尋問
「あの茶を作ったのはお前か?」
「はい」
「中身を選んだのもお前?」
「はい」
「用意したのも?」
「はい」
「誰かの手引きでは?」
「いいえ」
彼は黙ってしまった。
茶葉は侍女長が取り寄せ、
蜂蜜は獣王の贈り物。
生姜は自生したものを専属の獣の国の料理長から仕入れた。
王国産のハーブは王家筋の宰相より預かった姫の為だけの特別なハーブ。
「お前は、アレが毒物だと知っていたか?」
「はい」
「・・・・。」
目を見て真っ直ぐ答えた。
何で、と口が動いたような気もする。
アレを王に盛れと言われた。
鼻の利く獣に効くまいに。
愚かな宰相様。
混乱に陥れるのだ!と悦に入った演説を聞かされた。
混乱なら、姫様が死んでもするでしょう?だって、王は姫をとても愛しておられる。
「お前が一人で考えて、一人で実行したのか?」
「はい」
「あ~お嬢ちゃん?自分の言ってる意味解ってる?」
背後に控えていた蛇の人が言う。
「はい」
「王妃暗殺だよ?」
暗殺?
そうともいうだろうか?いや、そうとしか言わないのか。
「・・・はい」
蛇の人の目が細まった。ちょっと怖い。
「おい」
目の前に座る人が声を掛ける。
「どうして?・・・理由は?」
どうして、とはこちらが聞きたい。
今は尋問の時間ではないだろうか、聞きたい事を言わせるのが尋問ではないのか。相手の意見なんて如何様にも捻じ曲げて解釈すればいいのに。どうしてこんなに・・・穏やかに、私の意思を問うのだ。
困ってしまう。
王国で、侍女として躾けられる時の方が酷いなんて、おかしいのではないだろうか。
正しい侍女教育の方が罪人の尋問より辛いなんて、笑ってしまいそうになる。
「お前。足裏の傷より前に、幾つか傷があったろう」
「傷?」
始め、怯えて服を掴んでいたせいでスカートが捲れ、ふくらはぎの蹴り痣が見えたらしい。
「誰かに強要されたんじゃないのか?」
じっと覗き込む目は真摯だ。
なんて生ぬるく易しい尋問なのか。
「傷?ちょっと見せて」
蛇の人が近づいた。近づく腕には、しなやかな筋肉とそれを覆う鱗があった。長い指先に見惚れて避けそこねる。
ぐっと腕を引かれて長袖が捲られた。
「そっちじゃな・・!」
こちらも木の棒かと思う細い腕には擦れた傷、古い抉れた肉の跡、それらが無数にあった。
唖然とする彼らにみっともない物を見せたと謝ろうとしたら、もう片方の手も惹かれてめくられる。
こっちは打撲痕があったのかと感慨深く見下ろす。
彼らならやりはしなさそうだが背中には鞭の跡も無数にあるし、腹も殴られた事もある。どちらかといえば傷のないのは服から出ている場所だけだ。だからここで行われる尋問はもっとひどいのかと身構えていたのだが。
そう、彼らは男で獣人だから、今までより酷い事になるのだろうと諦めていた。
「・・・古いのと・・新しいの・・・」
呻く彼の耳が下がり気味だ。
「え?まさか姫じゃないよね?」
蛇の人の呟きに「いいえ姫様ではありません」と即答。
「やっぱり誰かに脅されたんじゃないのか?!」
ロッドさんとやらは姫様の様に優しい人らしい。
この傷を見て、そう結論付けようとしている。
でも。
「いいえ、私がアレを作りました」
苦い顔をしたロッドさんに、シュウゥゥと息を吐いた蛇の人。
その日の尋問はそれで終わって、また担がれて私は塔に帰った。
担がれて運ばれるのが日常になりつつある不思議。
数日置きに行われる尋問。
変わり映えのしない質問。
ロッドさんの苦い顔。
蛇氏(ウィーヴィさんと言うらしい言いにくい)の困り顔。
ある日、「あーもう!我慢出来るかっ!!」と叫んだロッドさんは、私を担いで尋問もそこそこに外に出た。
「行ってらっしゃ~い」
蛇氏が手を振る。
私もなんとなく手を振りかえした。
少し位このふわふわとした日常を堪能してもいいかとの思いから。
だって、あと少しでしょう?
連れてこられた部屋は真っ白で、棚には薬品が詰められている事から医療所だと解った
白いベッドの上に私を放り出したロッドさんは、閉った扉の奥に声を張り上げた。
「先生!モン先生!患者だ、くそじじい早く来いよ!」
ロッドさん。どこかお悪いのだろうか?
「へーへー、なんだ健康優良児。どこ怪我した?」
出て来た人は白いおひげの小さな白衣の人。
頭に角が二本。
鼻づらの長い感じとかヤギみたいだ。
「俺じゃないコレ!」
イライラしたように彼は言う。で、私を指さした。
「おう!人だ!初めて見たわ。お前攫ってきたのか?いかんのう」
「ふ、ざ、け、ん、なっ!!」
角を持たれてがくがく揺さぶられているヤギの人。
「こら!こ~ら、解ったから!目が舞うわい!」
さあ、とお医者様らしき方はこちらに向き直った
「食が合わんでお腹でも下したかね?」
この方も穏やかな金の目で私を見てくる。
「いいえ」
何処も悪くないと言う前にロッドさんが先んじた。
「そこら中に傷がある!目障りなんだ、直してくれ!」
そうか!目障りだったのか、と合点がいく。
医師が彼を見上げ呆れ顔でため息。
「馬鹿だのう。・・・まあ、良い。お嬢ちゃん。儂はモン。モン先生と言われとる。嬢ちゃんの名は?」
びっくりして無言になってしまった
「ん?」
促され、乾いた口を開いた。
なぜか、ぽろりと目から水滴がしたたった。
彼女はあまり頭の回る人ではないので、母国が毒を持たせたと思ったら姫の立場が悪くなりそうだから
何も言う気はありません。むしろ、勝手に良いようにねつ造してくれないかな?ぐらいの気持ち。
・・・を、入れる隙間がなさそうなのでここで。




