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不器用な太陽達  作者: てんみつ(天龍光照)
第2章~囚われの学者~
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第3話 【再生を目指して】

皆は、一晩騒ぐと翌日から、約束通りエドルフの支持に従い新しい国作りを始めた。と言っても、荒れ果てた大地。男性達を連れたエドルフとリドーは、木々の少ないこの大地を再生させる事にした。大地は、ほとんど乾ききったひび割れた大地だったので、川から水を運ばねばならない。しかし、その川は、水はたっぷりと有るのだが、酷く汚れていた。そこでエドルフ達は二手にまず分かれる事にした。大地を耕すのをエドルフ班、川を綺麗に掃除するリドー班、と分かれて作業をする事にした。この時、季節は春。まだ寒さが少し残る中の作業にも関わらず、働く男達の体からは滝のように汗が滴り落ちた。


「こんなに汗を掻いても、この土は全然湿らんな~…」


大地に落ちた汗は、どんどん地層深く吸い込まれていくかのように地上に汗の跡は残さなかった。


「でも、あの人を見てみろよ」


皆は、作業に飽きてはエドルフを見た。幸か不幸か、エドルフ班の皆が持っている鍬は、奴隷として働かされていた時の物。それでも、エドルフは、実に楽しげにリズム良く乾いた大地を掘ってはひっくり返し、掘ってはひっくり返しをしているのだ。


「楽しそうですね」


バテテしまったコカが、エドルフに声をかけた。


「えぇ、とても」


「私は、もう疲れました」


コカは、鍬にもたれかかって大きく息を吐いた。それに対し、エドルフは笑ってみせた。


「そうですか、それは残念」


「へ?」


「だって、私の夢が少し遠くなってしまった」


エドルフは、皆に苦笑いをして見せた。


「夢…ですか?」


「ここが、緑いっぱいの草原になったら皆でごろ寝を思う存分してみたかったのです」


エドルフは、天を仰ぎ見て、子供のような笑顔を見せた。


「きっと気持ち良いだろうな~って。そう思っていたら、早くそれを実現させたくって、夢中になっちゃいました。」


あははっと笑うエドルフの笑顔は、皆の疲れを吹き飛ばし、少し休むとまた皆が作業に戻った。


「まったく、鼻が曲がりそうだぜ」


今度は、リドー班の者がぼやいた。


「ヘドロが溜まって、どんだけ取ってもまだ底が見えない。こんな川、本当に綺麗になるのか?」


しかし、ここでも皆は作業に飽きるとリドーを見た。リドーも、エドルフ同様、川の底を取り出しては川辺に乗せ、また川底から取り出しては川辺に乗せと、リズム良くヘドロを集めている。無我夢中に宝石でも集めているかのように、動くリドーを皆は不思議に思った。しばらく見ていると、リドーの動きが止まった。リドーの手の中に、ヘドロに混じって人骨が出てきたのだ。リドーは、それをヘドロの山とは別の場所に置くと、手を合わせ、そしてまた同じ場所のヘドロを取り除き始めた。


「今、助けますから。」


非常に小さい声だったが、リドーが無意識に言った言葉なのだろう。皆は、その言葉に我に返り、リドーと同じように作業を繰り返すのだった。




そんな様子など全然知らぬ女性達はと言うと、アローレンに連れられ、国から少し離れた山に入っていた。木々の生い茂った山で女達は、果物など食べられる物を集め、時々、アローレンに薬草の事を教えてもらいながら、山道を進んでいった。


「しっかり集めるのよ。男性達は、汗掻いておなか空かして待っているのだから。」


「でも、アローレン様。食べ物なら、まだ城の倉庫に残っておりますよ。」


「倉庫の食料だけでは、数日で無くなってしまうわ。だから、私達は他にも食べられる物を集めないといけないの。」


そう言いながらアローレンは、果物集めは皆に任せ、周りをしきりに何かを探すように山道を進んでいった。


「みんな!離れて!」


アローレンが弓を構えていると、他の女性達は悲鳴をあげた。


「アローレン様!逃げて!!」


アローレンに向かって、熊が襲ってきたのだ。


「逃げるわけには…いかない!」


アローレンは、熊の足に矢を放つと、痛みに驚き逃げ出そうとする熊の頭に剣を刺して仕留めた。


「ごめんなさいね。私達が生きる為なの」


アローレンは、死んだ熊の皮を短剣で器用に剥ぎ取り、それで袋を作ると、肉を持ちやすいように切り取り、袋に入れた。その様子は、とても歌声の綺麗なお姫様と言ったイメージではなく、まるで山賊の女と言った感じに見えた。女達は、ただただ恐ろしくなかなかアローレンに近づこうとしなかったのだが、これを見ていた別の声が話しかけてきた。


「ほう…随分と腕の良い女剣士が、なぜこのような所にいるのかな?」


「どなたです?」


声のする方にアローレンが警戒しながら問いかけると、声の主は、ニコニコとして木の陰から現れた。


「クレ国の王、クレィズ4世と申します。」






「クレ国?」


戻ったアローレンから聞いた言葉に、エドルフもリドーも首を傾げた。


「やっぱり、知らないわよね」


「そのクレ国の王様が、なんであそこにいるんだ?」


クレィズ4世と名乗った男は、それは立派な恰好をしている。質の良い生地で作られた服に、マント、宝石をはめ込んだ剣を腰に挿し、ひげを蓄えた様子は、40歳前後だと思われる。男は、少し離れた後方に兵達を並ばせて、ニコニコとエドルフ達の様子を見ている。


「早速、侵略にでも来たかな?」


「こんな荒れた大した魅力も無い土地を?」


まさか~と笑ってみるものの、3人共なんとも言えない緊張感を振るい落とす事ができなかった。


「どなたなのです?」


割り込んできたコカにも話してやると、コカは楽しげに笑った。


「クレ国は、銀林国の、つまりエドルフ様の国の隣国ですよ。この国の隣です」


「へ?」


素っとん狂な驚き方をしてしまったエドルフに、コカは笑顔で続けた。


「つまり魔王が牛耳っていた土地の一番端にある土地は、今は無い銀林国の土地なのです。クレ国は、銀林国の友国だったと聞いています」


へぇ…と思いながら、エドルフはクレィズ4世を見た。


「しかし、あの者がクレ国の王と言う証はどこにも無いだろう?」


「それなら、確認の仕方が有りますよ。アローレン様、ちょっと」


「何?」


アローレンは、コカに何か教えられると男のところへ行き、二言三言話したかと思うと帰ってきた。


「どうでした?」


「うん。コカの言ったとおりの返事だったよ」


「じゃぁ、私の親達の教えが間違いでなければ、彼は間違いなく隣国クレ国の王様です」


「そ…そうか…」


コカもアローレンも何で彼をクレ国の王と認めたのかは、どんなにエドルフとリドーが聞いても「秘密」と教えてくれなかったが、しばらく考えていると、男は後方の兵達に武器を下ろすように指示を出し、さらに後方へと退かせた。


「これでもまだ信じてもらえぬか?ご先祖様の古き良き友人よ」


「いいえ、信じましょう。ご先祖様に誓うなら」


思わずエドルフは答えていた。驚く皆を横に「間違っていたらごめん」とだけ言うと、エドルフと男はゆっくりと近づいていった。しばらくすると、男はエドルフにひざまずき、後方の兵士達も同じように跪いた。


「!!」


この男には全く敵意が無い。


「こんなに兵が居たのね…」


跪いた兵士の数は、魔王の捕虜となっていた者達と同じぐらいの人数。そして、その兵士達の間・間には、果物や肉、パン、酒、服と貢物ばかりが荷車に高々と積まれているのが見える。そして、クレ国の王は、エドルフの手を取り涙を流して礼を言うのだった。


「一昨日でしょうか。ずっと悩みの種だった魔王達が突然姿を消したと、見張りの兵から連絡が入り、我々は、敵を倒してくれた恩人に礼を申し上げたく参ったのです。敵意を向けるなど、私達にはできません」


クレィズ4世は、長年魔王との攻防戦に悩み疲れていたと話してくれた。


「新たな国でも、貴殿が王となられるなら、私達は出来るだけの協力を申し出たい。何なりとお申し付けください」


友好的な姿勢に、エドルフ達は感激を隠せなかった。エドルフは、クレィズ4世を立たせた。


「こんなに嬉しい事はありません。本当にありがとうございます。しかし、私達も新しい国を作るにも、この土地を再生させる事からしなくては何をどうしたら良いのやら、まだ先行きが見えておりませんので、何をお願いしたら良いかも正直すぐには分かりません。」


「これは、また正直すぎる程のお答え!私は、ますます貴殿が気に入りましたぞ!」


エドルフもクレィズ4世も堅く握手をした。


「では、まず、私達に出来る事として、その大地が再生するまで食料を提供させて頂くのはどうでしょう?そうすれば、食料はこちらが用意させて頂くので、女性方も土地作りに参加出来ます。女性が、熊を仕留めるなど危険な事はしなくて良いのです。」


「誰が、そんな勇気のいる事をしたんです?」


苦笑気味にエドルフが聞いた。


「そちらにいる女剣士さんですよ」


そう言うと、クレィズ4世がアローレンに笑顔を向けるので、アローレンは恥ずかしくなって顔を隠してしまった。






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