叶糸鳥
――遥か昔、人は空を自由に飛べたという。
神に与えられたその翼で、人は空に羽ばたいて、眩しい程の蒼に包まれていた。
空は、誰か一人のものではなく、生きとし生けるもの総てに恩恵を与える。
私達、人の子もそれは例外ではなく空の恩恵をその体全体で受けて生きていた。
――ある日、一人のカナリア(翼を持った人間)が空を愛して、その想いを歌に乗せて空に届けた。
いつか愛しいあの空に届くと信じて、かすれた声で愛の歌を空に向かって歌い続けて、その歌は長い年月を越えて、風にのって空に届いた。
しかし、歌が届いた時には、カナリアはもうボロボロだった……。
「空は生きとし生けるもの総てに恩恵を与える」
――ただ、その想いは偏ってはならない。
生きとし生けるものは、空の恩恵を独占してはならない。それは、神の決めた法律。
――歯車は、軋んだ音をたてゆっくりと廻りだす。
……空は、神の掟に背いてカナリアの愛に応えた。
――カナリアは空の応えにボロボロの体で翼をはためかせ、嬉しそうに微笑み……息を引き取った。
――神は空とカナリアの行為に怒り、人が二度と空を舞うことが出来ぬよう翼をとりあげた。
空に想いを馳せたカナリアの種族に至っては歌を奪われた。
――それから、何万、何千もの時が過ぎ、人はかつて翼を持っていたことも忘れ、世界は廻る。
翼も歌も奪われたカナリアが、ふたたび空に想いを綴る日がくるのは、それから少し先のお話。