祭後の恋
「何でだよ……何でまた……」
「……」
公園のベンチで頭を抱えながら、今日何度目になるかわからないこの言葉を口にする。幼馴染の小山萌香は、ただ黙って俺の横に腰かけている。
「やっぱり好きになるんじゃなかった……」
「……」
萌香に心配をかけたくないとは思っても、どうしても彼女のことが頭から離れなかった。
涙をぬぐう暇もないほどに涙があふれ続ける。
半年前、俺が当時付き合っていた彼女が死んだ。
恵まれた家庭に生まれ、特に目立った問題もなかったはずの彼女は、突如行方不明となりその数日後に近くの山で死体となって発見された。彼女の自慢であったさらさらの長くて美しい髪の毛は頭皮から綺麗に削ぎ取られ、後頭部は肉が抉れていたらしい。
警察はその残忍な手口から相当な殺意があったと考え、彼女との間にトラブルがあった人間を探したが、彼女の周辺に怪しい人物はいなかった。もちろん俺も疑われたが、彼女とは本当に仲良く、幸せな日々を送っていた。そんな彼女に対して殺意を持っていたわけがないし、周囲の人間もそれを裏付けてくれ、すぐに疑いは晴れた。月日は流れたが、今でも事件は解決していない。
そんな頃、彼女を救えなかった悲しみにくれていた俺は、天瀬春という女性と出会った。
彼女はそんな悲惨な事件を知り、俺を親身になって支えてくれた。彼女は弱った俺とただただ一緒にいてくれた。それが俺にとってどれだけの救いになったかは計り知れない。気付いた時には俺にとって彼女はなくてはならない存在になっていた。
こんなつらい思いをするなら、恋愛なんてもうしたくない。そう思っていたはずなのに、彼女を自分のものにしたくてたまらなくなっていた。
そんな醜い俺の心を彼女は嫌がりもせず受け入れてくれた。春のことは絶対に幸せにしよう。そう決心してようやく新しい一歩を踏み出せた。
……なのに、春は今朝、また同じ山で死体となって発見された。
それも彼女の自慢であった筋の通った綺麗な鼻だけを丁寧に削ぎ取られた状態で。
半年前の事件と酷似しており、その上、被害者の彼氏は同一人物。
俺は警察に呼ばれ、高校を休んだ。そして一日中警察に話を聞かれ、先ほどようやく解放された。
よく学校の帰り道に春とこの公園で夕日を眺めた。
この景色が春との幸せな日々を思い出させる。
絶対に幸せにするって決めていたのに。
やっぱり恋愛なんてするんじゃなかった。
「いっそのこと俺が死んでしまえば」「何言ってんのよっ!!」
突然のことに驚き萌香の方をみた。普段大人しくて優しい萌香からは想像もつかない、強くて悲しい声だった。
「なんで友哉が死なないといけないのよ!!
私は小さいころから友哉をずっと見てきた!!
友哉は優しくて、素直で、かっこよくて……そんな友哉が幸せになれないなんておかしいよっ!!」
「萌香……」
「私はずっと友哉の近くにいるから……だから……だから死ぬなんて言わないで」
萌香は目に涙を貯めて俺をじっと見つめる。その吸い込まれそうなほどに綺麗な瞳に俺は釘付けになった。
……だめだ……もう好きにならないって決めたのに……
これ以上誰かを好きになってしまってはいけないのに……
俺は萌香のことを考えてしまった。
萌香と一緒にいたいと思ってしまった。
その透き通った瞳から目を離せなくて。
涎が垂れた。