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テンションの高い亡霊


 店を出て家に戻り街を出るための荷造りを始めた。まあ俺もミウもそんなに荷物は多い方じゃない。非常食とこの街で買った服をリュックに詰めていく。もちろん俺が持つ予定だ。俺だけの荷物なら文句はないがミウの荷物も持たなきゃいけないのが面倒なところ。ただ今まであまり服を変えてないのを見てると少し許せてしまう。今日は早めに寝て明日に備えるか。


 ー


 目覚めてすぐ、身支度を済ませ街を出た。シルベストの時のように誰かが送ってはくれなかった。まあこの街の知り合いなんてミウはほとんど会いたくないだろうがな。

 

 街の門を出ると気持ち程度舗装された道を歩いて行く。

 取り敢えずこれからの目的は各地にいる"カラス"とやらに会いに行くことだ。彼らに会えば多少なりともこの世界の情報は得られるだろうと踏んでいる。 

 そんな思いの中、小一時間ほどショウタとミウの他愛無い会話を続けていると途中で道の端で青年が座り込んでるのが見える。疲れてるのか弱ってるのか、反射的に話しかけようと近づこうとしたがミウに止められてしまった。


 「あんなのどっからどう見ても怪しいでしょ。」


 「えーそうか?」


 警戒心のないショウタを尻目に怪しいポイントをミウが解説してくれている。疲れているにしては息が上がってる様子はないし、弱っているにしては身に纏っている服が綺麗すぎる。

 ちなみに見た目は八頭身程ありそうなスタイルの良さに、髪は黒髪に薄めのセンター分け、筋肉質には見えないが動けそうなくらいには引き締まった体をしている。服装では、大学生が着てそうなスポーティーで動きやすそうな服だ。上下黒の上はパーカー付きのスポーツウェア。

 確かに見たところこの世界の服ではないし、すぐ近くには隠れて見えなかったが剣の刃はシンプルな造りだがその側面には禍々しい模様の入ったダガーとその鞘を見つけた。


 「確かにこいつは危ないな...」


 「ほら分かったでしょ。こんなの無視よ無視。」


 ミウはショウタには見えない危険なポイントを教えてあげたことで少し誇らしげな声で胸を張るがすぐに背中を軽く押しながらこの場を去る様に促す。異世界での恐ろしさを侮っていたショウタに警告をする様にいたその人物に無視を決め込もうと提案.....というより強制によりこの道を早歩きで通り過ぎようとする。


 「えー!助けないの?話しかけないの?」


 「うわぁ!自分からそんな言う奴がいるか!」


 そそくさと歩いていると件の男が突然立ち上がりながら話しかけてきた。割と高めの声だが男であることがわかる。ショウタはそれに驚かせ咄嗟のツッコミが出てしまったがミウは武器を構え軽く後ろに引いていた。

 だが男に敵意はなかったらしく慌てて手を上げ投降の意思を示した。だがそれでも警戒を解かないミウを見て男は自分が何者なのかを語り出した。


 「俺カズトって名前。ミヨシカズト。ショウタさんと同じ転移者組ってわけ。」


 男が明かした正体に思わずショウタは安堵する。やはり転移者であったと。他の転移者から服だけ剥ぎ取ったこの世界の狂人なのかと。


 「お、おうそうなのか。てかそんなに話しかけなかったの驚くことか?」


 「そりゃあそうっすよ。今までの人たちはみんな意気揚々と手を差し伸べてくれたんだから。」


 爽やかな顔をした好青年、ミヨシカズトはこれまでも同じ様な行為をしていたことをさらりと自白した。

カズト曰く、ここまで来た転移者は皆調子に乗っており、自分の力を過信し、そこで途方に暮れた様子を見せれば誰もが手を差し伸べようとしたようだ。


 「なんでそんなことをするんだ?」


 「いやーね?俺だってこんなことはしたくないんだけど、これも"ボス"からの命令なのよね。」


 何気ない質問をしてみたつもりが思いがけず新しい情報が入った。というかこの世界でボスという名が似合う人など1人しかいない。

 

 「そのボスってどうせテツジさんだろ。」


 「あったり!流石っすねショウタさん。」


 ショウタにとってこの言葉は褒め言葉にはならない。なぜなら当たり前のことを言っただけであって何か特別に閃いたわけでもなく、自分だから辿り着けたわけじゃない。誰でもあの人に会えば同じ答えになる。

 問題なのは誰がやったかじゃない。なぜこんな事をしたかだ。

 一応カズトにストレートに聞いてみるが...


 「再度聞くがなんでこんなことするんだ?転移者にやってるなら同じ仲間だろ?」


 「だからこそですよ。同じ仲間に死んでほしくないのがボスなりの考え方なんじゃないですか。」


 たしかに、そう言われれば納得するしかない。でも納得できないこの気持ちはなんだろう。だったらこう、もっと優しいやり方があるんじゃ.....。きっと不器用なんだろう。

 少し置いてかれてるミウが服の袖を軽く引っ張ってくる。ショウタが気づかないふりをしてたらさらに爪でつねってくる。さすがに気づかざるを得なかったがショウタだってイジワルで向き合わなかったわけじゃない。カズトがテツジさん側である以上、油断することは出来ないから目を離すことができなかったのだ。

 やっとの思いでショウタを振り向かせたミウが言葉は発さず自分の胸を指差した。ショウタもここまでの逆セクハラを受けたことがなく、急な出来事に慌てながらミウを納めた。


 「ミウさん。気持ちは嬉しいですが状況を考えてもらえるとありがたいんですが.....」


 「!!!」


 まさかそんなに怒るとは。話終わる前にグーで顔をいかれてしまった。いやはや反省反省。

 ショウタを殴った後口の形で「コ!コ!ロ!」と大きく口を開けて伝えた。どうやらミウは情報が正しいかが本当か読心魔法で暴いてみろと言っていたようだ。

 ミウが言ってることは正しかったがショウタが警戒していた理由はこの心を読むことに関係している。読心魔法は、いやそもそも魔法は、自分の中の電気をつけるように使われている。使いたい魔法のスイッチをつけて使用するイメージだ。

 ショウタは誰か人が見えた瞬間読心魔法のスイッチをカチッとつけていたはず。それなのに彼は、カズトは心の声と口から出る声が全く一緒なのだ。これは恐ろしいことで、あのテツジさんでも多少は違ったり、声音が変化したりする。


 「こんな事をした後になんですが、お2人を次の街に案内してあげようと思いまして。」


 「.....それは嬉しい誤算だ。てっきりテツジさんからの刺客だと疑ってしょうがなかったからな。」


 「.....ん。」


 カズトからの嬉しい誘いをもらってまた危うく警戒を解いてしまったが、それをミウは気づいてたらしく気を引き締め直してもらった。



 休憩をとった後、3人は次の街に向けて再び歩き出した。

 この国はどこまでもあの人の管轄内だと言わんばかりに街までの道が舗装されている。日本の公道のようにコンクリートで平らな道が続いて、たまにベンチがあるような便利な道ではなく、平らではないが歩けないでもない森路に昼間は見えないが夜になると謎の原理で出現し光る街灯。しかもその街灯を辿ると自然と先にある街に着くようになっている。

 これだけでもイージーモードなゲームに思えるがその上死なないのである。さすがに簡単すぎて不審に思うのも頷ける状況だ。

 まだこの世界のことを知らなすぎることを再度理解したショウタは何気なくカズトに聞いてみることにした。


 「この世界って街とかはそんな発展してないのに技術?というか物は随分と発展してるよな。それも全部 "ボス"のおかげなのか?」


 「んーそうっすね。この世界の便利なことの9割は "ボス"が関わってると思いますね。あと警告っすけどあんまり外でテツジさんのことを"ボス"って言わない方がいいっすよ。」


 やはりというか、本人がいないのにその存在っぷりを知らしめてくれる情報とおまけに小言を頂いた。

 どうやら外ではボス呼びを控えた方がいいらしい。

 それはテツジさん本人の影響かそれとも他に原因があるのか。ちなみに前者だと思う。

 なぜなぜと質問ばかりだと相手が退屈すると思いショウタは会話の趣向を変えてみようと思う。


 「カズト君は大学生くらいかな?人生の先輩である俺にも悩み事があれば全然頼ってくれてもいいんだよ。」


 「先輩のお言葉ありがたく頂戴します!でも大丈夫っす。男カズト、20歳にもなれば自分の道は自分で決めるっす。」

 

 若者の、いや人生をエンジョイしてそうな人間の言葉を久々に聞いたショウタは思わず目を逸らす。今までつくられた明るさは嫌というほど見てきたが、いきなり飛ばされた未知の世界を生き抜かなくてはいけない状況でこんなことを言えてしまうその前向き精神に焼かれてしまう。


 「あ、やっぱなし。手伝って欲しいことあったわ。」


 「あるじゃん!」


 あれだけカッコつけた手前何も手をつけなくていいのかと思った直後先ほどの言葉をすぐに撤回したことをつい気持ちが乗ってツッコむ。だが手伝って欲しいと言われたら内容を聞いた直後今まで黙って聞いていたミウも驚き声を漏らしてしまう。


 「テツジさんを裏切ろう計画を一緒にやって欲しいんだ。」


 こういってすぐショウタは握手を求めるように手を差し伸べてきた。それと同時にさりげなくもう片方の手をダガーの柄の部分に手をかけている。

 きっと返答次第ではすぐに切り掛かってくるだろう。

 だがカズトはまだ知らないかもしれないがショウタは死なないスキル、「無限不死」がある。痛覚はあるが瀕死のダメージを負った瞬間また元に戻ることは先の戦いで学んでいる。たとえどんなに早くダガーで攻撃をされてもこの距離ではまだ攻撃方法的にこちらに分がある。

 ただ、できれば傷つきたくない思いで読心魔法を発動しておいた。その瞬間この世界でどれだけ生き、どれだけの修羅場を潜り抜けたかと思わせる非情さを見せつけられる。


 (狙うのはあなたじゃない)

 

 最初に心の中の言葉と口から出てきた言葉が同じだったのは素直な人なんだからだと思った。だが違う。

 カズトは意図的に心と頭を一体化させたり別々に切り離したりしている。それも0から100まではっきりと。

 側から見たら、街までの森路で握手をしてるように見えるだろう。しかしショウタからしたらニヒルに笑った悪魔が、より強大な邪神を討たんと誘うようにしか見えないし、そうとしか聞こえたかった。


 全体をみえているのは自分だけだとわかっているショウタはこの緊張した場面を穏便に済まそうとする。


 「これもなんかのテストみたいなやつか?だとしたらお前もテツジさんも趣味が悪いぜ。」


 「そんなんじゃないですよ。この"眼"をみればわかるでしょう。」


 ショウタの軽口など一蹴し、カズトは逃げるなと言わんばかりにくわっと"眼"を開けて主張する。

 負けじと目を合わせにいったショウタだがすぐに返り討ちにあってしまう。

 それもそうだ、カズトはただ主張をするために"眼"を改めて開いただけではない。変化していたのだ。先ほどまでは何の変哲もない黒色の双眸だった。

 今はというと、青みがかったカズトの双眸にはまるで全てを見透かすような迫力があり、どこかで見たような模様が薄く見える。


 自分だけだったらプライドなどその辺に投げ捨てホイホイとついていき、時の強者に身を任せる愚かな回遊魚となっていただろう。

 ただ今は事情が違う。何でか知らないが死なない俺だけではなく、いつ死んでもおかしくない、か弱い命がショウタの後ろにはある。これは今までのミウを見てきたからこそだせる評価だ。

 こんな危ない世界で逞しく生きようとする以外は、ショウタがよく知る嬉しいことがあれば笑い、嫌なことがあればメンタルが崩れるそんな普通の10代の女の子だ。

 後ろにミウがいることを確認し、覚悟を決めようとショウタは一度ミウを見つめた。

 だがショウタはミウの今の状態に驚き困惑した。先ほどまであれほど警戒しろとうるさかったミウが目を瞑り下を向いていたのだ。

 

 覚悟がブレてしまった。

 

 あれだけミウを守らなきゃいけないと分かっていたのに、この状況をすべてわかってしまったミウは降参しようと態度で訴えかけている。


 「なんだ、もうわかってるんすね。」


 ミウの態度を見たカズトがあっけないと言わんばかりに笑う。

 そのまま真っ直ぐ歩いてショウタの手を無理矢理握りどこか見下すように言う。


 「交渉成立っすね♪」


 手を離した後カズトは1人満足そうに次の街へ歩いて行った。

 この状況に対し、ムカつくや怒るといった感情は出てこない。ただただ情けなかった。今すぐ自分を殴ってやりたい。勝手に舞い上がって、勝手にわかった気になって、その結果が自分より若い女の子に迷惑をかけながら勝手に了解されてしまった。こんな自分が情けなく、惨めだとどの視点から見てもそう思えてしまった。

 

 「ほら、私たちも行こ。」


 目は開けたがまだ顔が俯いたまま、それでも奴についていこうとミウは重苦しい提案をしてくれた。

 つい1時間前までは適当な会話をしながらずんずんと歩いていけたこの道も、今は見たくないが見なくてはいけない背中を追う作業となっている。

 


 一歩二歩と歩いていくうちにショウタは闘志の炎がパチパチと焚き火のように少しずつ燃え上がっていく。ショウタは一度詰まったゲームは少し間をあけ1人脳内会議をした後クリアするタイプの人間だ。

 奴とどう戦うか、ミウをどう離すか、奴を倒すことで今後テツジさんとはどうなるのか。様々な可能性を考え突き詰めたが答えは結局一つだ。


 あいつを倒してミウを安全な状態にしてやらねば。


 どんな可能性を突き詰めても結局ミウのことになってしまう。いつからか家族のように想い守ってやらねばという気持ちが爆発してしまったのだ。

 ただショウタはまだ気づいていない。手段が目的に変わってしまっていることを。ミウに案内してもらい願いを叶えようとしているのが、ミウを守ることだけしか考えられていないことを。

 

 そのことに気づかずショウタはカズトに提案する。


 「なぁ、トイレ行かねえか。1人だと危険かもしれないし連れションしてくれると助かるんだが。」


 「あぁ良いよ。なにが命取りになるかわからないっすからね。」


 了承した後に自分が誰と話してるか再度確認したカズトがキャラを思い出し返事をする。


 ミウはトイレに行くことは理解できたが連れションの意味が分からずショウタに聞こうとするが躊躇われる。なぜならショウタの顔が明らかに何も聞くなと言わんばかりに強張っていたから。

 きっと無茶なことをする、そんな予感がするから何も言わないで待っていようと決めたのだ。


 「私、ここで待ってるから。」


 そう言ってミウは近くの木に背中を丸めて座り込んでしまった。また気を遣わせてしまった罪悪感がよぎったがもう止められない。誘ってしまった以上もう行くしかないのだ。


 ー


 連れションをするために川辺に来た。本当にするわけないと思ったが緊張からか少し出してからカズトに話しかける。


 「あー...やっぱさ、さっきのなしにしてもいいか?」


 「さっきのって...なんのこと?」


 「裏切るって話をだよ。」


 「ふーん....」


 ズボンを上げてなんでもない話をするかのように先程の交渉を決裂させようとした。

 だが相手の反応はイマイチでどこか悩んでるように反応する。

 

 少しの間考えた末カズトは腰に着けてるダガーの柄を握りながらショウタから目を背ける。


 「じゃあ.....あの子殺すしかないか。」


 「いい訳ねえだろっ!」


 目を背けた先にいるミウを見据えながら「殺す」という言葉を使う。

 その言葉を聞いた瞬間火山の噴火のようにショウタの怒りが爆発する。クーニッヒを出る時に、もしものためにテツジさんに貰った真剣を振りかざす。剣道なんてやったことはないが鞘から外さず、力一杯カズトに向けて突進し真剣を振り下ろす。

 

 ショウタが刀を鞘から抜かない理由は、実際に自分が人を傷つけることに躊躇いがあったのがほとんどだ。

 それは物理的なことだけでなく、言葉でも人を傷つける時には躊躇うし、今この行動をしたら誰かに迷惑をかけてしまうんじゃないかとビクビクしながら生きてきた。

 

 でもそれは、自分が主体の場合である。

 今回は、違う。家族の様に思っているものをなんの抵抗もせず殺されてたまるものか。

 今までは普通に生きてきたのでこんな思いをさせることも、させられることもなかったから初めてのことだった。


 怒りに一心不乱になりながら振り下ろした鞘に入れられたままの刀は確かに鈍い音をしてカズトを打ちつけた。


 「まあ、こんなもんだよね。」


 「くそっ!.....」


 打ちつけられたかの様にみえたその一撃はカズトの人差し指一つに止められていた。

 

 おかしい。テツジさん直属の部下の2番手の目を持ってお前は強いと言われたんだぞ。

 そいつに鍛えてくれと頼まれたんだぞ。

 ここまでの差があるのかよ。


 指一つで止められた焦燥が、煽られた返しにありきたりな毒を吐く。

 まだ出来るだろうと言わんばかりにカズトは刀を指で弾き、使わない左手を背中に回し挑発する。

 同じ攻撃は意味がない、そう踏んだショウタは別の角度からの攻撃を試みる。

 圧倒的なチート武器べフライヤーはテツジさんに返してしまったので代わりに買ったその店で売っている最も安いチープな弓を構える。


 「砲炎矢っ!」


 「スキルか。悪くないね。」


 3方向に75度の角度で放った後、今あるありったけの炎の矢がカズトを狙い続ける。

 それを最初は軽く避けてやろうというスタンスでいたカズトは悪い予感を察し、少し後退りした後、移動しながら炎の矢を必死に避ける。

 悪い予感は当たっていて、1手目の斜め上に放った矢はその場に居座るだろうと判断したショウタの策である。あとコンマ数秒判断が遅れれば一度空中で静止した矢が速度を上げてカズトの脳天目掛けて射るところだったのだ。


 もう2つの矢は避けるだろうと予感した場所の先に追撃する様に仕掛けられている。

 上からと前からの乱撃にカズトは回避と右手だけで応戦する。


 「気持ち悪りぃ...」


 「ははっ....」


 ショウタは目の前の人間の様相に絶句し、薄気味悪い様に言葉を出す。目の前の状況を整理するために言葉を出すのだがこんなことにリソースを割かせるなと思う。

 カズトは笑っていたのだ。気味悪い程に。

 それは攻撃をされてるという事実に対する興奮なのか、それとも攻撃が貧弱すぎて母性本能の様な笑いなのか。

 どちらであっても気味悪いことに変わりはないがショウタは攻撃を絶やさない。

 再び直接カズトを狙わない矢を何本か放つ。

 その刹那、攻撃が止んだのが理解できた瞬間踏み込んだその地面が地雷が爆発したのかと錯覚するほどの抉れ方と音を出しながらカズトは接近する。右手しか使わない縛りを実行するという脳の命令に従いすぎて体のどこよりも右手を前に突き出しショウタの首を狙う。

 直接の攻撃を止めた瞬間に接近することはわかっていたショウタは手を打っている。

 だがその想定した速さを上回りカズトの手が、人差し指が、ショウタの首に触れる。

 たしかに触れた、右手に力を入れこの首を捻りとる勢いで接近を続けてたが不意に体のバランスが崩れる。崩れたことに気がついた頃にはもうショウタは消えていて、その場には自分といつの間にか仕掛けられていた今度は本物の地雷爆弾がある。

 そこに遅れて落ちてきた炎の矢が目の前を通り、足元にある地雷爆弾目掛けてその矢が突き刺さる。


 「あ...れ.....?」


 興奮し、目の前の事実を飲み込むラグがやっと追いつき、そして吹き飛ぶ。

 



 


 森で戦っている手前あまり火は使いたくなかったがやむを得ない。しかし戦場は川が近くの砂利が多い場所だ。自然も許してくれるだろう。

 転がっている黒パンツを急いで着て、爆発の跡を眺めながら自然に謝罪した。

 なぜ全裸からスタートしていたか、自分でも理由はわかるが分かりたくない事実がわかってしまった。

 途中まではショウタの策がハマりいつもの調子ではなさそうではあるが、カズトを翻弄していたのだ。ただあそこまでの跳躍力があるのは想定外で自分の魔法の裏技を使ってみた結果、全裸で自然に謝罪をする羽目になる。

 本来なら爆発のギリギリでもなんとか回避するのに間に合うフィジカルはもう得ていたがあそこまで接近されると回避に専念していたら狩られていただろう。 なので自分の中にある収納魔法の容量を空にし自分をその空間に送り込んだのだ。ただその空間は呼吸が出来ないから長く入れず、水泳弱者のショウタは入れて十数秒程だろう。

 すぐに容量を空にするのは難しいが、自分の収納していたものを加工魔法を用いて簡易的な地雷を作ったり、相手のバランスを崩すための矢尻が鉄になっている矢を作り真上に放ち相手の腕に当てたり、と足りない頭を回し続けて今に至る。


 「とにかく、今のうちにミウと逃げ。」


 「どこ行くの?ショウタさん!まだまだまだまだまだ!終わってないだろっ!」


 先の爆発でよりヒートアップさせてしまった、ハイテンションの亡霊がみえる。

 いや見えない。

 いや、見える。

 一瞬の現実逃避も虚しく、目の前で燃え盛っている炎の中から声がした次の瞬間には影が見えていた。

 一歩、二歩と近づいてくるとわかるがカズトは無傷だ。

 でも収穫はある。カズトの両腕を見ると袖がなくなっている。左腕の袖もなくなっているのを見るに、縛りを守れなかった。


 「なぁカズト。あの挑発はどうしたんだ?まさか油断してたら足元救われたってか?」


 「ああ、そうだね。マジごめん。いつものパターンだと思ってたからさ。」


 今度はこちらが挑発を仕掛けようとしたがするりとかわし、代わりに謝られてしまった。

 いつものとカズトは言っていたがまだ隠されてることがあるらしい。

 

 ショウタは再び弓を構えなおし収納魔法から矢を手に取ろうとする。だが手の中はいつまで経っても空を掴み取る動きをし攻撃態勢にはいれない。

 それもそうだろう、先程の爆発を逃れるために自分の中を空にし今の情けない姿になっているんだから。


 「俺もちゃんと殺すからさ、そっちも...ちゃんと殺すかでやってよ?」


 「ま、待て、俺まだ半裸だし、てか矢も切れた、くそっ、いけると思ったのによ!」


 カズトは待った無しと言わんばかりに近付いてくる。


 手にはいつの間にか2つのダガーが持たれている。一つはさっきの禍々し模様が描かれたダガー、もう一つは鋭く尖った刃幅が酷く短いダガーを持っている。


 ショウタの情けない言い訳は聞かないぞと言わんばかりにうすら笑いを浮かべながら近付いてくる。

 ほんとは口角が顔面から突き出るほど笑いたいだろう。


 「ごめん.....もう無理...だ...。」


 「!?」


 カズトがこちらにコンタクトを仕掛けてきた途端攻撃してくるだろうとショウタはよんでいた。

 なので爆発の前に近くに置いておいた真剣(鞘)を拾い上げ、剣道でみた構えを見様見真似で真似る。相手も刃物である限り縦に構えていれば切り掛かってきた時に反応できる、そう思っていた。


 ー



 「ダガーはね、切るより突くほうが強いんだ。これから学んでいこうね。」


 「.....?」


 「あぁ、もう聞こえてないか。」


 構えてた、はずだった。

 カズトが飛びかかる時は爆発的な音を立て、地面を抉り、急接近してくる、というのが今までのパターンだった。

 ただ今回は違う。

 音が消えた。

 自分の呼吸がこの空間で一番うるさくなるほど。


 集中した。

 構えた真剣が動かなくなるほど。


 目を閉じなかった。

 カズトのことが今後一生目に焼き尽くすほど。


 

 それは死んでいたからだ。

 一瞬で鼓膜を潰され、殺されたから。

 それは死んでいたからだ。

 働かす頭を突かれ、殺されたから。

 それは死んでいたからだ。

 既に死んでいて、目を閉じるという動作を

 必要としないからだ。


 ショウタの現状は悲惨で、相手を油断させるために適当な言い訳を述べ、かかってくると分かったなら防御の体制を取りカウンターを仕掛けようとする。だが相手はそれを優に上回る速度で相手の前に立ち、そこからまず両耳を潰し、鼻の筋の頂点のあたりから脳天に下から突き上げる様に突き、反対側も断面図で見れば×の形になるように突き上げられた。その後は心臓を突き、内臓各所を突き、腕足の筋肉の筋を突く。


 何も考えられないまま、もし次目が覚めた時は記憶がぶつ切りで思い出される状態になってしまったのだ。




 「それじゃあミウちゃん、行こっか。」


 「.....」


 長いような短いような時間を待っていたら、半裸のショウタを肩におぶったカズトが帰ってきた。

 そして早々に次の街へ行くようにミウを誘う。その誘いに目も合わせずうずくまった状態から立ち上がり黙ってついていく。

 時々前を向くと死んだ様な目をした、いや本当に死んだ目が合って逸らしたくなる。


 私は人が死んだ姿を、初めて見た。

 

続きを書いてみたので評価やブックマークをお願いします。あとしっくりこなかったので作品の名前を変えます。

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