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始まりの時

時は2045年、インターネットは全世界の何処でも使われるようになった。

 かつて発展途上であった国でさえ、子供がパソコンを使うようになった。今や国境、言葉は関係無い。全ての人類が真に交流出来る世界が、インターネット上に形成されていた。

 環境の変化に合わせてネットゲームのプレイヤーも増加し、それに応じてネットゲーム自体の数も大幅に増えていた。

 そんな時代の中に、人気を博するゲームは一握り。ゲーム会社にとっては、過酷な世界だった。倒産した会社は数知れず、人気の有る会社でも一度の失敗で簡単に倒産した。

 その中の一つに、「ソードマジック」と呼ばれるMMORPGが存在した。20年続いているが、今もトップクラスの人気を得ているゲームである。

 この名は略称で、本来は「ソード・マジッククロニクル」という名であった。サービス最初期はこの名で呼ばれていた。今は短く略されて「ソードマジック」か「ソーマ」と呼ばれている。しかし、「ソーマ」は別のゲームと被るため「ソードマジック」と呼ばれることが多い。

 剣と魔法のファンタジー、在り来たりなテーマだが、それ故に取っ付きやすく、ライトユーザーからヘビーユーザーまで広くプレイされる事になった。

 だが、一番の特徴は「インフレ」。一般的に、数値が千万を越え出したりするとインフレと呼ばれる。インフレが起こったゲームは長続きしないと言われるが、ソードマジックは絶妙なバランスを保ち、インフレ開始から15年以上も人気ゲームとして君臨し続けている。

 平均レベルは千万以上、全ゲーム中で最も高い。それでいて、ゲームバランスを崩さない程度にインフレは抑えられ、ゲームとして成り立っている。

 最近は銃やロボットまで追加されてしまったが、築いてきた人気とコアなゲーマーによって支えられ、人気は下がっていない。それどころか、銃を好むゲーマーも参戦し、人気や知名度はうなぎ登りだ。

 このゲームは自由度が売りで、プレイヤーはアバターから家、武器まで自由に選択、製作出来る。更に、アイテム数は一万を優に越える。ゲームのハードの進化により従来よりも大幅に上がった性能を最大限に発揮したグラフィックも人気を加速させる理由の一つだ。

 そして、このゲームの称号______

 殆ど、公式のおふざけやプレイヤー間の渾名である。

 「超絶銃マニア」だとか「怒り狂うおばはん」と言ったふざけたネーミングの中で数少ない真面目なネーミングを受けた一人のプレイヤー、「孤独なる銃士」。

 それが、大田陸の操るアバター、リクである。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 __中々倒れないな。

 そんな事を思いながら僕はコントローラーを動かす。

 今日も僕はソロでモンスター狩りをしている。毎日、こうやってフィールドで狩りをしているのだ。既に総討伐数は一万を越えている。

 このゲームはマルチ推奨のゲームだ。だが、僕はソロで戦っている。

 プレイヤーの間では、「マルチ推奨のゲームなのにソロで戦う変なやつ」という認識で見られてしまっている。その皮肉か、「孤独なる銃士」という称号を付けられてしまった。

 モンスターの攻撃を回避し、即座に銃を撃ち込む。

 今戦っているモンスターは、一言で言えば大きなタカだ。名はジャイアントホーク。直訳でも大きなタカである。

 このモンスターは、僕のレベルである百万の帯域のモンスターの中でも、特に恐れられている。何故か、それはこのモンスターの使う魔法の一つに原因がある。その魔法はサンダーボルト。

 サンダーボルトは、直線に雷を発する魔法だ。発射速度が速く、魔法詠唱が始まったら即座に回避行動を取らないとHPを大量に削られる。結構恐ろしい魔法なのだが、これ単体では余り脅威ではない。相手の行動を良く見ていれば避けられるからだ。この魔法の詠唱の時には派手なエフェクトが出る。それを見逃さなければ、十分に回避できる。それか、雷のダメージを軽減する防具を身に付けるかすれば、ダメージは大幅に抑えられる。

 真に恐ろしいのは、この大鷹は突進攻撃をする時にこの魔法を複数展開する事だ。魔法に反応して動いた所に突進攻撃が直撃する。それでスタン(一時的に行動不能になる事)になってしまい、魔法が大量に直撃する。一瞬で戦闘不能になる、このゲームには数多くある即死パターンの一つだ。

 百万レベル帯ではこれを食らってしまうと余程装備が良いか防御スキルを張っていたかのどちらかでしか受け切れない。

 勿論、いくら称号持ちとは言えレベルが120万ちょっとの僕ではまず受けきれないだろう。称号を持っているからと言っても、ステータスが増加する訳ではないのだ。

 防御系スキルも余り取得していないし、第一僕のスキルは片手剣と二刀流、それに銃。そして、身体能力強化系統、それぐらいだ。対抗できるスキルは習得していない。

 いくらでもスキルは習得できるのだが、今鍛えているのは武器スキルだ。防御スキルは後回しにしよう、と考えていたのだ。

 今の状態は余り良くない。このモンスターを倒せるかも怪しい。

 本来の定石では翼を銃で撃ち、地面に落としてから集中攻撃するのだが、翼を使えなくするのに手間取って時間が掛かり、本来の定石通りに立ち回る事が出来なかったのだ。

 もう即死パターン発動が迫っている。五分周期で突進の行動を取る。後30秒だ。戦闘開始から約4分30秒経っている。

 残された手は__奴を一撃で倒すこと。それしかない。

 銃から剣に持ち変える。後は、タイミングを見て急所に打ち込むだけ。奴の急所はくちばしの付け根。設定では、神経が集中しているため強い衝撃で気絶する、と書かれていた。気絶させれれば、後は倒すだけだ。

 残り五秒。

 残り三秒。

 二秒。

 一秒。

 __今だ!

 猛突進する大鷹を目の前に、僕は剣を構えて狙いを定める。

 攻撃ボタンを押して攻撃モーションに入り、僕の体が右回転する。右回転してからくちばしの付け根へと剣が迫り、そのまま斬り飛ばした。

 大鷹の体が倒れ、消え失せる。どうやら、今のでHPをゼロに出来たようだ。かなりの幸運だ。もしあそこで止めをさせなければ、倒す手間が掛かっていた。狩りの時間効率が速くなる点で、一撃で倒せることは大きな利点がある。

 アイテム獲得のメッセージが出現し、同時にレベルアップの効果音が鳴った。

 そして直後に画面が暗転する。

 どうしたんだ、と考えた後、画面に映る文字を見てそれを理解した。

 メンテナンス。

 画面には、「メンテナンスのためログアウトされました」と表示されていた。それと共に、回転するリングがロード不可能の赤色で点滅している。

 そう言えばメンテナンスだったな、と思いつつ時計を見ると、十一時を過ぎている。

 もう寝るか、と思いつつその日は過ぎていった。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 次の日の朝、僕が起きたのは自分の部屋では無かった。

 体を起こすと、知らない風景が目に飛び込んでくる。

 整頓された綺麗な本棚、筆記用具の乗る机__そして、壁に吊るされたボードに張られた写真。

 これは、自分の部屋ではない。僕の部屋は、こんなに広くはない。しかし、この部屋を僕は知っている。

 そして、壁に埋め込まれた鏡を見る。


 「いつもと変わらない…………… いや、違う」


 いつもと変わらないように見えたが、違和感を感じた。そして、その違和感の正体に気付いた瞬間、僕は本能的にここが何処かを察知した。

 ここは___ソードマジックの、リクの部屋だ。

 鏡に写るのは、僕のアバター、リクの姿。

 短い黒髪、背は余り高くなく、太っても痩せてもいない。中学一年生の平均的な体格だ。

 僕はソードマジックのアバターとして、現実の僕の姿をコピーした。

 そのときの年齢は13。今は15。違和感の正体は、成長した分が縮んだ事だ。

 そこまで考えて、ようやく僕は自分がベットの上に座っているままだと気付いた。

 ベットから立って鏡をもう一度見る。

 やはり、リクの姿だ。ゲームと現実のリクの身長を比べると、どうしてもゲームのリクの方が身長が低い。そのせいか、目線が低く感じられる。

 もしかして、ここはゲームの世界なのだろうか__

 そんな事を考える。しかし、それは有り得ない事だ。そんなライトノベルに有りがちな展開なんて、現実には起こらない。

 部屋のドアを開け、廊下に出る。僕の記憶とここが一致しているなら、廊下の階段を下れば、リビングに出るはずだ。そして、リビングと繋がったキッチンがあるはずだ。

 もしそこまで全てが一致すれば、ここはゲーム世界だと信じざるを得ない。


 「リビング………… やっぱり、ここはゲーム世界、なのか」


 階段を下ったそこには、見慣れたリビングが存在した。そして、リビングと繋がるキッチン。間取り、家具まで完璧に同じだ。

 リビングの壁に立て掛けてあるモデルガンまで、再現されている。

 もうこの時点で僕はこれが夢だとは思っていなかった。仮にゲーム世界だとしたのだ。

 記憶を頼りに食料庫まで行き、扉を開ける。そこには、リクがで集めてきた食料の山。空腹を回復するために、パンを50も持っていったイベント攻略は、いまや1年前の思い出だ。

 パン、缶詰、水、勿論米もあった。よくこれだけ集めれたものだと、我ながら感心してしまう。

 食器もあるし、調理器具もある。一年間は余裕で過ごすことが出来る。もっとも、この世界では食料が必要かどうかも分かってはいないが。

 一瞬、恐ろしい事を考えてしまった。もしかして、この家の外は虚無なのではないかと。この家がある町とこの家は、移動するときにマップを移動する。その為、家の外と繋がっていない可能性があるのだ。

 確める為に、玄関で靴を履き替え家の扉を開ける。

 広がるのは僕の家がある町の風景。ほっと息をつく。安心した。もし、外が無ければきっと僕は虚無に落ちていた。

 早速外に出て見る。

 外に出て見ると、風が僕の服を揺らす。

 空を見上げると、雲ひとつ無い青空だった。太陽の眩しさが目を眩ませる。

 最早ゲームとは思えない。現実のようだった。これを見ると、やはり現実か、と改めて思う。


 「そう言えば、寝間着のままだったな」


 今僕が寝間着のままであることを思いだし、直ぐに家に引っ込む。

 そして、リビングのソファーに座った。

 ソファーに座りながら、ここが何なのか考える。

 ゲーム世界以外に考えられるのは、VR世界だ。

 しかし、これまで日本ではそのような技術は出てきていないし、外に出た時に感じた感触。あれは、コンピュータ制御のゲームで表せるような物では無かった。現実と変わり無い風景。それをこうして生み出すのは、今の環境では不可能だ。

 やはり、ゲーム世界に転移してしまったのだろう。

 そう考えれば、全ての辻褄が合う。信じられない現象ではあるが、これしか理由として当てはまる物はない。

 気を付けるべきなのは、こうした状況下を描く小説、アニメでは殆どの場合死んでしまった場合本当に死んでしまう。理由は様々ではあるが、それを受け入れなければならないという現実を突き付けられる場合が多い。

 小説やアニメと全く同じだとは考えてはいないが、もしもの可能性を考えて死なないように気を付けるべきだ。

 特に、ソードマジックではすぐに死んでしまう事も少なくない。

 脱出方法も提示されるのが普通だが、この状況でそれを期待するのは無意味だと考えられる。

 何故かと言うと、ソードマジックは難易度が高すぎるからだ。基本的に、高難易度のクエストをクリアしたければ、100回以上の死亡を繰り返して敵の行動パターンを探る必要がある。もし、ステータスを引き継いだ状態で僕が存在しているのだとしても、まずクリア不可能だ。

 僕はまだ初めて3年のひよっこ。そんな状態なら、高難易度のダンジョンやクエストはクリア不可能だ。家具などを見れば、ステータスを引き継いでいるのだと分かる。幸い、ステータスリセットは無かった。

 そこまで考え、僕は家の訓練所に向かった。

 この体で試したかった事が有るのだ。

 早速訓練所に向かう。

 試してみたかった事、それはステータスを開くことだ。ゲームでは簡単に開けたステータスだが、こちらでは開けるかどうかも分からない。

 良くある設定では、「ステータス」と唱えると出てくるパターンが多いが、まさかそれで出るはずがない。

 一応、言ってみよう。


 「ステータス」


 予想していなかった。

 電子音の重厚な響きと共に、一枚のパネルが出てきてしまったのだ。

 そう、ステータスの画面が直接出てきたのだ。

 名前の所にはリク、とある。

 取り敢えず、他のプレイヤーに会う事が出来ればこの名前を名乗ろう。

 レベル、HPと続くのは、ゲーム時代と全く同一だ。

 ステータスはやはり戻っていない。

 しかし、項目が殆ど消えてしまっている。アクセス出来るのはステータスの他に、アイテム、設定、フレンド等が有ったが、消えてしまっていた。

 ここにあるのはステータスとスキルだけ。それしか、項目が選べない。

 予想通り、ログアウトは出来ないようだ。残念だが、ここで生きていくしかない。ステータスが見れるだけ有り難いと思うべきだ。

 次は、ステータスの確認だ。

 腹筋、腕立てをやってみる。


 「おかしい、僕の体力はこんなに続いたか?」


 数百回はやったが、まるで疲れない。ステータスの体力パラメータが再現されている。

 軽く跳ねてみると、五メートルは跳んでしまった。筋力まで強化されてしまっているようだ。

 元の体の数倍の力がある。いや、それ以上だ。まだ全力ではないのだから。

 全力を出せばどれくらいになるのか検討もつかない。

 ゲームでは速度があがっても、人間の目に追えるようにある程度スピード制限が掛かっていたのだ。そのため、敏捷度の上限は他のパラメータよりも低い。

 さて、武器はどうなっているのか。もし、外に出るのならモンスターと戦うために装備を整えなければならない。武器なしでフィールドに出れば、モンスターに素手で対抗しなくてはならない。

 恐らく、倉庫に装備は仕舞われている。この家の中に、倉庫がある。仕様のため無限に入る倉庫だ。ちなみに、無限倉庫はオークションで手にいれたレア物だ。役立っているし、気に入っている。自分でカスタマイズした物なので、愛着があるアイテムだ。

 走って倉庫までたどり着く。

 倉庫を開けると、大量のアイテムがあった。流石に一つずつ出すのは不可能だと思い、近くの倉庫操作用のタブレットで操作することにする。

 愛用の武器である銃を取り出す。

 アサルトライフルだ。このゲームの銃は、現実に基づいた銃もあれば、架空の銃まで多数ある。

 その内、実在する銃は「遠方の地の職人の譲渡した設計図を基に製作したもの」、架空の銃は「設計図を基に、既存の技術を利用した改良型」との設定がある。

 また、銃には実銃、魔法銃、光学銃の三つがある。その内、魔法銃と光学銃は架空の銃しかない。魔法銃と光学銃は弾薬のコストが低い点で優秀だ。だが、威力が低いと言う欠点がある。

 僕のアサルトライフルは「U.S.M14」という銃を原型にして作られた架空の銃、「SFI:AN15」だ。

 この銃は「SFI」を取って「ソフィー」とプレイヤー達にも呼ばれる。

 毎分850発、初速1200m/sec、有効射程820mと、ゲームならではの高性能銃だ。

 しかし、最高性能とされる銃であるアサルトライフル、「Army88/44」は毎分5800発、というゲームでしか有り得ない超性能銃である。毎秒に換算すると95発。

 過去にこの銃を持つプレイヤーを見たプレイヤーはこう語る。


 「こいつを見たら、マシンガン5挺が同時に襲い掛かってくると思え」


 この言葉は銃を扱うプレイヤーの間で知らないプレイヤーは殆どいない。

 SFIを傍らに置き、僕は深呼吸した。

 外に出るなら、それなりの覚悟が必要だ。

 銃だけではなく、ナイフや剣も必要だ。ナイフ、剣ともに用意はある。ナイフは架空金属「ソルライト」のナイフ、剣は魔剣がある。

 ナイフも剣も、かなりの苦労の果てに手にいれたものだ。性能は現時点の最高クラス。僕より上位のプレイヤーに対しても対等に渡り合える程の性能を持つ。

 これであれば、安全に探索できる筈だ。

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