」
食後のジュースをグビグビと飲む。
人型歩行果実の香りと星葉樹の若甘丸果実の甘みに乳発酵液の酸味が合わさったまさに三位一体のスペシャルミックスジュース!
美味しい食事と優しい家族、最高の友達に囲まれて過ごす日々。最高に幸せな毎日だ。
さぁ、愉快な一日の始まりだー!
今日も一日、がんばるぞー!!




