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そうだったの?

作者: チャーリー

日本人の性善説。

お人好しと言われるかもしれないが、困った人を放っておけない性格

傘地蔵や舌切り雀などの日本の童話に出てきそうな正直者はまだたくさんいるはず

ある冬の夜。僕は残業を終え、深夜の街で家路についていた。

改札を抜け、自宅まで20分。この時間の寒さは何とも言えない。耳は千切れそうだし、頬も感覚がなくなっている。唯一の防寒はマフラー代わりのタオル。なんかフォークソングのようだ。

それでもアパートには風呂はあるから、銭湯帰りに湯冷めすることはない。


その先を曲がるとすぐアパートが見えるところまで来た時、誰か道端にうずくまっている。細身で長身の男だ。

(酔っ払いか)

僕はあまり関わりたくなかった。少し大回りをして避けようとした。

(震えてる)

小刻みに肩が震えている。

(飲みすぎだろ。全くこの寒空、死ぬぞ)

僕はその男の横を通り過ぎようとしたとき。

(こいつ病気じゃないのか?)

そう感じた。酔っていない。苦しんでいる。しかも、よく見ると外人じゃないか。

(すると麻薬か?事件か?)

ついそう考えてしまう。いずれにせよ、このまま放っておいて、凍死なんてことになりかねない。そんなことになったら僕の夢見が悪い。とは言え、見ず知らずの外国人をどうするんだい?

しかし、放っておけないお人好しは親譲り。これも運命だ。

「おい大丈夫か?」

「*/&#*+○☆♪$」

何を言ってるんだか全く分からない。

「分かるように言ってくれ」

「I have a cold」

「何だって?」

僕は携帯電話を取り出し、それを彼に渡すと翻訳のホームページにさっきの言葉を入力させた。

(私は風邪をひいています)

そう翻訳された。

「そういわれても困るよ。誰か知り合いとかいねぇの?」

全く通じない。

仕方ない、アパートに連れて行こう。

「ゴー・ツー・マイ・アパートメント」

これは理解したらしい。

アパートまでたどり着くと、彼を布団に寝かせ、暖房を点けた。ぼろアパートだが外よりはましだ。

携帯の翻訳サイトで会話をした。名前は「ムハンマド」アラブ人にありがちな名前だ。どうやら何も食べていないらしい。仕方ないので、僕の大切なインスタントラーメンを分けてあげた。しかも卵まで入れて。

「お前、密入国じゃないだろうな?」

通じもしない日本語で話しかけいると、お腹がいっぱいになったのか、すでに彼は眠りについていた。


翌朝、僕が目を覚ますとムハンマドはいなくなっていた。しかも僕の財布に入っていた1万円も一緒に。律儀な奴だ。全部持っていけばいいのに、一万円だけだとは。まだ財布には6千円入っていた。

不思議に悔しくなかった。

「まぁ、死なずに済んだ」

僕はそう思った。


そんな出来事も忘れかけてたある日、僕が務める会社(会社と言っても従業員5人の町工場だが)に黒塗りの外車が入ってきた。車に興味のない僕でも車種はベンツということはわかる。トラックが入ってくるなら分かるが、下町の、こんな汚い町工場にベンツ。一番驚いたのは社長だろう。右往左往している。

男が降りてきた。見覚えがある。

「ムハンマド?」

そうだ。あの恩知らずのアラブ人じゃないか。

ムハンマドは僕を見つけると、近寄ってきた。

何か言っている。今度は通訳も一緒だ。

先日のお礼に来たという。

実はお忍びで日本に来ていて、迷子になり、挙句の果てに風邪を引いて身動きが取れなくなった時に僕に助けられたらしい。

(お付は何をしていたんだろう)

ムハンマドは黙っていなくなったこと、一万円を盗んだこと(本人は借りたといっていたが)、ラーメンがおいしかったこと、など礼を言ってきた

僕は

「いやいや、なんのなんの」

的に照れていると、社長まで照れ始めた。


驚いたことは、通訳が言うには「アラブの王子様」らしい

しかも王位継承権第3位。平民の僕らには意味のない言葉が並ぶ。

相当のお金持ちは確かなこと。1万円持っていったから、それをジュラルミンケース3つ分で返すという。

その上、ムハンマドの国に住めという。


(おいおい、高いラーメンだよ)


そうだったの?アラブの王子様








誠実で正直者

そうありたいと願うこの頃です

正直者は馬鹿を見るような世の中であってはいけないのです

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