それからの私
目指すは俺の直属の上司。
力いっぱいつねられた
地味に痛い
「君は馬鹿ですか」
「ばふぁしやなひ」
「馬鹿ですよ馬鹿」
頭三つ分くらい小さいレイドールは机の上に乗って俺の頬をひねっている。
総領レイドール。普段は平事務官として王城に努める鼠の血の濃い獣人。
ちんまりした人で年齢不詳。白と薄茶色のマダラの髪に赤にも見える茶色い目。神職のオッサンみたいな長衣で頭以外は隠れている。一見偉い人には見えないからこそ、ひょいと抱えて連れてこれる。
「突然現れて?用事がって引っ張り出して?オマケにアノ娘の監視を自分がしたい?馬鹿ですね」
気付かれたらどうするんですか。と呆れた風に言う。
彼は自分の身分を周りにあかしていない。隠すというより普段の生真面目でのんびりした雰囲気からは、思いもつかないだろう。事務官として無害平凡を貫いているレイドールが、軍部最高司令だとか。
俺も作戦時に先行部隊に配属された時に初めて知ってびっくりした。
下っ端兵で。捨て駒のおとり役だったしょーもない兵士相手に犠牲になれじゃなく『欠ける事無く帰ってこい』と無茶な事を言ってきた。
二人。帰った。俺ともう一人。もう一人はレイドールに重用されてる。俺は時々用を言いつけられる他は、相変わらず平兵士だ。
目立ちすぎですよ。私は目立ちたくないのです。三時のおやつをゆっくり取れる今の環境を維持したいのですよ。と若干オカシナ説教を始めるレイドール。
「お、おてが。ひえに帰って、へんきひょらし、かんしすゆ」
「何言ってるか解りませんね、君。」
ですが、・・・・・惚れましたね
空気が凍った
先ほどまでののん気な雰囲気はなく凍える視線が注がれる。
馬鹿な子だ
目を細めた総領はそうため息交じりに呟いた
「いいでしょう。王に進言しましょう。どうせ、人は弱く長生きできまい。優秀な人材が去るのは残念ですが、獣じみた本能を目覚めさせた馬鹿を懐に入れている方が危ないでしょうから」
愛する者を得た者は総領から役目を解かれる。もう彼の指令を受ける日は来ないのだろう。
俺は初めてその時自覚した
彼女の事が好きだったのかと
季節が過ぎる。冷たい風が吹き暖かい雨が降る。
草原に小さな花が咲く頃に
王妃が懐妊なされた
その知らせの数日後、ラフィアは粗末な箱馬車で運ばれていった。
それは恩赦であった。
ラフィアは国境沿いの開拓地にて一生を過ごすことになる。
その生涯をただ一人の獣人に見張られながら。
性急でつたない文章ですが読んで頂けたら幸いです。