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ババア転生  作者: ジョージ
1/1

1:哀れなババア死ぬ

ふざけるな。ふざけるな。ぶさけるなふざけるな!

白髪を揺らしながら女は、大根を切っていた。

ばんばんっと、切れ味の悪い包丁で何度も何度もまな板に大根を叩きつけながら輪切りをする。

今日は赤味噌。味噌汁が出来上がる時間を計算して、メインのカツを上げ始める。煮物や豆腐と言ったものは、旦那が嫌うため使えない。その癖健康に気にしい性格な為、旦那には100万回殺意がわいた。

朝起きて掃除をしながら、献立を考えている。旦那はランチを毎日食べに行くから昼食の事は考えなくていいが、ランチで舌を蓄えた旦那は味にうるさい。

私の人生はなんだったんだろう。そんな感情でさえも、心を慰めてはくれない。

部屋の掃除、トイレ掃除を終えひと段落した後、髪を雑に結び化粧もせず家を出た。買い物は毎日一回。毎日買い物をしている主婦は珍しい。旦那は冷凍や作り置きが大嫌いなので、こうやって鮮度の高い食材を買う為に、毎日チャリを漕ぎながらスーパーを梯子しながら汗を流しているのである。


次の日、いつにも増して暑い日だった。道の至る所に、乾涸びたミミズの死体が置き去りにしていた。私もミミズのように、いっそ乾涸びたい。深い溜息をつくと、気だるそうにチャリを漕ぐ。


スーパーに着くと、室内のクーラーの冷風が一瞬のうちに服の隙間から体を癒す。

とても気持ちがいい。

そんな安らぎも束の間、セール目当ての主婦がちょうど入り込んできた。主婦達の行進を避けながら、セールとは縁のない青果コーナーに逃げ込む。

汗を拭き、高級な果実コーナーに目を向ける。

シャインマスカット。その名を聞けば誰もが驚く、高級果実。

最近の楽しみというより当てつけに近いが、風呂上がりにこっそりシャインマスカットを食べるのにはまっている。

旦那は、お金の事は任せてきている為通帳をいざみたら驚くだろう。

指で品定めをしながら、目いったものを手に取る。

一通り買い物を終え家に帰ると、珍しく旦那が庭に立っていた。

私はシャインマスカットを傷つけないように、隠しながら玄関を開けた。気づいているのか気づいていないのか知らないが、私が帰ってきても返事すらない。


シャインマスカットを冷蔵庫の奥にしまい、夜食の準備を始める。

鍋に水を入れ、野菜を切り始める。

今日はめんどくさいので、鍋にすることにした。

スマホで料理サイトを開き、「鍋 料理 おいしい」で検索をする。


「まあ、これでいいか」


昔と比べて今は便利だ。少しの時間で料理を調べる事ができる。

スマホを持ってない頃は、料理本を見ながら料理を作っていた。

旦那は、料理本を買ってきた私を一瞥すると、毎回鼻を小さく揺らしながら小さく笑った。

旦那は、無意識的に劣等感を抱かせてくる。まるで女中のように、もののように喧嘩をすれざ、薄い愛という都合のいい言葉で包もうとする。もう私の心は、旦那と社会の不条理にぶつかり、とげとげしい歪な形になっていた。包むなら、まだ私が丸い頃にしてほしかった。


晩御飯になると、旦那はよそよそしい態度で茶の間につくと、寸分の狂いもなく出されたお茶を少し口に含み、テレビをつけた。

無言。ここ五年喋ったことはない。時より聞こえる旦那の笑い声が鼻ぬ着く為、小型ワイヤレス式のイヤホンをつけ音楽を聞いている。

旦那の声はまったく聞こえないが不自由なことは何一つない。

体が長年の亭主関白によって毒され、旦那にストレスを一切与えることなく、夕飯を乗り切る事ができる。

阿吽の呼吸。他人が見ればそう言うだろう。だが実際は違う。

機械のように自動的に動いてしまうのだ。

感情を与えられない人間は、感情が無くなっていく。

仮面夫婦。一体その仮面を外したら、私はどんな顔をしているのだろうか。


「ごちそう様」と手を合わせた頃には、旦那が爪楊枝で口を掃除している。そんな見慣れた光景に気づかれないようにため息をつくと、洗い物に取り掛かった。家事でいつしか爬虫類のような模様が染み付いた傷だらけの手が、冷水にぶつかる度に悲鳴をあげる。お湯を出して洗えばいいが、もったいない気がするためいつも我慢している。

まっくいつから私の人生は、他人の物になったのだろう。

一度しかない限りある人生を、私は消費している。


なんだが無性なな腹が立ってきたので、皿をわざと一枚床に落として割った。居間から旦那の溜息が聞こえた。

もう一枚割りたくなったが、ぐっと堪えて我慢し、皿を洗い終えた。

割れ皿を新聞紙の上に乗せていると、ふいに自分が虚しく思えた。

私が壊れても旦那は、ガラスのように古紙で包んで捨てるに違いない。


いたっ。ガラスが刺さり、血より先に涙が流れた。その涙は冷たく、血がいつもより熱く感じるくらいだ。

一息ついた頃には、旦那はいびきをかきながら寝室で横になっていた。


痛い。先程痛めた手がじんじんと脈打つように痛む。

重い体を起こし、徐ににベランダに出てみる。

星が綺麗だ。昔は簡単に感動などしなかった。

そして最近流れ星がよく流れる。

私もあの流れ星のようになりたい。

そんなことをぼーっと願っていると、私を眩い光が包みこんだ。



次の瞬間。


ババアは死んだ。




ババアなんで、不定期に更新します。

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