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最終章 終曲

遅くなりました・・・。すみません。そして、最終話です。あと、『お巡りさーん!!隣に私を殺そうとしている奴がいるので今すぐ助けて欲しい件について!!』の番外編を投稿しております。

「これは・・・・。」


 いったい・・・?


「・・・・ふふふ、こんばんは。ルタ。」


 目の前には、白しかない。


「ねぇ、見て。見てください。もっと。もっと・・・!!」


 なぜ、ここは包帯が張り巡らされているのだろう?なぜ、フィアはウェディングドレスに身を包んでいるのだろう。なぜ、そのウェディングドレスは所々破けたりしているのだろう。なぜ、フィアの顔以外の露出部分には包帯が巻かれているのだろう。ウェディングドレスと包帯についているあの赤黒い汚れはなんだろう。・・・・なぜ、フィアは、包帯で吊るされているのだろう・・・・。


「フィア・・・?これは、一体どういうこと・・・?」


 つるされているにも関わらず、長い長いドレスの裾と包帯は床につき、床を広く覆っている。


「どういうこと、とは?ふふっ。」


 フィアは首もつるされていて苦しいはずなのに、ワインレッド色の唇を吊り上げて艶やかに微笑む。


「降りてきなよ・・・・。」


 私に言えることはそれしかなかった。なにを言えばいいのか検討もつかなかった。


「そうですね、これだと貴女の顔が見えない。」


 そういうと、フィアはゆっくりと床に舞い降りた。


「・・・・なぜ、こんな格好を?」

「お祝いのためです。」


 どういうこと?


「・・・・なんのお祝い?」

「ねぇ、祝杯をあげましょう。」


 は?


「ほら。」


 そういいながらフィアは、私にワインの入ったグラスを差し出してきた。


「・・・・フィアの分は?」

「僕のことなんてどうでもいいんです。だから、早く。ね?」


 嫌な予感がする・・・・。


「嫌だ。今日は飲みたくない。」


 なぜかどうしても思い出せない『花園』のエンド。

 

「は?」


 思い出せ。思い出すんだ。私は、思い出さなければいけない。フィアは一体なんだった?フィアーノは?いったい?なんだった?


「嘘、ですよね?」


 思い出せない。どうしても。私は、ここでの選択肢を間違えてはいけないのに。なのに、なにも思い出せない。私は、なにを選択すればいい?


「・・・・嘘じゃない。飲みたくない。」


 とにかく、時間を。時間を稼ごう。


「そう、ですか・・・・。」


 フィアは下を向いてしまった。


「では、」


 フィアはいつもからは考えられないようなスピードで、私を椅子に座らせると、グラスを片手に持ち、私の顎を固定した。


「無理やり飲ませるしかありませんね。」


 フィアは私の唇に無理やりグラスを押し付け、グラスを傾けた。


「んー!!んんんー!!!」


 私が口を閉じて拒否したワインが頬をつたって真っ白なドレスに落ちてゆく。


「・・・・ふふ。可愛い抵抗ですね。」


 そういうと、フィアは私の鼻をつまんで息ができないようにした。


「んん!!!?」


 駄目だ。苦しい。苦しい・・・・。息ができないというのはこんなにも苦しいことなのか。


「・・・・・早く、口を開ければいいんですよ。そうすれば、すぐに楽になります。」


 そっか・・・・。駄目だ・・・。騙されちゃ・・・。口を開けたところで、入ってくるのは、ワインだ・・・・。でも、もう・・・・・無理・・・・。


「はぁっ・・・!!!」


 一気にワインが口の中に入ってきた。


「げほっげほっ!!はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・。」


 ワインが気管支に入ってしまった。辛い・・・・。


「ふふふ、強情だからそうなるんです。さぁ、まだまだ飲んで頂かなければ。」


 

 * * * *



「はぁっ・・・はぁっ・・・・・。」


 めのまえが、くらくらする・・・・。


「いたい、いたい・・・・。」


 からだが、いたい・・・。ただ、わいんをのんだだけだし、そこまでのんだわけでもないのに・・・。


「やりすぎましたかね・・・・?」


 ふわふわする・・・。


「でも、これぐらいやらなくては・・・ふふふっ、ははははははははははっ!!!」


 やめて、みみもとわらわないであたまががんがんする。


「・・・ねぇ、こんなお話を知っていますか?」


 フィアはそういうと、ゆっくり話始めた。


「・・・・・むかしむかし、人ではないものがこの世界に住んでいたころ、一人の男が居りました。その男は、音楽の才能に満ち溢れ、神にも愛されておりました。ですが、その男はどうしてもなにかを愛することができませんでした。」


 ・・・・・・・・。


「そんなある日、とある人物の葬儀に参加することになりました。そこで、彼はとある女性と出会い、恋に落ちました。彼女はウェディングドレスに身を包み、棺の中で眠っていました。その眠りは永遠のものでした。」


しんでたってこと・・・?


「ですが、彼は諦めきれませんでした。彼女と結ばれることを。そこで、彼は神に祈りました。美しい歌を歌いながら。美しい曲を演奏しながら。」


・・・・。


「そんな彼の願いを誰が叶えるか、天上では言い争いになっておりました。なぜなら、大半の神は彼を愛していたからです。そんなとき、一人の神がこっそりとその言い争いから抜け出しました。神々の言い争いによって待たされる男を哀れに思ったのです。」


 ぬけがけじゃん。


「その神は葡萄の神でした。その神は新月の夜に彼女が眠る墓へと出向き、棺を掘り返しました。そして、自らの血である葡萄酒を血液を失った彼女に注ぎはじめたのです。その葡萄酒は神の血そのものです。ゆえに、神気が満ちており、それを使えば生ける屍をつくることなど容易でした。ですがそのとき、神は突如切り付けられたのです。神を切り付けたのは、神のことを彼女の棺をあさっている不審な者だと勘違いした男でした。」


 まぁ、ひつぎをほりかえしてたら、ふしんしゃだと思うわな。あ、少しずつ意識がはっきりしてきた。


「神は消え、神がいた場所には一本の葡萄酒が残されておりました。そこで初めて、男は自らが不審な者だと思い切り付けたものが神だったことに気づきました。男は崩れ落ちました。そして、赦しを乞う歌を歌いはじめました。」


 ・・・神殺し、か。


「歌を歌い続けたために、息も絶え絶え、意識も朦朧としてきた頃、神の声が聞こえてきました。『そんなことはもういい。だから、そこにあるワインを飲みなさい。その葡萄酒がつきるまで、今日は一杯、明日は二杯、明後日は三杯という風に一杯ずつ増やして飲んでいきなさい。月に一回は彼女にも必ず飲ませなさい。そして、葡萄酒が尽きたら自分で葡萄酒を買い月に一回は二人で飲みなさい。一カ月に一回、葡萄酒を飲まなければ死とは別の深い眠りがお前たちに訪れるだろう。』と。男は言われた通りに一杯、葡萄酒を飲みました。その葡萄酒はこれまで飲んだどんなものよりも甘露でした。ふと気が付くと、隣には青白い肌をした花嫁がいました。そう、彼が夢にまでみたあの彼女です。彼女は天の国から男のことをずっと見守っていた、というのです。そして、男のことを好きになった、とも。男と彼女は結婚をして、永遠に暮らしましたとさ。」


 ・・・・最後雑だな。というか、永遠に暮らしたってなんだよ。そこは永遠に幸せに、だろ。


「・・・・でも、この物語には続きがあるんです。」


 え?これでもう終わりっぽいけど。


「永遠に湧き出るかと思われた葡萄酒はつき、男も彼女も少しずつ違和感を感じはじめていました。可笑しなことに、ずっと若い姿のままなのです。死者である彼女はともかく、男が若い姿であり続けるのは不気味というより他にありませんでした。しかも、なぜか男の瞳も髪もいつのまにか紫に染まっていたのです。やがて、何十年のときが過ぎました。彼女は死者から再生したときの姿のまま、そして、男の姿もあの時から変わっていませんでした。男の知人が年老いて死んでいくなか、男も彼女も昔と全く変わらない姿でした。そして、何百年ものときが過ぎました。男も彼女もそのままでした。やがて、男と彼女は決意しました。共に自殺をしようと。彼女も男も生きることに疲れていたのです。そして、ついに自殺を決行すると約束した日が訪れました。二人で、お互いの手首を切りました。二人を愛を囁きあいながら意識を失いました。」


 ・・・・・ふーん。


「男と彼女は絶望しました。意識を失ったあと、しばらくして目が覚めてしまったのです。」


 自殺失敗、か。


「ですが、彼らが絶望したのは自殺が失敗したからではありません。」


 え、違うの?


「彼らの身体が、永遠に死ぬことのできない身体であると気づいてしまったからです。」


 ・・・・?


「考えてみれば当然でした。神の血を注がれた彼女は勿論のこと、神の血を飲んでいた男は毎日少しずつ飲むことで身体に満ちていた血が神の血・・・葡萄酒と入れ替わっていたのです。そう、彼らは神に近い存在となり、不老不死を手に入れてしまっていたのです。」


 ・・・・・・。


「やがて、彼らは子を一人産みました。その子も血は葡萄酒で、彼女にそっくりな青白く冷たい肌と美しい顔を持っていました。そして、子の右目は、彼女と同じ暗い水色をした死者の瞳でした。死者の瞳は、一切の光をともさず、涙が出ることもなければ光があるところではなにも見えません。死者の瞳が機能するのは暗闇のみなのです。しかも、その子は彼女と同じように月に一回の葡萄酒以外の飲食の一切を必要とせず、腹が減ったり喉が渇いたりすることもなかったのでした。ゆえに、体が異常なまでに細かったのでした。子が男に似ているところといったら、菫色をした左の瞳と深い紫の髪、音楽の才能に満ち溢れていることぐらいでした。」


 ・・・なんだか、私・・・。


「ねぇ、その後彼らは・・・・どうなったと思いますか?」


 ・・・・なぜだろう。震えが止まらない。そして、どうしてもフィアの右目が気になる。あの右目は、どうなっている?


「・・・・・彼らは棺の中で眠っています。一カ月葡萄酒を飲まなければ昏睡状態に陥ります。それを利用して、葡萄酒を断ってから二十九日と二十三時間後に自ら棺に入り、その棺を自らの子に埋めさせたのです。」


 ・・・そう、なんだ。・・・・ねぇ、


「聞いてもいい?」

「どうぞ。」


 なぜ、どうして、


「フィアはその話を私にしたの?」


 ねぇ、フィアの右目は、どうなっているの?


「そんなの、決まっているじゃないですか。」


 フィアは、右目を覆い隠すこれまで決して上げることのなかった前髪を掻き上げた。


「あ、ああ・・・・。」


 フィアの右目は・・・・菫色をしていて、ちゃんと光も入っていた。よかった。私の予想は外れたようだ。


「なんて、ね。」


 そういうと、フィアは右目だけから紫色の涙を一、二つ流した。・・・むらさき、いろ?


「・・・・ふふっ。」


 フィアの右目は・・・・暗い水色へと色を変えていた。


「・・・・・ひっ。」


 フィアの眼には、一切の光がなかった。こちらを見てはいるが、眼にこちらの景色はなにも映っていない。虚ろな眼、とでもいえばいいのだろうか?


「僕がこのお話をしたわけ。それは僕が、


 ・・・・それは?


「さっきの話の『男』と『彼女』と『子』の子孫だからですよ。」


 ・・・ああ、やはり。やはり、そうだったか。私の予想は外れていなかった。どうも可笑しかったのだ。あのお話の『子』にフィアは似すぎている。青白く冷たい肌、細い体、紫の髪と瞳。


「僕、先祖返りみたいで。死者の瞳を持って生まれたのは『子』以来だそうですよ。」


 そう、なんだ。


「ルタ、もう一口、葡萄酒を飲んで頂けませんか?」


 は?


「貴女の身体を葡萄酒で満たすためには、もう一杯必要なのです。」


 どういう、こと?


「私の身体を、葡萄酒で、満たす?」

「ええ。神の血である葡萄酒でね。」


 ・・・・それだと、さっきの話からすると、私は不老不死に・・・。


「でも、待って。私は確かに毎日ワインを飲んできた。でも、神からもらったワインは尽きたんでしょ?だったらもう、神の血はないんじゃないの?」

「いいえ。まだありますよ。」


 でも、さっき尽きたって・・・・。


「目の前にあるじゃないですか。神の血で満ちたものが。」


 嫌な予感がする。私は、この先を聞いたらきっと立ち直れない。


「だってほら、ご先祖さまと同じように僕の身体には、


 吐き気がする。


「血の代わりに葡萄酒が流れているのですよ?」


 私は、フィアの血をずっと、飲んでいた?

 私は口元を押さえて蹲り、込み上げる吐き気と必死に戦った。


「ふふふ、何も知らずに僕の血を飲むルタは大層愛らしかったですよ。それに、僕の血がルタをつくっているのだと思うと・・・ふふふふ、ふふっ。」


 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い・・・・フィアの血だったワインだけではなく、そんなことで幸せそうに微笑むフィアも気持ち悪い。


「ねぇ、飲んでください。そうじゃないと、異常なまでの喉の渇きと飢餓感に苛まれることになりますよ?何を飲んでも食べても癒せぬ渇きと飢え、貴女に耐えられるんですか?」


 ・・・ああ、思い出した。思い出した。確かに『花園』で、フィアは人外だった。ミスルトゥも。あの人も。人の皮を被った化け物だった。


「のんだら、どうなるの?」


 そんなの、答えはわかりきっている。だが、私は聞かずにはいられない。


「不老不死になって、葡萄酒なしでは起きていられない体になります。あ、ワイン以外は逆になにも必要ないですよ。あとは、涙が葡萄酒になります。・・・ああ、もしかしたら髪と瞳が紫になるかも。ふふっ、それだと僕に染まっていくみたいでいいですね。ああ、染まるといいなぁ・・・。」


 うっとりと私の髪を触るフィアの眼は、右目だけでなく左目にも異様な光が宿っている。


「やだ。私は、やだ。」


 私は、不老不死になんてなるわけにはいかない。私には、もとの世界があるのだ。記憶はほとんどない。だが、確かにあちらが私のあるべき世界だ。ここが私のあるべき場所ではない。ここでの出来事は私にとっては夢なのだ。死んだら終わる夢。それが、不老不死を得たらどうなる?夢が現実となるのだ。そんな不気味なことは私は嫌だ。断固拒否する。フィアのことは大切に思っている。大切な幼馴染だと。だが、本当の両親に比べれば大切ではない。顔もどんな人だったかもわからない。記憶はなくても、今の両親には使ったことのない『母さん』『父さん』という響きに心が恋い焦がれるのだ。温かくて優しい感情が原の底から湧き出てくる。死だけが『母さん』『父さん』に会える・・・・いや、夢が醒めるかもしれない唯一の手段なのだ。それを、失うわけにはいかない。


「そんなの、聞くはずないじゃないですか。ルタじゃなければ、誰が僕と永遠を共にするのですか?ルタ以外は必要ありません。ルタ以外を僕の永遠の伴侶としてなんの意味があるのですか?貴女と一緒に居られなければ永遠の命などただの地獄です。それに、ルタは僕を置いていくのですか?僕は、死ねないのに。」


 フィアは左目から紫色の涙をぽろぽろと零している。


「違う。フィアの執着と私のフィアへの思いの重さは違いすぎる。私は、フィアを、」


 あ、


「ルタは、僕を、愛している、んですよね?まえ、そういっていましたもん。だったら相思相愛。なんの問題もないじゃないですか。」

「ちがう。私は、

「なにが違うんですか?」


 フィアは、左の瞳でこちらを睨み付けた。


「ちがく、ない、です・・・。」


 私は弱すぎた。なにかを宿したフィアの瞳に怯えてしまった。


「そう、ですよね。ルタが僕に嘘つくはずなんてないですもんね。よかったです。」


 ・・・・。


「では、一口。」


 私は、これを飲むわけには本当にいかない。


「ねっ、ねえ!!まだ、飲まなくても、

「いいえ、今飲まなくては。飢えと渇きに貴女は耐えられるのですか?」


 いい、そんなの。私は、ここから脱したら、自殺するのだから。そんなのは一瞬だ。


「いい。だからお願い。飲ませないで。」

「そんなの、僕が許しませんよ。」


 またもや、フィアは私を強引に捕まえた。・・・・もういい。

 

「嫌だ!!絶対に嫌だ!!離して!!離してよ!!!この化け物!!!」

「化け物?酷いことを言うんですね。でも、今はその化け物であることに感謝すら感じます。だって、永遠にルタを僕に縛り付けられるんですから。」

「永遠!?確かにフィアの命も私の命も永遠になる!!でも、フィアから私は逃げる!!絶対に!!」

「逃げられませんよ。周りが死にゆくなかで、一人生きる。その孤独に貴女が耐えられるんですか?きっと一時は逃げ出してもすぐに僕のところに戻ってくることでしょう。それに、そもそも・・・ふふっ。これは後のお楽しみです。とにかく、貴女はどう足掻いても僕から逃げることなんてできません。絶対に。」


 ・・・・なんだよ、それ。


「さぁ、一口。一口ですから。」


 私は、暴れ出した。私のパワーだったらフィアを振り払うことぐらい可能なはずだ。


「こら。暴れないで。」


 だが、フィアの力は強かった。いつもからは考えられないレベルで。

 ・・・・まだ、方法はある。怖い、でも、


「っと、舌を噛み切ろうなんて。」


 ・・・・・バレたか。

 舌を指でつかまれ、止められた。口の中に手を突っ込まれ、吐きそうになる。


「ぐくっ・・・!!!」」


 せめてもの反抗として、フィアの指に噛みつく。


「いいですよ。噛んでください。貴女からもたらされる痛みは僕にとって悦びにしかなりません。うふふっ、貴女の罪を貴女自身から刻んでもらえるなんて・・・!!」


 気持ち悪い気持ち悪い・・・・。


「もっと噛んでください・・・・!!」


 フィアの指の皮を食い破ったのか、血がぽたぽたと口に流れ込んでくる。


「おえっ・・・!!」


 飲んじゃ、だめだ・・・・。噛んだら血がでることぐらいわかってたのに・・・最悪だ・・・。

 血といいながらも、その血はくらくらするほどのワインの芳香がする。


「うっ・・・うっ・・・!!」


 吐き出そうとしても、フィアの手が邪魔して血を吐き出すことはできない。・・・・結局飲み込むしかない。


「はぁ・・・。仕方ありませんね。」


 そういうとフィアは、私の口に手を突っ込んだまま、優しい声で歌い始めた。


「~♪」


 身体から力が抜けていき、甘く優しい眠りへとフィアの声が私を誘う。


「うっ・・・・うっ・・・・・・。」


 ああ、ああ・・・・なぜ、こんなときに私の大好きなこの曲なのだろう。 


「~♪」


 いつか夢で・・・・。ああ、母さん、父さん。私、夢に閉じ込められちゃったみたい。だから、母さんと父さんがいる方が夢になっちゃうね・・・。母さん、父さん、いつか、夢で。


「おやすみなさい。」


 死には届かぬほど浅く、夢を見ることも叶わぬほど深い眠りに私は堕ちた。




フィアの着ていた洋服はフィアのお話の『彼女』が復活したときに着ていた、ルレザン家の歴史あるドレスです。ルレザン家では当主のみ着る資格があり、結婚式のときになどに着られます。

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