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第10話 怪獣大決戦



「……改めて、現在の絶望的な状況を整理しようか」


 アドホックの静かな声で、会議室の空気が一段と重くなった。

 円卓の中央に浮かぶホログラムの地球儀。そこに突き刺さった赤いピンは、どれも人類の致死量を超えた猛毒だ。


「まずは『原初プライマルイグニス』。中東から日本へ向けて移動中だが、ノクス、現在の観測データは?」


「控えめに言って、ふざけている」


 ノクスがタブレットを操作すると、砂漠を歩く「人間のシルエット」の映像が映し出された。


「歩幅は普通の人間と同じだ。だが、奴が『一歩』足を踏み出すたびに、半径数百メートルの砂が数万度の熱で融解し、ガラス化している。エネルギー効率などという物理法則は完全に無視だ。奴は歩く核融合炉であり、その熱線を放つことに一切の躊躇がない『純粋な悪意』だ」


「……歩く、カクユウゴウロ?」


 ガルドが完全に意味を理解していない顔で眉間に皺を寄せる。


「なんなんだそりゃ。ヤバいのか?」


「お前の脳みそでは理解できないから気にするな。要するに近寄れば死ぬ。――次に、宇宙からの飛来物だ」


 ノクスが冷淡に切り捨てて、さっさと映像を切り替えた。おい、少しは説明してやれよ。


 映像が切り替わり、大気圏外を飛ぶ巨大な岩塊が映る。


「ただの隕石かと思ったが、軌道がおかしい。大気圏突入を前に、自ら『減速』し、摩擦熱を抑えるような挙動を見せている。……つまり、中に何かが『乗っている』か、岩塊そのものが巨大な生命体だ。落下予測地点は太平洋上、例の『黒門』のすぐ近くだ」


「はぁ、海から来る得体の知れない何かの上に、宇宙から来る化物が落ちてくるってわけ?」


 小春が心底嫌そうに顔をしかめた。


「そういうことだ。到達予測は、原初の火が約六日後。宇宙からの落下物が約八日後。……どちらか一つでも上陸されれば、日本は地図から消滅する」


 ルイスがため息をつきながら、トランプをパタンとテーブルに置いた。


「やれやれ。チェックメイト、ってやつだね。僕らだけでどうやってその二つを処理しろって言うんだい?」


 絶望的な沈黙。

 ガルドが立ち上がり、「俺が足止めに行く」と言いかけた、その時だった。


「……ふっ」


 俺の口から、自然と笑いが漏れた。

 全員の視線が、再び俺に突き刺さる。


「……ルーキー。さっきも言ったけど、君はもう無理を――」


「違う。そうじゃない」


 俺は立ち上がり、円卓の中央、ホログラムの地球儀を指差した。


「普通に考えたら詰みだ。レベルも戦力も足りない状態で、ラスボス級が二体同時に攻めてくるんだからな。真正面からやり合うのは三流のやることだ」


「……どういう意味だ、小僧」


「ゲームの基本だよ、ガルド」


 俺はニヤリと笑い、地球儀上の「原初の火」と「宇宙の落下物」のピンを同時に指差した。


「バカみたいに強い徘徊ボスが二体いるなら、俺たちで殴りに行く必要はねえ。――ヘイトを誘導して、ボス同士をぶつけて削り合わせればいいんだよ」


 会議室が、水を打ったように静まり返った。

 ルイスが目を丸くし、小春がポカンと口を開けている。


「な……ッ、馬鹿な! そんなことが……!」


 ノクスが血相を変えて立ち上がった。

「相手は災害だ!どうやって軌道を誘導する! 宇宙からの落下物の着地点を、原初の火の頭上にでも落とすつもりか!?」


「ああ。そいつが一番手っ取り早い」


 あっさりと肯定した俺に、ノクスは言葉を失い、頭を抱えかけた。


「……なるほど。理にかなっているよ、ノクス」


 静かな声が、会議室のパニックをぴたりと止めた。

 アドホックだ。彼はいつもの穏やかな笑みを浮かべたまま、俺の引いた無茶苦茶なマーカーを見つめていた。


「私も最悪のシミュレーションとして、二つの厄災が偶然『衝突』する軌道計算はしていた。……だが、それを我々の手で意図的に引き起こし、盤面をひっくり返すという発想はなかった。見事な視点だ」


 組織のトップが、俺の狂った作戦を全面的に肯定した。

 そして、アドホックは楽しげに目を細め、俺を見る。


「だが永井くん。それを実行するには、当然『誘導』の手段が必要になる。……心当たりは、あるんだね?」


 流石は空気の読めるリーダー様だ。

 完璧なパスに俺は小さく頷き、まっすぐに紬を見た。


「お前ならできるだろ、紬」


「……え?」


「お前の『座標指定ポイント・プロット』なら、物理法則を無視できる。宇宙から落ちてくるあの大岩の『落下地点の座標』を、俺のアナライズで計算した位置にズラすことはできないか?」


 俺の言葉に、紬はハッと息を呑んだ。

 そして、少しだけ視線を落とし、何か遠い記憶を探るように呟く。


「……星空なら、ずっと……狭い窓から見てたから。あの星を、あそこに落とす……イメージ、できるかも、しれません」


 星を落とす。そんなデタラメを「できるかもしれない」とあっさり言ってのけた。

 俺は内心で震えた。恐怖じゃない。盤面をひっくり返せる最強のカードを手に入れた、ゲーマーとしての純粋な歓喜だ。


 ……ほんと、お前ってやつはすごいやつだよ。

 控えめに言って、最高に頼もしい相棒バグキャラだ。


「決まりだな」


 俺はホログラムの地図をスワイプし、二つの脅威が交差する「激突予定地」に新たなマーカーを引いた。


「第二ステージの作戦名は『怪獣大決戦』だ。バケモンには、バケモンをぶつける」


 俺はニヤリと笑い、このふざけた世界に宣戦布告する。


「精々、バケモノ同士で勝手に潰し合ってもらおうぜ。史上最悪のデスゲームの開幕だ」

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