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こんな頼りない少年が勇者のわけがないッ!

作者: オッド

 ここは、魔王城の最深部。


「魔王様、念入りにお化粧などされてどこかへお出かけですか?」

「そんなわけないじゃない! 今日は、勇者が私を倒しにくる運命の日よ。倒される時くらい美しくありたいじゃない?」


 目を輝かせる魔王レジーナに、困り顔の魔王の部下アルフォート。


「ああ、そうだ。アルフォート、あなたは実家に帰っていいわよ! 犠牲になるのは私だけで十分だから!」

「承知しました、では失礼します」


 微笑むレジーナの顔を見て、すぐさまその場を足早に去るアルフォート。

 レジーナは一人取り残されてしまうこととなる。


「ちょっと、本当に帰ることないじゃない! この裏切り者ー!」


 涙目になりながら、一人叫ぶレジーナ。

 その様子を柱の影からこそこそと見守る少年が一人。


「あんた、そこで何してるわけ?」

「えっ! あ、あの、ぼ、ボクのことですか?」


 気弱な少年があたふたと周囲を見渡した後に、レジーナを見て愛想笑いを浮かべる。

 その顔は誰がどう見ても引きつっていた。


「あんた以外に誰がいるのよ。見かけない顔ね、新人?」

「い、いや、その、ボクは……」


 口をもごもごとさせ、はっきりとしない少年に近づくレジーナ。

 少年は驚いた表情で、柱にすっぽりと身を隠す。


「何よ、さっきの話聞いてなかったわけ? 今日、この城に勇者が来るのよ。危ないから、どこかに行ってなさい」


 レジーナが腰に手を当て説教するかのごとく捲し立てる。

 少年は、半泣きになりながらおろおろとするばかりだった。


「全く、ただの迷子かしら。この忙しいときに、困ったわねえ。アルフォートもいないし……」


 腕を組みながら、どうしたものかと考え込むレジーナ。

 その様子を不安げに眺めていた少年が意を決したように立ち上がる。


「あ、あの、ぼ、ボクがその勇者なんですけど……」


 なんとも弱々しい少年の予想だにしない発言。

 レジーナは思わず吹き出してしまう。


「アハハハハ、なかなか面白い冗談をいう子ね。こんな頼りない少年が勇者のわけがないじゃない!」


 レジーナに笑われた少年は、少し怒ったような表情をするが何も言い返せないでいた。

 それを見たレジーナは何かを閃いたかのように、少年の腰に手を伸ばした。


「そういえば、これも伝説の剣ライジングソードに似てるわねえ」


 レジーナが、少年の持っていた剣を取り上げぶんぶんと振り回す。


「ああ、返してください、返してくださいよー! 王様から借りてる大事な剣なんですから」


 ぴょんぴょんとジャンプして、レジーナが持つ剣を取り返そうとする少年。

 背が低くて剣に届かない少年は、がっくりと肩をおろしついに泣き始めてしまった。


「うぅ、ボクの、ボクの大事な剣が……ぐすん」

「ちょ、ちょっと泣かないでよ! ちょっとからかっただけじゃない!」


 慌てて剣を少年に返すレジーナ。

 少年はほっとした様子でごしごしと腕で涙を拭った。


 そして、とびきりの笑顔でこう言った。


「お姉さん、ありがとう!」

「べ、別に礼を言われることなんてしてないわよ! それに私はお姉さんじゃなくてレジーナよ。魔王レジーナ!」


 顔を少し赤らめ、腕を組みながらぶっきらぼうに言い放つレジーナ。

 少年は、ニコニコしたままその顔を見上げていた。


「ボクの名前は、ロートだよ。よろしくね、魔王のお姉さん!」


 その名前を聞いたレジーナは、ロートと名乗る少年を二度見する。


「えっ? ロート? ロートって、勇者の名前じゃない。う、ウソでしょ?」

「そうだよ、ボクが勇者ロートだよ」


 無邪気に微笑むロート。

 レジーナは見なかったことにしようと後ろを向いて、頭を抱えて素数を数え始めた。

 うずくまるレジーナの背中をロートが優しく撫でる。


「お姉さん、どうしたの? 頭でも痛いの?」

「キーッ! どうしたもこうしたもないわよ! あんた、勇者がどういう存在かわかってないの!?」


 突如立ち上がり、勇者の顔を睨みつけるレジーナ。

 ロートは、再び泣き出しそうになった。


「勇者はね、魔王を倒す決まりなの! 学校で習わなかったわけ?」


 レジーナに怒鳴られたロートは、ネコのように身を丸めブルブルと震えていた。


「大体、仲間はどうしたのよ! 予言によれば、戦士、僧侶、魔法使いのパーティでやってくるはずなんだけど!」

「あ、あの……ボク、人と話すのが苦手で……だから一人で来ました……」


 もじもじしながら、涙声で話すロート。


「な、なんでよ! なんで人と話す勇気すらないやつが勇者なのよー!」


 レジーナも泣きたくなってきたがぐっと堪える。


「ま、まあいいわ。あんたが勇者だというなら、さっさと私を倒しなさい!」

「え、お、押し倒す!? そ、そんなボクまだ子どもだし……」


 顔を真っ赤にしながら両手で顔を押さえて屈みこむロート。

 そんなロートの首根っこを掴んで持ち上げるレジーナ。


「誰が押し倒すっつった? ああ? 魔王をなめてんのかワレ!」

「ひぃぃ、ご、ごめんなさい……」


 ドスの利いた低い声で怒鳴り散らすレジーナにすっかり萎縮するロート。


「ったく、しょうがないわねえ」

「あ、ボクの剣!」


 やれやれといった感じで、ロートの剣を再び奪うレジーナ。


「あんたじゃ私を倒せないだろうし、こうするしかないみたいね」


 ロートのほうをみて優しく微笑むレジーナ。

 そして、徐に剣を両手で振り上げる。

 自らの体に突き立てようと、その手を素早く振り下ろそうとした。


 その時――!


「だ、ダメッ!」


 ロートが急にレジーナの前に飛び出した。

 しかし、ライジングソードはロートの体を容赦なく切り裂いてしまう。


「えっ? う、ウソでしょ? どうして?」

「お姉さんこそ、どうして、そんなことをしようとしたの? ボクみたいな勇者、一発で倒せるはずなのに、どうして?」


 倒れるロートに向かって大粒の涙を流すレジーナ。

 ロートは、かすれた声でレジーナを見上げていた。

 そして、そのままゆっくりと息を引き取り光の粒となって消えてしまった。


「なんで、なんであんたみたいなのが勇者なのよ。全くふざけんじゃないわよ! 犠牲になるのは私の役目なのにッ!」


 レジーナの悲痛な叫びだけが魔王城に響き渡っていた。

 






 一方、その頃、魔王城の近くにあるとある教会。


「ふあぁ、また死んじゃったかー。やっぱり一人だとこういう時に困るなあ」


 少年が何事もなかったかのように起き上がると、再び魔王城を目指して歩き出した。

 彼の目的がなんなのかを知るものは誰もいない。


 なぜなら彼は人見知りの勇者なのだから――。

ロートの冒険はまだまだこれからだッ!


というわけで、少々歯切れが悪いですがおしまいです。

読んでくださった方ありがとうございましたッ!

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