あと1つだけ
お久しぶりです
嗚呼、
あと1つだけ、
あと1つだけ、
口から小さく息とも声ともつかないものが漏れた。
人混みの中に見慣れた後ろ姿を見つけたから。
彼のコンプレックスである華奢で小柄な背中。私が抱きついてみたいと願ってやまない背中。今にも人波に埋もれてしまいそうなそんな背中。
いつも通りポケットに片手を突っ込んでスマホを弄りながら歩いている背中に、思わず足が向かった。
人波をかきわけ、かきわけ、追いかける。その背中は私を待ってはくれない。
先輩、と小さな声をあげた。
先輩、
先輩、
待って、
先輩、
ん?といった感じで振り返った彼の瞳が、
私の姿を見て、ああ、と優しく緩められた。
足を止めて、振り返って、私の方を見て、待ってくれる。
ようやく追いついた、と軽く息が弾んでいる私を見て、くしゃり、と笑う。私の、私の大好きなその顔。いつも、いつまでも眺めていたい、見ていたいと願ってやまないその笑顔。
どうしたの?と聞く彼は私の頭の中を知らない。
1人ですか?
どこに行くんですか?
そこで何をするんですか?
誰かと会うんですか?
それはどんな人なんですか?
先輩にとってどんな人なんですか?
しつこいくらいの疑問と、
隣を歩かせて、
手を繋がせて、
腕もくませてほしい、
抱きつかせて、
頭撫でて、
私を愛して、
私だけを見て、
キスして、
えっちなことして、
しつこいくらいの欲望が渦巻いている私の頭の中を。
私の頭の中を渦巻いているものの中から1つだけ引っ張り出してみる。
どこに行くんですか?
暇だからちょっと服でも買いに行こうと思って。
もう1つだけ、もう1つだけ、
誰かとですか?
ううん、
恥ずかしそうに手を振る。
1人でだよ、せっかくの休みなのにさみしいやつでしょ、おれ。
もう1つだけ、もう1つだけ、
それが喉の奥に貼り付いて出てこない。
もう1つだけ、なのに。
もう1つだけ、
暇?一緒に行かない?
え、
あ、なんか奢るからさ。
え、
あ、予定あった?
い、いいえ、いいえ、
私のあと1つだけを彼が言ってしまった。
頬が染まっていく感覚。
やった、とまた私の好きな顔で笑うから。真っ直ぐ自分に向けられたそれは眩しすぎて、好きすぎてくらくらしそうだ。
行こっか。
私を促して歩き出した彼の隣の並ぶ。
私の頭の中に渦巻いている欲望が1つだけ叶った。
叶ってしまった。
叶ってしまったから私のあと1つだけはどんどん増えていくばかり。
お久しぶりです
思いつきでしたがいかがでしたでしょうか?




