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目を凝らした先の景色



 「もう、こんなの楽勝なんじゃない?」


 カズトは塔を指しショウタに軽口を言う。カズトが言うにはこんなに強化された肉体だと、塔を登るくらいなんてことはないんだと。


 「あぁ、魔王に連れられた姫を助けに行くとするか」


 誰に影響されたのか、クサイセリフが飛び出す。

 隣の魔王には何の気にも留められず無視されたが。


 少し助走をつけ、窓を見上げて踏み切る。

足裏で石壁を一段一段“踏み台”にしながら一気に駆け上がる。

自分でも驚くほど軽く、まるで忍者みたいに塔を登っていく。


 「.....ふんっ」


 ショウタは頂上近くまで駆け上がり、

円錐屋根の縁に手を掛けて体を引き寄せる。

そのまま窓の前でぶら下がり、そっと気配を整えた。


 エンターテイナーなショウタ、ここは一つミウに芝居をうってやろうと目論む。


 「どんな設定にしてやろうかな.....やっぱ下でも言ったし姫を迎えに行く感じかな?」


 設定を固めたショウタは窓のそばに手を掛け直し、ゆっくりと窓を開ける。

 すらりと部屋へ飛び降り、跪く形で着地する。

 やけにふかふかした絨毯が敷かれていて、靴のままだと少し違和感を覚える。


 「遅くなりました、姫。お迎えに上がりまし.....」


 セリフを吐きながらゆっくりと顔を上げていくショウタ。しかしセリフは途中で切れ、ショウタの目はギョッとしたまましばらく目の前の人物に見惚れていた。


 「...遅くってよ。まったく.....」


 ピンクのドレスに包まれ、椅子に座り、足を組む。肘は組まれた足の上に置かれ、そっぽを向く金髪の姫がそこにはいた。

 むすっとした顔で、その姫...ミウはショウタと顔を合わせようとしない。どこか見たことあるようなドレスを見に纏ったミウは不機嫌に窓からの侵入者を歓迎しない。


 「えぇと...女子(おなご)三日会わざれば、刮目して見よって言うしな...」


 「なーに照れてんのよ。あとそれ言うなら男子じゃない。」


 ミウの美しさに照れてると、ついつい慣用句を間違えてしまった。この感覚は本来年上の女性に感じるようなモノだが、相手はミウだ。

 いやはや恐ろしい。ミウの可能性の広さに.....そして自分の女性への耐性の無さに。


 「照れてるのは認めるが、何でドレスを?」


 「囚われてる女の子はみんなお姫様なんだって。だから?」


 だから?と言いながら首を傾げる。かわいい。

 じゃなくて!それがイマイチ理由になってるようななって無いような.....


 会話をするようになると、ミウの頬に涙の拭いた跡。しかしそれが涙を吹いた後と気づくのはショウタにはまだ厳しいか。


 「まぁまぁ、実際そうでしょショウタさん。せっかくミウちゃん可愛いんだからお姫様にならなきゃ」


 宥める声がする方には、ショウタの後に続いて塔を登り窓を開け、そこに座るカズトの姿があった。

 カズトはやけにニコニコし、ショウタ達を眺めている。これは今まで見た猟奇的な笑みではなく、純粋にただの高校生、ただのミヨシカズトとして出る笑顔のように思える。

 

 「なんかお前やけに笑顔だな...まさかこのドレスはカズトの趣味.....?!」


 「まっさかー、これは母さんのおかげだよ」


 「ええ、やけに”綺麗な人”に着せてもらったけど.....まさか母親だったのね」


 カズトの趣味暴露かと思ったが、どうやら違うらしい。カズトのお母さんはコーディネーターとかなのかなぁ.....


 「お、お前母親も兄弟も一緒に異世界(こっち)に来たのか。気の毒なのか何なのか...」


 「兄弟?あぁ、カズマサ……父さんのことね」

 「…………父さん?!」


 カズトは先ほどの笑顔とは違い人を騙すような笑顔でショウタを驚かせる。

 まさかカズマサがカズトの父親だと。驚きのあまり二歩下がって驚きの声が狭い塔内に響く。

 

 確かに俺よりも若干若い雰囲気を感じたのに、それとは裏腹に古臭いセンスや仕草。そう思えば引っかかるところはいくつもあった。


 「茶番はこの辺にして、そろそろ奴等の処遇について話そうか」


 軽い談笑の中に重い楔を、カズトが打つ。

 腹を突かれたかのようにショウタは苦い顔をする。


 「ミウ、わからんかもだけど実は.....」


 「大丈夫、上から見てたから」


 「うっ、...そうか。じゃああのボコられたところも見られてたのか.....」


 「えぇ、大分やられてたところをね」


 手を広げやれやれと呆れた仕草をしてミウは答える。

 どうやら先の戦い、ミウは塔の上から一部始終見られていたらしい。

 

 「とりあえず下に戻ろう。先行ってるよ」


 そう言葉を残してカズトは窓から飛び降りる。ショウタは自分勝手なカズトに振り回されている気がしてならない。

 窓の蓋に腰掛けミウに手を差し出す。まるで舞踏会で一緒に踊らないかと言わんばかりに。


 「ほら、手貸して」


 ミウはハッとして、姿勢良く立ち上がる。

 一歩ずつ丁寧に近づき、ほんの少し屈む。

 手を重ね、緊張と何故か赤らめた顔をする。

 最後に上目遣いで一連の動作の確認をショウタにする。


 「こ、これで合ってるの?」


 「すまん、俺もお作法的なのはさっぱりで.....」


 「じゃあ無駄にカッコつけんなし.....」


 最後の一言は聞こえるか聞こえないか、そんな音量でミウは吐き捨てた。

 ショウタは重ねた手を解き、文字通りお姫様抱っこをする。開いた窓の先に見える景色を見てつい口からこぼれ出てしまった。


 「俺、人間やめちまったのかな」


 そこから見えた景色は以前ならビビって下も見れない高さだった。しかし今は違う。高さよりも抱き抱えたミウに対して頭がいっぱいだ。だからなのか、そんな気持ちを惑わすために変なことを呟く。


 「別にここから飛び降りるくらい、そんな珍しいことじゃないでしょ」


 照れも繕いもないその言葉が一瞬、ショウタの時を止める。この世界の人間の基準しか知らないミウは、これくらいのことで強くなった気になるなよと釘刺したつもりだ。だがショウタからすれば気持ちを軽くしてくれるありがたい言葉になっていた。


 「あぁそうだな、調子乗ってた。それじゃ降りるから口閉じてたほうがいいぞ」


 「んっ...」


 口ばかりか目を閉じたミウを抱えてショウタは塔を降りる。

 上手く着地した先ではカズトが魔法で侵入者2人を拘束していた。カズトが手を翳すと、輪っか状の光で拘束する。光を自在に動かせるらしく、寝ていた2人を塔を背に座らせる。しかし2人から起きる気配は感じられない。


 「こいつら起きなさそーだな。ビンタでもして起こすか?」


 「いや、そんな必要はないっすよ。こうすればいいし」


 冗談混じりでショウタが起こそうとするとカズトがまた真剣な眼をして手を翳す。すると輪が光を増し、苦しみながら2人を起こす。荒い息遣いの後、周りを見渡しロガンは状況を飲み込む。


 「俺たちは...負けたんだな」


 「あぁ、だがすぐには殺しはしない。お前等は監獄アメンドラにて矯正される」


 監獄アメンドラの名を口にした瞬間、ロガンの顔が強張る。どうやら相当名の知れた監獄らしい。


  「矯正?貴様等の飢えを凌ぐ働きアリになるの間違いだろ」

 

 苦し紛れの強がりか、冷や汗を流しながらロガンは毒を吐く。その目からは唖然として折れない心が可視化されるようだった。

 その言葉を聞いたカズトはジッとロガンを見続ける。呆れか憎しみか、そのどちらとも取れる眼差しで見つめた後両手を上げショウタに言う。


 「こうさーん。もう無理なんも話す気ないし。とりあえず.....」


 そう言ってカズトはショウタへ視線をチラリと流す。今の言葉でどう反応するかカズトは見定めるようだった。


 「正直返してやりたいとこだが、悪いことしちゃったしな。街壊したり。監獄へ連れてくか」


 ショウタの審判は冷静で、それでいて至極当たり前の決断だった。ミウは見守り、カズトはチラリと流していた眼を静かに閉じる。

 しかし次の言葉が一同を驚かせる。


 「ただし、俺が連れてくからな」


 「「?!」」


 ショウタはミオラ、ロガンの2人の目をじっと見つめながら何の気も無しに提案をする。かくいう2人はギョッとし目配せをして何かを確認しているが関係ない。もうショウタの中で決めてしまったのだから。

 

 「そ、それは流石に...ほらショウタさんは異世界(こっち)来たばっかだし...仕事じゃないっていうか...」


 「えぇそうよ。あそこは近づいちゃダメだってパ...お父様も言っていたし」

 

 決断したショウタとは正反対の意見が飛んでくる。カズトはショウタの肩に手を掛けながら、ミウはショウタとの会話史上最も怪訝な顔で意見する。

 しかしショウタは、そんなことを言われても揺るがず意見を押し通そうとする。腕を組み、顔を意見から遠ざけるように背ける。

 

 「いーや!絶対俺が連れてく!」


 「何でそこまで...まさか」


 ここでカズトは気づく。ショウタの視線の先に。

 ショウタは2人に視線を向けていた、つもりがいつの間にかミオラただ1人が画角に収まる。


 「ショウタさん...そりゃないっすよ.....」


 「な、何だよ!別にやましいことなんて...」


 男だけが分かる会話...かと思ったらミウもようやく気づく。

 自分の身を守るように腕でガードする。

 身の毛がよだつような魔物を見る目に変わる。


 「きも」


 「うるさーい!ああそうだよ!可愛いなと思ってカッコつけたんだよ!」


 自分で監獄に送るふりをして美女にカッコつけようとした、なんて考えていることは読心魔法を会得していなくても誰でも分かる。

 ショウタが赤裸々に告白した時、カズトが顔をじっと見て思い出す。


 「ショウタさん、彼女の正体分かったかもしれない」


 「おい、イケメンがカッコつけたらただカッコいいだけだろやめろ」


 カズトは指を口に当てながらぽそりと呟く。その仕草にショウタは嫉妬心が芽生えるが、真剣なカズトは無視しそのまま考え続ける。

 

 「もしかしたら...これは真の敵を覆せる切り札になるかも」


 カズトはこれまでの戦いを振り返る。今までの彼女の行動や言動を思い出すとある違和感が...


 「彼女の正体は.....」


 彼女の正体を知ったショウタは動揺で時が止まったようだった。

 

 

 

 


 

ここまで読んでいただきありがとうございます!


次回で“ミオラの正体”をはっきり描きます。

ようやく伏線を一つ回収できます……!


もし面白いと感じてもらえたら、

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