幕間 ナガトラ
今回はナガトラとゴブリンの話しです。
現行の物語より2日前の物語になります。
元々王国傭兵団なんて興味なかった。
出所はしらねーが報酬は確かに良かったのは事実だが、そもそも金にも興味はねぇ。
そう言うと誤解を生みそうだが、生きる為の金があればそれ以上はいらねーって意味だ。
じゃあなんで傭兵稼業をしているかって?
俺は帝国と戦争している王国で傭兵をやっていれば、どこかの戦場で奴と会えるはずと踏んでいたが、出だしからハズレくじを引いてしまったようだ。
「あんた王国の騎士だろう?なんでワシらゴブリンの味方をするのじゃ?」
「仕方ねーだろ。こんなくそみたいな虐殺見せられたら、誰だってこうするだろ」
「そんな事はありゃせん。誰もワシらの事など気にしていりゃせんのじゃ、あんた以外はの」
「そうか?じゃあ俺と会えてラッキーだったな」
「言うのー。御主名前はなんという」
「俺か?俺はタカトラだ」
灯りの無い暗い教会で外の様子を伺っている俺に話しかけてくる爺さんはジゴロ。
このスタイレム村の村長らしいがまだ会ったばかりだ。
数時間前、王国騎士どもが粛正とかいう名目でこの村に夜襲をかけたのだ。
俺も王国側の傭兵として、ここに来たが。
来てみりゃビックリだ、帝国騎士どころか敵兵と呼べる奴はいやしねぇ。
ただの亜人達が住んでいる、平和な村だった訳だ。
けれども俺がそれに気づいた時はもう虐殺は始まっていた。
直ぐに指揮官に詰め寄ったのは言うまでもないが、奴は帝国占領後ものうのうと生きてきた亜人達を粛正する事が正義だとぬかすと、数人のゴブリンを俺の目の前で、斬り殺しやがった。
完全にいかれてやがる。
解決策として、このまま司令官を叩き斬ってやろうかと思ったが、驚いた事に闇夜に紛れてアンデッド共が攻撃してきやがったんだが。
しかもその中にはさっきまで与太話をしていた奴らも白い目をしながら混ざっていやがったから驚きだ。
ハッキリ言って予想外すぎる展開に頭が回らなかったが、行動する時は今だという事は本能が教えてくれたよ。
手始めに中央広場に集められていた女子供を助ける事にした。
すでに監視はアンデットに変貌済みだったからよ、ぶった斬ってやったが、なんとも嫌な相手だと思ったよ。
そして集められてたゴブリンの中にいたルールーという村長の娘と手分けして、村のゴブリン達を村はずれの教会へと避難させる事にしたんだが。
その途中で奴に会った。
牛のような面を被った巨躯の悪魔だ。
あんな魔物は初めてだった。そしてこいつが間違い無くアンデットを使役している魔王だと悟った。
「コノ村ハ我々ノ領土。侵略者ヨ死ネ」
なんて言いやがったが、俺の3倍ほどある身長の魔王から発せられた低く腹に響く声は威圧感が凄かったぜ。
だが俺は返答代わりに大剣を奴の頭めがけて振り上げたんだ。
「この牛頭!」
確かに奴の頭を捕らえたが、ガンという音が響くばかりで、ダメージを与えた感触は無かったが、考える間もなく魔王の鉄製の杖が俺の左腕部から肩にかけてぶち当たって、
「ぐっ……」
、俺自身は背後の木製の小屋をぶち壊しながら、吹き飛ばされ地面へと叩きつけられていたんだ。
「これは実力差がありすぎるじゃんよ……」
俺の攻撃が通らない上に、魔王の攻撃は一撃で鎧を破壊し、
「くそ……右腕も動かねぇ」
魔王という名に相応しい攻撃って訳だ。
アンデットに魔王。
これは王国騎士が束になっても止めれないとその時、確信したぜ。
出来る事なら教会へ集めたゴブリンの中から即席の部隊を作って、教会で籠城するつもりだったが、正直村を捨てて逃げるのが正解だろうよ。
だがどの道、目の前のこいつを何とかしねぇといけない訳で、俺は瓦礫の中から立ち上がり、ボロボロになった肩当てと胴体の鎧を剥ぎ取った。
そして魔王の赤く光った目を凝視しながら、
「俺がここで止める」
出し惜しみは無しだ、俺は全防御系魔術を自身に掛けて、そのまま魔王へ飛びかかかり、
「狙いは!」
「ムダダ……」
魔王が振り下ろした杖が俺を捉えそうになるタイミングで身体を反転。杖を思いっきり背中で受ける、ドォン。
「ぐはっ……」
信じられない程の衝撃と痛みが背中を襲った。
そして凄まじい衝撃は俺を地べたへと勢いよく、叩きつけようとしていたが、俺はその力を利用してやった。
魔王の獣のような脚に、衝撃で勢いを増した大剣を突き立てて、
「お返しだよ!」
衝撃の力が乗った俺の攻撃は魔王の足元を確実に貫通させた。
突き刺さった大剣で魔王を地面へと釘付けにしてやった訳だ。
少なくとも僅かな時間は稼げる。
腹が立つ事に、魔王は一切動揺していなそうだったがな。
俺は一度距離を取ると、その辺りに転がっていた王国騎士の大剣を拾い上げ次の攻撃に移ろうと思ったが、
「子供達よワシから離れぬようにな」
なんて子供連れの爺さんが家と家の隙間から出てきやがった、なんて間の悪い爺さんかと思ったが、頭に血が昇っていて、本来の目的を忘れかけていた事に気づいた訳だ。
その時に目の前の爺さんと子供を逃すべきだと思えたよ。
だから魔王が動けない今ならと、
「爺さん、悪いが担ぐぜ!」
そのまま、爺さんと子供を担いでその場を去った。
魔王が追いかけてくるかと思ったが奴は俺達の背中に向け、赤い目を光らせていただけだった。
そうして俺は爺さんを連れて、教会へ立て籠った訳だ。
今考えても嫌な展開だ。
教会へ逃げ込んだは良いが、手詰まりなのは変わらねぇ。
何故なら教会の中にはゴブリンが約70人。少しは戦える奴らがいると思ったが、せいぜい戦えるのは10人くらいだろう、後は女子供と年寄りだ。
ほとんどの男ゴブリンは帝国に徴兵されたそうで、
「戦力がたりねぇか」
さすがにここで、アンデットと魔王に踏み込まれたら終わりだ。
只爺さん曰く教会には退魔術式が組み込まれているらしいが、魔王相手に持つ訳がねぇ。
「のうナガトラとやら」
「なんだ」
「頼みがあるのじゃが」
教会の小窓から外を警戒している俺に爺さんは、真剣な顔で頭を下げてきやがった。
「女子供を連れて逃げてくれぬか?」
爺さんの考えている事はわからなくも無い。
王国騎士共が全滅していない今なら女子供を逃す事はできる。だが走れない年寄りの脚では無理だ。
「お爺様。私もここに残ります」
ゴブリン娘のルールーはそう言うが、爺さんが認める訳ねぇ。
「孫よ。御主が皆を導かずして如何する」
爺さんはそれで説得できると思っているのだが、それじゃあ納得するのは難しいだろう。
だから俺はルールーに、
「姉ちゃん後ろを見な」
後ろを振り返ったルールーの視線の先には怯えた表情の子供達や、子供達を離さないよう抱える母親達がいた。
それを見てルールーは決意出来ないほど弱いゴブリンでは無いだろうよ。
「……わかりました」
「安心しろ姉ちゃん、気休めにしかならねぇだろうが、安全な場所にこいつらを送り届けたら、俺はここに戻るからよ」
「……タカトラさん」
「爺さんいいか、俺は女子供と護衛になりそうな男を数人連れていくが大丈夫か?」
「勿論じゃ、のう年寄ども」
一斉に年寄ゴブリン爺さん達が、ジゴロ村長への賛同の声を上げたんだ。
「ワシらもそう簡単にやられはせんよ、のうコロク」
「当たり前じゃ、ワシとて昔は鉄鬼と恐れられていたのだ、久々に腕が鳴るってもんよ」
コロクという斧を持ったゴブリンだけでは無く、あちらこちらで重い空気感をぶち壊そうとする声……まぁ、女子供が逃げやすくする為の、気ずかいなのであろうが。
当然こいつらに魔王を止めるのは無理であろうが……少なくとも俺はその心意気に頭が下がるおもいだったぜ。
「タカトラ殿。大丈夫じゃイザとなれば、スタイレムには鉱山があるからのぉ。そこに逃げ込むつもりじゃ」
「そうか……必ず戻ってくるから死ぬんじゃねえぞ」
「まだワシは若いんじゃよ、早々に死ねるかい」
そう言いながら爺さんは腕をまくり上げ力こぶを作ってみせた。
当然見た目通り年相応の腕だが、気持ちだけはそんじょそこらの騎士とは比べ物にならないほど図太いいだろうぜ。
「守るもんがあるっていいもんだな爺さん」
「じゃろうて、お前さんもこれから作って行けばよい」
爺さんはくしゃくしゃな顔で俺に微笑みかける。
その優し気な表情はここには戻ってくるなと言っているようだった。
次回から魔王討伐編になります。
物語を書くって楽しいですね。
下手ですが、はまりそう。
読んでくださる方に感謝です。