1.転生者に選ばれた
ボクの名前はユウ。なんの取り柄もない普通の高校3年生。
今日も今日とてつまらない授業に人間関係。特に親しい友人もいなければ、そんなモノを作る予定もない。ボクは一人でいいのだ。自分の時間を削ってまで他人と関わりたくなんてない。
そんな現実世界とは違って、実はボクはとあるVR型ゲームのトップランカーで、仮想空間の中では人気者なんだ。
下校後に自室で待っているのは楽しい楽しいゲーム。今日も夕方から朝までぶっ通しコース。
それがいつもと変わらない日常。
「…お、そろそろイベントの時期か。今回はなんだろうなぁ…」
正直もう、うんざりしている。
なにか変化が欲しいとも思う。だけど、ボクにあるのはゲームだけ。
「…自業自得か。高校入ってすぐにゲームに沼りだしてそこからずーっと友達もいないし。」
……やめたやめた。今日もいつものゲームを楽しもう。イベントに向けて素材を集めねば。
VRを装着してあとは眠るだけ。時代も進化してるなぁ。
いつものように眠りについて仮想空間にログイン。
「さて……ん、なんだこの通知…?」
《特別イベント開催中!参加者にはもれなく素敵なプレゼント!》
なんなんだこれは…?
次のイベントの告知…ってわけでもなさそう。SNSにも情報は出てないし、誰もこの通知について言及していない。
「まぁ…気になるし参加してみるか」
ボクは目の前にある通知をタップしてみる。
「う…わ……っ??!」
と同時に目の前が真っ白になった。
「やぁあ来てくれたんだね!キミが初めての参加者だ!いやぁ嬉しいよ!このまま誰も来ないんじゃないかと思ってさ!!あ!ごめんねビックリさせちゃったかな?あれ?その前に自己紹介かな?ああごめんね!混乱してるよね!まず僕の名前はチェルシー!気軽にチェルシーって呼んでね!キミは??」
頭が混乱する。視界がクリアになったと思ったら目の前にはサーカス団員のような格好をした人。名前はチェルシーというらしい。なんとも1人で騒がしい奴だ…
「ボクはユウ。ここは?さっきの通知はいったい何?イベントとかプレゼントとかって??」
「わぁ!たくさん聞きたいことがあるんだね!いいよ全部答えてあげちゃう!実はね……」
と、語り出したチェルシーの話をまとめるとこうだ。
あまりにも話の脱線が多くてまとめるのも一苦労だが…
1.チェルシーは神様である。
2.ボクを異世界に転生させる。
3.転生先のボクは言語もわかるし魔法も種類に関係なく自由自在に扱える。
4.この場所に来た時点で拒否権はない。ごめんね☆
「…な、なんとも勝手な話だね…??!」
「まぁまぁそう言わずに!!見たところ、キミは現実世界になんの未練もなさそうだし!あ!あの通知は僕が人を選んで出してるからね!今のところキミ以外誰も来てないけど!!」
「そもそも神様だなんて話を信じるわけが……」
「現に今。キミは現実世界に干渉できる?いつものように仮想空間からログアウトできる?」
「え……?」
そう言われてボクはようやく試してみる。
いつものようにログアウト画面を開いて……
「…開けない。」
「でっしょ〜??!だから申し訳ないけど、もう異世界行ってもらうしかないんだよぉ。ごめんねぇ、これが僕のお仕事なの。」
チェルシーの仕事は、世界の均衡を保つことらしい。
そう言われてもピンと来ない。と言うとチェルシーはちゃんと説明をしてくれた。
ボクが元々いた世界とは別の空間に、同じように人間が暮らしている世界があるそう。それぞれの世界に生きるモノたちは皆、なにか理由や意味をもって生きているのだが、ボクみたいに日常にも飽き飽きしているような珍しい個体がたまにいるらしい。そういうモノたち、非日常を求めるボクたちをそれぞれ別の空間に送って余生を楽しく生きてもらう。……っていうのがチェルシーの仕事らしい。
「な……なんて素晴らしい仕事なんだ…!!!」
「ふふふ…でっしょーー??!でもね、僕の独断と偏見で人を選んでいるから、もしかしたら何か生きる理由を持っている可能性もあるんだよね。だからあんまり言わないけど、今なら同じ世界に生まれ変わらせることもできるけど…」
「いいや!ぜひ!!異世界転生させて!!ついにボクも剣や魔法の存在する世界に…!!」
「あぁ、申し訳ないけど剣や魔法は存在しているけど、現状と対して変わらない可能性だってあるからね!日常生活のほんの少し、サポート程度にしか使わないよ〜って世界かもしれないし……」
「それでもいい!!今より“たのしく”なれば…!!」
そうだ。ボクは“たのしい”ことがあればなんだっていいのだ。
それがたとえ自分の命に関わることでも、それまでの過程がたのしければそれでいいのだ。
「ふーーむ。キミは“たのしい”という感情があればパワーアップできるということだね?!ならばそれをそのままキミの特性、個性として送り込んであげる!困ったらいつでも呼んでね!!召喚呪文は次に目が覚めた時、真っ先に唱えるはずだよ!!それじゃあ!!“たのしい”余生を!!」
そう言ってチェルシーは指で円を書く。
その瞬間、ボクの身体が円の中に吸い込まれる感覚に陥った。
「わ…わっ……??!!」
「あ!言い忘れてた!!キミの姿について文句は受け付けないからねーー!!」
意識を手放すのとほぼ同時に聞こえたチェルシーの言葉。
(姿について文句は受け付けない?どういうことだ?)
なんて考える余裕もなく、ボクは深い眠りについた。




