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黒馬の騎士


 ガシャン...ガシャン...

 重い音が少しずつ近づいてくる。

 あと数メートルのところまで近づいた時俺は目が覚めた。最初はミウが何かやってるのかと思ったがまだ隣からかわいらしい寝息が聞こえてくる。

 となるとこいつは何だ...?


 そしてとうとう俺たちのテントの前までそれがきてしまった。ただ幸運(ラッキー)なことに先に興味を示したのはミウのテントの方らしい。今のうちに逃げてしまうか、それとも頑張って戦うか。いや男サトウショウタ、ここで逃げ出したら恥よ。ただ今のところ便利人間としか成長してないから正直戦闘は自信がない。なにか今までに習得したもので工夫して戦えるだろうか。目を瞑って思考を巡らせてた。

 ここで一つ思いつく。そういえば昨日フィジカルを強化したじゃないかと。そうと分かればやってみるしかない。ミウの大剣を取り出し、鍛え上げられたフィジカル(金で)を発揮するしかない。そう決心し目を開けた。


 「うわあああぁぁぁ!!」


 もうすでに目の前に謎のそれはそこにいた。

 テントの仕組みを理解していた"それ"は入口をめくり屈んだ体勢でじっとこちらを見つめている。

 あの重い音の正体はこの甲冑だったのか!

 ということは人...なのか?

 というかミウは大丈夫なのだろうか?

 てかこれワンチャン死ぬ?殺される?

 なんか寒くなってきた気がする...

 呼吸が速くなっていく。


 「そんなに怯えるな」

 「別にとって食うわけではない」


 驚くほどの渋い声に思わずゾッとした。だがそれと同時に"話せる"とわかったことに安堵した。よく見たらこいつ武器を持っていない。だからといって殺されない保証はないんだけど。とにかくまだ死なないようで良かった。怯えてさっきからずっと腰が抜けた状態になってしまった。


 「朝からうるさいなー」

 「...」

 

 ミウは俺のテントの方に来た瞬間固まってしまった。手は剣を探してる仕草をしながら相手からは目を離さないよう、一瞬の隙も逃さぬよう、真剣に甲冑男を凝視していた。無理もない、側から見たら完全に俺が襲われてるようにしか見えない。というかミウがこんなに臨戦体制になるってことはやっぱりこいつはとんでもなく強いのか。


 「そいつから離れなさい!」


 「大丈夫だミウ!」

 「こいつは話せるやつみたいだ!」


 いつもは察しの悪い不器用Jkだったが今はすごく頼り甲斐があるように見える。俺たちのやりとりを聞いて自分がどんだけ怪しまれてるか気付いたのか甲冑男はテントを除いたような屈んだ体勢から起き上がった。2メートル近くありそうな身長に再度ビビったが負けじと175センチも立ち上がった。


 「あんた何者なんだ」


 「ショウタ君は知らないと思うがミウちゃんは一度会ったことあると思うんだけどな」


 ミウが会ったことがある?ミウさん怖い人とお知り合いなんですね...というかなんで俺の名前を知ってるんだ?


 「.....ごめんだけど覚えてない」


 「そうか、だが今は成長した君を見れた喜びでこの寂しさを紛らわすとしよう」


 甲冑男の口ぶりからしてミウとは子供の頃からの付き合いっぽいな。あと少し言い回しがキモい。これがミウの親戚なら引いてしまうかもしれん。一瞬ミウの方を見たらなぜか驚いた顔をしていた。


 「もしかしてテツジさん.....?」


 「覚えててくれたのか!」


 テツジさんなる人の方を見ると兜を外していた。

 見た目は渋いおじさん。見たところ60歳くらいだろうか。ただ髪は白髪でもなく元気いっぱいで、眼鏡もしておらず健康体なようだ。顔も整ってるのがイケおじ感を増している。


 「知り合いなのか?」


 「うん、子供の頃にお世話になった」


 確かに関わりがあったようだ。反応は薄い気がするが。てかテツジってがっつり日本人だな。もしかしてこのおじさんも転移者だったりするのか。だとしたらこの見た目もいじってるのかもしれない。あるよな、キャラメイクできるゲームとかでイケオジにしたくなる時って。俺はそのゲームが上手くなきゃイケオジにはしないけどな。だって下手なおじさんアバターだとなかなか情けない光景になってしまうからね...


 「テツジさんあんたシラスを知ってるか?」


 「ああ、その件でお前らに会いにきたのだ」


 この人の話を聞いてると益々話がややこしくなる。だがこの感じ、味方だな。それもかなり強力そうな。


 俺の自己紹介を軽くした後にテツジさんは今いる場所から少し奥の場所に良いものがあるからと案内してくれた。まんま誘拐の手口すぎる。


 「私はこれに乗ってきたのだ」


 「おぉ...」


 思わず声が漏れてしまった。見た目は黒い馬だ。

 ただそれは生き物ではなく遠い未来を感じさせるようなバイクだった。テツジさんが手をかざした途端心臓がビリビリするようなエンジンの轟音が鳴る。音に満足したのかサドルにまたがりハンドルの下のボタンをかちゃかちゃ動かすと急にサイドカーがあらわれ、乗れよと言わんばかりの視線を俺に向けた。ミウはテツジさんの後ろにまたがりテツジさんに捕まってバランスを確保した。

 か、カッコ良すぎる。俺が女の子(60)なら惚れてたぜ。ミウは嫌そうな顔をしながらしがみついてるのが不思議なくらいだ。


 「少し飛ばすぞ!」


 「はい!よろしくお願い」


 します!最後の3文字は心の中でしか言えなかった。それぐらいいきなりスピードを出し言葉が出なくなっていた。まるでジェットコースターになっているような感覚!ここまで危険なのは初めてだけどな!

いきなりさっきのスピードのまま山道へ突っ込み木々を避けテツジさんは合図する。


 「しっかり捕まっとけよ!」


 木々を避け光が刺してきた方に向かっていると崖が見えてくる。だがテツジさんは理解しながらその崖めがけて突っ込んでいく。


 「うわああぁぁぁ!!」


 勢いよく崖から落ちた。だがミウはまだ落ち着いているし、テツジさんはこの状況を狙っていたかのように笑っている。ふざけんな!やばい!死ぬ!そう思ってせめて俺だけでもと蹲っていた。


 もう落ちたのか?確認しようと周りを見渡した。

まだ落ちていない。それどころか鳥と並走している。

まさか...飛んでるっていうのか。おいおい、あんなかっこいいのに飛行機能まで付いてるって...

黒馬のようなかっこいいバイクだけでもやばいのにそれが飛んだとあれば興奮しない男子はいないだろう。

それははたからみてもわかるらしく笑いながらテツジさんが話しかけてきた。


 「どうだね?ショウタ君、男の子が好きな要素しかないだろう」


 「はい、大好きです!」


 やっぱりいくつになっても男の子はこういうのが好きなんだな。なんだか未来に希望が持てたよ。

 盛り上がる俺らとは対照的にミウは呆れたような表情をしていた。なるほど飛ぶのがわかってたから崖でもなにもリアクションがなかったしそもそも飛ぶロマンがあいつにはないんだな。ちくしょう!わからせてやりたい!


 「これから私の街クーニッヒまで直行だ」


 「このままですか。たしか飛んでも1日はかかる距離じゃないんでしたっけ?」

 

 「そこら辺の道具師(トールメイカー)のものと同じにするな」

 「この黒馬は転移者の知恵と力を合わせた傑作だ」


 そういうとさっきまで並走していた鳥をすぐに抜き去りどんどん速くなっていく。ただ身体的にはあまり速さを感じない。高速を走る車の中みたいな感じだ。

 これもきっと魔法だろう。マジで魔法の力ってすげーだな。



 2時間くらいだろうか。テツジさんと日本トークで盛り上がっていたらあっという間に時間は過ぎていた。どこ出身だとか、どんな女優が好きだっただとか。近くにミウがいるのでそこまでディープな話はしなかったが割と楽しかった。歳の差的にも久しぶりに親父と話した感じだったな。


 この街で1番偉いテツジさんがいるからスムーズに街に入れて、更にこの街にいる間別荘を貸してくれるという。


 別荘は映画に出てくるような屋敷のようだった。部屋は何個もあるし一つ一つが広い。こんな広い屋敷を2人で使うのなんて勿体無いくらいだ。テツジさんからは今日は遊ぶといい、明日からは仕事をしてもらうと伝えられたが俺からしてみれば仕事まで斡旋してもらって至れり尽くせりですよ。


 ミウは自分の荷物を置いたらすぐに出てってしまった。行きたいところがあるからと急いでいたが...なに?なんか特売?それとも限定の食べ物とかあるのか?現地民はこういう時強いな。俺は遊んで良いとか言われても何をすればいいか全く思いつかない。

 しょうがない、とりあえず昼飯食いに1人で出てみるか。

頻度はあんまりですが10話までかけました。まだまだ頑張ってみるので評価やブックマークをしてくれると励みになるのでよろしくお願いします。

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