進めその先へ
「行くぞ!」
俺は駆け出した。
大通りを駆け抜け、臭いのする方向へと。
「煙だ!」
真正面に煙が視認できた。
もくもくと立ち上る煙は、他の所よりも大きい。
「ここか!」
俺が辿り着いたのは、ギルドの近くにある大通りの中心地だった。
広場のような場所で、開けた空間を囲むようにして建物が並んでいる。
その場所は火に囲まれていた。
俺の肌に熱い空気が触れる。
野次馬が多く、良く中心地が見えない。俺は人々の間に入って火災の発生源を見た。
「あれは…………!?」
俺が見たのは一人の女だった。
まだ若く見えるその女は、手から炎を出しながら暴れまわっていた。
「燃やせ、燃やせ!」
叫びながら火を放ち続ける女から逃げるように、人々が逃げていく。
周りにいた野次馬がどんどん減っていく。
危険を察知して逃げる人々と一緒に、俺達は逃げ出した。
「くそっ、逃げろ!」
俺達は通路に駆け込んだ。
そして、俺はまやもや危険に晒された。
俺の前を逃げていた男が悲鳴を上げて倒れたのだ。
同時に、俺の右手に赤色の何かが付着した。
それが血だと判断するのに数秒掛かった。
俺は直ぐに前を向き、男を倒した者を見た。
俺の目の前に刀を持ったフードの男が立っていた。その体は血がベッタリと付いており、それが返り血であることは容易に予想できた。
「ふむ、これで58人。次の一人はお前だ」
男が言うのと同時に男の刀が跳ね上がり、俺の目の前に突き付けられた。
俺は僅かに視線をずらし、後ろを確認した。
そこには、レンとイリアが居る筈……………… 居ない!
くそ、あいつら逃げやがった!
俺は刀を突き付けられたまま動けない。
どうにかして逃げる方法はないか?
俺の後ろは火炎女、前は人斬り侍。絶体絶命のピンチだ。
ふと、男の後ろに通路が曲がっているのを発見した。
そして、その後ろがギルドの方向であることも。
「行けっ!」
俺は前方回転して男の刀から逃れると、そのまま走り始めた。
全速力で走り、ギルドを目指す。
俺の体がこんなに力を出せるとは知らなかった。俺の体はオリンピック選手の数倍速く駆け抜けたのである。
「あれだ!」
俺はギルドを見付け、駆け込んだ。
「助けてくれ!」
俺は叫んだ。
その直後、ルウェイスさんが出てくる。
「どうしたね、ザンジ___!?」
ルウェイスさんが俺の後ろの人斬り侍を見付け、武器を抜いた。
ルウェイスさんは羽織っていたローブから刀を抜くと、構えた。
そのまま建物の外に出る。
そして二人は向かい合った。
直後、ルウェイスさんが首の動きで逃げろと伝えた。
俺は背を向けて走り始めた。そして、俺の後ろで刀を交える音が響いた。
俺はギルドホームのバイクへと走った。
俺のバイクにキーを差し込み、急いで逃げ出す。
俺がゲートからバイクで出たときは既に辺りに火が回っていた。
熱い空気の中を俺はバイクで爆走する。
「良し!」
俺は逃げ出せた嬉しさの余り声に出していた。
そして、バイクの出す音が仇となり、最悪の展開を迎えることとなる。
「ふふっ、焼いてあげる!」
「もう追い付きやがったか!」
さっきの火炎女が後ろから猛烈な速さで追ってきたのだ。
バイクにも匹敵する速さで走ってきて、炎を撃ちまくってくる。
恐らく、あれは魔法だ。
多分、「フレイム・バレット」あたりの魔法だろう。
あれだったら大量に出せてもおかしくない。火属性魔法の初めの魔法、それが「フレイム・バレット」。低燃費で使いやすく、更に威力も安心できる。
「くそっ!」
俺はバイクを右に左に移動させながら炎を避け続けた。
俺は日本でバイクを運転していた。経験があり、そしてバイクの性能が良いからこそ出来る技だ。
「はははっ! もう諦めたら!?」
「誰が諦めるかよ!」
女が撃つ炎の密度が更に上がった。
そして、俺の後ろから紫色の発光。
「魔方陣…………… "インフェルノ"か!」
「大正解! さあ、焼かれちゃいな!」
俺の叫びと同時に女が放った大魔法が辺りを包む。
「インフェルノ」。火属性魔法スキル熟練度1000.0の魔法にして、広範囲殲滅魔法。
こんな魔法を軽々と撃てるなんて…………
あの女、ただ者じゃない。
俺が思考を乱したのはいけなかった。
俺のバイクは前方の炎を避けられずにそのまま突っ込んでしまった。
俺の全身を炎が包み、強烈な火傷を負うがタンクとしての耐久力で耐える。
全身火傷だらけだが、それでもバイクで走り続けることをやめない。
もうすぐ町の外れだ。
北区から出て、もうすぐ南区へ到着出来る。
そうすれば、こんな女なんか簡単に倒すことが出来る。南区にある大量のギルドが協力すれば、この女なんか一捻りだ。
「何だ!?」
俺が進んでいた先の門が突如爆発する。
何故だ? あれは南区の門だ。簡単には破壊される筈がない。なぜなら、あれは魔法金属製の強固な門であるからだ。
「ロボット!?」
あれは……………
警備ロボット、「liberate/120」!
メーラにはロボットは配置されていないはず、配置されていたとしても精々ドローン程度の筈だ。
しかし、目の前のロボットはアニメさながらの巨体、ドローンなどでは決してない。
「くそ、強行突破だ!」
俺はバイクをウィリー状態にして突っ切る。
当然、女も追いかけてくるがそっちはロボットに邪魔されて進めないようだ。
「へっ、ターゲットはあの女に向いたか。好都合だ!」
俺はバイクを加速させて南区の外周を通っていく。
出来るだけ、奴等から離れたい。
そうだ、町外れの丘の上に誰か住んでいた!
もしかしたら、匿ってくれるかも知れない。今の俺は、帰るところがない。
恐らく、帰ろうとしても奴等に殺されるだけだ。
振り向くと、ロボットが女を邪魔しているのが見えた。
あのロボットは簡単には壊せない。アダマンタイト製の金属ボディは、例え爆発魔法でも簡単に受け止める。
「くそっ、ここまでか」
ついにバイクの燃料が切れた。
見ると、ガソリン漏れを起こしている。すぐに燃料が切れて当たり前だ。
「ゴハァ!」
俺は勢い良く吐血した。
ここが森の中で良かった。
町中だったら、大変なことになっていた。
「くそ、こんな怪我じゃな……………」
俺の意識は消えかけていた。
俺は意地でも進もうと、バイクを掴んで歩く。
「くそったれ……………」
俺の体に力が入らなくなってくる。
もう丘の上には家が見えているのに……………
俺はポケットの中を探る。
しかし、回復薬は無かった。
「へっ………… 俺はここで死ぬんだな……………」
俺は更に歩く。
身体中から感覚が消えていく。
考えることすらままならない。
「レン………… イリア…………… お前たちだけでも生きろ」
「あの時、逃げて正解だったな………… お前ら……………」
俺は最後に自分の友人の名を呼んだ。
もうすぐ丘の上の家のドアに触れようとしていた。
「ハア、ハア……………」
「なさ……け、ねえな」
俺の手が扉に触れる。
しかし、その手がドアを叩くことは無かった。