死んで、笑って、(3)
今まさに、絶体絶命である。
力では勝てない女に馬乗りに。ローブで見えなかったが、見えてはいけないところが隠れる程度の薄い布が見える。見えるのに見れないと言うジレンマ。
そして、傍らでは岩を操る白いローブのメガネ。
彼はスタイリッシュに澄ましている。しかしメガネの奥に映すのは、敵の異常さを覗くのに焦りで溢れているようだ。
相手は焦っているが俺自身も思う。
勝てねえ.....何度も生き返るとはいえ他に手が.....
勝つための思考の巡りが止まった時、先程まで見つめることしかできなかった塔の窓が巡りを加速させる。
男が窓から飛び降りる。
真下へ一直線に向かった男は、ショウタに跨るローブの女を目掛けて刺すような威圧を放つ。
ローブの女が具現化させたオーラが魔物であったが、男が刺すように溢れ出るオーラは魔そのものだ。
そのオーラに当てられたのか、顔は青ざめロガンの後ろまで退避する。
降りてきた男の勢いは止まらず、ショウタの脇腹近くを跨いで着地する。
「ショウタさん生き返ったすか?また殺しちゃうところだったよー」
そう笑ったカズトの目は不思議と安堵が見える。
一度殺された筈だが、殺された瞬間をよく理解してないためか許すように冗談で返してみる。
「バカ野郎、お前が着地する瞬間逆に刺し返してやろうかと思ったわ。」
キレの悪い冗談に「あぁそう」と呆れながらカズトはショウタを起こす。
「とりあえず、今は"味方"でいいんだよな?」
開口一番、味方でなきゃ許されない冗談をかまされた後に聞くことではないが一応。
「うん、今はね。」
なにか含みをもたすようにカズトが答える。
「そうか、それじゃあ敵の情報だが.....」
「ああ、知ってるよ。上で全部見てたから。」
「見てたなら早く助けろよ!」
———と言いかけたが、なにか意図があるかもしれん。例えば敵の動きを観察してたりとか.....
「ショウタさん女の子に力負けしててダサかったすね〜」
指を刺しながら笑われている。
事実が事実なだけに赤面することしか出来ない。
早く話題を戻さなければ.....
「で、でもあいつらも結構強いんだぞ。もしかしたらお前だって.....」
「いや、ないね。100%ないと言い切れる。あいつらはザコだよザコ。チュートリアルレベルだ。」
言い切った。言い切ったぞこいつ。しかも敵の目の前で。
あわあわとショウタはカズトと侵入者2人を交互に見る。
侵入者2人は乱入したカズトから目を離さず警戒してるがロガンの方はある言葉に困惑する。
「ふむ、なにやら知らない言葉で愚弄されたような気もするが.....」
メガネの両端を掴みクイッとさせ位置を整わす。
そして、その問いに隣にいるローブ女がもじもじしながら教えてあげている。
「ザコ...は...価値のない魚...のこと...」
「なるほど、魚で例えられていたのか。これは異世界の言葉か」
侵入者2人は元々こちらに住んでいるからかショウタ達の方を異世界と呼んでいる。
「...うん...記憶の底にあった...から...多分...」
ローブの女が赤面しながら答えるのに対しロガンは淡々と答える。
ローブの女の話し方は、ショウタと話す時のカタコトとはまた違う意味を持ったような話し方だ。
一連のやり取りが終わったところでカズトはショウタに突然鍵を渡す。
辛口を叩いていた先程までとは違い真剣な表紙でカズトは言う。
「とりあえずこれで強くなってきてよ。多少は使えるようになって欲しいんだ」
「鍵...ってこれでどうやったら強くなれるんだ...?」
鍵を一瞬見つめ考え込むがわからない。ストレートにカズトに問うとただ一言だけ、ヒントをくれた。
「転移者組しかわからない場所に"答え"はあるよ」
カズトの体はもうショウタに向いてない。
早く動け、と言葉ではなく態度で示す。
そのヒントを聞いて脳より先に体が正解だと思う方に走り出していた。
そうか、たしかにあの場所なら他のやつには気づかれない!
「1人が...退いた?なぜかはわからんが好機。今のうちにここから脱出するぞ」
ロガンがショウタの移動を皮切りにローブの女に合図をする。
しかしローブの女は動かない。
悟ったのだ。
もう奴から逃げられないと。
今眼前が放つ、圧倒的な存在感を。
「な、何をしている!俺だって奴の恐ろしさくらいわかる!だから動かなくては!ミオラ!」
名前を呼ばれた瞬間、恐怖と興奮でバグったか、体がビクッとはねる。
畏怖した相手を見て、表情を柔らかくするカズト。 しかし表情を見た上で誰もが理解する。
ただ彼は囀りを聞いていたかのように、一つの揺らぎもない感情を。
「ショウタさんが強くなる間は遊んでやるよ。てか逃げんな。」
ある種の心理的差別を、この場において差別される側の人間の方が多いのに、彼等彼女等が差別されているようであった。
ー
「開けーゴマ!」
ショウタは自ら再び罠にかかる。
しかし今回は背中から落ちない。
着地点を見つめ、安全に飛び降りる。
藁と土の割にはダメージがあると思っていたが.....
やはり、軽く藁をどかすとそこにはシェルターのような頑丈な扉が出現する。
「あった!けど、鍵で鉄の扉は.....」
そう思った矢先に扉の近くに鍵穴を見つける。
一か八か、鍵を挿し込む.....
...20秒ほどだろうか。
電源が入り鍵穴の上にある画面が動き出す。
〈合言葉を、打ち込め〉
合言葉ぁ?ここでは何もヒントがない。
鍵を開ける、転移者組しかわからない有名な言葉なんてあるか?
必死に日本での生活を回想していると追加のお題が、画面に映る。
〈お前の、真の敵は、ダレダ?〉
真の敵...って言われても今の状況で誰だって断定出来るんだ。
そんな悪い奴なんて1人も.....
あ
ー
「うーん、まあこんなもんか。もう少し動けると思ったんだけどなぁ」
一通り戦闘を終えたカズトがわざとらしく言う。
お前等の国はこんなものかと、この調査に何の意味があるのかと。
「くっ...う、動けないだと。貴様は動いてからそれを言え。貴様、我々の攻撃を受け、さらに反撃の瞬間も、その場を離れんかったな。」
ロガンが攻撃された腹を抱えながら苦し紛れに言う。いつの間にかメガネは取られており、特徴が白いローブの白髪男だけになってしまった。
「このメガネ伊達ー?オシャレだねー。あーオシャレも伝わらないか」
奪ったメガネを友達から借りるようにかける。
かたや残酷な現実に、かたや呑気に異世界のギャップを今更かというタイミングで感じる。このオシャレという単語すらもロガンは何かの魔法のトリガーかと怯えるのに。
一方ミオラはというと、攻撃手段が殴ることしかないので果敢に殴りかかるが、攻撃の軌跡を掴まれるたびに、自分の弱さを叩きつけられるようだった。
それでも立ち上がる。生き残るために。生きて帰るために.....
彼等彼女等は今を生き残るのに必死。
無駄だと分かってなお立ち向かう。少しでもなにか情報を持ち帰らんと闘う。
「くそっ...ミオラを置いて俺だけでも...奴はほとんど追い出されたようなものだろう...」
ロガンは自分だけでも助かろうと考える。無論、本音を言えば完全な生還が最も重要な成果だ。
彼等の国では同じ任務を務めた8割が死亡。
1割はどこかしらの欠損、障害を持って帰還。
そして最後の1割は.....
寝返る。つまり敵国の傘下に加わったのだ。
故にほとんど情報はない。
手も足も出ない程に強いこと以外は.....
「わ...私が...がんばる...だから...帰って...」
震えた声でミオラは訴える。私が囮になると。だからあなたは帰還しろと。
ロガンはここまで理性的なミオラを初めて見る。
驚きはしたが、それ以上に込み上げるものがある。
見捨ててたまるものか、必ず持ち帰る!
決意し、敵へ全身全霊の攻撃を.....
打ち込まない。
いや打ち込めなかった。
風がピンと割くような音がする。
目線を上げ、攻撃をしようとしたその時には、もうロガンの右腕はない。
後ろから感じた風の刃が、ロガンの右腕を体から断絶する。
「うっ!.....がぁっ.....!!!」
叫びたい...痛みでどうにかなりそうだ...
しかし叫ぶ暇すらない。一瞬でも目を離せば、今度は足か、腹か、...最悪の場合首を狙われる。
「逃げんなっつたよな。次は首な」
若干イラつき混じりに脅迫をする。
断絶された腕がカズトの近くに落ちる。
腕から飛び散った血が、ロガンから奪ったメガネに一雫。
汚れも気にせずメガネをかけたままカズトは強化されると信じてるショウタを待つ。
ー
ショウタが戻った時には血飛沫が飛んでいた。
以前のショウタなら血の量に焦り、誰か助けを探すだろう。
でももう違う。彼は強化されたのだ。それは身体的な強化だけでなく、思考や心、彼は人間としてではなく生物として強くなる。
もう一度手を振り上げ魔法を使おうとするカズトにショウタは静止をかける。
「戻ったぞ。だからもういいだろ」
「お、随分と変わったね。たまごからひよこになったくらい?」
「俺卵だったの?てかせっかくシリアスな雰囲気で来たのに台無しじゃねえか」
あんなに待ち焦がれたようだったのに随分あっさりな感想だった。たまごだったかぁ.....
まぁそんな卵も無事卒業。と言ってもひよこらしいがひとまず良しとしよう。反論のしようがない煽りだからな。
今なら分かる。何でたまごと呼ばれたか、何で奴らがザコなのか、何でカズトがここまで強いのか.....
「おーいそこの2人!ルール変更ね!このおじさん倒せたら逃げてもいいよー!なんなら国まで送ってくよ!」
「お、俺まだおじさんじゃないから!てか皆んなが若すぎるだけ!」
いきなりの宣告にロガンは警戒する。
先程まであれほど逃げることを毛嫌いしてた奴が急にどんな風の吹き回しなんだ、と。
ミオラはロガンの腕の心配でそれどころではない。
当然直してやりたいが、飛んだ腕は相手の近くにあるので取りには行けず、治癒魔法なぞ野蛮な彼女には扱えないので右肩あたりをさすってやることしか彼女には出来なかった。
「やっぱあの女の子どこかで見たことあるんだよなぁ...てかあんな負傷者相手に戦えるか!」
ショウタはミオラをじっと見て再び思い出そうとする。ただここは戦場、相手の置かれてる状況を考えてカズトに一喝。
「いや...恐らく奴の腕はあと少しすれば大丈夫。それまで雑談してようか」
「雑談って.....まぁそうだな。とりあえず鍵は返すよ。.....そうだな、下の合言葉については聞きたいことがたくさんだ」
「あーっ、それは長くなりそうだからあとでかなー」
カズトの見立てによると腕は大丈夫らしいが.....これも異世界人の特徴なのか?
たははと笑うカズトは頭を掻くようにして誤魔化す。シェルターでの合言葉はスルーされてしまったしもうこいつとの話題なんて何もないのが困る。
「はぁ...はぁ...仕掛けないのか。ここまで的が動かないことはないぞ.....」
「いやぁそんな状態で言われても.....平気になったらいつでも良いし。全然不意打ちとかでも良いから」
「隣の青い眼をした奴ならともかく...貴様程度には不意打ちなど必要ない」
「ショウタさん.....ドンマイっす.....」
敵にすら同情されてしまうショウタ。
しかし生憎彼は芸人じゃないので天丼はしない。
手をぷらぷらしながら、ゆっくり歩き近づく。
余裕そうな素振りはあるが、油断はない。
「そうか、じゃあ行かせてもらうぜ」
「ショウタさん、これっ!」
「うわっ...こ、これは!」
カズトから新たに武器を渡された。
テツジから貰った真剣の経験を活かし、ショウタ自身の性格に合った武器。
あの男の子の誰もが修学旅行で買ったとか買わなかったと言われている.....
そう、木刀である。
これなら刀の経験を活かしつつ、相手を簡単に殺すことがなくなる。ショウタに最も適した武器だ。
「これならあんたも戦えるだろ」
「あぁ、ありがとう」
ロガンは今、困惑の底にいる。
先程まで二対一で勝った相手に右手を失ったとはいえまだ天秤はこちらに傾いてるはず。なのに何故...?
ロガンは右腕を岩で作り、ミオラと臨戦体制をとる。
岩の壁を作りミオラにスタートの構えをと合図。
ミオラが構えた瞬間、再びショウタの周りに岩の壁が出現する。
「飛ばす」
「.....うん」
準備は整った、相手から攻撃されると分かっていてもショウタは歩みは止めない。
「それ、さっきもやったろ。もっと別のやつを.....」
言い切る前に岩が発射される。
前回は岩からミオラが超速で突進されたが今回は岩ごと発射。それによりミオラは一度方向を変えるか、もう一段階ギアを上げてショウタに突進できる状態にある。
「不思議なもんだなぁ.....全然怖くねぇ」
「.....死ねぇ!」
周りのどんどん増える岩壁に囲まれ、簡単には躱せない状態に。
それでもなお進むショウタに対して、ミオラは迷わずギアを上げ飛び込む。岩が砕け散るほど蹴飛ばし、その勢い殺さず、ショウタへ突進。
「躱せないか.....じゃあこうか?」
「ふんっ...?!」
目にも止まらぬ速さで突進するミオラを簡単には躱せないとショウタは察する。しかしショウタの眼には止まって見えてしまう。
察したと同時に軽く跳んでミオラをいなす。
まるで闘牛士のようにひらりと躱し、木刀をミオラに向けて構える。
「悪いが寝ててもらう」
躱されたミオラは防御しようとショウタの方に向き直る。が、すぐに防御をやめ追撃を試みる。
それは奥から不意打ちを画策するロガンの姿が見えたからだ。
ロガンは射出した岩の陰に隠れながら一緒に突撃し、敵が油断するのを待っていたのだ。
ここしかない。
もう我々が生きて帰るのはこれしか.....
全ての魔力を岩の腕に込めて.....放つ!
...今...やるしかない...ロガ...奴も...帰りたいんだ...
ここで...全部を...!
2人の拳は...想いは一つとなり、最大火力で、ショウタにぶつけられる———
ー
...激しい魔力の衝撃により爆発が起きた。
戦っていた3人の声はもう聞こえない。
しかし爆発の影で見えたのは、1人は倒れ、もう1人の男が、へたり込んだ女の首元に刀を置いてる.....そんな描写だ。
「俺の勝ちだ。悪いようにはしない、だから安心して寝てろ」
武士なら即刻切腹ものだが、ミオラは武士ではない。安心なのか、はたまたただの疲れか。いずれにしろ彼女は気絶するように眠った。
「彼女は彼の腕を何故か少し治癒出来ていた。そこにアドリブで岩の腕を作り、リスクを冒したより強力な魔法を出せるようになる。そしてそんな相手の全力を誘い、その源である腕を壊して自爆させる。ショウタさん性格悪くなったっすね〜」
「お前が言うかお前が。けど暴発する直前、自分で腕を覆い被さって仲間を守るとは...」
カズトからの講評にやや不満気になるショウタ。
しかし、敵の天晴れな行動を賞賛しつつ深呼吸をする。人間を忘れないように.....自分が人間であることを忘れないように。
俺は日本人で、25歳で、普通の人間の佐藤翔太。
頭では理解してる、しかし心はどうだ...?
自分の胸に手を当て、目を瞑る。
不思議な感覚だが、心が少し、小さくなった...様な気がする。
続きを書いてみたので評価やブックマークをお願いします。無事、約束を守れました!
今回は戦闘描写の他に心理的描写も頑張ってみました。
次も是非また読んでみてください。




