クリームソーダの人
「ねぇ、あの人さっきからずっと窓の外見てるけど」
「こんな雨だからね。さっちゃん、ナポリタンできたよ」
マスターが熱々のナポリタンを差し出して「お願いね」と微笑んだ。
僕は、お皿を受け取って注文をしたカップルのテーブルに運んでいく。
「こちらナポリタンになります。取り皿はお使いになりますか?」
「はい。2枚お願いします」
「かしこまりました。すぐにお持ちしますね」
キッチンへのカウンターに戻り、取り皿とフォークを2本持って、先程のカップルの席に持っていく。
「ありがとうございます」
彼女だろうか。ふわふわしているワンピースを着た女性がフォークと取り皿を受け取って目の前のナポリタンを取り分ける。
僕は、キッチンの前に戻りマスターと話しをする。
窓の外はこの時間には、珍しいくらいの土砂降りだ。
「さっちゃん傘持ってきた?」
「あーどうだったかな。なかったら店の置き傘借りて行ってもいいですか?」
「うん。なんなら僕が家まで送るよ。せっかくの休みなのに急遽入ってもらったんだから」
マスターはそう言って、「ラストまでお願いね」と微笑んだ。
「本当にちゃっかりしてるなぁ」
なんて笑っていると、「すみません」と声が掛かった。
振り返ると先程まで窓の外を見ていた女性がこちらを見ていた。
「お待たせしました」
「クリームソーダを一つお願いします」
「かしこまりました。他に注文はございますか?」
「いいえ。それだけで」
「かしこまりました」
僕はキッチンの前に戻り、マスターにクリームソーダを頼むと先程のクリームソーダの人を見た。
彼女は窓の外に目を向けたままずっと外を見ている。
僕は窓の外になんか面白いものあったっけと考えるが何も思い出せない。
「さっちゃん、クリームソーダできたよ」
「はーい」
キッチンのカウンター越しにクリームソーダを受け取ると、クリームソーダの人のところへ運んでいく。
「お待たせしました。クリームソーダです」
「ありがとうございます。」
「では、ごゆっくり」
席を離れてカウンターに戻ろうとすると、声がかかった。
「お兄さん」
「はい?」
「あの、」
そこで僕は彼女の顔を初めて見た。
「お兄さん、お仕事は何時までですか?」
クリームソーダのアイスが少し溶けて、メロンソーダの中に沈んだ音がやけに大きく聞こえた。