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不器用な太陽達  作者: てんみつ(天龍光照)
第2章~囚われの学者~
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第2話 【新たな誓い】

リドーとエドルフは、次々と奴隷達を解放した。自由の身となった皆も、次々と他の者を助け出した。こんなにも人が閉じ込められていたのかと、驚くほどの人数が、剥げた大地の上に集まり、太陽の下で、今自由になった事を心から喜んでいた。病気の者、傷を負っている者は、アローレンが診て廻った。


「薬は、足りそうかな?」


「分からないわ…患者の数は想像以上よ…」


エドルフの問いに、アローレンは、薬草の入った袋を心配そうに覗きこんだ。


「城の中に無いか探してくるよ。魔王でも少しは蓄えていたかもしれない」


えぇ、お願いとアローレンは答えた。エドルフは、周りをキョロキョロしている。


「リドー…あれ?コカさん、リドーは何処かな?」


皆が喜びに満ちている中、栗色の癖っ毛のコカが、浮かない顔でエドルフ達の所へ来た。他の元奴隷達は、コカを薄気味悪く見て避けた。「耳が尖っている」「気持ち悪い…」と小さな声が聞こえてくる。


「それが…」


そんな事に気も留められない程、動揺した様子でコカは、エドルフ・アローレンを、リドーの所へと案内した。後ろには、何事かとゾロゾロと元奴隷達が興味深くついてきた。彼らが、地下の一つの牢の前へと行くと、その牢の前にも人々が中を覗き込むように集まっている。


「すみません。通してください」


コカがそう言うと、気持ち悪そうに人々がコカを避けた。空けられた道をコカが2人を案内すると、牢の中でリドーが背を向けて座り込んでいた。彼の背中は、丸く小さくなり、小刻みに震え泣いているのだ。


「リドー?」


不安気にエドルフが覗き込むと、リドーの腕には、やせ細り冷たくなった女性が抱かれていた。何カ月も前に亡くなったようだ。


「…もしかして…?」


「…あぁ…母ちゃんだ…」


リドーの記憶より、服はボロく色あせてしまい、女性は痩せこけて白髪になっていた。亡くなってしばらく経っているからか、骨と皮だけの状態だが、幼いリドーを逃がした記憶の中の母だ。


「…母ちゃん…ごめん…ごめん…ごめ……」


リドーは涙をボロボロ流し、母の遺体を力いっぱい抱き寄せた。エドルフが、自分より大きなリドーを抱きしめると、小さな子供が泣くようにリドーは大声で泣き出した。エドルフも一緒に泣き、更に強く抱きしめた。アローレンも泣き崩れた。リドーの悲痛な想いが、エドルフにもアローレンにも伝わってくるのだ。周りで見ていた者達も泣いている。コカは、近くで泣いているアローレンの背中を撫でてやるしか方法が無かった。


(……)


コカは、アローレンの背中を撫でながら牢の中を見渡した。牢の中は広かったのだが、床中、亡くなった人達でいっぱいだった。この牢は、室温が低いのか寒気すら感じる。そのせいか、亡骸はどれも腐敗までには至っていないようだ。そんな事を考えながら、目線をアローレンに戻そうとした時、コカは一角に目が止まり、アローレンの背中を撫でる手も止まった。


「?」


泣きながらも、自分の背中を撫でてくれていた手が止まった事を不思議に思い、アローレンはコカを見た。コカは、目が飛び出さんばかりに驚いている様子だ。


「…コカさん?」


アローレンの声に、ビクッとしてしまう。コカは、驚きすぎて声が出ない。アローレンに目線で自分が見ていた方を見るように目配せをした。


「?……!!」


アローレンもコカと同じように驚いた。そして、やっとリドーが落ちついた時。


「エ…エドルフ…ちょっと…」


アローレンが蒼い顔をして、エドルフを立たせた。


「何?」


「あ…あそこ…」


アローレンは、震える手で、亡骸でいっぱいの部屋の一番奥の角を指さした。そこには、寄り添うように亡くなっている老夫婦の姿があった。


「あの男性…あなたに似てるわ…」


確かに亡くなっている男性は、老人だが、骨格や鼻の形がエドルフとよく似ていた。エドルフ自身、あまりに似ていた為、驚きすぎて、言葉も出ず、頭の中は真っ白で、固まっていた。


「リ…リドー…これって…」


「どうゆう事だ…」


リドーも、まだ母を抱えたまま驚いていた。


「…ヴゥ…ぅ~…」


「まだ、誰か生きてる!皆!探して!!」


微かだが、アローレンの耳は逃さなかった。コカや周りにいた者達が、慌てて亡骸の一人一人を確認していくと一人の男性が微かに息をしている。


「アローレン様!こちらです!!」


呼ばれて飛ぶようにその男性の所へ行ったが、アローレンは力を落として座り込んだ。


「アローレン様、早く運び出して治療を」


皆は、男性を運び出そうと手を伸ばしたが、アローレンの様子がおかしい。


「アローレン様?」


「…」


アローレンは、うな垂れて何も言わず涙を流している。その様子を見て、皆分かった。手遅れなのだ。


「…あぁ…やっと元気な人に会えた…」


男性は、冷たい床に寝転がったままアローレンの手を取った。


「わしには、時間が無い…お迎えが…来ている…」


アローレンの泣き顔に対し、男性は柔らかい笑顔を見せた。


「ずっと…誰かに伝えねばならないと…待たせているのです…」


「…あまりしゃべらないで…」


やっと言えたアローレンの言葉に、男性は小さく首を横に振った。


「お願いです…聞いてください」


アローレンはコクリと頷いた。


「あそこで眠られておられる御二方…あの方々は、今は無き銀林国の国王様・王妃様です…」


『銀隣国』の言葉にエドルフは、体が強張った。


「御二方には、たった1人王子様がいらっしゃいました…」


「…王子…」


驚き続けるしかないエドルフに変わり、アローは冷静に男性の言葉に耳を傾けている。


「銀林国が…侵略を受けた時…侍女が…まだ赤子の王子を連れて逃げました…」


(侍女…)


ずっとエドルフの母親だと思っていた女性をリドーは思い出した。


「逃げ切れたのか…殺されたか…分かりませんが…もし生きて…王子に会う事が出来たら…伝えてください。」


「…」


アローレンは、じっと男性の言葉を待っている。


「御二方とも…最期までご立派であら…れたと…」


「待って!王子様の名前は!?」


「…」


男性は、それ以上言葉を発さず静かに息を引き取った。







名前も聞けぬまま、エドルフ達は死者達に別れを告げる為、葬儀を丁寧に行った。大地に穴を掘り、何百という亡骸を積み重ね並べる。その周りや上に、魔王達が切り出していた木々を置いて火を点けた。火は、瞬く間に亡骸を燃やし、その煙はまっすぐに空へと昇って行く。


「これで、皆天国に行けるかな…」


「あぁ、無事に辿り着けるはずさ…」


誰もが、死者の魂が安息の地へ行く事を願った。亡骸が全て燃えるには、時間がかかった。はじめのうちは厳かに行われていたのだが…。そのうち、皆独り言のように呟き始めた。


「俺のご先祖様達は、死者の葬儀はバカ騒ぎをしたんだと」


「僕の所では、花火を上げたって聞いたな」


「お祭りか…」


しばらくの沈黙が有った。皆、何か考えているようで葬儀なのに、その顔はワクワクを隠せずにいる。


「死んじまった皆には悪いとは思うんだけどよ…」


エドルフ達の後ろの所々から皆が騒ぎ出した。


「歌おう!!」


「踊ろう!!」


「ちょっと、みんな…っ!?」


騒ぎを止めようとしたアローレンを、リドーは止めた。リドーの顔は、静かな笑顔だ。


「せっかく自由になったんだ!死んじゃった皆だって、騒ぎたいはずさ!!」


皆が輪になって火を囲んで、踊り出した。


「そうだ!助けてくれたのが、なんて言ったって、王子様なんだからな!!」


戸惑うアローレンに対し、リドーもエドルフも皆の様子を暖かく見つめていた。


「みんな嬉しいんだ。やらせてあげよう。」


「…いいのかしら…?」


罰でも当たるんではないかと、不安な様子でアローレンは呟いた。


「…王子様…か。どう思う?リドー」


「さぁな」


アローレンの不安などそっちの気。今は、リドーもエドルフも悲しい顔ではなく、皆と同じように笑顔だった。皆が騒ぐ中、コカ一人だけ焚き火を寂しげにじっと見ていた。


「不謹慎よね?」


そんなコカに気がついてアローレンが声を掛けた。


「いいえ」


コカはアローレンに笑顔を向けた。


「こうやって葬儀をしてもらえるだけでも、うらやましいなって思っていたんです」


アローレンは言葉を無くしてしまう。


「こんなに楽しいお別れ会なら、亡くなった皆もうれしいでしょう」


コカのこの言葉に、やっとアローレンの不安も消えた。そこへ、リドーがコカの横へやってきた。


「お前、自分が一人ぼっちだと思うなよ?」


「へ?」


コカが目をパチクリさせる隣で、リドーはにこにこ笑っている。


「お前の初めての友達になってやる。」


「…」


そうゆうと、リドーは皆の輪に混ざって、コカを手招きした。


「あ!ずるいぞ!リドー!コカさん!僕も友達ですから!」


エドルフは、コカの手を引っ張って皆の輪に入るよう促した。


「なんの張り合いしてんのよ」


苦笑しながらアローレンもコカの手を取り、一緒に踊り始めた。今は、他の皆もコカを気にしていないようだ。コカは、こんなにうれしく楽しい気分になった事が無い。長い楽しい夢でも見ているような気持ちで、足がフワフワ浮かんでいるような感覚だった。お祭り騒ぎは、しばらく続いた。魔王の城には、パンも肉もワインも果物もたっぷり残されていた。皆は、これを持ち出しては食べて飲んで、歌って踊って。コカは一人、輪から離れて、焼いた肉を食べながら、初めて見る楽しい景色に酔っていた。傍観と言った方が良いだろうか。そんなコカの所に、踊り疲れたのか、酔っ払っているのか、リドーがフラフラしながら横に来た。


「リドー殿、魔王は本当に死んだのですか?」


「ん?確かに死んだぞ」


リドーは、ワインをボトルから飲みながら答えた。


「…どうやって…?」


「ん~…お前昨日、ものすごく眠たくならなかったか?」


「え?えぇ。不思議な程に…それが何か?」


リドーは、ニカッと笑うと、また今度教えてくれると約束した。


「…これから、私たちどうなるんですか?」


いつまでも、こんな楽しい日々を送れるわけじゃない。ふと、頭が現実に戻ると不安が出てきた。


「そうだな~帰る場所がある者は、そこに帰る!無い者は、無い者で集まって、ここで新しい国でも作るか?な!エドルフ王子!」


明らかにリドーは、泥酔しているようだ。豪快に笑い、声が大きい。


「その呼び方は、やめろよ」


リドーの所に来たエドルフは、少し照れ臭そうにし、リドーの持っていたワインボトルを取ると一口飲んだ。そんな会話を聞いていた皆は、エドルフ達を囲んだ。


「是非!是非とも、新たな国をお作りください!」


「そして、我々をそこで働かせてください!」


「え…」


エドルフは、思わず身構えてしまった。


(国作りは冗談半分だったんだけど…)


などとは、酔っているとはいえリドーですら言えないほど皆の目は真剣だ。まぁ、何十人という人間に座った状態で囲まれ迫られては、素面しらふでも何も言えなかっただろう。コカは、若干皆の様子に恐怖すら感じてしまった。


「我々は、ほとんどが、どこから連れられて来たのかも覚えていないのです」


「帰る場所などありません!」


「是非!我々の王となってください!」


皆、必死で本気だ。エドルフは困ってしまった。いくら、本当に元・王子だったとしても一国を治められる自信など、これぽっちも無い。しかも、魔王が治めていた土地は広大だ。それに、魔王が自然までも全ての物を壊したのだ。人が住めるような場所では無い。


「リ…リドー」


エドルフは助けを求めたのだが、リドーは、その様子をにやにやしながら何かしばらく考えると、笑顔で皆に向いた。


「良し!やろう!」


「リ、リドー!?」


エドルフは、内心「しまった!」と思った。酔っ払っているリドーが、正しい判断をするだろうか…助けを求める相手を間違えたと思った。


「分かってる。お前は、王になる自信なんて無いって言いたいんだろ?」


意外とちゃんと分かっている。エドルフは、ちょっと驚いた。


「じゃ、リドーが?」


「バ~カ。王はお前だ。」


あぁ…やっぱり…間違えた。エドルフは、ガックリと肩を落とした。


「良いか、みんな!よく聞けよ」


酔っ払いリドーは、立ち上がると大きな声で皆に話し出した。


「俺たちは、魔王は倒せたが、国を作った事などない」


皆は、じっとリドーを見ている。


「何もかも手探りで、しかもこの荒れた大地で新しい国を作る事になる」


皆、黙って頷く。


「そうなると、しばらくの間、みんなの生活も我慢の連続になるぞ」


誰かが生唾を飲み込む音がした。


「我慢の連続なんて、今までもそうだったんだ!」


一人がそう叫んだ。


「しばらくの間なら、辛抱できるさ!なぁ、みんな!!」


「おぉ!!」


皆の気持ちは変わらないようだ。


「それに魔王は殺したが、化け物の生き残りが、ここに集まってくるかもしれない」


「その時は、皆で倒せば良い!」


リドーの言葉に、皆が答えた。エドルフは、圧倒されて何も言えない。


「こいつは、まだ未熟者だぞ。それでも、この新しい王に従うか?」


「「従います!!」」


また、リドーの言葉に皆が声を揃えて答えた。


「この頼りない王を支え、皆で新しい国を作っていこうって、本気で思うか!?」


酔いの勢いか。リドーの調子の言い言葉に、皆、「もちろん!!!」と声を揃え、大きな声でこれに答えた。






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