傭兵とゴブリン
「えっと。私はリッカ•ハウプトというものでして」
俺は必殺スマイルを大漢に向ける。
まず敵意が無い事を知らせるのが俺的対人の基本である。
勿論魔力の流れは随時チェックしているので、もし何かしようものなら直ぐに対応可能。
「なんだ嬢ちゃん、帝国軍か?」
「帝国軍といえば帝国軍ですが、違うといえば違います」
「ハッキリしねーな、まぁいい。んで何しに来たんだ」
取り敢えずセーフ。
これで最初の難所をいきなりクリア。
帝国軍といことで斬りかかられる、だってこれって戦争なんだよね系と、問答無用で斬りかかられる、話が出来ないです系の2つがクリア出来たなら。
一先ず交渉でどうにかなるのでは?
どうにか穏便にこの方達にここを出て行って頂くには。どうしたものか?
あきらかに休憩に寄った訳では無いようだしな……。
すると後方から誰かが駆け寄り。
「貴様ら!我はダンテ・ナグラル!ここはナグラル庭園、帝国の領土である、早々に出ていけ!!」
「ダンテ――――――――ーー!」
やってしまった。
ダンテの奴やってしまった。
これからいい感じにかわいい俺が野獣を色仕掛けやら何やらで交渉するつもりだったのに。
仕方ない。
俺は相手の出方を見ながらも、大漢に見えないように右手を背中に回し、アンチ•ナイフを発動する。
「ナグラル……そうか。すまないなお前の所有地だったのか。事情があってな、一先ず入れや」
「旦那!いいんですかい?」
「あいつらも騎士みたいですよ」
「まあな……予定変更だ。お前らも一度要塞へ入れ」
え……以外な展開。
すんなり庭園を返してくれる系なの?
周りのゴブリン達はあまり気が進まないようだけど。
そして気になったのは、あの大漢もナグラル庭園の事を要塞と言ってるし。
ですよね、ですよね。
この世界で初めて共感をされた気がする。
大漢に意味不明な好感が持てた俺だった。
俺達は大漢に誘導されるがまま、ナグラル庭園を進んだ。
奥にある邸宅の赤いタープが特徴的なテラスへ向けて。
入ってすぐの庭がすでに広大で中心には噴水がある、多分湖畔から直接引いてきた水を使っているのだろう、良いアイデアだ。
遠目では見えなかったが屋敷は四階建て。
見た目より低いなとの印象だったが、よく見ると一階づつの天井の高さが高いようだ。
ちなみにゴブリン達は屋敷を使用していないようで、庭先にテントやら簡易的な小屋などを作って、拠点にしているよう。
あくまで住み着く気は無さそうである。
「なんだ、ここに住み着いてるんじゃないんだ」
「ああ。訳があってな一時的な拠点にしてたって訳よ」
「じゃあ、ゴブリン達はどこに住んでるんだ。旅でもしているとか?」
「旅か。悪くねえ発想だが違うな。嬢ちゃん」
「嬢ちゃんていうなよ。リッカだ」
「そうだな悪かった。リッカ。そういや俺も名乗って無かったな。俺はタカトラってんだ。宜しくな」
「タカトラ……うーん」
「おいおい人の名前聞いて渋い顔すんなよ」
「ごめん。この辺りには、ちょいちょい私の知ってる国の出身者ぽい名前がいるなと」
「そうか。そんな珍しい名前でもないだろ?」
「そうなんだ……。それよりゴブリン達の話しだったね」
「そうだな。スタイレムって村を知ってるか?」
「……聞いた事はあるよ」
「こいつらはスタイレムの住人だよ」
一瞬タカトラの顔が曇ったように見えた。
俺は性格上こういう微妙な変化をキャッチするのが得意だ……ただの顔色を伺うタイプなのだが。
ともかく、そのスタイレムっていう単語は知っている。
なにせエイチに聞いて最初に向かおうとしていた亜人の街なのだから。
スタイレムからここまでは約18時間くらい。
しかも未開拓の森の中を進み、ここにたどり着くにはかなりの労力が必要なはず。
ゴブリン達を見る限り全員戦闘要員と云う訳では無さそうだ。寧ろ女子供のほうが多い。
そしてある事に気づいた……年寄りがいない。
あの森を超えて来た奴らだ、当然といえば当然であるが、明らかに家族ぐるみの構成なのに、年長と呼べるのは精々40代に見える。
という事は……。
「なぁ、ナガトラ?一体何から逃げ……」
ナガトラは俺の話しを途中で切るように。
「リッカ。本気で来ないと死ぬぞ」
「は?」
ナガトラは座った状態から俺を巻き取るかのように大剣をぶん回した。
俺は後方に身体を反らす。
完全なる奇襲だ。
意味不明。
俺は一瞬でナガトラが何故いきなりこんな事をしてきたのか分からなかったが、1つだけ理解出来たのは、遊びでは無いという事だけだった。
「なっ……!」
言葉を発しかけた俺にナガトラはもう一太刀。
けれどもこの攻撃は読めた、右回りで華麗に回避!とのつもりだったが、タカトラもそれを読んでいたようで、右膝が俺の溝落ちを捉えた。
その衝撃で吹き飛びそうだったが、何とか重量軽減術式で着地。
溝落ちはめちゃくちゃ痛くて一瞬息が止まったが、すぐに呼吸を整える。
「大剣ばかりに気を取られていると死ぬぞ」
「まじ意味わかんねーぞタカトラ。レディにいきなり斬りかかるとはどういう了見だよ」
「レディだとふざけんなリッカ。てめーの魔力だだ漏れなんだよ。これくらいで死ぬ訳ねーだろ」
魔力が見えている?これは驚きだった。
だから入口で隠れてアンチ•ナイフを発動した時に、気づかないふりをして邸宅に招き入れたのか?
だが何のために?
俺をヤルつもりなら城門の外側で襲ったほうが良いような?
外なら少なくとも守る対象の女子供達がいないのだから。
しかし魔力を視認出来るのは、俺だけの固有スキルくらいに思っていたが、どうやら違ったらしい。
しかしこの事実は頭に血が昇ったのを抑えるのに有効だったらしいが、エイチとダンテは違った。
俺とナガトラが睨み合っているあいだに二人は一斉に動きだした。
「スピリットアンカー」
エイチが召喚した緑の精霊達はナガトラの周りを飛び回りながら、パチパチと火花と緑色の煙が発生した。
どうやら麻痺系の魔術であろうが、ナガトラの戦い慣れを見る限り対策済みであろう。
同時に俺に駆け寄ってきたダンテは、剣を片手に周囲のゴブリン達を牽制するが、当のゴブリン達も困惑しているよだ。
「ふっん!」
「そんな」
ナガトラは予想通りエイチの術式を強引に解除すると、エイチに向かって突進してくる。
それに合わせて俺は詠唱。
ジャックザリッパー
ドック・ファイト
障壁破砕
そしてエイチの前に出ると下段からナガトラの腹に。
「必殺正拳突き!」
咄嗟に名前を考えたので、全然必殺っぽくない、普通の名前になってしまったが、ナガトラを見事に捉えた。
けれどもまだ終わらないだろう。
ナガトラの防御の強さは黄金の半身の鎧。
つまりピカついた装甲にばかり目がいきがちになるが、ナガトラの本質は肉体強化。
つまりガチガチの身体な訳だ。
それはナガトラにとって秘密なのだろうが、魔力が見えるだけでは無く、流れまでも読める、俺の目からは隠し通せない。
しかし見えていても、ガチガチの身体に普通の打撃が通らないのも事実。
思った通り俺の正拳突きだけだと勢いを殺しただけなので、そのまま回転回し蹴り。
狙いは顎!
「ぐはっ」
完全に決まった!ナガトラは足から崩れ落ちる。
「人は顎を鍛えられないのさ」
「うらぁ!」
崩れざまにナガトラは頭突きで俺の顔面をクリーンヒットしたように見えたが、頭突きではモーションが大振り過ぎる、残念。
顔と頭の間に手を入れてガード。
「一体何なんだよ。お前今本気でエイチに攻撃しただろ?」
「勿論殺すつもりだと言ったじゃねぇか」
ナガトラはそう言っているが、俺は彼から明確な殺意を感じ取れていない。
まるで自分自身に殺すよう鼓舞してるような、作られた感バシバシの殺意なら感じるが、これを殺意と呼べるかは疑問だ。
ナガトラは俺の首を目がけて大剣を振り降ろすが、高速機動で背後を取るとそのまま魔力解放。
そのままナガトラを背後から襲うイメージを植え付ける。
これは効果的だったようで、ナガトラの額からは大粒の冷や汗が流れるのが見て取れた。
「てめぇ、何者だ」
「リッカ•ハウプトちゃんです」
俺は後ろから手刀を首めがけて落としたが、これは回避された。
「これでも喰らえ、ツイストリア」
縦一閃の単純な斬撃と見せかけて、空間に何十もの小さな斬撃攻撃を付与する魔術剣だ。
しかも風属性も混ざっている為、俺は風に巻き付かれ身動きが出来ない。
実に上手い技だと感心しながらも障壁破砕を発動。
バチンという音と共に魔術刃と風を無効化。
「それくらいの斬撃はわたしには効かないよ」
「やるじゃねーか!」
ナガトラは腰を落として、力を溜めるとそのまま、水平に突きを繰り出す。
俺はそれを高速軌道で右サイドへと避け。そのまま障壁破砕を脇腹へ叩き込むが……さすがに防御特化型は硬い。
ナガトラは更に力を溜めると、あろう事か再度エイチを狙うモーションに入ったのだ。
「てめーっいい加減に」
俺は再度エイチを守る為に地面を蹴り移動を始めると同時に身体に激痛が走る。
「隙ありだな……」
「まじか……」
俺は竜巻に飲み込まれたように空中に放り出される。
何回転しただろうか?もみくちゃになりながら上空へと巻き上げられたせいで気持ち悪いが、そうもいってられない。
上空から辺りをチラ見すると、ビル7階あたりまでの高さまで舞い上がっており、下を見ると全員が俺に注目している。
エイチに至っては真っ青な顔してこちらに何か叫んでるが、風の音がうるさくて何も聞こえない。
ダメージは……一瞬身体を裂かれそうな痛みが走ったが、風に身を任せてしまえばなんて事無い。
楽観的に考えれば、上空に飛ばされただけだ。
俺は再度下で睨みを利かせているタカトラをトレースする。
何故だ何故今。
このタイミングでエイチに攻撃しないんだ?
少なくとも今ならエイチは隙だらけであるし。
……そもそもエイチもタカトラの攻撃を警戒していない?
それに何故エイチに対して放ったツイストリアが俺に直撃したんだ?
わからない。タカトラをどうトレースしても俺が知らない魔術や剣技の形跡がない。
待てよ。
まさか。そもそもタカトラはエイチに対して攻撃をするつもりなんて無かったとしたら……。
まさか幻影。
俺は自分に対してトレースを開始する。
あれでも無い。これでも無い……これか。
俺は自分の中魔素の隙間へ紛れるように隠れていた。タカトラの魔術のカケラを見つけた。
憎たらしい。
このタカトラウィルスが俺にエイチを襲うと云う幻影を見せていたんだ。
「あっ!だから確実に俺に幻影魔術をかける為に油断させる必要があった訳だ」
最初の一撃がトリガーになっていた?所謂それってタカトラ自身に俺の注意を引く為に……。
違う、それがタカトラという騎士の特性なんだ。
つまりあいつは敵を引きつける前衛職が得意な前衛騎士という訳だ。
つまり自分へのヘイト管理……タンクか……だからあんなに硬いのね。
実に勿体ない。
俺の中ではもう戦いは終わっていた。
タカトラの敗因は強いアタッカーが仲間にいなかった事なのだから……まぁそれについては俺も同じだが……いや俺にはエイチがいる。
俺は重力軽減で何事も無かったかのように地面に着陸すると、さすがのタカトラも面食らって。
「ノーダメージとはな……」
「タカトラ、お前タンクなのに凄いな」
「ついにバレたかってね」
俺はそのままバク転で距離を取る。
そしてアンチ•ナイフを2本展開する。
両手のアンチ•ナイフを同じ箇所に叩きこむ双剣仕様だ。
ちなみに今度は本気だ。
どう足掻こうとも次の一手でタカトラは致命傷を負うが……本当に良いのだろか?
本気でエイチを狙った訳でもないし、俺以外に剣を向けた訳でも無い。
俺を殺すとは言っていたが、確かに本気ではあるけど明確な殺意は感じなかった。
なので一拍待った。
そしてもう一拍待った。
「タカトラ様。魔術士様。お待ち下さい!」
誰か止めてくれという俺の期待に答えてくれたのは、緑色の目をした。ゴブリン族の女の子だった。
―――――――――――――1時間後――――――――――――
「ガッハハハハ。すまないリッカ。それに亜人の嬢ちゃん」
俺は何も言わず冷たい目線を送る。
一先ず席に着けと言われたので、さっきまで座っていた席に戻ってきたのだ。
さっきと違うのはナグラル庭園にいる全ての者達が俺とナガトラの周りに集まっている。
それだけナガトラの行動は異常だったのであろう。
「そんで何か言う事あるだろ」
「そうだったな、改めてすまねー」
「違う!何でいきなり俺!……私を襲ったかだ」
頭に血が昇るとどうしても俺と言ってしまいそうになるが、そんな俺の悩みを他所に、
「ああ……そっちか」
「いやいや。どう考えても他に無いでしょ」
俺はツッコミを入れながらも、早く喋れオーラを全開に出した事により、ナガトラは喋りだした。
「俺はな王国騎士団の傭兵だ」
「ほう、やっぱりかあの動き只者では無いと思ったよ」
「やめてくれ、ボロ負けしてんだ、居心地が悪くなる。まぁ聞けや、俺は任務でスタイレムに来たんだがよ。そこで色々あって王国騎士団と敵対する事になったんだわ」
つまり王国がスタイレムに何かしらの暴挙を働いて、正義マンのナガトラは許せなかったって話かな?
だとしたらナガトラがゴブリン達を先導していた事も納得出来るが、俺の事を襲った理由にはならない。
「それで?」
「ただ俺は王国騎士団と一合も剣を合わす事なく、僅かな住民とスタイレムから逃げだしたのさ」
……?
「そんな事あり得るの?並の騎士がナガトラに勝てるとは思えないけど」
「並の相手ならな……相手は騎士じゃねぇ」
「ごくり」
「魔王だ……」
「魔王?」
「そうだ魔王だ!」
「どの魔王?」
「知らねー」
魔王。
えっと、わかりやすいくらいに、その響きは実にやばい。
勿論俺の脳内にそんな奴の記憶は無いが、絶対ヤバいのだけはわかる。
俺はエイチに目配せで、そいつ知ってるかと合図してみるが、エイチも知らなそうだ。
ついでにダンテにも合図を送ってみたが首を横に振っている。
不思議な事に、魔王というその響きだけで絶対ヤバい奴なのは間違い無いと思えてしまうほど強力なワードだ。
俺はその場で立ち上がると絶対に関わらないと決意する。
「おい、まだ話しは終わってねぇ」
「お前らその魔王と戦うって話しじゃ無いよな……」
「その通りだ、そこでだリッカ。俺達に傭兵として雇われて欲しい」
……えっ。
「つまりさっきのは魔王との戦いにお前が役に立つかの試験という訳だ」
「試験?」
俺は心の声で叫んだ。
ざっけんじゃねーぞ。何いきなり俺を魔王討伐パーティへの希望者扱いしてくれちゃってんだよ。
希望してねぇし、そもそも俺は穏便に暮らしたいんだよ。
街で物売ったり、ビール飲んだり。そうだその通りだ!俺が売るのは物だ!命じゃ無いんだっての!なので!
「断る」
「まじか!お前は合格だぞ」
「知らん、迷惑だ」
「いや待て。奴は魔王だ。この辺りを自分の領地にすると言っていたんだぞ。お前にも関係無い話しじゃない」
「なら他の場所に行くからいい」
「お前!俺がこうして頭下げてんだ」
「知るか!そもそもお前。口で言ってるだけで、頭下げてないじゃないか」
「なっ。さっき下げただろうが」
「下げて無いな。下げていようがわたしは魔王討伐パーティには入らんけどな」
「お前ワガママ言うな!」
………………。
「ワガママ……って、ようやく生き残ったのに……なんでわたしが巻き込まれなきゃならないのよ!」
俺は軽く泣いて見せた、勿論嘘泣きだが。
あまりにもナガトラが自分勝手なもんだから、ムカッとして女の子の必殺武器を使ってしまった。
ナガトラのような熱血硬派な奴には効くだろうと思ったが、予想を遥かに上回る効果が出てしまい……「すまなかった」とナガトラは言うとめっちゃ凹んでしまった。
流石に焦った俺はナガトラをどうにかしようと思ったが、どうしようも無い。
「あの……ナガトラ大丈夫かな?」
………………。
「少しお時間良いですか?」
ナガトラを気遣う俺に背後から声を掛けたのは、さっきの戦いで、ナガトラ曰く試験を止めてくれた、ゴブリン娘であった。
俺はゴブリン娘に誘われるまま、噴水まで移動すると、まず礼を言われた。
俺には礼を言われる事をした覚えがないのだがゴブリン娘曰く、丁度ナガトラがゴブリン達を率いてスタイレムに向かう直前で俺達が現れたらしい。
つまり実質的に俺達がナガトラを止めた事になるらしく感謝しているそうだ。
ちなみにこのゴブリン娘はルール―ちゃんという名前で、なんでもスタイレムの村長の孫だそうだ。
「リッカ様、彼らをお止め頂き有り難う御座います」
「ワタシには自覚は無いけどね……」
「リッカ様。失礼な質問になってしまいますが、1つお聞きしても宜しいでしょうか?」
「勿論。なんだい?」
「その……リッカ様は大変お強いとお見受けしました、もし魔王と戦った場合、勝てますでしょうか?」
「魔王ね……正直わからないな」
それが率直な俺の意見だ。
戦った事どころか見た事も無いんだ。
相手の力量を測る術がない。
しかしここまで来ると気になる事もある。
何故それほどまでに魔王、嫌スタイレム奪還にこだわるのか。
折角拾った命なのだから、別の所で暮らせば良いのでは無いか。
けれどもダンテが言っていた、一族の守ってきた地という概念があるなら別の話しだが。
元の世界でも住まいを転々としていた俺にはわからない感覚なのだろうが。
「もし嫌じゃなければ、聞かせて欲しいのだけど、なんで逃げないのかな?」
「それは……」
やはり気まずい質問をしたかな?
「いやいや、やっぱり先祖の地とか、聖域とかあるからね」
「いいえ違います」
勢い良く否定するルールーに少しビックリしながらも。
「違うの?」
「はい、実はスタイレムにはまだ村人が200人近く取り残されているのです。正直村はまた立て直せますが……命は戻りませんので」
そういう事か。
だから意地でもスタイレム村に戻ろうとしていた訳か……。
はぁ……。ルールーのさっきまでとは違う悲しそうな顔。
家族を助ける為に覚悟を決めてるゴブリン達。
それに答ようとしているナガトラ。
……俺は?
少なくともナガトラが提案してきた魔王討伐とルール―が提案してきた、住民救出では話が全然違ってくるな。
……魔王とやらを倒さなくていなら、時間稼ぎくらいなら出来るかな?
まあ。考えても仕方無いか。なら。
「わかったよ。ルールー!」
「えっと……」
「お姉さんに任せておきなさい、このリッカ・ハウプトが。住民救出の任務請け負います」