第五章 甘美なアダージョ、短いアレグロ
短いです。
「なにが食べたいですか?」
まるで犯罪者かのように地上の部屋へとフィアに連行されてから、十分。しばらく考え込んでいたフィアが、地上に出て初めて発したセリフがこれである。なに?お前は私の保護者なの?さっきから考え込んでたのは今日の夕飯の献立?なんかヤバいことしちゃったのかなー、もしかして今フィアは私を抹殺する方法を考えてるのかなー、とかって考えてた私が馬鹿だったの?
「・・・・・カレーで。」
心の中でフィアに悪口雑言吐きながらも、食いたいものの名前はしっかりという。私はこういう女である。
「一日待っていただけますか。」
マジかよ。
「それ明日の晩御飯になっちゃうから。」
「冗談です。」
良かった。
「四十秒で支度します。」
お前はどこぞの女頭領か。
* * * *
「全然四十秒じゃないじゃん。」
いや、無理だと思ってたけど。
「フィアさーん。今もう十分たっちゃってますよー。」
キッチンにいるフィアに向けて声をかける。
「なにも手伝わないルタがそれを言いますか。」
「ごめんなさい。」
い、いや、そもそもフィアが私が手伝うのを嫌がるんじゃん!!
「はぁ・・・完成しましたよ。机を片付けてください。」
そういいながら、フィアが二人分のカレーライスを持ってきたので慌てて机を片付けて、台ふきんで机をふく。
「それでは・・・・
「「いただきます。」」
パクッと一口カレーを食べる。うーん、美味しいねー!!
「美味しいですか?」
「うん。」
「では、あげます。」
またか・・・・。いつもそうだよね。一口食べて全部私に渡す。だからガリガリなんだよ。
「まだ一口しか食べてないじゃん。」
「食欲があまり湧かないので。」
お前はいつも食欲が湧かないのな。
「フィアが私にいつも渡してくるせいで、私どんどん太ってるんだと思うんだけど。」
「無駄な間食をやめればいいんじゃないでしょうか。」
うっ!!
私がフィアの言葉にダメージを受けている間に、フィアはキッチンに行ってワインをグラスに注いで、それを二つ持ってきた。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
なんというか・・・私のワインの摂取量どんどん増えていってるような・・・。昔は食後に一杯、って感じだったのに、今は食事中も飲んでる・・・。食後だって一杯どころじゃなくなってるし・・・。
「・・・・ん?」
あれ?なんだかフィアと私のワイン、色が若干違うような・・・。
「どうしましたか?」
「なんか・・・ワインの色、違くない・・・?」
私の方が、若干赤っぽいような・・・。
「気のせいじゃないですか?」
フィアがそういうんだったらそうなのかな・・・?
「さぁ、早く。飲んでください。」
「え?ああ、うん。」
急かされるようにして、ワインを飲む。うん、美味しい。
「・・・・いつも思うんだけど、ガン見するのやめてよ。」
「お気になさらず。」
気になってるからいってるんだろうがよ。
皆さんはカレーに隠し味を入れたりしますか?