第九章 カナリアの精 - 歌って
「ここで、ずっと待っていたのですか。」
フィアが扉を開けて、驚いたようにいった。
「うん。フィアが心配で。」
全部嘘だけどね。
「そう、ですか・・・。」
・・・疑ってる?
「嬉しい、です。ルタが、僕のことをそんなに思ってくれてるなんて・・・。」
気が付けば私はフィアの腕の中にいた。フィアの腕の中はひんやりと冷たい。
「ねぇ、今度の舞踏会でも・・・僕を選んでくれますよね?」
私が持ってる選択肢は一つしかない。他にあったとしても、はいorイエスorうんレベルのものだ。
「うん・・・。」
いつも思う。なぜフィアの身体はこんなにも冷たいのか、と。真夏でもいつも冷気を発しているし、常に肌を隠すような恰好をしている。実際に今ある肌の露出は精々顔と手首と手ぐらいだ。
「僕も・・・ルタを選びます。ルタだけを。」
そういうと、フィアは身体を離し、私を部屋へと招きいれた。
「ねぇ、僕のこと、愛していますよね?」
好きだけど、愛してはいない。好きは好きでも友人的な意味だ。
「ねぇ?」
「・・・・・うん。」
「ふふ、僕も、貴女を愛しています。」
違う。それは違う。フィアのは執着や依存の類であって、愛ではない。ただ、私以外に縋りつく相手がいないのだ。むかし、フィアに唯一話しかけた、私しか。きっと他の人が話しかけていたら、この執着やら依存は他の人に向けられていたはずだ。そんなのは、愛ではない。
「・・・・ねぇ、フィア。フィアは気持ちを勘違いしていない?」
「なにを、言っているんですか?」
「フィアは私に執着しているだけじゃないの?本当に愛している?」
「それのなにがいけないのですか?執着も愛も同じものではありませんか?」
「フィア、
「ああ、もしかして僕を試してみたのですか?」
「いや、
「これまで、僕以外の人間や動物と関わりを持ってきたのはそのためだったんですね。僕の愛を試そうだなんて・・・ふふっ。大丈夫です。近いうちに・・・・ふふふっあはははははっ。」
・・・・・・・・。
「ふふっ、気分が高揚するとはこういうことなのですね。ねぇ、今度は絶対に能力を発動させません。だから、一曲、弾かせてください。」
「・・・・いいよ。」
「それでは。」
フィアは嬉しそうに微笑むと、近くにあったヴァイオリンを構え、息を深く吸い込み、目を閉じた。
「愛の喜び」
・・・ヒロインを見つけ出そう。ヒロインがいればきっとフィアも本当の愛を見つけられる。きっとフィアの私とフィアだけで完結していた世界が広がる。もしかしたら、自傷行為も・・・やめるかもしれない。本当に愛を見つけたら。ヒロインを見つけたら。
とにかく、ヒロインを見つけよう。フィアのためにも。・・・・私のためにも。
彼にはあまりにも似合わない曲を聞きながら、私はそんなことを心に誓った。