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悲惨なる町

 「どうなってやがる、こいつは」


 ザンジの呟きを聞いて、僕は聞いた。


 「どうした? さっきから考え込んでいるようだが」


 僕の言葉を聞いて、ザンジが喋り始めた。


 「おかしいんだよ、ビルの崩れ方が」

 「おかしい? どう言うことだ」


 僕は咄嗟に聞き返していた。


 「ここであったのは火事なんだよ、分かるか?」

 「………………それがどうかしたか?」


 僕の答えを聞いて、ザンジが頭を抱えながら抑えた声で言った。


 「良く見てみろ。あのビル」

 「倒れてるな」

 

 僕の素っ気ない言葉を聞いて、ザンジが頷いた。


 「おかしいだろ、火事でビルが倒れているなんて」

 「…………ああ、そうか」


 ザンジが言いたいことがようやく分かった。

 しかし、僕は反論する。


 「だが、放火したのはあの女なんだろう? そいつの仲間が倒したんじゃないのか?」

 「いや、奴等は違う。ビルを倒せるほどの強さは無かった」

 「じゃあ、ビルを倒せるような……………… 例えばロボットとか」

 「確かにロボットは出てきていた。しかし、現れたのはここからかなり離れた場所だ」


 ザンジが言う。

 

 「絶対に何かがある。この火事に便乗して何か悪事を働く奴等がいる筈だ」

 

 ザンジが呟いた。

 僕はそこで話を切り、倒壊したビルの影に素早く隠れた。

 ザンジを手で呼んで隠れさせ、話を続ける。


 「悪事なんて意味のない行為だと思うが」

 「ところがどっこい。リク、思い出せ」

 

 ザンジはそこで間を置き、静かに言った。


 「ここで法律が機能するか? 警察は機能していたか?」

 

 ザンジの言葉ではっとした。

 警察機関は、この町には存在していない。

 おまけに法律も無視されている。放火が起きていて、障害事件まで起きているとなると、平気で犯罪行為に手を染める奴等がいると言うことだ。


 「まだここをゲームだと思っているプレイヤーはいる」

 

 僕は呟きながら思い出した。

 メーラの町に言ったときのプレイヤー達の叫びを。

 歓喜の声は、間違いなくまだここをゲームだと信じているプレイヤーの物だ。

 

 「そうだな。油断できないぞ」


 ザンジが言った。

 僕たちは影から素早く移動して、ビルの瓦礫を乗り越える。


 「大丈夫か?」

 「ああ、大丈夫だ。こんな事でへこたれるほど俺は柔じゃねえ」


 ザンジの頼もしい返事に頷きながら、瓦礫を乗り越えた。

 このさきはどうやら、広場だったようだ。

 噴水の跡が残っている。


 「ギルドホームはこの先だ」

 「分かった。方向は?」


 僕が聞くと、ザンジは指を指して方向を示した。

 僕は身を屈めながら広場を通る。

 広場を取り囲むようにビルが立っているが、その殆どは倒れてしまっている。

 もしここにスナイパーが居れば、射程に入った瞬間僕たちの頭は貫かれていただろう。


 「あともう少しだ。がんばれ」

 「言われなくても」


 僕はザンジの言葉を聞く。

 この道路はビルがあまり倒れていない。

 他と比べれば、明らかに損傷が少ない。


 「開けているな。どうしようか」

 「スナイパーがいる可能性は捨てよう。近付いてくるプレイヤーを警戒する」


 ザンジが作戦を立てて伝えてきた。

 これまで敵とは出会っていないが、もし出会ってしまったら一貫の終わりだ。

 僕はSFIを構え、コッキングして薬室に初弾を送り込んだ。

 ナイフとグレネードを確認して、進み始める。

 グレネードはスモークグレネードのみにしてある。

 破片手榴弾も良いのだが、もし銃で撃たれた場合は爆発してしまう。

 銃のダメージは防御力で防げても、爆発したグレネードのダメージでHP0になるプレイヤーは後を絶えない。

 対人戦では、破片手榴弾など、誘爆の危険性の有るものは基本的に直接撃たれてしまう所に仕舞わないのがベストとされる。

 グレネードは威力が高いため、誤爆してしまうと甚大な被害をもたらすのだ。

 特に、それがプラズマ系のグレネードである場合は、プラズマが電子機器の動作を阻害してしまう。

 

 「誰も、いないな?」

 「よし。では、進もう」


 二人で二方向の警戒を分担する。

 高いビルに囲まれた道路では、横方向からの攻撃は難しい。


 「ギルドが見えてきたか?」

 「ああ。あれが、俺達のギルドだ」


 ザンジが指差す建物は、ここから二百メートルほど先にあった。

 コンクリートらしき物質で建造された純白のビルが、そのギルドホームであった。

 

 「"月影"、か。中々いい名前だな」

 「おっ、そうか? これ、俺が考えたんだぜ」


 ザンジが言ってくる。

 ギルドホームの建物の側に黒色のゴシック文字で"月影"と書かれている。

 黒色のため見にくいが、この距離からでも見えているのはこの体の視力が高いからであろう。


 「双眼鏡あるか?」

 「ああ、あるぞ」


 僕は双眼鏡を手渡し、ザンジに聞いた。


 「どうして、双眼鏡が必要なんだ?」

 「いや、何かが見えた気がしてな………………」


 僕はもうひとつ取り出して目にあてがった。

 ビルを見渡すが、不審なものはない。

 

 「勘違いか。リク、返すぜ」


 ザンジから受け取り、僕はナップザックにいれた。


 「行くぞ」

 「了解」


 僕たちは再び前後を警戒しながら進みだした。

 身を屈めながらとにかく歩き続ける。

 出来るだけ音は立てないように、慎重に進む。

 人の気配は全く無いが、それでも、慎重に進む。

 

 「残り五十メートルほどか。大丈夫か?」

 「もちろん、大丈夫だ」


 ザンジが元気そうに言う。

 ついさっきまで大怪我で気絶していたというのに、もう元気そうに振る舞っている。

 流石としか言いようがない。


 「…………おい」

 「どうした? ザンジ」

 「双眼鏡だ!」


 ザンジは僕から奪い取るように双眼鏡を取ると、覗いた。


 「くそっ!」


 一瞬叫んだ後双眼鏡を放り出してザンジは走り始める。

 僕は双眼鏡を拾って覗く。

 ギルドホームの方向へ走っていくザンジ。

 その前方に、男が二人いる。

 二人の男はナイフを持っている。

 そして、二人の男の間には、一人の女。

 

 「ザンジ、助けようとしたな」

 「怪我している足で無茶をする…………!」


 僕はSFIを構えてザンジを追い掛ける。

 斧を持ったタンクであるザンジのスピードは遅く、簡単に追い付けた。

 そこで見たのは、男の内の一人に斧を振り上げるザンジ。

 そして、下からナイフで迎え撃とうとする男の姿だった。


 「ザンジがやられる………!」


 このスピードの差ではザンジが先に斬られる。

 僕は咄嗟にSFIの照準を男に向けていた。

 そのまま、躊躇わずに引き金を引く。

 次の瞬間、天を突き刺すような轟音が響き、銃弾が放たれた。

 放たれた銃弾の一発目は男のナイフに当たってナイフを弾き飛ばした。

 そして、二発目は男の胸に吸い込まれるように命中し、男はその場に倒れた。

 僕はザンジの側に駆け寄り、もう一人の男の頭にSFIの銃口を向けた。

 

 「ひいっ!」

 

 男が震え上がってナイフを放り出した。

 ナイフの切っ先が地面に落ちてチリン、と音を立てる。

 男はそのままこちらに背を向けて逃げ出してしまった。


 「………………」


 僕は黙って地面に倒れている男を見た。

 明らかに死んでいる。そして、殺したのは僕だ。

 この世界に来てから覚悟はしていたが、人を殺すことになろうとは。

 

 「ザンジ。この女は?」


 僕は少し首を動かして女を見た。

 

 「月影の、メンバーだ」


 ザンジが震えた声で言った。

 女の腕や足には多数の切り傷。

 そして、全身に暴行を受けた痕が残っている。

 痛々しい、"死体"だった。


 「くそっ! 俺は、俺は……………!」


 ザンジが地面に腕を叩きつけた。

 そのまま、何度も、何度も。

 手が傷付いて血が出たが、気にせずに地面を叩き続けた。

 やがてザンジは、起き上がって僕に言った。


 「俺は、彼女を埋葬しようと思う。ギルドホームの裏に、空き地がある」

 「分かった」


 ザンジの目には涙が浮かんでいた。

 僕たちは彼女を持ち上げて、埋葬すべくギルドホームに向かった。

 扉があったが、無視して裏に回る。

 

 「ここ、だな」


 建物の裏にある小さな空き地に、彼女を埋めた。

 僕たちは彼女を埋めた後、建物の中に入った。

 

 「……………………」


 建物の中に入ってしばらくした後、ようやく頭のぼやけのような濁りが消えてきた。

 

 「武器は持っているな?」


 ザンジが頷いた。


 「死んだ奴の為にも、俺は生きるぜ。まずは泣き止まないとな」

 「分かった、もう大丈夫だな」

 

 ザンジに聞いてから、僕は改めて周囲を確認する。


 「ここは、エントランスか」


 電気が落ちていて暗いが、僕たちは明かりを確保せずに目の慣れに任せることにした。

 明かりを付けて他のプレイヤーに発見されることを防ぐためだ。

 エントランスには、受付のようなものが残っている。

 しかし、そこには誰もいない。

 殆ど火の手は回ってこなかったようで、エントランスはまだ綺麗な状態だ。

 しかし、窓ガラスなどは全てヒビが入っていたり、割れていたりしている。

 

 「俺の部屋に行こう。そこに、武器とかも残っているはずだ」

 「俺はここから出るときに、余り重装備はしなかった。俺の装備もある筈だ」


 あいにくエレベーターは動いていなかったので、階段で昇ることにした。

 階段の踊り場に備え付けられた非常灯がぼんやりと階段を照らしている。

 ザンジの先導のもと、僕はザンジの部屋に向かった。

 階段の壁にも少しヒビが入っていた。

 非常灯も灯っていない物もあった。

 それらは、ここで起こった悲惨な事件を僕に伝えるに足りた。

 

 「ここだ」


 ザンジが廊下のドアの前で立ち止まる。

 そのままドアノブに手を掛け_____


 開かなかった。


 「畜生、ドアの鍵がイカれてやがったか」

 「任せろ。折角銃を持ってるんだ」


 僕はSFIを肩で構えてドアノブに向けた。

 

 「まさか、吹き飛ばす気か?」

 「ああ、ドラマとかでもそうするだろ」


 僕は一言だけ言って引き金を引いた。

 セミオートで一発だけ放たれた銃弾がドアノブに着弾し、鍵穴を吹っ飛ばした。


 「ゲームだと破壊不可能な筈だがな」

 「現実だと思った方がいい。破壊不能オブジェクトはここでは壊せる」


 僕は一瞬だけザンジの方に視線をずらして言った。


 「リク、着いてきてくれ」

 「ああ」


 僕はザンジの後ろに着いて部屋の中に入った。

 部屋の状態は奇跡的と言えるほど良かった。

 他の部屋が荒れ果てていたのに対して、この部屋は全く荒れていなかった。

 通そうと思えば電気も通せるほどだ。

 

 「よし、装備は壊れていないぜ」

 

 ザンジが斧を見せながら言う。

 ザンジの部屋には、ゲーム時代使っていたと言う装備が丸々残っていた。

 タンクらしく全身鎧のようで、ザンジはこれを着て戦っていたらしい。


 「流石に、全身鎧は重い。着ていかない方がいいと思うが」

 「そんなに速度ペナルティは食らわないぞ?」

 「いや、精神的な問題だ」


 ザンジは僕の言葉を聞いて、全身鎧を諦めてコートに変えたようだった。

 さすがに斧は交換したようだ。

 僕は斧をメインに使っているわけではない。

 よって、僕の渡した斧は余り物で性能は高くない。

 ザンジの持つ斧の半分も攻撃補正はないだろう。

 よって、ここでは斧を交換するのが正解だ。


 「さて、どうする?」

 「そうだな。当初の目的は達せられた」

 

 僕の質問にザンジは答える。


 「一回お前の家に戻ろう。ここは危険だ」

 「そうだな。ここは少し危険だ」


 ここは火災の中心地であり、先程のように無法地帯になりかけている場所である。ここに長居するのは避けたい。


 「よし、分かった。僕の家に一回戻ろう」

 「すまんな。俺の私情のために」

 「良いんだよ。僕も仲間がいた方が安心できる」

 


 



 


 


 

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