反省会
あの子の事を考えて、目を擦って、気が付けば寝ていた。朝にテツジさんからのピンポンで起きた時に昨日の夜をふと思い出した。昨日と同じ服で躊躇いはあったがすぐに2回目を押されたため、仕方なく扉へ向かった。
「おぉミウちゃん。ショウタ君はいるかな?」
扉を開けた瞬間怖い目つきが急に柔らかくなった。自分より弱い相手だと確信してだろう。
「います。ただまだ寝てて.....」
そう言うとテツジさんはため息をついてあいつの部屋に向かって行った。いつもの近寄りがたい鎧を着ていたからおそらくこれから仕事に向かうのだろう。
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お風呂に入って、朝食を準備して、いざトーストの一口目を食べようとした時、ドタドタと廊下の方から騒がしい音がしてきた。私が完全にパジャマなのに比べて半分パジャマ、半分普段着の状態のあいつが忙しない様子で私のトーストを一枚盗んで行った。もちろん一瞬ことわりをいれられたから許したがそうじゃなくても今の状況では怒るに怒らない。あんなに恐ろしいのに急かされてはかわいそうとすら思える。
トースターがあと一分で出来上がるくらいの時、あいつは忙しそうにいってきますと言って家を出た。微かにこの状況に既視感があった。でもほんとうにそれだけ。いってらっしゃーい、とダイニングから大きな声だけで見送りをした。どんな仕事をしようが心配はない。テツジさんがいるんだし。
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「すっかり夕方になったな」
「はい、そうっすね.....」
疲れていたせいか乾いた返事しかできない。
それもそうだろう。あんな数をたった4人で戦い抜いたのだから。まあほとんどテツジさんにもってかれてしまったけど。テツジさんかはもらったこのべフライヤーという弓が強すぎてその時の疲労を忘れてしまっていたくらいだ。困っていたデカさも先輩たちの腕に埋め込まれていたチップのような物に吸い込まれていって簡単に収納できてしまった。
くそ!自分の荷物ばっか収納魔法の中に入れてたせいでべフライヤーを自分でしまえなかった!ワンチャンどさくさに紛れて貰えてたかもしれなかったのにな。
だが疲れたのはここからだ。なぜか助けてやったはずのノースカイの住人から非難されてしまった。街に入った途端「お前らのせいだ」だとか「出てけ!」だとか。そんな中無理矢理テツジさん達は手慣れたようにズカズカと入っていき街の1番偉そうなやつに話しかけた。
「あなたがここのトップで?」
1人の白馬の先輩が話しかけるが聞こえていないと言わんばかりと無視をしている。だがテツジさんがため息をつき、言葉を吐いた瞬間全員の息が止まったように空気が凍りついた。
「——早く答えろよ」
最初に会った時のような警戒の声ではなく完全に威嚇する声で。少し遠くでその様子を見てた俺でも不思議なオーラのようなものを感じた。それはスキルや魔法なのか、それとも五十嵐哲治その人からでるものなのかわからなかった。
その後地元のご飯も食べてテツジさんを待っていた。ご飯の内容はこの世界に来て久々に見るような物だった。木のスプーンに木の皿、その上に焼かれた肉とどこで採れたかわからない草が一緒に入ったご当地ご飯。全てが謎で正直食べる気は起きなかったが先輩達がバクバクと食べてるのを見てバカらしくなった。振り返ってみると今までの街は衣食住がしっかり揃っていて困らなかった気がする。この街の人たちは料理はシンプルで家も歴史の授業の最初の方に見たような家が並んで見えた。服も上下揃えてるのではなく部族のような上裸だったりあまり服に適してなさそうな素材の服を着ている人が多かった。やはり俺は出てきたところがラッキーだったのかもしれない。
ー
気づいたら夕方になっていた。先輩と和気藹々としていた時に奥の家からテツジさんらが出てきた。数時間見てなかっただけなのに偉い人が痩せ細ったように見える。目の下にあんなクマあったっけ?
話し合いの結果ここはテツジさんが面倒を見ることになったそう。今日のところはとりあえず帰ってまた日を改めて追加で話し合うそう。
用事が全て終わったらしくみんなで黒馬や白馬に乗ってさらに飛び立った。黒馬に乗るまで街の人から煙たがられたし見送りにも誰もきてくれなかった。よほど嫌われたことをしてしまったらしい。
「すっかり夕方になったな」
「はい、そうっすね.....」
こんな初仕事の後だからこんな返事しかできない。ここまで綺麗に見えない夕日も久々かもしれない。そうそう、大事なことを言うのも忘れてた。俺、一回死にました!
「どういうこと!?」
さっきまで頬に手を添えて適当に聞いていたのに急に近づいて心配そうな目をしながら聞いてきた。やめろそんなことされたらドキドキしちゃうだろ。今日のお互い何があったか会の中で1番の食いつきだ。
あの後特に会話もなく家まで送ってもらった。一つ気になったのはノースカイに向かっている時の表情とは違い少し険しい表情を時々俺にむけていた。なにか気に触るようなことでもしたか?原因を考えながらミウのがいる屋敷に戻った。
「ただいま〜」
「おかえり」
疲れた俺にテンションを合わせてくれたのか少し冷たく返事をしてくれた。優しいね。いや、優しくない。リビングに入ると棒状の甘いお菓子をポリポリと食べてるミウがいた。そんなミウを横目に見ながらソファに沈み込むように座った。
「朝はごめんな。いやー急いでてさ。」
「別にそんなの気にしてない」
不機嫌なのか?わからない。今まで男兄弟、男親戚しかいなかったから年下の女の子の機嫌の取り方なんて自虐話しかできないのに。もう手札は少ないからできれば取っておきたいんだが.....。うんうん唸りながら考えていると、「はぁー」とため息のような、気持ちを切り替えるような、そんな仕草をしていた。
「はい、これ一本食べる?」
「ああ、できればもう二、三本くれ」
お菓子は一本しかくれなかったがミウは隣に座ってきた。あの時の見る物全てを魅了する笑顔ではなく、全てを聞き許してくれる母のような笑顔で尋ねてきた。
「仕事、どうだった?」
「え?ああそりゃキツかったよ....」
さっきまでの愚痴を一通り話した後、戦いの中で一回死んでしまったことをミウに話した。
「俺には元々無限不死とかいうよくわかんないスキルが最初からついててさ」
「そんな怖いものどこで身につけたの」
さっきはあれだけ近づいてくれたのに気味の悪さ故か少し惹かれてしまった。そんな引かなくたっていいじゃないか...
「ちがうから!この世界に来た時からついてたものだから!」
「ふーん.....」
あんまり信用されてないようで。
「それでさっきの...死んじゃったっていうのは?」
「ああ、結構簡単にやられちゃってさ。」
あの時の自分のダサさといったら思い出したくもない。あんなにテツジさんらが期待してくれてたのになぁ...
「...強い武器もらって適当に撃ちまくってたら後ろから一突きだったよ」
「えー...ダサい」
ダ、ダサいとはなんだ!ダサいとは!
こんなふうに言ってるが優しく笑いながら言ってるので安心したんだろう。まあ俺も冗談半分で聞いてほしい話だ。実際は今生きてるわけだし。
「この武器を一回見てほしい!昂っちゃう気持ちがわかるって!」
そう言いながらべフライヤーをミウに見せた。ミウは武器に興味がないのかリアクションに困った顔をしながら少しだけ共感してくれた。
「まぁ分からなくもないけど....」
....これを共感って言っていいのか?
と、まあこんな感じで俺視点の反省会が終わった。反省会と言いつつ後半はほぼ俺の愚痴だったが。自分の話を聞いてもらった手前やはり相手の話も聞いた方がいいのかもしれない。
「あーなに?そっちは何か話しておきたいこととかあるの?」
「んー...ある。」
そう言った後ここにきた初日寛ぎもせずどこに飛び出していったか、そこで何があったか、今までの友人関係が粉々になってしまったこと、色々な話を聞かせてくれた。もう落ち着いたのか少し悪口を添えつつ、どんどん話が溢れ出してきた。終始テツジさんの娘をあの子と呼んでたのは少しでも関わらない方があの子のためだとかよくわからない意地をはっていたり。あの日急に自分は変なのか聞いてきた理由もわかってすっきりした。
「まあなんだ、そういうことは思春期だとしょっちゅうあるもんだ。その友達との仲直りまでの間俺が1番の友達でいておいてもいいんだよ?」
「え?友達?」
実に心外な言葉が飛び込んできた。ここまできてまだ友達じゃなかったのかよ。友達のハードル高すぎるだろ。あの子ちゃんはよく飛べたねこのハードル。
「友達じゃなかったらなんだよ俺たちの関係性。」
「恋人未満、友達未満?」
「それただの赤の他人だから!もうちょい関係性進ませて!」
「えー、じゃあおじさんで。」
俺はお前の親戚か。反省会がいつのまにかまたいつもの雑談に戻ってしまっていた。でもこれでいい。傷心中の彼女には反省なんてタイミングじゃないだろうしな。
ー
この無駄に広い屋敷はキッチンも無駄に広い。ここの広さだけで一人暮らししたての俺の部屋くらいはあると思う。そこにある冷蔵庫には野菜やら調味料やらがびっしり入っていて実家の冷蔵庫を思い出す。
反省会やら雑談やらをしてたらいつの間にか日は暮れていて腹も空いてきた。ただ外に出るのはミウが嫌らしく久しぶりに料理をしてみようと試みてるとこです。
何を作ろうかキッチンをうろうろしているとミウがやってきた。エプロン姿で。
「あんた料理できるの?」
「当たり前だ。あれだろ、お湯いれて3分くらい待てば立派なものが出来上がるだろ。」
「お湯だけで何か作れるわけないでしょ?そんな魔法があるわけないでしょ?バカじゃないの?」
そうだったここは異世界。料理ができないやつの常套句もここじゃ通用しないのか。というか口悪くない?そんな呆れた目で見なくてもいいだろ。
「まあ私もカップ麺しかつくれないけど...」
「知ってるじゃん!」
伝わってるなら最初の方の悪口いらないだろと。俺から一本取ったのが嬉しかったのかニマニマしながらカップ麺を探し始めた。ニマニマすなニマニマ。
あっちの棚をさがしたりこっちの棚を探していると棚一面に広がる無数のカップ麺ゾーンを見つけた。やはり日本人。綺麗に味ごとに並べてあるしどこかで見たことあるような表紙までしっかり似せられている。
しかしいろんな派閥がいたのかどのかで見たことあるものが乱立していてもはやわからん。焼きそばなんだろうなという情報くらいしか読み取れなくなっている。
それぞれ好きな味やらメーカーやらのカップ麺を取った。なんで好みのカップ麺があるんですか。そんな目線を送っていたからかミウが答えてくれた。
「テツジさんがこういうのをウチにくれるの。」
テツジさんセレクションを貰っていたと。だから好みが偏ってしまったのか悩んでいた種類はどれも味が濃いものや量が通常より多いものだった。わんぱく少女にテツジさんは育てたかったのかも。
そういいつつ自分でも辛くて味が濃いやつを選んでしまった。まあここは異世界だからカロリーも転生して筋肉とかになってくれるだろ。たぶん。
ものを選んだらあとはお湯だ。さっき漁った棚の中にやかんがあったからそれで沸騰するまで待つか。そう思ってやかんに水を入れてるとミウがカップ麺に手を当てながら不思議そうにこっちも見ていた。
「水多めに入れといてやるからそんな心配するなって。」
「いや水いらないってば。いるのは魔力。魔力であっためればいいの。」
おいおいマジかよ。この世界の技術すげえな。このままだと水すら要らずに生活できるようになるんじゃねえか?
「私は魔力がないから一分くらいじっくりやらなきゃいけないけど、ママなら1秒で食べられるようになるんだから!」
「それ自虐なのか自慢なのかわかりずれえよ...」
ふふんと自慢げに胸を張っているからどうやら自慢らしい。
しかしまだ魔力であっためるというのが想像できない。感覚的には電気みたいに元となるエネルギーを派生させていく感じなのか?それともなにか温める魔法があるのか。
とりあえずミウを見様見真似で手をかざしてみた。
ミウは自分で言ったようにおよそ1分ほどで出来上がったらしくキッチンをでてダイニングに行ってしまった。それに比べて俺は1分、2分経てど温まる気配がしない。転生してきたやつだとうまくいかないとかあるんだろうか。
ー
10分が経過した。さすがに遅いと思ったのかカップ片手にキッチンを覗きにミウが来た。
「遅いじゃない。早く食べようよ。」
「そうしたいのはやまやまなんだがな。これどうやんの?」
早く言いなさいよねと言わんばかりのため息をしながらミウは俺の手に自分の手をのせてきた。
「.....いくら誰もいないからといってちょっと恥ずかしいんですけど」
「うるさい!集中して!」
いや別に思ったより手ちっちゃいなとかすべすべしてるなとか思ってないから。ツンケンしながらもミウの耳も赤くなっている気がする。
両者恥ずかしがっていると重なってる手がじわじわとあったかくなってきた。
「やっぱりあっためる魔法があったのか。」
「ちがう。なんかあっためたいなと思ってぎゅ〜っと力いれたら自然とそうなるから。」
「なんか雑だな説明。ミウもあんま分かってないんじゃないの?」
「なんか冷たくしたくなってきちゃったなぁ〜。」
ミウに煽り耐性がないらしく手の甲が急に冷たくなってきた。だがここは大人な俺。攻略方法を思いついたのだ。
ミウの手の上からさらに空いている左手をのせ、熱くなれ!と願う。
「「あっつ!!」」
2人の声が重なった瞬間ボンッ!と小さな爆発音が聞こえた。過度にレンチンしすぎたくらいの時の音に似ていた。カップ麺の中身はこぼれ、2人の右手は若干赤くなって一瞬の沈黙がうまれる。
「....そっちのちょっとでいいから分けてくんない?」
「....ちょっとね。」
分けてもらうときに普通に魔法使えるんだからいつもみたいにやりなさいと怒られてしまった。でも待ってほしい。あれは適切な指導のもとようやくできたものだから。あんな雑な説明でできるほど要領よく生きていない。まあとりあえず原理的にはさっき言った電気説が正しいみたいです。
ミウはケチな性格なのかもしれない。お菓子の時と同じく本当にちょっとしか分けてくれなかった。てかなんでカップ麺つくるだけなのにエプロン着たんだよ。
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