第七章 流麗に、三色ヒルガオの精
「は・・・?」
これは、私が誰かからイジメを受けているということだろうか。
「どうしたんで・・・・ああ。」
なんで、あの仔猫が温度のない体で私のベッドの前に横たわっているのだろう。
「だれ、が・・・こんな・・・・。」
まるで眠っているかのように見えるが、猫の目は濁っており体温もない。息ももちろんしていない。
「フィア・・・?ねぇ、フィアがしたの?」
あの仔猫のことを知っているのは、私以外にはフィアだけのはずだ。そして私があの猫を可愛がっていると知っていたのもフィアだけ。
「・・・僕を、疑うのですか・・・?」
フィアの瞳に暗い影が滲みはじめる。
「・・・・もし、僕がやったのだとして・・・なぜ僕が怒られなくてはいけないのですか・・・?」
は・・・?
「僕よりもあの汚ら死い仔猫が大切だということですか!?ねぇ!!ねぇ・・・!!」
・・・・・・。
「別にそんなこと言ってない。フィアとあの仔猫どちらが大切かと言われれば、フィアだよ。でも、仔猫も仔猫で大切だ。だから、フィアを怒るの。というか、命を奪ったら怒られるのが普通なの。」
「仔猫よりも僕がずぅっと大切だったら怒らないのが普通ではありませんか?」
なに言ってんだ。
「ねぇ、僕のことが大切ですよね?あんな汚らしい仔猫よりもずぅっと。ずぅっと・・・。」
そういいながら、薄暗く微笑むフィアの左手首にはいつのまにか銀色に輝くナイフが添えられていた。・・・これじゃ脅迫だ。
「さぁ、早く。言ってください。その唇で。」
・・・言わなければ、フィアは間違いなく自らの手首に刃を食い込ませるだろう。なんの戸惑いもなく。
「・・・私は、
・・・・言わなくては。
「あの仔猫よりも・・・フィアが大切です・・・・。」
その言葉を聞いた瞬間、フィアの顔には満足げな笑みが浮かんだ。
「やはり、そうですよね。」
ナイフはいつのまにか消えていた。
「でも・・・僕を疑うなんて本当に酷いです。」
そういうと、フィアの右目からはぽたぽたと大粒の透明な涙が零れてきた。
・・・・さっきまで怒って私を脅して、あげく笑っていたくせに。情緒不安定すぎる。
「・・・・・ごめん。」
これ以外に答えられる言葉が私にあるだろうか?私は今でもフィアを疑っている。だが、そんなことを言えばフィアは再びナイフを自らの手首に押し当てるだろう。
「僕、辛くて辛くて辛くて辛くて死んじゃうかと思いました。」
フィアは私に縋りつきながら、なおも涙をこぼす。
・・・・あれ?この涙は、フィアの本物の涙?透明でぽろぽろとこぼれ出てくる。昔は、なんだか、違ったような・・・?透明・・・?無臭・・・?・・・いや、涙に香りや色があるなんて・・・あるわけないじゃないか。
「僕を傷つけた代わりに・・・ねぇ、お願いです。この仔、僕にください。いいですよね?」
・・・・・・・。
「・・・・その仔をどうするつもり?」
「弔ってあげるんです。ねぇ、いいでしょう?葬儀をしてあげるんです。だって僕、葬儀屋なんですもの。」
・・・・葬儀をするの、好きだもんね。
「もともと私のものじゃないけど・・・。いいよ。・・・ちゃんと弔ってあげてね。」
・・・・フィアだったらしっかりと弔えるだろうし。
「ありがとうございます。・・・あ、でも、葬儀にルタは参加しないでくださいね。葬儀はこの仔と僕だけで行います。だから、今からどこかへ行ってください。一時間後にまた会いましょう。」
・・・・なぜ私が葬儀に参加してはいけないのか、問いかける前に私は部屋から追い出されてしまった。