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彼女の最後の日々

ラフィア


名前を呼ばれる。


ラフィア?


名もない侍女が名前を持った罪人になった。


白くふわふわのベッドで目覚める。


変ね?


目を開けて見える清潔な室内。


とても変


私はもう死んでるのかしら?




 ラフィアの傷はなかなか癒えなかった。

 長い年月の末の傷。碌な治療さえしていない。

だから、治りが遅いそうだ。治療すると言われたあの日から、ラフィアは医療所のベッドで寝泊まりしている。

 体毛の面積の少ない『人という生き物』には、同じような種がいいと思われたのか、お世話をしてくれる女性は無毛の生白い肌の女性だった。

 初対面で失礼にも固まってしまった記憶は新しい。

外見は人の形に近かったけれど目と鼻がとても小さくて黒点でしかなく、顔が無い様に見えた。その上坊主頭である。顔の中で、目立つ赤い口だけがにっこりしているという状態だった。ウィーヴィさんに会った時より衝撃を受けた・・・。

もちろん今では平気。あの時の気持ちを謝りたい衝動に駆られる事もあるが、そうすると自分が何と彼女を混同したのか話さねばならなくなるので、謝罪はしない事にする。


彼女の声は小さいけれど柔らかい。風鈴の音の様に耳に届く。優しい声音は彼女の心と同じ。

「痛くない?」

 彼女、 ニヨラさん は、軟膏を塗っている背に耳を近づけるようにして聞いてくる。

 彼女は目が良くないので耳と鼻を頼りに生活している。「不便なのは朝日なの。だって眩しすぎて寝坊が出来ないの」と、眩しさを遮る手振りで教えてくれた。

ニヨラさんの膿んだ傷に触れる手は優しい。が、薬はしみる。

「っ・・・大丈夫です」

ニヨラさんは背後で忍び笑った。

「そう。良い患者さん。早く良くなりますように」

最後に祈るような言葉が続く。


優しい彼女の祈りは届くだろう。

ラフィアは痛みは去ったはずなのに瞳が潤むのを感じた。




 時々、ロッドさんが罪人がちゃんと逃げないでいるか顔を見に来る。

 手に果物を持って 栄養つけろってさしだす。

 ウィーヴィさんは花を、

 にこにこしながら(しゅうしゅう口から音がするけど多分笑顔)女の子にはやっぱ花だよねなんて言う。

 おかしなけもの

 おかしな国


夢なら、目を開けたくない。



モン先生の診察を受け、少しずつ体調が良くなっていくのを実感すれば、目を開けない訳にはいかなくなってくる。

「あの。モン先生。聞いてもいいでしょうか?」

「どうした?いいよ。なんでもお聞き」

せめて疑問の一つも解決して置きたいので聞いてみよう。


手向けの花や供え物を死ぬ前の人に贈るのが習わしなのですか?


とモン先生に聞いたら、先生は酷く驚いた顔をしてびっくりし過ぎたのか息を忘れたように固まった。慌てて背を擦ると長く白い眉をこれでもかと情けなく下げたモン先生は俯いてしまう。優しい目まで眉に隠れてしまった。


「・・・・・・・違うよ」


呟いてモン先生は出て行った。

肩を落としてしょぼんと。

私は何か間違えたらしい。モン先生に落胆されてしまった。次は間違えないでおこう。

侍女で無い私は姫様のお世話は出来ないから、モン先生やニヨラさんに迷惑をかけない患者でいよう。


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