太陽は東から...
かれこれ2週間は経った。
皆それぞれ自分のすべきことをやり続けた。
ミウはマッサージ屋でバイトをしつつ、自分の剣の鍛錬を怠らず、少し早めのご退職となった。立派になったね。
ロリスは仲間になると誓ったその日から、自分のアイテムを見直したり、アイテムの買い方講座を開いてくれたり今だけではなく、今後を見据えた動きをしてくれた。
俺も頑張ったよ?マッサージ行ったり、ロリの相手したり。
でもそれだけじゃない。弓の扱いの修行や新しい魔法の習得。
そして何より工事のバイト!
ちょっと小銭稼ぎで短期のバイトを始めたが最後、むさい男の集まりで重いもの運んでやれ遅いだ、やれトロイだ、言ってることおんなじじゃねえか。
まあ何人か仲良い先輩はできたが、どうせ今日旅立つし紹介は割愛で。本当にいるからね!
ーギルド商会ー
「よく集まってくれた諸君!これから旅立つがこの街に未練はないか?」
「この辺のモンスターはあらかた狩ったからもういいわさっさと出ましょ」
「私はここに帰ってくるつもりだから未練もどうもないんだから」
士気を上げるつもりの激励がかわされてしまって少し寂しい。おじちゃんのノリに付き合ってくれ〜。
「ま、まあいい。次の街、シルベストに向けて出発するぞ!」
次に目指す街シルベスト。ここは今いるデイイムに比べてだいぶ都会の場所らしい。その街だとちょうど全員の目的が一致する街だからそこを目指すのだが...
「疲れたな」
「ほら早くしなさい!まだまだあるんだから」
めちゃめちゃ遠いのである。ギルドから聞いた王道ルートでは初心者は大体この長さで疲弊して物価が高いシルベストで散財し、壁にぶち当たるらしい。悪い方の王道ルートほどためになるものはない。
詰みポイントがわかっているのならそれをしなければいいんだからな。
さて回復薬を一個使ったところでロリスに聞いてみた。
「なあ、帰りは俺たちはいないけど1人で大丈夫なのか?」
「心配しなくてもいいわ。今は安全だから使わないけどとっておきがあるのよ!」
この自信、とても心配だ。万一のことがあるから帰りはこっそり着いて行こうか。工具見たいなカメラ持って。
「ロリスちゃんは強いもんねー」
「えーミウお姉ちゃんの方がすごいよー」
あとこいつらいつのまに仲良くなってたんだ?
俺もお兄ちゃん呼びされたいのに!
まあ仲悪いよりいいけども...
「だってまあお姉ちゃんはドラゴンも倒したことあるんでしょ?そんな人伝説でしか聞いことないよ」
まじかよっ!
こいつほんとに実力者だったのか。
だったら尚更虫にビビってたのがおかしいな。
ドラゴンを倒したことのある方の顔を拝もうとしたがなぜかミウの顔は焦りながら必死に弁解していた。
「まあそうね!私のこの大剣でこーずばーっとね!ド、ドラゴンの首だって持ってるんだから。」
怪しい。というか明らかに嘘だろう。しかも死ぬほど自慢したな。こんな時にパッとドラゴン退治の話が出ると言うことは何度も話したのだろう。
今聞いて嘘がバレるのも酷だ。2人になったタイミングで聞いてみよう。これもリーダーの務めだな。
そんな話をしながら山を歩き、谷を歩き、また山を登って行った。
ー3時間後ー
そこそこ歩いただろう。たまに人とすれ違ったりした。そろそろ休憩だな。というか俺が1番しんどい。
そのへんの川で食料を確保しつつ、座り込むとしよう。いやぁ若者の体力にはついていけませんなぁ。
なぜか大して歳は変わらないのに老害振りたくなるのはなぜだろう。かれこれ高校生のころからやっている。
「ミウ、ロリス、2人でなんかとってきてくれ」
「あんたは何してんの?」
「おれはあれだよ、ほら、あれあれ」
「私達だけにやらせるなんてとんだ最低男ね」
「そうですそうです」
このガキども。年功序列を知らんな?普通はコキ使われるものよ。社会を覚えておきなさい。やれやれ、また老害をしてしまった。
こんなことを言われてるが俺だって何もしないわけじゃない。
新しい魔法の出番だ。
「収納魔法!」
この魔法は自分の体重くらいのものまでなら魔法で収納できる優れもの。俺の便利人間感すごいな。
「すごい!テントが一瞬で...こんな魔法どこで手に入れたんだ?」
「ああ、建築のバイトやってる時にな」
「サトウは案外真面目なのね。エリザベスが惚れるわけよ」
「なっ、今はそれは関係ないだろ!てかそれほんと?」
俺のモテ話が広がりそうだったがミウに塞がれてしまった。
「ロリス、こいつは真面目にやろうとしたんじゃない。サボりたいがためにこんな便利な魔法を覚えたんだろう」
ご名答。バイトはいつだって効率の良い働き方ではなく、効率の良いサボり方を覚えるのが基本だ(個人差あり)
ちなみに仲良い先輩はこれに気づいた人たちのことね。
「ほら、俺は仕事したぞ。火つけて待ってるからさっさととってこーい」
「なによむかつく!1分で獲ってくるからそれまでに火をつけておきなさい!」
「おきなさーい!」
そういいながら2人は森の中に消えていった。お前らはロケット団か。
ー10分後ー
川のせせらぎを聞きながらスキルで1秒でつけた火とともに、川の近くで2人を待った。次の街に着いたら椅子も収納しとこう。
そんなことを考えてたらテントの入り口をめくって、大量の動物の死体が投げ入れられた。
「こ、これでいいかしら」
「かしら」
それにしても大分とってきたな。こんな食い切れるか?あまり残したりはしたくないんだが。
「俺はこんな食えないぞ」
「私もこんな食べられるわけないじゃない」
「じゃない」
もう突っ込まんぞ。というか計画性がないなこの姉妹。すれ違った人に売りつけるか?
「サトウの魔法で収納できないの?」
「いや、出来るには出来ると思うが保存がなぁ...」
この小娘できるっ!さすがはこんな歳で道具師の卵なだけある。賢い。
だが実際生のものをいれならどうなるんだろう。腐るのか?実験がてらやってみるか。
ー1時間後ー
調理して、食って、片付けて。かれこれ1時間くらいだっただろうか。ロリスは料理もできるんだな。
もしかしたら将来完璧主婦になるのかも。
それに比べてミウは...
俺と一緒に花嫁修行するか。皿洗いも、肉焼くのもぎこちないし。おまけにあいつが調味料かけたやつが一発で分かるくらいには料理が下手くそ。
でも安心してくれ!俺と一緒に花嫁修行するから。
エリザベスのご飯は俺が作るんだ...
さてそろそろ再開するか。いやぁいまのとこただのハイキングだが、これでいいのだろうか。
↑こんなことを思ったとき大抵フラグである。
「なにかいるぞ」
「ロリス、気をつけろ」
「サトウもね」
それぞれが戦闘態勢に入る。前からミウ、俺、ロリスの順番に並んだフォーメーションだ。ロリスだけは守らなければいけない。
「あ、あれは...」
「あいつは一匹狼だ」
「おいおいサトウ、お前の仲間だぞ。」
「誰がいつも一匹狼だ。はっ倒すぞロリ」
「スを忘れるな!」
ロリスは怒りながら何かを準備していた。
ミウは余裕そうな表情で一匹狼の攻撃を剣でかわしながら俺に目配せをした。
援護しろってことだな、任せとけ。
何発か命中させつつ、敵に見つからない撃ち方。どんだけ射撃訓練場で練習したと思ってるんだ。
「ミウ、サトウ!この印のところまで誘導して!」
「わかった!」
ミウが返事をしつつ、後ろに下がっていく。
「今よ!」
何かが発動した途端、地面がなくなり一匹狼は落ちていった。
どうならロリスは一瞬で落とし穴を作ったみたいだ。一体どうやって。
「すごいなロリス。まさかこれがとっておきか?」
「まさか。こんなもんじゃなかってよ!」
「まだ隠してるのですか〜」
一応ノってあげたがほんとにすごい。どうやらシールみたいなものを地面に貼り、自分の魔力をこめ、任意のタイミングで地面を消したらしい。おそろし娘じゃぁ〜。
「すごいじゃないロリス!あんたやっぱり強かったのね」
「えーそうかなー//」
俺の時と反応違くないか。もっと照れてくれてもいいんだぞ。
エリザベスから内気みたいなことを聞いてたがこいつあれだ。年上の女好きなだけだわこいつ。
エリザベスが見た時は男に興味なかったから反応が冷たかったのだろう。
それを見たエリザベスが勘違いをしたっぽいな。
「あ、こいつの肉も持ってきておいてねー。それでねー」
俺の扱いが酷いのはいいとして荷物係担当されてしまったのは不満だ。俺が絶対逆らえないからってぇ...
さくっとトドメを刺しそのまま収納して、2人の後を追った。
しばらく歩いたところでようやく街が見えてきた。
この大陸の首都か?広さと真ん中の城がそう思わせた。だが特にそんな情報も聞いてないので多分違うと思うが...
これは東京ドーム50は余裕で入るだろう。この例え人生で初めて使ったし、これから使うこともないだろう。
近づいてみると、大きな扉があった。都会やなぁ。
関所で身分を確認し、いざシルベストへ。
「なんかこの街、随分セキュリティがすごいわね」
「そうですね、ここは以前子供に化けたモンスターが街を半壊したとかなんとか」
「お、おいロリスお前まさか...」
「ずっと一緒にいたでしょうが!」
急にホラーな情報出てきたな。
だが半壊されたにしては綺麗な街並みだ。おそらく壊されたのは結構前なのだろう。
今日は夜遅いし宿に行くか。
ー宿ー
「3名様ですね。それでは3階の奥の部屋へどうぞ」
この街はでかい上に小さい国ぐらいの人口や規模だ。ドラクエの王様がいたとこもこんな感じだった気がする。
宿の人に聞いたところ真ん中の城は王様がいるわけではなく市長的な人が住んでるんだとか。いや町長だとちょっと規模感が違うといいますか。
明日はちょっと観光しつつ、バイト探しかな。
2人には明日伝えよう。今なんで伝えないかって?
俺は紳士だから部屋を分けてあげたのさ。マジ紳士。ほんとは2人から拒否されただけだけど。
苦しい!今なら思春期の娘持ちパパさんの気持ちがわかる!俺ってもうそんな歳かと思ってしまう。
ー翌朝ー
「おはよう」
「おーはー」
「おーはー」
山ちゃん以来のやつが聞けておじさん懐かしくなっちゃった。あれ?もう山ちゃんじゃないの!?
時の流れを朝から感じつつ、そこそこ高い朝食をとってさっそく城へ行ってみる。
城に行くまでも市場があったり、人の流れが多かったりと都会の厳しさを朝から浴びた。初めて東京行った時もこんな感じだったな。
城の前に行くと若いイケメンの男が朝のあいさつをしていた。
「おはようみんな!今日も1日頑張ろう!辛いことがあっても俺を思って頑張るんだ!」
なんがこのムカつく挨拶は。こんなこと言われたって誰もよろこばな...
「キャー!!」
黄色い声援がきこえるぞー。いつだって日の目を浴びるのはイケメンなのかよ。
そんなドン引きな顔をしていたのはどうやら俺だけじゃないようだ。
「なんでこんな人気なのよ」
「初めて分かり合えた気がするぞロリス。やっぱりお前もそう思うよな!」
「あの人が女性で髪が長かったら危なかったわ」
それは俺も危ない。だが今の状態なら無関心ということだろう。若干不機嫌になりつつ、観光を終わらせようとした。
「キャーー!!こっち向いてーー!!」
どうやらうちにもミーハーがいたらしい。ミウよ、そんなタイプだったかおまえ?
しかもそれをみたロリスも固まってしまった。
「あ、あんなのがいいの...???」
かわいそうに。脳を破壊されてしまったようだ。
そんな2人を引きずりつつ、街の中心から少し離れたところに行った。
「ミウ〜あいつのなにが良かったの〜?」
「え?いやーうーん?なんだろう?」
「そんなんじゃあのイケメン挨拶ボーイがかわいそうだろ。ちゃんと思い出してやれよ」
「あんたあだ名つけるの下手ね。でもほんとになにかわからないのよね」
一目惚れにも程がある。
だがそんなことより今はバイト探しが優先だ。
宿に食事とここはそれだけで金がなくなる。
とりあえず手伝いが必要そうな店がないか歩き回ってみよう。
ー2時間後ー
人が多いなここは。
最初にその感想が出るほどすれ違うし会話も多い。1回スリにあいかけたぐらいだ。
3人ともヘトヘトな状態故に列に並ばないようにと人気店を避けてきたらいつの間にか静かなところに来ていた。そこに店は一軒。
ポツンと住宅街の中一軒だけあったレストランがあったのでそこに入ってみた。名前はジェリーズトム。
絶対にトムが料理人だろうなと思わせる名前。おそらくブラハだろうな。
「いらっしゃいませ!」
「どーも、この席いいかな?」
「はい、じゃんじゃん座ってください。ほぼ全部空やいてますけどね」
仲良くないやつからの自虐が1番困る。たしかに客はほぼいないがそれが理由で入ってきたんだ。なにも悲しいことはない。
「おすすめはありますか?」
「ええ!とっておきのが!」
「じゃあそれ3つと適当な飲み物を」
「かしこまりました」
ふくよかな体と白いエプロンを揺らしながら男は機嫌良く厨房へ向かった。
少し待っていると料理が届いた。見た目はパスタに近く、というかこれパスタだな。
「いただきまーす」
食ってみてもやはりパスタ。だがなんだろう、なんか物足りない。理由は明白だ。だって塩オンリーだもん。
久々に食った衝撃で3口目までは勢いよく食べれたがやはり物足りなさが目立つまでしまった。
「失礼ですが、味ってこれだけですか?」
「ええ、当店自慢のこのシンプルな味付け。気に入っていただけましたか?」
なんとなくこの店の過疎ってるのがわかってしまった。
「ここで仕事できればラクにできて金も稼げていいんじゃねえか?(小声)」
「たしかにいいわね。でもここって仕事募集してるの?(小声)」
「手伝いは募集してるんですが生憎手伝うことがない状態でして(小声)」
「うわぁっ?!」
このおじさん見た目によらずけっこうふざけるタイプか。だが募集してることが聞けた。
あとは手伝うこと作ればこの店で働ける訳だ。
このおじさんのためにもこの店を盛り上げてやるか。他のメニューを見たが大体はイタリアンなものばかりだ。ならば盛り上げるのは簡単だ。俺は20年サイゼリヤに通った男だぞ?
「店主さん!俺たちがこの店を盛り上げてやる!だから代わりに雇ってくれ!」
「ほ、ほんとかね!いやー私も色々困っててね。そんなことをいってくれる若者がいるだけで私は感動だよ」
「それでお給料の方なんですが盛り上げる今から発生したりしませんかね?」
「なにをいってる?盛り上げてからに決まってるだろ」
「交渉が下手くそね」
「ねー」
このクソガキどもっ!
まあいい。そこそこ盛り上げて給料もらいつつラクに生活するんだ。多少のサービスはくれてやってもいい。
どうすればあの素パスタが上手くなるかなんてナポリタン発祥の地出身の俺からすれば簡単だぜっ!
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