表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不器用な太陽達  作者: てんみつ(天龍光照)
第3章~魔女の復讐~
28/34

第8話 【悪魔】

カーザが、姿を消して1年半が経とうとしていた。


「ラー様、キーナ様が商人アディールを連れて参りました」


スナルが、王座に座るラーへ伝えると、女中たちを連れた女性が広間へと入ってきた。その後ろを、商人の格好をした立派な男が入ってくる。


「国王陛下、こちらが前からお話ししております商人のアディールでございます」


キーナ姫は、ラーにお辞儀をすると、男を紹介した。


「姉上、私はまだ王ではありません。以前と同じように、ラーとお呼び下さい」


「何をおっしゃいますか。今やお一人となられた正当な後継者ではありませんか」


そう言ったのは、アディールだ。


「スナル。この者は、礼儀を知らぬのか?」


ラーは、アディールには返事をせずスナルに目を向けた。


「アディール、許しも無く商人の分際で王族に声を掛けるとは何事か」


「し、しかし…」


王座の前に出る事が出来たのだから、話しても良い物だと思っていたアディールは戸惑った。


「まぁ、良い。今回は許そう。して、お前は我が姉の良き相談者だと聞いているが、間違いないか」


「はい。陛下」


王座に座る幼い少年に、アディールは深々とお辞儀をした。


「姉上が、お前に何を相談するのだ」


「面白い書物や、綺麗な布や宝石など、私の用意出来る物でございます」


アディールは、頭を下げたまま答えた。


「本当に素敵な物ばかりなのですよ。先程、こちらを頂きましたわ」


姉は、なんとかこの男を気に入ってもらおうと、ラーに宝石を見せた。


「姉上、これは貰ったのですか?買ったのですか?」


「え…」


ラーの問いに、姉の顔は強張った。


「いくらで買ったのです?」


姉は答えられずにいる。


「アディール、答えてみよ」


「…120ワルリでございます」


この言葉に、女中達がざわついた。表情を見ると、アディールが嘘をついている事が分かる。


「この嘘つきめ」


ラーは、姉の手から宝石を奪うと、アディールに投げつけた。


「何が、目的だ!今、我が国にこのような物を買う金など無い!しかも、お前は私に嘘をついたな!」


「お、お怒りをお静めください」


アディールは、慌ててラーに擦り寄ろうとした。


「それ以上、近づくな」


スナルは剣を抜き、アディールに突きつける。


「姉上、実際は幾らで買ったのですか」


「…220ワルリです」


とんでもない金額だ。ラーは、スナルに目を移す。スナルは、小さく首を縦に振った。


「アディール、今すぐ金を出せ」


喉元に剣を付けられ、アディールは大人しく金を出した。


「今すぐ出ていけ。二度と顔を見せるな」


「ラー、そんな事言わないで…」


驚いたキーナ姫が、ラーに擦り寄る。


「姉上、私は、貴女様を見損ないました。このように汚れた心を持つ者と仲良くしているなど。先王が知ったら、なんとお嘆きになられるか」


ラーは、いままで向けた事の無い鋭い目線を姉に降り注いだ。


「酷いわ。そんな酷い事をおっしゃられるとは思いもしませんでしたわ」


姉は泣き出した。


「その者を連れ出せ。そして二度と、この国に入るな」


「そんなっ!」


キーナ姫が、兵士達を止めようとしたが、アディールは兵士達に腕を掴まれ、城から引きずり出されていった。


「酷いわっ!酷いわ、ラー!あの人が何をしたと言うの!!」


「姉上をたぶらかした罪です。本来なら即刻斬首です。追放だけで良かったと感謝して頂きたい」


姉を冷たく遠ざけると、ラーは広間を出て行った。




「っ!!」


城から、突き落とされるように出てきたアディールは、砂地の上へと転んだ。


「猶予は1時間だ。1時間後には、国から出とけよ」


(っくそ!!)


兵士に吐き捨てられ、アディールは、服に着いた砂を払い落とすと、城から少し離れた宿屋も経営している居酒屋へと入っていった。荷物をまとめると、アディールはヤケ酒を飲み始めた。まだ少年の王の目が、脳裏に蘇ってくる。


「くそっ!誰のおかげで、王座に座れていると思っているんだっ!!」


酒に酔い、ついアディールは大きな声で言ってしまった。


「おいおい、何言ってんだ」


隣に座っていた男が、苦笑しながらアディールに酒を注いでくる。


「めったな事を口にするもんじゃないぜ」


男は、苦笑しながらアディールと同じように酒を飲み続けた。男は、実に印象が強い風貌をしていた。背が高く、白髪。そして、顔の半分を布で隠していた。


「何か有ったのか?」


「別に。仲間への良い土産話が無くなったってだけだ」


「そうか」


男は、それ以上聞こうとはしなかった。が、アディールはこの男が気になった。


「あんた、商人か?」


「そう見えるか?」


男は、笑ってアディールを見る。


「違うのか?」


白髪のこの男が何者なのか、気になる。


「じゃ」


白髪の男は、苦笑いを残し店を後にした。アディールは、慌てて男の後を追ったが、姿が見えない。


「何者だったんだ…?」


アディールは、とりあえず土産用の酒を買い、果物などを買いに商店が立ち並ぶ場所へと向かった。


「ん?」


買い物をしていると、騒ぎが聞こえてきた。


「なんだ?」


「喧嘩だ」


荷物をまとめて、アディールは騒ぎの方を見に行った。


(っ!あの男っ!)


騒ぎの中心には、あの白髪の男が2人の兵士と睨みあっていた。


「お前、商人の分際で、俺達に楯突こうってのか?」


「いや、楯突く気など無いさ。ただ、嫌がる女性を無理やりどこかに連れて行こうとする奴が嫌いなだけさ」


男の足元には、気を失っている兵士が一人倒れている。


「俺達は、この国を守ってるんだぞ」


「それなら何をしても良いのか?」


白髪の男に睨まれ、兵士達は腰元に手を伸ばす。男は、余裕の笑みを浮かべている。


(つまらん。あの男も終わりだな。酔っ払いが、勝てるはずが無い)


アディールが、そう思った瞬間だった。兵士が、白髪の男に斬りかかった。


(何っ!)


アディールは驚いた。白髪の男は、軽々と兵士の剣をかわしていく。そればかりじゃない。見物人が巻き込まれないように、考えながら避けているのが分かる。


「おっと」


白髪の男は、壁に阻まれ逃げ場が無くなった。


「ここまでだ!」


兵士の一人がそう言い、男に襲いかかった。


(…っ!笑ってる…)


アディールは、男の口角が上がったのを見逃さなかった。男は、兵士の剣をかわすと、兵士の腹を蹴り飛ばし、同時にその兵士の持っていた剣を奪った。続けざまに襲ってきた兵士に、その奪った剣で応戦しようとした時。ガギィィィンと、激しくぶつかった金属音が鳴り響いた。


(あいつはっ!!)


白髪の男と剣を交えていたのは、スナルだった。もう一人の兵士を、寸前で引き摺り下ろし、スナルが応戦したのだ。


「…」


スナルも白髪の男も、何も言わず剣の押し合いをしている。


(また…笑っている)


アディールが、男の笑みを確認した瞬間。スナルが押され、腹を蹴られて後ろに飛んだ。


(強いっ!)


アディールが、感動していると、白髪の男は、何も言わずその場を去っていった。


「おっ、おいっ!」


慌ててアディールは、男の後を追って行った。


「将軍っ!大丈夫ですか?」


「あぁ、大丈夫だ。大した事じゃない」


スナルは、平然と立ち上がり、白髪の男と喧嘩していた兵士3人を捕らえた。


「任務中に飲んでいたのか」


捕まった兵士達は、顔が蒼くなっている。スナルは、公然の場で、被害に遭った女性に頭を下げた。


「お前達の処分は、追って伝える。とりあえず、牢屋に入れておけ」


「はっ!」


他の兵士達に連れられて、酔っ払った3人の兵士達はその場を去って行った。


「…」


スナルは、男が去って行った方を見つめていた。


「先ほどの男、追いますか?」


「いや、必要ない。我々も城に戻るぞ」


「はい」


スナルは、城へと戻って行った。


(…間違いない…カーザだ…)




「おいっ!待ってくれ!」


アディールが、白髪の男に追いついたのは、国堺の門だった。


「やぁ、さっきの」


男は、振り向くと笑顔を見せる。


「見てたぜ!あんた、強いな!」


「別に、あんなの大した事じゃないだろ」


男は、笑いながらアディールに答える。


「いや、そんな事ないっ!俺は、胸がスッとしたぜ」


アディールは、興奮気味に話している。


「なっ、あんた、俺の仲間にならねぇか?」


「仲間?」


アディールの言葉に、男は驚いた顔を見せた。


「あぁ、あんたが良ければだが、俺は是非あんたに力を貸してほしい」


「どう貸せば良いんだ?」


「俺の用心棒になってくれ」


男は驚き、初めのうちは首を横に振っていたが、アディールは熱心に頼み、ついに男は首を縦に振った。


「俺は、アディール。あんたは?」


「カルーザ」






「…あれから、1年経ったな…」


ラーがアディールを追放して、1年が過ぎていた。アディールが襲ってくるかと、警備を強化していたが、その様子が無く、ラーの気が落ち着く事は無かった。


「姉上は、どうしている」


「はい。お食事も少なく、いつも窓の外を見られて…その御姿の切ない事…」


女中は泣いて、キーナ姫の状況を伝えた。


「…本気で、あの男を愛していたのか…」


ラーは溜息を吐き広間を出ると、キーナ姫の部屋へと向かった。


「姉上、失礼します」


「ラー…」


やつれきった姉の姿は、ラーの心を傷つけた。


「姉上…」


「ごめんなさい…」


窓の近くに座ったラーを見ながら、姉は涙を流した。


「ごめんなさい…ごめんなさい…」


「姉上?」


姉が何を詫びているのか、分からない。


「どうしたのですか?」


「もう良いの。隠さないでください」


姉は、涙を拭きながらラーに跪いた。


「どうかコレを…」


「?」


渡された紙切れの中に、ラーは驚いた。毒薬と、その毒薬を渡した人物の名前が書いてあった。


「それを渡されて全て分かりました。女中達の何人かは捕まっているのでしょう?」


キーナ姫には、内緒にしていたが、何人かは捕らえ、何人かは逃げ出していた。そして、それは、兵士の中にも居た。1年前より、兵士の数は、3分の2に減っていた。たぶん、アディールの所へ行ったのだろう…。


「私が、悪魔を手引きしたんだわ…そのせいで、兄弟達が殺された…」


姉は、またポロポロと涙を流した。


「私は、とんでもない罪を犯したのだわ。どうやっても償えない…」


ラーは、黙って姉の背中を撫でた。


「私は、どうしたら良いの…私は…」


「姉上、教えてください」


ラーは、静かに問いかけた。


「なぜ、姉上はコレを何と言われて渡されたのですか?」


「コレを飲めば、苦しまずに死ねるって…」


「他に持っていませんね?」


「えぇ、持ってないわ」


ラーは、キーナ姫を立たせるとメオラの部屋へと連れてきた。


「母上、お願いが有ります。姉上をこの部屋に置いてください」


「良いですよ。いらっしゃい、キーナ姫」


キーナ姫は戸惑っている。実の母ではないにしても、自分のせいで、不自由になったこの人は笑って自分を受け入れる。


「あなたのせいじゃないわ。こちらへ」


優しい言葉に、キーナ姫はベッドに駆け寄り、手を取って泣いた。


「ごめんなさい…ごめんなさい…」


ラーは、部屋を出ると、兵士に部屋の警備を任せ、スナルに毒薬と紙を渡した。





その頃、カーザは、アディールのテントに居た。


「カルーザ、どうだ。兵士の教育は」


「皆、良い出来になってます」


「そうか。君を雇ったのは正解だったな」


アディールは、儲けた金で戦力を増やしていた。武器を増やし、馬を買い、兵士を雇っていた。カルーザ(カーザ)は、その兵士の教育をしていた。もちろん、本気でなど教育はしていない。形だけだ。


「カルーザ、私が王になったら、君には将軍職を約束されているんだ。頑張ってくれ」


アディールは、もうクレ国を襲う事を隠しはしなかった。


「失礼します」


アディールの部下の一人が、テントの中に入ってきた。


「なんだ?」


「クレ国の塀の前に、さらし首が並んでおります」


「さらし首だと?」


それは、アディールに協力した兵士や女中達の首だった。


「どうゆう意味だと思う?」


アディールは冷ややかにその報告を受ける。


「宣戦布告。と言った所でしょうか」


カルーザが静かに答えると、アディールは、この時を待っていたように笑みを浮かべた。


「なら、答えてやろうじゃねぇか。ご期待によ」




翌朝、アディールは兵士を連れ、クレ国に大砲を打ち込み、戦争が火ぶたを切った。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ