幸せな花嫁
二分割
姫様の花嫁衣装が運び込まれて、式の手順が告げられる。
姫様は何度も何度も式の手順を覚え、練習する為に向かう。
姫様はお疲れになるから凝りを解すマッサージをしなくては。
人手が足りなくなり、侍女長は渋々イブリースからの手助けを受ける事になった。
「貴方が教えなさい」
侍女長が私の担当に任命したのは、直立猫姿のメイド服の少女。猫と言うのは大きな姿でも可愛いのだなと実感した。
「よろしくおねがいします」
明るい声色に元気な礼。
真っ白で短毛な彼女は緑の瞳を煌めかせてこちらを見た。あちらも人が珍しいらしい。
姫様の用事をするのに、命令ばかりの侍女長やさぼり魔の同僚では間に合わないから丁度良かった。
他にも数人陛下は準備されているようだったけれど、こちらの使用人が色々注文を付けていて中々選別が捗らないらしい。
新入りのカナンを連れ衣裳部屋に入る。
姫様の衣装は上等なので丁寧に扱わなければならないので・・・。
「え」
と、カナンが言ったのも仕様がない。
何しろ衣裳部屋で美麗な事が自慢の騎士殿と同僚で貴族の侍女様が、抱き合っておられたから。
キャッ、という声だけは可愛らしい侍女様は私を睨む。
騎士は襟を正して「びっくりしたな」と皮肉に笑う。今度から気を付けてくれ、何て言いながら二人して出て行く。ついでに侍女様は私を突き飛ばすのに余念がない。
あっけにとられて、王城の侍女らしくなく口を開けるカナンをつんとつついて促す。
ぷるる、と頭を振ったカナンは口を閉じてこっちをちらりと見た。
私に掛ける言葉はない。何事も無かったかのように、姫様の衣裳の事を教え始めた。
***
憶えの良いカナンも少し不器用らしい。
言った傍から絹を裂く音。
「あああ!ごめんなさい!」
カナンの手には襞のあるスカートがあり、爪に引っ掻け絡まったホツレ。更に慌てて直そうとして裂いたと見える生地。
「ああ、いいわ。私が縫うから。カナンさん。次は靴を箱から出して、傷汚れがないか確かめて?」
おろおろと目が泳いでいる。とても表情が豊かな少女だ。
でも、と言ってくる彼女の手から絡まりを解き。スカートを受け取る。
「これは普段着だから。そうね。うん。私で直せそう」
丁寧に縫えば一見して解らない。
王城では、着ない服や物を人にやったり売ったり寄付したりせず、捨ててしまう。捨てたものを盗めば投獄されるから皆手を出さない。平民からすれば勿体ない限りだ。
その中で育ったにも関わらず姫様は、お気に入りは作り変えて着回したり、寺院に寄付したりなさる人だ。誰かがそっと言葉を変えて忠言したのかもしれない。素直な姫様は父王や諸侯からの贈り物なのだからと大切にしている。王城でも、微笑ましい。心優しき姫君と言われていた。
姫様がそんな風だから、私は丁寧に衣装を直した。
丁寧に丁寧に縫いあがった頃、姫様の花嫁衣装が届く。
同時に陛下から沢山の贈り物も。
贈り物と一緒に陛下がいらっしゃったのにはびっくりした。
人の身では青ざめるのみだ。