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死んで、笑って、(1)


 人は死ぬとき、何を思うだろう。

 

 少なくとも俺は、独りが嫌だと、独りが怖いという感情が体中を錯綜した。


 友達に会いたい、家族に会いたい。独りで死ぬのは嫌だからみんなで一緒に死んで欲しい。


 みんなで一緒に死ねば、誰も悲しむこともなく、誰も悲しまれることもない。平等な世界が創られるというのに。


 死ぬ間際にしては、えらく長い考え事をしてしまった。



 「.....きてくれないかな」


 「.....やく起きてくれ」


 「早く起きろって!」


 一分毎に聞こえてきた起床の願望の声がショウタの耳に3回目にしてようやく届く。起きがけの目には天井にある光は眩しく腕で遮る。

 まだ頭はぼんやりしてるが、言いたくてたまらないセリフが浮かんでしまった。そのセリフをグッと堪えて現状把握を始める。


 「ここは...どこだ...?」


 こんなセリフも普段の生活じゃなかなか言わないからか恥ずかしさで少しつっかえてしまう。


 「お、やっと起きたか。丸一日は寝てたぞ。」


 寝起きの体をベットに座り直したショウタの前には青年がいた。髪は金髪で背格好は低め、服装はどこか懐かしく感じる90年代風のファッションをしている。

 目の前の青年はキザに足を組んでベットの隣にある椅子に座る。


 「ここはネストハート。この世界で一番安全な街さ。」


 青年は途中下を向いたり、明後日の方向を見たりしている。ドラマの世界のように一場面ずつカッコつけており、まるで主人公のような振る舞いをしている。


 「場所の説明助かる。ついでにあんたの名前も聞いていいか?」


 ショウタが戸惑いつつ名前を聞くと青年は突然立ち上がりドアの方に歩きながら背中越しに答える。


 「カズマサ.....ミヨシカズマサだ。」


 カズマサと答えるとそのままドアに手を掛けて部屋を出ようとするが一秒ほど膠着した後に何事もなかったかのように椅子に座り直す。


 「なんで今立ったの?しかもそのまま部屋から出そうだったじゃん。」


 「ま、まだまだお前とは話がしたくてねぇ。.....それで、聞きたいことは場所と俺の名前だけか?」


 「それだけじゃ.....っていうか今ミヨシって、カズトの.....」


 家族か、そう問おうとした瞬間なぜ自分が眠っていたかを思い出した。いや、正確には生き返ったかを。

 最期の場面を目で追えなかったが切られたことは確かだ。頭からつま先まで手で触りながら無事かを確認する。


 

 何もない。

 異常は何もなかった。

 何もなさすぎていた。

 

 戦ったことすら夢だったんじゃないかと思うほどに。

 だんだんと意識がはっきりとしたところで今ある疑問に対してカズマサが答えを突き刺す。


 「お前は間違いなくカズトに殺された。これだけは言える。」

 

 「...!?。やっぱそうだよなぁ....」


 あの川辺での戦いで俺は負けていた。悔しさとか悲しさとかそんな感情よりも前にあったのはミウの安否だ。


 「ミウは、ミウは無事なのか?!」


 「あ、安心しろ!何もしてない!してないからそんな力強く揺らすな!」


 ショウタは自分の想定より強くカズマサの両腕を掴んで揺らしていた。ごめんと一言謝って手を離し安堵からから起き掛けよりも疲れた顔をしている様に見える。


 「まあ少し休んでけって。どうせすぐには会えないんだから」


 「...どういうことだ?」


 感情の起伏が激しい寝起きだったがさすがに疲れが勝っていた。半分寝ている目をしながらカズマサに聞く。


 ネストハート。

 カズマサから聞いた話だと世界で1番平和な街らしい。およそ20mほどの壁に囲われ、街の中心には塔が聳え立つ街だと。

 そしてその塔にはカズトとミウが待っている。現場を見てた(カズマサ)情報だとほぼ誘拐である。

 


 街に出て周りを見てみたが景色は他の街とは変わらない。ただどこからでも荘厳なオーラを放ち、まるで監視されているかのような気分になる塔が見える。その塔にはカズトが頂上に住んでいるので間違いではないかもしれないが。

 

 ショウタは塔に着くと上から下までを隈なく何度も見直す。

 

 「おいカズマサ。この塔入り口はどこだ?はやく入りたいんだが」


 「ばかやろう、もう見えてるだろ。」


 「いやいや、見えてるって頂上の窓しかねえだろ。それとも何?なんか合言葉的なのがいる感じ?9と何分の何番線なの?」


 塔をパッとみたところ入り口らしい入り口はなく、カズマサに聞くともうすでに見えてると言う。

 何番線の件はピンとこなかったらしく華麗にスルーされてしまった。


 「生憎、本当にあそこしか入り口はない。この塔の頂上からしか入れないからあいつしか入れないしミウちゃんを隠すにはピッタリな場所なんだろう。」


 両手をポケットに入れ、顔だけをこちらに振り向かせ少し挑発気味にカズマサは言う。一体どこにカッコつけられる要素があったのかはわからないが...。


 普通に考えて、このままあの窓に入りに行くのは無理だ。物理的に無理。

 きっとなにかギミックがあるはずなんだ。


 思い立ったが吉日、まずは塔の造りの石をペタペタと触っていく。何か不意に押して塔への入り口とか階段とか出れば良いなと期待を乗せてとにかく連打。

 丸くなっている塔を一周しかけた時一部分のレンガ状の石が押し込まれる。その途端中から機械的な音がガシャンガシャンと鳴り響く。周りには地響きがし、狼狽えることしかできなかった。

 そして全ての音が消えた瞬間目の前が真っ暗になり衝撃が走る。

 目を開けると先程見た窓があった。

 先程見た位置からより低い位置で。

 

 どうやら押した石が射出されて俺の顔に当たり倒れたせいで窓がより離れたらしい。

 ずいぶん古典的な罠にハマった自分が恥ずかしい。


 「ずいぶん古典的な罠にハマったな。」


 「こんなのがあるなら先に言えよ!」


 一部始終を見ていたカズマサが鼻で笑いながら近づき言う。というか知っていたなら本当に先に言って欲しかった。一応今は昼間だから通行人もいるわけで。

仕方ない、次の作戦を考えるしかない。


 やはり合言葉がこういう時の定石だ。

 同じ言葉を扱えるものだけでなく、特定のイントネーション、その言葉の意味を知っていなくてはならないという完璧な防衛術の一つだ。

 ただここで問題が一つある。同じ日本という地で育ったことしか共通点がないせいで合言葉の特定のしようがないことだ。さすが完璧な防衛術。

 しかし日本に生まれたからにはこの合言葉は避けて通れないはず。


 「開けーゴマっ!」


 この言葉の瞬間やはり機械的な音がガシャンガシャン鳴り響く。

 地響きがし、狼狽えるしかない。

 今度こそなにか良いことが起こるはず。

 

 その期待も虚しく、バタンという音とともに浮遊感が襲う。「うわぁ!」と驚きながら2mほど落下した。落下先には藁が敷いてあり重傷は免れたが背中を痛る。また窓が遠ざかってねえか?


 「お、お前、ほ、本当に全部引っかかるんだな。」


 「この罠作ったやつ絶対に異世界(こっち)のやつじゃないだろ!なんで開けゴマまで対策されてやがるんだ!」


 カズマサがとうとうカッコつけるのをやめ純粋に笑いながら落とし穴を覗く。


 塔の周りにある様々なギミックにキレる、がそんな時間はない。まだまだ試さなきゃならない。


 ー


 あれから色々試した。

 塔に土下座してみたり、

 もう一度落とし穴にハマり穴の中を探索したり、

 塔にある旗を砲炎矢で撃ち抜こうとしてみたり.....


 さすがに最後のはカズマサに「ちょ、待てよ!」と、止められたが、どれも失敗に終わってしまった。

 一体なにタクのモノマネなんだよ。


 「やっぱ地道に登るしかねえのかー.....」


 「最初っからそう言ってんだろ。」


 「大体偉そうに言ってるけど何かわかんなのかよ。」


 「当たり前だ。この塔作ったの俺なんだから。」


 性格の悪さの根源がわかった気がした。

 

一話を三分割して、少しずつ更新していく予定です。(なるべく週一に.....)

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