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第十一話「ほんわかバスタイム」



 そんなこんなで、なんとか無事に帰れた私達。



 何でもあの時、実は領土側の城壁付近に向かって迫り来る怪物の影があるのをあらかじめ斥候が見つけていて、それを知ったパパはずっと警戒してスタンバってたんだって。

 で、一応は屋敷の天辺に登って領土を見回して探ってはいたらしいんだけど……結局見つからず。

 不思議に思っていたら、運悪く怪物は私達との遭遇の方がどうしても早くなってしまうルートを進んでいたんだそうな。



 で、今の私達はというと――下着とか服を汚してしまったのでお風呂タイム中なのでした。


「うぅむ……」

「どうしたの? シア。石鹸使う?」

「そうではないのじゃ」


 この異世界にもシャワーのような器具は存在する。

 いわゆる魔法による特殊な道具で、水の精霊と火の精霊の力で水をお湯に変えて放出するわけだけど――。


 隣にはシャワーを浴びるシア。


 そのなめらかな曲線を描くしなやかな体躯が私を魅了する。くびれの少ない子供らしさが残るウエストがまた逆に通好みな、実に可愛らしい小柄なスレンダーボディ。しかしながら、やや成長を見せ始めたその丘の頂に芽吹く桜色の蕾は……あぁ、美しい以外の表現方法があるだろうか。柔らかな金の髪は水に濡れ、雪のように白い肌はお湯に温められてほんのり桜色に染まっていて――。


 もうね、舐めまわしたくなるくらいに良いっ!


 切なげな憂いを帯びた表情もまた、実にグッと来る。



 こう、このまま抱きしめて、口づけでその小さなお口をふさいで慰めてあげたくなる。



 といったやましい衝動を抑えつつも、無いはずなのに体のどこかが反応して悶々としてしまう私がいるのだった。



 ……いやね、別にそっちの趣味があるつもりはないんだけどね。内に秘めし俺君のせいか、どうしてもこう……意識しちゃうんだよね。



――本当、俺と私ちゃん。どっちが主人格なんだろうな。



 最近、本格的に分裂しかかってるよね……。



 それはまぁともかくとして、どこか悟りを開いたようなアンニュイな瞳でシアがポツリと呟いた。



「あの程度で浮かれておった我らが実に恥ずかしくなってのぅ」

「しょうがないよ。今出来る最善の事ができたんだもん。喜んでも良いんじゃないかな」

「それはわかるのじゃがな。結局、上には上がいるものじゃと思うてのぅ」


 落ち込んでいるシアの言葉を聴き、頷いて先を促す。


「わらわ達の努力はなんだったのか、とのぅ」


 吐き出すように紡がれた悩みに、私なりに返答をする。


「私達の努力は、未来のため、だよ」

「未来の?」

「うん、私達はまだ未来に向けて成長の段階にあるんだから、それなのに成長しきった上を見てちゃ何もできないよ」


 その考えは、若さゆえのプライドのせいかもしれないけど、10年という年月で得るのはまだ難しかったのかもしれない。


「最初から何でもできる人間なんていないんだよ」


 けど、その考えは決して逃げなどではない。逆境の果てに生きて、他人との差を比べ続けて、絶望の底を舐めた果てに、それでも辿り着ける答えがあるとすれば。


「努力して、がんばって、それを続けた先に、ああいった完成があるんだから」


 それは、こういった答えだった。


「私達はまだまだ未完成なんだから。これからがんばっていけばいいんだよ」


 上を見ればキリがない。下を見てもしょうがない。ならば上と現実を見つめた上で、努力を続けるしかないんだ。


「……なるほどのぅ。そういった考え方もあるのか」


 シアは桶に溜まった水を見つめると――。


「うむ……それもそうじゃな」


――真上からバシャリと勢い良くかぶって、気合を入れるように泡を落とす。


「明日からも練習じゃ。より気合を入れて行かんとのぅ。まだまだ我らは進むべき坂を上り始めたばかりなのじゃっ」


 腰に手を当てて大股開いた仁王立ちで決意を新たにした。全裸で。




――実に絶景である。




「けど、悔しいのは……うん。悔しいよね」


 隣には桶に座り込み、ションボリ顔のままのララちゃんがいた。


「あれだけがんばったのに。実戦では何もできなかった」


 初めての実戦で体がすくんで動けなかったことを後悔しているようだ、


「まぁまぁ、助かったんだから。今ある幸福を喜び会おうよ~」

「そうじゃないの。私、あの時、何も出来なかったから――」


――唐突に、ララちゃんが私を強く抱きしめてくる。


「ララちゃん」

「あのままだったら、ミリアちゃんが死んじゃってた。それがわかってるのに、わかってたのに。私、何も出来なかった」


 彼女の体温と震えが伝わってくる。そして、共に私に対する強い愛情も。


「ミリアちゃん……あの時、何もできなくてごめんね」


 泣いていた。ララちゃんは自分の不甲斐なさと、何も出来なかった事に後悔を感じているようだった。


 だから私は――。


「うん、私も何もできなかった。ごめんね」


――頭を優しく撫でながら、強く抱きしめ返した。


 そして、耳元で優しく囁くように言葉を伝える


「だから、今度は大丈夫なように、また一緒に訓練がんばろう」


 私達には未来がある。

 行き詰った人生ではなく、まだまだ輝かしい可能性という未来があるんだ。


 それは、若さでもある。


 けど、それだけじゃない。


 生きている。


 今、生きている。


 だから得られる可能性なんだから。


「後悔してる暇なんてないくらいにがんばって、次はなんとかなるようにしようよ」


 次こそ決して後悔しないように。


「せっかく生き残れたんだから、ここで立ち止まっちゃもったいないもん」


 明日と未来を見つめて前向きに生きていけば良い。


「ね? 明日からまた、がんばろうね」


 その額に優しく口づけをして、ララちゃんを励ました。


「うん……」


 ほんのりと主に染まった頬。潤んだ瞳で私を見つめるララちゃん。

 やがて彼女は、私の胸に顔を埋めてより強く抱きしめてくる。

 それが、涙を隠すためであった事は何となく理解できた。

 だからその頭を優しく撫でて――。


――私はその感触を強く味わうのだった。


 ララちゃんのその、スレンダーとは対極にふくよかな、いや、もちろん良い意味でですよ?  実に良い塩梅で育っているのですよ。初等部らしいほんのりさ加減であるにもかかわらず、確実にその成長を見せ始めているお胸様。それがですね、ふんわりポヨポヨと、柔らかかく当たっている訳ですよ。


「ありがとう。私がんばるから。今度は絶対に、ミリアちゃんを護ってあげるね」


 その決意の証なのか、感極まったララちゃんの唇が私の唇に――。




――おいーッ!! 何だこの百合展開!! あんなにサツバツしてたのに!? 何なんですかコレ!! 実にけしからんですよ! けしからん!! もっとやれ!!




 ……俺君、少しうるさい。もう少し感触に集中しようよ。もったいないよ。




――あいとぅいまてん。




「ぬぁ~、ずるいのじゃ。ミリアはわらわのものなのじゃ~」

「所有権はまだ確定していないはずです。ならばまだフリーです。早いもの勝ちのはずですっ」

「おのれ屁理屈を~、独占禁止法はどうなったのじゃー! おぬしの母上に言いつけるぞー」

「そしたらママも同じ事するだけだよきっと」

「んぬぁ~っ。なれば、わらわも、わらわもじゃ~っ」




 ルパンダイブで襲い来るシアの姿がそこにあるのだった。




 そんなこんなで、ほのかに朱に染まる肌の色はお湯の熱によるものか、はたまたそれ以外によるものなのか。


 ちょっとのぼせそうな気分になりながら、体を清めて私達はお風呂を後にするのでした。




 で、閑話休題。


 その後のディナーの席でパパの正体がわかりました。


 なんと、パパの正体は!



「元、七星英雄(イーリス・ナイツ)!?」

七星英雄(イーリス・ナイツ)じゃとぉ!?」

「なんですかぁ~? それぇ~」


 食堂にて、いつもの室内着で席に着く私達。


 私はフリフリのピンクな甘ロリドレス。可憐な四段スカートが可愛らしい。室内着なのでもちろん下着ははいてない。

 ララちゃんは、前世における世界の西洋民族服、ディアンドルに似た可愛らしい、いかにも村娘って感じの衣装。多分下着ははいてない。

 シアは、フード付きケープにコートっぽいワンピース。色合いも黒基調に赤いラインと、形だけでなく全てにおいて魔術師っぽいスタイルだ。当然、下着ははいてない。確認済み。


 で、驚愕の事実に驚きを隠せない私とシア、そして――。


――ほへぇ~っとしながら小首を傾げてフルーツをむしゃむしゃするララちゃん。


 あれぇ~? ララちゃん、私より勉強家で頭が良いはずなんだけど……。



 今日の恐怖で少し壊れちゃったのかなぁ?




 七星英雄(イーリス・ナイツ)。それはこの国レムリアースにおける最高の名誉称号。


 この国の誇る最強の七人にのみ与えられる事が許されるスペシャルな名誉なのだ!



「あの名門校を主席卒業!?」

「あそこを主席卒業じゃとぉ!?」

星葉樹の若甘丸果実(コムッチョ・ニャンペ)美味しい。もむもむ……」



 またもや驚愕の事実に驚くシアと私。

 相変わらず放心状態でスイーツをもむもむし続けるララちゃん。

 あれ? もしかして、凄すぎてSANチェック失敗して現実逃避してる?



 このレムリアースは軍隊国家だ。

 なぜなら未だ魔物や怪物、妖魔などと戦わなければ生きていけない環境にあるからだ。


 よって、学校も、座学よりも実戦的な戦術、技術、魔法などの、いわゆる魔法戦士としてふさわしいスキルを身につけるために、戦闘技術を身につけるために存在しているといっても過言ではない。

 もちろん言語や算学、社会歴史地理などの基礎的な知識も学ぶ、だが、生きるためには最低限の戦力、または逃げるための体力が必要なのだ。

 よって最低限の生存スキルを体に覚えこまされる。

 そんな学校の中でも、義務教育外の専門科。高等部と、それ以上の特化校。学園と呼ばれる場所がある。


 それはもはや軍隊学校、戦闘訓練の大学とも言える場所だ。


 その中でも最高峰、あらゆる成績においてトップクラスの者のみが入学を許される狭き門。

 エリートを輩出するためだけにあると言っても過言ではない、選ばれし者達の庭。

 現代を生きる伝説の英雄(エインフェリア)を生み出すための施設。


 名門、フロス・コルリス魔導学園。


 そんな学園を……主席卒業?


 いかなる困難をも乗り越え、死の運命さえも破壊し、任務を成し遂げて帰還する者達。

 死の運命を破壊する者(ヴァルグリーズ)と呼ばれる超国家級冒険者の頂点。



 その中でも頂点たる七星英雄(イーリス・ナイツ)



 例えるならばアレである。伝説の勇者的存在。



 当然、無数の実績をこなさない限り認められることは無い。という事は――。



――実の父親が元勇者だった件について。



 そんな驚愕な事実を知って、今日のディナーの主役。



 四眼巨大黒毛牛狼(ペルペルパンバギウス)のフルコースが運ばれてくるのであった。


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