視線 1
中学生のころ、今から10年以上前に書いた話の改稿版です。
いろいろと矛盾があると思いますが、スルーしていただければと思います。
多分かなり長くなりますのでお付き合いいただければ幸いです。
あ、まただ
最近よく視線を感じる。そして振り返ってみても誰もいない。
ただの気のせいだと割り切ってしまえばそれまでの話。
ただそうできない理由は、あまりに多い回数と、そしてその視線にこめられた紛れもない『殺意』
「秋実ぃ?部活中にボーっとしてると…」
確かにぼんやりとしていた思考は友人の声に引き戻された。
ガツッという鈍い音ともに…
「加奈子さん、もすこし早く言っていただけるとありがたいのですが…」
思わずつぶやくのも当然のことだろう。
反射神経とはすばらしいものだなぁと内心感心しつつ、左腕を押さえる。
じんじんと鈍い痛みを訴えてくるところを見ると、確実に青あざがしばらく残ることは確定だろう。
視線を下におとすとすぐそばにその凶器は転がっていて。
「野球部かぁ」
かがんでそのボールを拾い上げた。
どこの学校でもそうであるように、-よほどスポーツにお金をかけている私立学校は知らないが-狭いグランドをいくつもの部活が共有している。秋実が所属しているソフトボール部もしかり。
休日はともかく、朝や放課後の練習にいたっては、おのおのが必要な分の広さを確保することなど不可能で、お互いに譲り合いつつ、そして迷惑をかけつつの練習となることは受けあいだ。
実際、秋実自身も他の部活に迷惑をかけたり、今回のように被害を被ることも多々ある。
遠くから「すみません!」との声。
視線を向けると野球部の生徒が走ってくるのが見えた。
「あれれ。高原先輩じゃない?」
「あ、ホントだ」
走ってくる姿をみて、加奈子がそうつぶやく。秋実もそのとき気づいたように反応をして見せた。
実際は声が聞こえた瞬間に気づいていたのだけれど。
そんなことを加奈子に気づかれたら、間違いなく、からかわれることは必至だ。
高原 祐吾。
秋実たちのひとつ年上で中学2年生の野球部員。
秋実の片思いの相手だったりする。
「あ、藤野だったのか。悪い、大丈夫か?」
ボールを手にしている秋実に気づき、ホっとしたように表情を緩めた。
確実に人にぶつけた自覚があったらしく、わざわざこっちまで走ってきたようだ。
実際、他の部活の使用場所にボールが転がり込んだだけであれば、投げ返すなりで済ませてしまう。
なんせ、日常茶飯事、お互い様だから。
いちいちとりに走っていたらお互いに時間の無駄だ。
そして、何より、邪魔だし、危ない。
「大丈夫ですよ」
そういって、差し出された手にボールを落とす。
実際はまだ痛かったりするのだけれど。
「結構勢いよくいかなかったか?どこぶつけた?」
ボールを受け取り、心配そうに声をかける祐吾に苦笑いしつつ左手を掲げた。
「腕ですから。こっちでもよくぶつけるんで大丈夫ですよ」
事実だ。特に最近はよくボーっとしていてよくソフトボールをとりそこねてぶつけている。
おかげで青あざがぜんぜん減らない。
「って、かなり青くなってるけど…保健室で冷やしたほうが良くないか」
祐吾は掲げられた腕に視線を向け、あきれたような表情で手を伸ばした。
その手が秋実の腕に触れた瞬間だった。
静電気のような、パチッとした痛みが走る。
思わずお互いに手を引き、怪訝そうに視線を交わした。
「悪い。大丈夫か?」
「あ、はい……」
なんだろうと首を傾げた瞬間、すーっと、目の前が真っ暗になった気がした。