親切な人 2
キリの良い所が妙な所になっているやもしれません。
修正している内にごちゃっとしたので、
読みにくかったらすいません。
交代の要員は彼の言うとおりすぐに来て、「行くぞ」と言われ大人しくついていく。
次に来た兵は完ぺきな人型に見えたが、鎧の隙間から見える皮膚は硬質な鱗のようだった。
改めて人とは異なるのだと気付く。
歩みの大きな兵士の後を急いでついていくが、半ば走る様になってしまったのは、見ていない侍女長には怒られないだろう。
本当に見られなくて良かった。
侍女長のお叱りはいつも正しくて、毎回同僚の視線が痛い。
同僚も他の皆も、自分より身分が上の者ばかりだから肩身が狭いのだ。
「ここだ」
不意に止まられ、ぶつかりそうになる。
軽く振り返った彼は、顎で食堂を示した。
食器の擦れる音とざわめきにあふれたそこが、一歩、自分が入った瞬間にシンと静まった気がしたが、気の所為だったか、直ぐにざわめきが再開された。
彼は、そのまま行ってしまうと思ったのに「こっちだ」と案内してくれるらしい。
時間は先に聞いていたが、彼も言葉少なく教えてくれた。
食器の選び方。食事のとり方。片付け方。
存外世話好きな人なのだろうか
こくこく頷きながら小さな声で返事する。
この国の人はさすが獣身を持つだけあって総じて体躯がいい。食事を受け取るカウンターの位置が高い。食器を入れる器もデカい。
しかし、私の手にあるのは小さなお盆に小さな器。さっき渡された物だ。
もしかしなくても、彼が私用に小さめの器を選んでくれたんだろう。
「ありがとうございます」
聞いてもらう心算もなく呟いた。当然返事などない。
器を見つめていた私は彼の金の目が自分を見下ろしていたことに気付いていなかった。
いつの間にか横で同じように食事を選んでいた別の兵士らしき人が、ぴくぴく耳を震わせていたのも見ていなかった。
小さくて凡庸な人間の女には、彼らの能力など図りようがないから。
席までも案内してくれた彼は、親切にも色々教えてくれる。
彼が言うには、時間帯によっては上役もここに食べにくるので、揉めないよう一応食事場所は決まっているそうで、出口より少し奥まった背に壁と通路が直接見えない観葉植物の置かれた場所に案内された。
次からもここに来ればいいんだなと記憶する。
ということで、自分も下っ端だと言う彼に連れてこられた席に。
目の前には侍女服の女性。
どう見ても人に見えるのだが、結っているのにふわふわとした髪質といい同じ位置についているにかかわらず少し大きめの耳が人と言うには違和感があった。
「ミランダ」
兵士さんは彼女をそう呼び、「姫の侍女だ」と説明する。そして、独特の発音の言語でミランダさんに話しかけた。
イブリースの母語だと思う。
「解ったわ」
ミランダさんも流暢な大陸共通語で話すんだな。と私は暢気に思った。
田舎者の私は訛りが抜けず、侍女長から毎回お叱りを受ける。
しまいにはあまり口を開かない様にと言われた。
口下手な私はそれには正直助かっている所もあった。
私はそっとのどに手を添えて、ほっと息を吐く。
「食事が終わったら帰りは私が送る。解った?」
ハキハキとした口調。顔を上げると無表情に見つめる目と見合う。
小さな返事と頷きで返した。
ぴくりと眉が上がったミランダさんだが何も言わず目を逸らして食事を再開した。
私も、スプーンを手に取った。
案内してくれた彼が去ろうとしたので、慌てて礼を言った。
ミランダさんにも「お願いします」と「ありがとうございます」を言った。
ミランダさんの視線が自分を訝しげに見ていたのも気付かない。
鈍い人の身では仕方ないと思う。
私はただ、この国の言葉も覚えて、もっと姫様のお役に立てたらいいのにと、夢のような事を考えていた。
温かい食事
いつ振りだろう
温かく美味しい
幸せ
美味しい
口元が緩む