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不器用な太陽達  作者: てんみつ(天龍光照)
第3章~魔女の復讐~
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第5話 【蔓延る闇】

あっという間に3年の月日が経ち、カーザは16歳になった。あの火事の原因は、分からないまま。カーザの目は、やはり視力を取り戻す事は無く、火傷の跡が痛々しく顔に残っている。


(…また…大きくなったか?)


鏡の中には、火傷の跡が黒ずんだカーザの顔が有る。カーザの残った目には、火傷の跡が健康な肌までも侵食し黒ずみが大きくなっているように見えていた。


「何も変わっていないね」


メテに相談し、詳しく調べてもらったが、大きさは変わっていないと言う。


(気にし過ぎなのか…?)


鏡を見れば見るほど、黒ずんだ火傷跡が動いている気までしてくる。かゆみを感じ、境目を掻いてみる。…が、何も変わらない。


「はぁ…気持ち悪ッ!」


カーザは、鏡を倒すと顔に布を巻きつけた。


(…)


目に入ったのは、壁のフックに掛けられた父の帽子だ。亡き母からの贈り物だというその帽子を、父は今でも国を出る時は身に付けていた。


(親父と同じだな)


思わず笑ってしまう。


(誰にも見られたくないって、親父も思ってたのかな)


カーザは、毎日、火傷の部分を布で巻いた。火の中に飛び込んだ事を後悔してはいない。メテに言った言葉も嘘ではなく本心だった。だが…カーザは、他の人に火傷の跡を見られるのをとことん避けて生活していた。


(こんなの誰も見たくないよな)


再び、鏡を見て、ずれていないか確認すると、出掛けて行った。




夏を迎えたばかりの国は、立っているだけでも、じんわりと汗を掻く。そんな中、城の中庭では、少し大きくなった13歳のヴァルと、先ほどのカーザが、リドーに武術の指導を受けていた。脇には、あの日以来、すっかり仲良くなった親友のエイツ・テックス・ロジが汗だくで座り込んでいた。ヴァルとカーザは、稽古用に剣の代わりに棒を持ち、打ち合っている。


「クッ!」


ヴァルは、カーザに押されている。


「カーザ、もう少し遠慮せんか…」


「必要ない!」


リドーがカーザに向けた言葉を、ヴァルは跳ね返し、尚も果敢に挑み続けた。


「…本当に俺達と同い年か?…」


エイツ達3人は、ヴァルより先にカーザに降参していたのだ。


「俺達3人を相手した後に、ヴァルを相手に笑顔作ってやがる…」


エイツは、悔しそうに呟く。


「体力底無しだな…」


テックスが、呆れながら言った。


「疲れてる事にも気付いてなかったりして…」


まったく手加減をしないカーザに呆れているリドーが、馬鹿にする。ロジは、そんな会話をただただ笑顔で、息を整えながら聞いていた。リドー達を横目に、カーザは、ヴァルの腹部目掛けて横殴りに棒を振った。寸止めだったが、ついにヴァルは降参した。


「はぁ…また負けた…」


息を切らしたヴァルが、悔しそうに地面に座り込む。


「カーザの4勝0敗。もう俺ら帰るわ。付き合いきれん…」


「おぉ、またな」


帰るエイツ達を、カーザは少し息を荒くした状態で笑顔で見送った。その後ろで、リドーはヴァルを慰めている。


「カーザは、体格が大きく、体力も有り、もともと武術にたけた才能を持っています。ヴァル様は、今は焦らず、まずは体力を作ることをお考え下さい」


「それじゃぁ、いつ勝てるようになるのさ」


「順番です。焦ってはいけません」


エイツ達ですら、勝てないのだ。年下のヴァルが敵うはずが無い。


「…悔しいんだもん」


ヴァルは、下唇を噛んで悔しがった。


「ヴァル君の戦法は、ワンパターンなんだよ」


突然の声に、ヴァルはパッと振り向いた。いつからそこに居たのか、同じ年頃の小麦色の肌のぽっちゃりした男の子が立っていた。頭は、スポーツ刈りにした金髪。


「ラー!来ていたの?」


ヴァルの顔は、喜びの色に切り替わった。彼は、隣国クレ国の王子でカーザより1個年下、ヴァルの友人の一人だった。


「カーザ、僕の相手をしてよ」


「良いぜ。手加減しねぇぞ?」


ラーとカーザも、ヴァルを通して仲が良かった。軽く素振りをすると、2人の打ち合いが始まった。リドーとヴァルが見学していると、洗濯籠を抱えたジャスがそれを覗いていた。


「ジャス!そこで何している!!」


父リドーは、城に奉公している娘を捕まえた。突然の怒号に、皆驚き、動きが止まる。


「良いじゃない!別に」


「良くない。サボってると言われても、助けてやらんぞ」


怒る父に、ジャスはそっぽを向いた。


「やぁ、ジャス。元気?」


「お久しぶりです」


ラーの笑顔に、ジャスは、丁寧に挨拶した。


「スキ有り!!」


ラーの頭に、カーザの棒が乗った。


「ひどっ!!」


「余所見するのが悪い。敵なら、死んでるぞ」


不満の顔をするラーに対し、笑うカーザ。すると、今度はリドーがカーザの頭を叩いた。カーザはあまりの痛さに地に蹲った。


「それが、ラー王子に対する態度か!」


「い…いいんですよ。リドー将軍。僕が悪いんですから」


「良くありません!」


怒るリドーの考えが分からないでもないが、こう怒られるとヴァルもラーもカーザと遊んではいけないような気がしてくる。


「あ、あのさ…リドー、今日はもう終いにしよう」


このまま、リドーの説教を聞く事になるのも嫌で、ヴァルは稽古終了の意思を示した。


「せっかくラーが来たんだもの。4人で話したいから、席を外してくれるかな?」


「4人?」


リドーは、考えた。


(ヴァル様・ラー王子・カーザと私…いや、私を外して…4人…)


「分かりました…が…まさか、娘も人数に入っているんでしょうか?」


「もちろん!ジャスも、僕の大事な友人だよ」


ヴァルの言葉に、リドーは、しぶしぶ庭から離れて行った。


(ん~…男親だけで育てたのが、悪かったかな…?)


男の子3人の中に、女の子1人が平気で加わっているのがリドーには不快な状況だった。自分の幼い頃の記憶の中にも、そうゆう女の子は居たが…


(仲の良い女の子も知らないしな…失敗したかな…)


アローレンの事は、棚に上げ、娘の交友関係に悩む父。そんな心配をよそに、娘は喜んでヴァル達に加わった。


「それで、相変わらず見付からないの?」


場所を移動し、公園のベンチに座ったラーは、隣に座ったヴァルに問いかける。


「この前は、ステフ山を越えて見てきたけど、やっぱり何も無かったよ」


ヴァルは、首を横に振った。


「厨房のおばさん達は、海って言ってたけど…」


「俺は、ランビ海にも潜ってみたけど何も無かった」


ジャスの言葉に、カーザが答えた。


「エイツ達も、あちこち探してくれているけど、手掛りが無い…」


地面に座ったカーザは、ポケットに小さく畳まれて入っていた地図を広げた。地図は、殆ど×で埋められている。子供達が探しているのは、相変らずアローの墓の在り処だった。


「海と言ったり、山と言ったり…」


子供達は、途方に暮れた。


「なんで大人達は、本当の事を教えてくれないんだろ?」


素朴な疑問。ラーが言うまでもなく、皆、同じ気持ちだ。


「皆して、隠しているみたいね…」


(僕が、本当の子じゃないし…父上を皆恐れているんだ…)


ヴァルは、悲しい顔をした。


「あの時の本が、残っていればな…」


“あの時”とは、火事の事だ。あの時、落としてしまい跡形無く燃えてしまった。


「俺の記憶だと、あの本には欲しい情報は書いていなかったはずさ…」


「そう…」


カーザの言葉に、がっかりした様子のヴァル。


「本の内容を覚えているの?」


「5歳から読まされてたからな…」


父の教育は、無駄では無かったな。と、カーザは思った。


「全部読んだの?」


「あぁ、全部覚えてるわけじゃないけど、だいたい読んだ」


へ~と感心しているラー。そんなラーにジャスは少し違和感を感じ、尋ねた。


「ね、そう言えば、スナル将軍は一緒じゃないの?」


スナル将軍とは、ラーの護衛を務めている背の高い体のがっしりした男だ。以前、リドーと試し打ちをしたがほぼ互角と言っていい程、強い。色黒で、性格は豪快爽快と言う程明るい人間だ。


「たぶん、今、陛下に謁見していると思うよ」


ラーの言葉通り、スナルは大広間でエドルフの前に居た。エドルフは、非常に辛そうに悲しい顔をしている。スナルも、焦げ茶色の頭をもたげて辛そうな様子だ。その横には、コカが2人の話を辛そうに黙ったまま立って聞いている。


「そう…か。ついに、ジーマ王子までが…」


「はい…しかも、ジーマ様だけでなく…今回は、メオラ様も…」


「メオラ様も?」


「はい。メオラ様は、一命は取り留めましたが…体の自由を奪われました…」


2人は、クレ国の話をしていた。まず、『ジーマ王子』であるが、彼はラーの腹違いの兄であった。そして、『メオラ』は、ラーの生みの親であり、あの『クレィズ4世』の側室だった。(※クレィズ4世は、第2章第3話に登場する)


スナル将軍の話は、こうだ。


クレィズ4世の病死後、何者かの手によって王子達が毒により急死している。王子は、全部で7名居た。そして、今回6人目の死者となったのがジーマ王子だった。


「ラー様は、殺人の容疑をかけられています」


「なぜです。実母のメオラ様も狙われたのでしょう?」


スナルの言葉に、コカが驚いた。


「生き残った王子は、ラー様お一人のみ。第7王子で、本来王座に就くはずの無かったラー様が、今は正当な後継者となられた。そして、メオラ様が狙われた理由は、『実の母親を毒殺するはずが無い。そういう先入観を逆手に取った、ラー様の自分から容疑の目を逸らさせる為の犯行だ』…と、言われているのです」


「っ!そんなっ!あんまりです!」


酷い話に、コカは怒りの感情を表した。


「それに、メオラ様は、生きておられます。『実の母親は、やはり殺せなかった』『毒を弱めた』などと噂され…」


「そんなっ!」


ラー王子の事は、幼い頃からコカもよく知っている。心の優しい大人しい子が、そんな事をするはずが無いと、確信していた。


「そんな状態で、この国に来て良かったのか?」


扉からリドーが入ってきた。


「メオラ様が、絶対に行くように命ぜられました」


エドルフは、机で頭を抱えたまま話を黙って聞いている。




――――――――


「母上…」


クレ国の一室で、ラーは母の手を取り泣いていた。


「心配かけてすまなかったね」


ベッドに横になった母は、唯一動く表情と口でラーに笑顔を向けた。


「誰が…こんな事…」


「…」


ラーが悲しむ中、母はラーを見つめていた。


「ラー」


「はい。母上」


「明日は、グリラン国へ行く日でしたね」


「はい。でも、こんな事が有った後では行けません」


「いいえ。行きなさい」


ラーは、驚き顔を上げた。


「何をおっしゃっているのですか?こんな状況で…」


「こんな状況だからです」


母の言葉を理解出来ずにラーの顔は強張っている。


「お前は、もう只の王子では有りません。正当な後継者となった。どんなに辛い事が有っても、どんなに体調が悪くても、国務を怠ってしまっては、国民が付いてきません。あなたの肩には、国の皆の人生と運命が乗っているのです。」


「しかし、母上」


ラーは、尚も首を横に振ろうとした。


「いいえ。いけません。何者の陰謀かはっきりするまで、私達は堂々として国の後継者としてふさわしいと大臣や国民達に納得してもらわないといけないのです。母の事は心配せず、明日はグリラン国へ行くのです。良いですね」


母の言葉に、ラーは何も言い返せなかった。ラーは、頷き荷物の準備をすると言って、自室へ戻って行った。入れ替わりに、スナル将軍が呼ばれた。


「将軍、あの子の事は任せますよ」


「はっ!…しかし、ラー様の御心を思うと、国務どころではございますまい」


スナルの言葉に、母は初めて悔しそうな顔を見せた。


「でも…もう、あの子は敵の罠にかかっている」


「罠…」


「殺人容疑がかけられているだろう。このままでは、無実の罪を着せられて斬首されるかもしれない…」


母は、泣いた。腕は動かず、涙を拭うことも、隠す事も出来ない。顔には、涙が溢れだしていた。


「…まさか…メオラ様…」


スナルは、メオラの様子を見て言葉を詰まらせた。


「…お前にまで、すまないと思っているよ…でも…」


メオラは、滝のように涙を流し続けた。スナルは、それ以上何も言えず、翌日、ラーと共にグリラン国へと旅立った。


――――――――




「子供を守るため…か」


「国内に居ては、ラー様の命も危険だと考えられたのですね」


リドーもコカも、メオラの気持ちを考えると喉が詰まった。


「分かった…」


やっと、エドルフは椅子から立ち上がった。


「リドー、武術に長けた小柄な兵士を2・3名選べ」


「はっ」


リドーは、ピシっと姿勢をただし命を受けた。


「商人の格好をさせ、メオラ様の警護を命ずる」


「あ、ありがとうございます!」


スナルは、喜んだ。


「小柄であれば、敵も警戒しないであろう。商人の姿なら、まさか兵士とは思われないしな…」


「メオラ様に謁見後、部屋のどこかに隠してもらうのが良いでしょう」


「うむ。リドーの言うとおりだ。コカ、文を書く。準備を」


「かしこまりました」


それから、エドルフ達は早かった。リドーが内密に兵士2人を招集し説明している間に、エドルフは手紙を書き、コカは商人に見える服装と荷物を集めた。兵士2人が服を着替えている間に、リドーは馬に荷物を括り付ける。兵士2人は、エドルフから手紙を預かると、馬を走らせクレ国へと向かって行った。




ラーが、ヴァルとカーザに自国の話をしたのは夜だった。ジャスは帰り、ヴァルの部屋で3人で話をしている時、やっと話した。ジャスには、泣き顔を見られたくなかったのだ。母が狙われた事、大好きな兄が殺されてしまった事。母の言葉。まだ、14歳。そんなに強くない。


「…なんで…ヴァルが泣くんだよ…」


「だって…悔しいよ…」


ラーが泣いていると、ヴァルも一緒に泣いた。カーザは何も言わず、長い両腕で2人の頭を抱きしめた。ラーもヴァルも、兄のような存在のカーザの胸で泣き続けた。


(いったい誰が…)


大事な人を失う怖さは、カーザも痛い程思い知った。しかし、失ってしまったラーの心は、カーザの想像を超えているだろう。それを思うと、カーザは、謎の犯人が許せず、それが腕に力を入れ、2人を強く抱きしめていた。







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