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二人の師匠

ど〜も、このやりとりも飽き飽きですね。


三回連続となる紀乃です。意外と三回連続は私が初めてだったりします。


と言うわけで私達のバスケの話もこれにて一区切りです。


果たしてこの先どうなることやら。


では、お読みください。



私の病室に意外な人、空君がお見舞いなのか来てくれた。


そう言えば昨日空君は来なかったから今日に来てくれたのかな?


「空君来てくれたの?ありがとう・・・」


でも今の気持ちから素直に喜べない。いけないなぁ、せっかく来てくれたのにこんな状態じゃ話せる事も出来ないよ。


「空君、今の私ね精神的に不安定なの。いつカッとなってもおかしくないから、だから今日は」


また別の日に来てくれるように言うとしたときだった。


「もう、諦めてる?」


突然、かなり可愛らしい女の人の声がした。


でも病室には私と空君だけ・・・ついに私も行く所まで行ってしまったのね。もうお迎えも来る頃なのね。


「あの、俺なんだけど」


また聞こえた!それに俺って・・・


「まさかこの声って、空君、なの?」


「うん」


あまりにも衝撃的すぎる。空君が無口な理由ってもしかして


「空君ってその声がバレるのが嫌で何も話さないの?」


「まぁそんな感じかな。いじられるのも嫌だから。家族の前以外でハッキリと話したのは初めてかも」


顔立ちはイケメンなのにこの可愛らしい声、ギャップなのかコンプレックスなのか、これで女装とかしてみたら完全に女の子だよ。


私よりも女の子っぽい声してるよ。なんか悔しい。


「でもなんで急に?それに諦めてるって」


いつも封印してる声を私に発してくれたのも理由があった。


「今日のこと知ってるだろ?女子バスケ部が危機だってこと」


「それは・・・さっき知っただけだよ。でも空君には関係がない話じゃ」


「直接的には関係ない。けど同じバスケ部の仲間がやめるってなってるのに俺が黙ってるわけにはいかない。それにこのことを言おうしているときに背中を押してくれた透先輩の言葉でもある。透先輩も俺と同じ意見だから」


透先輩、男子バスケ部のキャプテンをしてる人で空君と仲がいい。男子も心配してくれてるんだ。


「それで紀乃」


初めて名前を呼んでくれてドキッとしてしまった。いつも私が名前を呼んでるのに今回は逆になってる。


「今この状況を打開するのは多分紀乃しかいない」


「わ、私?」


「綾芽先輩と渚さんは紀乃のことで言い争いになってそれがどんどん広がって今になる。だったら元の紀乃がこの話に入れば二人を止められるだろ」


それは確かにそう。元々私のわがままから始まってこんな大惨事になってしまった。その元凶の私が大丈夫ってなったら二人も落ちついてくれると思うけど・・・


「でも空君、私は約三ヶ月いやもっと先になるかもしれない。その期間はバスケが出来ない、こんな姿で二人に言っても二人を苦しめるだけかもしれない」


大丈夫って言っても絶対に責任を感じさせてしまうよ。今の現状をまだ受け止めきれてないのに。


「たった三ヶ月だろ」


予想外の言葉だった。たった三ヶ月?


「三ヶ月間コートに立てないだけだろ?だったらそれを幸運に恵まれてるって思った方がいい」


「な、何を言って」


「その怪我で一生コートに立てなくなる方がよっぽど不幸だろ」


・・・今の言葉、私は胸を貫かれた。確かに、あのプレイでもう一生バスケが出来ないってなったのかもしれない。もう一生歩けなくなるかもしれない。もう一生目を開けなかったかもしれない。

最悪の場合を想定していたら、こんな怪我なんて。


「三ヶ月をどう捉えるのかは自分次第だけど、もっと考え方を変えてみたらまだ世界は広がるかもしれないぞ」


私の三ヶ月・・・


「ど、どうしてそんなこと言えるの?」


まるで自分が体験したみたいに言ってるけど・・・


「俺もそういうのあったから」


「空君も怪我?」


「中学のときに紀乃みたいな怪我を。全治一年ぐらい」


「一年!?」


一年間を棒に振るってことになる・・・私なら考えられない。


「何も、思わなかったの?」


「最初だけ。見方を変えればバスケについて勉強出来るし、自分のプレイも見直せる。その怪我で分かったことは、コートに立ってプレイをすることだけがバスケじゃない。自分を見つめ直すのも必要なんだなって」


自分を見つめ直す・・・コートに立ってプレイすることだけがバスケじゃない・・・空君は一年も、バスケが出来なかったのに絶望してなかった。それを(プラス)に自分を強くしてる。


私は・・・


「空君、私は・・・」


迷ってるのは自分でもわかる。でもさっきの自分じゃ無いのもわかる。


「退院はいつ?」


「明後日だけど」


空君は立ち上がって


「ならまだ考える時間はある。ここからどうするかは自分で決めること。

俺が出来るのはここまで、後は頼む。仲間を救ってくれ」


自分の役目を終えた用に病室から出ていった。


この足を今見てみると憎しみとかが湧いてくるとかそういうのは全然。空君の話で目が覚めたとは違うけど、私には私の役目があるのがわかった。


でも、どうやってチームの崩壊を止めれば、単純な言葉じゃダメ。それじゃダメ。


・・・今は何も思いつかない。けど、もう一度バスケのポストがある場所に行こう。


何か、分かるかもしれない。



翌日、私はもう一度松葉杖をついてあの場所に行った。


何かを求めて。些細なことでもいいから、自分に力を。


バスケのポストがある場所に向かうと、一人の少女がいた。


少女は車椅子を引きながらドリブルをしてシュートを放っていた。年齢だと十歳ぐらいかな。


シュートを放ったボールは弾かれて私の元に転がってきた。


「すみませーん。ボールを取ってくれなーい?」


遊びなのかな?でもかなり真剣だったような気がするけど。


私はボールを拾って少女に渡そうとしたら、無意識にゴールポストに片手でシュートをしていた。


「あれ、私って何を・・・」


気がついたときはゴールポストに入っていた。


自分自身で驚いていると少女が急いで車椅子を引いて来て


「お姉ちゃんすごい!こんな遠いところからゴールに入れるなんて!」


キラキラした目で私を見ている。


「お姉ちゃんってバスケやってるの?」


「う、うん。一応」


「今のシュートのやり方とか教えてくれない?お願い!」


両手を合わせて頼み込んでくる。この姿ってなんだか見覚えがある。どこだっけ・・・とりあえず断る理由も無いし


「別にいいけど」


「ほんと?じゃあ来て来て〜」


連れられるがままポストの前に立たされてしまう。


少女は私にボールを持たして


「さっきのシュートみたいやってね」


プレッシャーの一言だけど今なら決められる。


「じゃあまずは」



その後、私は少女にシュートの仕方やパスの回し方相手のマークの仕方などバスケに関することを私が知ってるかぎりを教えた。


私と少女は疲れて前にあるベンチに座った。


「お姉ちゃん上手すぎるよ。プロの選手かなって思ったよ」


笑顔でべた褒めする少女。そこまで褒められたら私も照れてしまう。


「ウチ、碧人あいと麗奈れなって言うの!お姉ちゃんは?」


「私は白石 紀乃」


「じゃあ紀乃ちゃんだね。紀乃ちゃんは足を怪我したの?」


「うん。試合中にちょっとね。そう言う麗奈も?」


「ウチは元々足が動かないの」


・・・えっ。


「も、元々?」


「ウチが全然子供のときに交通事故にあってしまってそこからもう足が動かんくなってしまったの。それで今日は健康診断でここにおるんやで。結果が出るまでウチはバスケで練習!」


今見てる笑顔が不思議に思えてくる。バスケどころの話じゃない、歩くことも走ることも、もう出来ないなんて・・・


「ごめん。変なこと聞いちゃって」


「なんで?ウチ全然気にしやんで」


「気にしないの?」


「昔のことの記憶なんて覚えてないしウチはこれが普通だったから。確かに歩いている人を見たら羨ましいとか思っちゃうけど、軽く考えちゃうと、足が動かなくてもちゃんと生きてるってことを実感してるから!だからウチが不幸って思ったことなんて無いよ。

車椅子バスケで活躍してみせるの!」


・・・言葉が、一言が何一つ出てこない。頭が真っ白になって、麗奈の顔を見ていた。


私よりもずっと年下。だけど精神は私よりもずっと上。まっすぐしか見ていなかった私と周囲を見ていた麗奈と。


これは、一緒なの?


「麗奈にとってバスケは?」


麗奈は笑顔で即答で


「楽しくて自分を成長する遊び!」


あぁ、よかった。やっと、やるべき事を見つけた。やっと、心が定まった。やっと、迷うことをやめた。


私は麗奈にいきなり抱きついた。


「えっ!ちょ!お、お姉ちゃん!?」


戸惑っている麗奈に私は心から誠意を込めて


「ありがとう。私、麗奈に会って成長したよ」


麗奈は私のお師匠。空君とはまた違うね。


私は麗奈から離れて


「これも何かの縁、また困ったことがあったら相談して」


「いいの?じゃあまた教えてくれない?ウチどうしてもシュートとか上手くいかんときが多くて」


「オッケー。そういうときしっかりとまず・・・」


その後、麗奈と連絡先を交換してまた会う約束をした。可愛らしい子、なんだか妹が出来たみたい。

でも会うのは自分事を片付けてから。今度は私がチームを救う番!



次の日。


久しぶりの学校に行って久しぶりの友達と話したり授業を受けた。やっぱり学校は楽しいもんね。


そしてついに勝負の放課後に突入した。学校ではまだ綾芽先輩と渚先輩には会ってない。

学年が違うから会わないだけだけど。


松葉杖をつきながらバスケ所がある体育館に向かった。


体育館の扉の前に立ち、一度深呼吸をして、心を落ちつかせて、扉を開けた。


扉の向こうにはいつも通りチームのみんなが練習していたけど私の登場にざわついていた。


いきなり練習がストップして気になったのか奥から


「みんなどうした・・・紀乃?」


綾芽先輩が私を見つけて驚いていた。私に近づいて


「紀乃、しばらくバスケは出来ないんでしょ?無理に来なくても」


私は意を決して綾芽先輩に


「綾芽先輩、私なら大丈夫です。たった三ヶ月コートに立てないだけでバスケを出来ないわけじゃ無いです。それに聞きましたよ、キャプテンを辞めるって」


「そ、それは・・・」


「私の足が怪我をしたのは私の責任、綾芽先輩や渚先輩の責任ではありません。罪の償いもいりません。だからキャプテンを辞めるなんて言わないでください。このチームには、あなたが必要なんです。どんなになってもどんな状態で負けてもどんなに失敗を繰り返してもどんなに涙を流しても、笑ってみんなを笑顔にしてくれる、綾芽さんが必要なんです!」


自分の今の想い、バスケに対することを。チームに対する想い。そして、綾芽先輩への想い。


私の言葉に綾芽先輩はしばらくその場から動かずに、力が抜けたように膝から崩れ落ちて行き顔をうつむかせ


「・・・そうだね。私、このチームの柱だったんだ。そんなの忘れて身勝手なことを言って・・・馬鹿じゃん、私って」


声が枯れ、地面は涙で濡れていた。


私も座って綾芽先輩の肩に手を置いて


「綾芽先輩に涙は似合いません。笑顔を見せて私を、みんなを安心させてあげてください」


笑顔の象徴。それでやっと復活を遂げることが出来る。


涙を流していた綾芽先輩は少し時間を置いてからばっと立ち上がり、私やチームのみんなに


「ここから私達は変わる。どんな困難も必ず乗り越えれる。みんな!今から新しいスタートよ!!」


いつも通りの凛々しくたくましい顔になり、笑顔が綺麗な綾芽先輩になった。


これを待ってましたかのようにチームのみんなは


「はい!行きましょう!」


一斉に綾芽先輩に近づいてどんちゃん騒ぎに。


これで、チームの危機は去ったかな。


あれ?でも一人大切な人を忘れてるような・・・あっ


「綾芽先輩、渚先輩は?」


全て丸く収まってなんかない!肝心の渚先輩が帰ってこなきゃ!


「そう言えばまだナギと喧嘩中だった。どうしよう、ナギ今の私と顔も合わせてくれないし・・・」


このチーム復活には渚先輩の力が必要不可欠、でもどうやって戻らせたら、渚先輩は一度決めたことは頑なに曲げない人。もうチームには戻らないなんてことも・・・


「紀乃?」


後ろから私を呼ぶ声。しかもこの声は


「渚先輩!戻って来たんですか?」


チームのみんなが驚いているってことは出てってから初めて来たのであろう。綾芽先輩もどうすればいいのかわかってない様子で目が泳いでる。


「足はどうなの?」


渚先輩はこちらの驚きとは違い冷静に私の足のことを心配してくれた。


「いや、大丈夫ですけど」


「そう、良かった」


聞いて私を通り越して綾芽先輩の前に。


「ナギ・・・」


「アヤ・・・」


二人は名前を呼び合い・・・沈黙の間が続いて私達も息を呑む。


そして、二人は揃って同時に頭を下げて


「ごめん!」


同じ行動をして二人は頭を上げて


「な、なんでナギが謝るのよ。私、謝らなきゃいけないことしかしてないのよ。キャプテンをやめるとか、チームを任せるとか、ナギを追い込むようなことばかり言ったりして」


「それは私もそう。カッとなってチームに戻らないって言ったけど、バスケは私の生きがいだった。アヤにあんなことを言ったからもう二度と戻れない気がしてたけど、やっぱり謝って一からスタートしようって思ったから」


「ナギ、私達また同じチームで」


「やっていける。紀乃の話も聞いた。これから本当の愛でバスケをやる」


綾芽先輩は涙をこらえて渚先輩に抱きついた。渚先輩も受け入れて綾芽先輩を優しく包んだ。


「もう・・・どこにも行かないでね」


「うん・・・ここが私の帰る場所だから」


二人の友情を改めて魅せられる感動の結末だったね。これでまた新しく出発出来る。これもみんなのおかげ、空君や麗奈、いっぱい師匠にも出会えたからこの怪我も今となっては良いものとして捉えることにする。


不幸を幸せに思うのも悪くないかな。



バスケの練習に綾芽先輩もやる気を出したり渚先輩も戻ってきたため本格的にするようになり、私は綾芽先輩のアヤメゾーンの動き、渚先輩の指揮のとり方など詳しく見ることに。来年には二人は引退することになるから私が少しでも出来るようにならないと、チームを引っ張っていけるようにならないと。

見るだけでも勉強になる。


そして帰り道、松葉杖をついて歩くのも疲れているときに背中をポンって押されて振り返ると空君がいた。


「空君、ここでお礼を言っておくよ。ありがと」


空君はキョロキョロと周囲を見ている。


「今は誰もいないって」


人目を気にしていたそうだったけど私の一言で


「別に俺はアドバイスを送っただけで行動に移したのは紀乃だろ」


一昨日聞いた忘れもしない声で、何回聞いても女の子にしか聞こえない。顔はイケメン声は美少女、どっかのアニメでありそう。


「でもそのアドバイスでこういう結果になったのよ。空君のおかげだよ」


「紀乃がそう思うならそれでいいけど」


「それにしてもなんでいきなり声出したの?」


「言っただろ。声を出さないと伝わらないこともある。話し合わないといけなかったから」


「ふ〜ん。優しいんだね」


そう言ったら顔を赤くして何も返してこなかった。恥ずかしがり屋さんでなんだか可愛い・・・ここまで私に優しくしてくれるんだしそれに男子の中では唯一普通に話せる仲だし、ここでなんでドキドキするのかはわからないけど。


この感じどこかで・・・渉先輩?


「にしても綾芽さんが元気になってよかった」


突然綾芽先輩の話題を振る空君。


「うん。なんで?」


「いや、別に・・・綾芽さんって普通に可愛くない?」


「まぁ、美人さんだと思うけど」


「俺、綾芽さんを見てると、心が踊るんだよな。これがなんなのかはわからないけど」


・・・あれ?これってもしかして、いや、うん。


「空君・・・綾芽先輩と二人でどこか行きたいとかある?」


気になって仕方がない。


「それは、カラオケとかどっちかと言うと二人でこう、近づきたい場所がいいかな」


やっぱりそうだ。空君は綾芽先輩のことを・・・


私はあえて口には出さなかった。空君が自分で気づくまで私は言わないよ。それに応援も・・・したくない。


恋なぁ・・・苦しくなるけど、やっぱり好きかな。



これで終わりで〜す。


いや〜疲れました。語り手も色々大変ですね。


こっから私達はちょくちょく出てきますけどメインどころではしばらく出ないと思います。


まぁ分かりませんけど。作者さん次第ですね。


それじゃあまったね〜

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