ナグラル庭園へ行こう
新展開の始まりです。
読んでいただけましたら、幸いです(^^♪
ようやく着替えられるな、ピチピチすぎるパンドラスーツを着たままだとなんだか動きずらいし、まぁ、スーツを着込んだほうが魔力の引き出す力みたいのはかなり上がるようだが。
「ずっと着ていれるものでは無い!」
そもそも、これから行動するのに余りにも目立ちすぎる事をエイチに相談した所、リッカの軍用普段着の制服があるみたいなので、それを借りた。
……まぁ俺がリッカなので、借りた訳ではないのかもだけど。
そんでもって、時間も余り余裕があるわけでは無いから、すぐにその場で着替えようとしたのだが、年頃の女子が外で着替えるのはまずいと注意を受けた訳で、エイチが召喚したパンドラの密室の中で着替えている訳だ。
こういう女子にとって、日常的な所作がつい頭から抜けてしまうのは痛い所だ。
しかし問題なのは、エイチが部屋だと言いきっているこれ……明らかに戦車なのだ。
しかも多分俺が知ってる時代の戦車に比べると大分新しい作りだが、多分どこかで攻撃を受けたのであろう。
大破している……。
しかもその大破した戦車のキャタピラーや車体を綺麗な赤や黄色のみずみずしい花で飾りつけている訳で、常に手入れをしているように思えるた。
まさかとは思うけど、エイチはここに住んでいるのかと思うと。
なんとか家を贈呈したいなんて思ってしまう。一銭もないけど……。
「そう言えばエイチがこのパンドラ戦車は動かないと言っていたが」
俺はコックピット内の機材をいじくってみるが、やはり魔力を送っても動かない。
そして良く見ると鍵穴みたいのがある。
まさかこれ普通に魔道式じゃなくて、エンジン式なんじゃないのか。
過去って、どこの過去なんだ?俺からしてみれば住んでた場所。
地球がこの場所と繋がっているように思えないけど。
そもそも俺の住んでた世界には魔法やら召喚などない。
しかもオークや猫耳ちゃんもいない。
……アキバという一部地域にはいるかもだが。
「まじでわかんないな」
外では既にエイチとユーキ、それと俺に付いて来たいと言った数人の従者と騎士達が移動の支度を終えているようだ。
先刻の戦いの後……破壊された王国軍パンドラカノン砲の無残な姿をみて、取り残された60人ほどの王国騎士達は指揮系統を失ったのだろう、散り散りによく言えば退却。
悪く言えば逃走していったのだ。
命拾いをした帝国騎士達のほとんどは俺に礼を言い。
帝国領へと引き上げていった。
勿論一緒に帝国領へと向かう事を提案されたが辞めておいた。
何故ならユーキをいびった騎士をぶっ飛ばした上に、戦死させてしまったのだ……。
しかもその騎士はそこそこの上級貴族出身らしく、権威主義がぷんぷんに匂う帝国なんぞに行けば、間違い無く責任を取らされるのは火を見るより明らかで。
「まぁ、気軽な貴族ライフも諦めないとか」
しかし!大丈夫!いざとなればサルベージ・ゴールドを使ってゴールドラッシュだ!!
俺は狭いコックピットでガッツポーズ。
とは言っても肝心なのは金!……それは後回し――生きて行く為に必要なのは水に食糧。
そして安全。
まずは雨風を凌げる場所、出来れば家が欲しい。
この世界には魔獣なる獣もいるみたいなので、壁と屋根無い場所で寝るのはゴメンだ。
ちなみにここから1日ほど歩いた場所にスタイレムという亜人の村があるようで、そこに向かうつもりだったが、流石にそれは無理そうだ。
何故なら人数は少ないがバリバリに帝国鎧を着込んだ騎士と一緒なのだ、これでは帝国軍此処にあり!状態な訳ですぐに王国軍が来てしまうだろう。
手持ちの服も全てあの自走式カノンさんに吹き飛ばされてしまった訳で……俺のはエイチがリュックに詰め込んで預かってくれていたのだけど。
そもそも戦争に来てる騎士がお洒落着など持ってきてる訳ないが。
兎に角。
俺は戦争をしたい訳では無い。
この場所で生き抜いて、出来れば第二の人生を謳歌したいのだ。
嫌――絶対に謳歌する!これは願いでは無く決意だ!
そんな理想とは反対に行き場所を無くして路頭に迷っていた俺に、一人の残留騎士が言ったのだ。
「もし宜しければ、南東にナグラル庭園という場所があります。恐らく無人ですので、一先ずそちらで身の振り方を考えたら如何でしょうか?」
そもそも俺はそんな場所しらないので、エイチにナグラル庭園の情報を確認したのだが、エイチも知らないとの事だった。
なのでよく良く残留騎士さんに聞いてみた所。
5年前にも帝国と王国との間で大きな戦争があったらしく、その時。
ここいら一帯を帝国が占拠したらしいのだ。
その時の騎士長だったエリク・ナグラルという貴族が戦功のほうびとして、帝国皇帝から下賜されたのが、この辺りの地域らしく。
その時別荘として建築したのがナグラル庭園との事だ。
そこは湖畔と森の中に作られた別荘らしく、当面の水と森の恵みには困らないそうだ。
いいじゃん。
ちなみに最近になって王国の進行により、この辺りは帝国の手から離れたようだが、ナグラル領の本拠地では無い別荘であるナグラル邸園は、未だ王国軍から進行を受けていないらしい。
ちなみに残留騎士さんはナグラル家の生き残りらしく、両親達が死に物狂いで手に入れた領地から離れる訳にはいかないという理由で、俺について来る決意をしたそうだ。
そんな訳で俺達十数人はナグナル城へ向かう事にした、
「リッカ様準備出来ましたので、いつでも出発できまーす」
お花畑仕様!大破戦車の上から下を見ると、やっほーのポーズでユーキがこちらに笑顔を向けている。
俺は勢いよく戦車から飛び降りると、みんなに掛け声をかける。
「さあ!出発しよう」
――――――――――――――――――24時間後―――――――――――――――――――
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ」
ナグラルの森は深い。
俺が思っていたより全然深かった訳で、ユーキみないな子供では中々前に進むのは難しかった。
なのでユーキを肩車してずっと背負うはめになった。
勿論重力軽減の魔術は発動しているが、初めての肩車でユーキは凄くはしゃいでいる。
その分俺の負担は大きいのだ……。
ちなみに森を切り開く大人達は疲労で、青い顔を浮かべている。
まるで幽霊のようだ。
しかしナグラル家の生き残り騎士であるダンテ・ナグラルには驚かせられる。
体格もさほど良いとは言えない、寧ろ顔つきなんかは貧弱な優男のように見えるが、鉈を片手にバシバシと進む姿はさしずめ山男のようだ。
なんかギャップが凄い。
「なぁ、ダンテはなんでこんな獣道知っているの?」
「ははっ。そうですね――この深い山で別荘を建てる時に計画を進めていたのは、何を隠そう私なのですよ」
「へぇ、でもナグナル家って、ゴリゴリの騎士家系なんだろ?どうして建築計画のリーダーなの」
「いい質問ですね。私にとっては悪い質問かもですが……だからなのです。ラグナル家は先々代の皇帝の時代から騎士一族なのです、勿論私の兄達も一流の騎士でした。そんな中私はどうも剣技が駄目で、ただ少しだけ発明や建築、農業なんかに打ち込む能力があったようで、剣技が駄目というなら、せめて家にとって役立つ事をという訳です」
「なるほどねー」
「はい。なのでナグラル領……いや失礼この辺りの地理はすべて頭に入っている訳です」
そんな何か引っ掛かる言い回しをダンテはした。
「……別にナグラル領って言っていいじゃん」
「いやいや、ナグラルは滅びましたので」
「そう?ダンテがいれば、滅びたとは言えないのじゃない?」
「確かにそうですね……しかしペンと墨を武器としてる私でしたが、剣と鎧を纏って戦場に出たのは当然家族の仇討ちと名誉回復の為。しかし結果は見ての通りです」
「またチャンスがあるよなんて、責任の無い事は言えないか……」
「いえいえ、お気になさらないで下さい。寧ろリッカ様に救われた命です。精一杯仕えさせて頂きます」
「仕えるなんてやめてくれー。それに本当に諦めていいの?」
「私一人で剣と鎧で王国と戦うのは無謀で犬死するだけです。それでも良いと思って従軍したのですが、折角救われた命なのですから、救って頂いたリッカ様の為に使わせて頂きます。その代わりこの地でペンと墨でラグナルの歴史を刻んでいきますよ」
笑顔でそう言うと胸元にさしてあったペンを俺に見せる。
「あっ。そろそろ着きそうですね」
道の先にある崖を見つけたダンテは駆け足で確認しに行った。
まだまだ体力があるらしく、森の峠道を全速力だ。
そんな後ろ姿を見て、俺は酷く勘違いをしているように思えた。
この世界はただのファンタジーでは無く、色々な人達が厳しい環境で運命を背負って生きているのだと……いくら人より強い魔力があったとしても、人として厳しい環境に置かれた時、堂々と自分を見つめられるのか?
そこに人としての本質があるように思えた。
「リッカ様。ついに着きましたよ、あれがラグナル庭園です」
ダンテが指差す先には、凄い絶景が広がっていた。
山間に広がる平野。
広い湖畔。
その上に浮かぶように建築されたラグナル家の白い壁の別荘……別荘?
「別荘?」
「はい!別荘です」
巨大な門に、数十メートルはある塔。
白い石壁は完全に別荘というより要塞のそれだ。
母家と言っていいのか分からないほど広大な邸宅。
その周囲を囲むように配置された見張り台。
入口は扉と云う雰囲気では無い。
まるで城門だ。
しかも坂道の上に道を塞ぐように立てられた、その城門は明らかに敵が責めてきた時に殲滅出来るように作られた虎口のようだ。
「完全に軍事要塞じゃん」
「まぁ、騎士の家系なので」
「そう云うもんなの?」
恥ずかしそうにダンテは頷く。
照れる必要は無いとおもうが、にしても立派な邸宅……いや要塞である。
しかも周囲には水も豊富で、森も近く食料も何とかなりそう。
これならば当面の間、此処を拠点にしても良いだろう。
まだまだ丘の上から見下ろしているに過ぎないが、俺も今から門をくぐるのがワクワクしてくる。
「リッカ様。あれ見て下さい」
そう言ったのは肩車されているユーキだった。
ナグラル庭園の中央へ俺は視線を広大な庭に向けると、もくもくと煙が上がっている事に気づいた。
「あれは炊飯の煙ですね」
エイチも後方から追いつくと、日差しを片手で遮りながら庭を凝視している。
そして一人、二人と数を数え出した。
「エイチは誰かいるの見えるの?」
「はい。姿形まではわかりませんが、大体の人数くらいならわかります」
「まじか。見えるって、ここからだと1キロメートルはあるけど」
ビースティはみんな目がいいのかな?
なんて思っているうちにエイチは数を数え終えると。
「大体、二十人はいそうですね」
「これは予想外だね、ダンテ誰がいるかわかる?」
「いえ、いえ、まさか人がいるなんて驚きです」
ダンテ曰く、ラグナル庭園には使用人も含めて本城陥落時に王国軍の追撃を恐れて、帝国内部へと逃げたそうだ。
そうなるとこの場所を知ってるのは、ここから1日の距離ほど離れたスタイレムの街の狩人くらいだそうで。
「まぁ。一先ず行ってみるしかないね」
「危険では無いでしょうか?」
「どうかな。でもここにいても、水や食糧も無いからね。一先ず行くしか無さそう」
「わかりました」
「一応慎重に進むとしよう。みんな聞いてくれ」
俺は現状を皆に説明した。
まず目的地が目の前だという事。
そしてそこには誰かがいる事。
戦闘の可能性が無いとは言い切れない事。
けれど、懐事情的に行くしか無い事を告げ。
俺とダンテを先頭に中央がエイチとユーキ。
後方にはガタイの良い帝国残留騎士二人を配置して慎重に進んだ。
万が一の時は俺を残してエイチの障壁の中へ、みんな避難するという単純明快な指示も出しておいた。
――――――――――――――――――――――――――――――
丘から城門までに掛かった時間は慎重に歩いて一時間。
ようやく数十メートルの距離まで来たが、ここからが問題だ。
なにせこの先は一本道であり、しかも坂道になっている。
防御壁が坂に沿って作られており、数メートル間隔で小窓がある。
つまり。
「坂を上がってきた敵は小窓から、弓とかで射られるってことだよね」
「仰る通りです。非常に残念ながら攻め込んだら最後。一撃必殺の虎口になっています」
「ちなみに物見塔もあったし私達。見つかっているよね」
「恐らくは……」
まぁ当然と云えば当然であるが、目の前の坂を登れば攻撃の良い的……逆に攻撃されないのであれば、戦う意志は無い集団という事になりそうだ。
それなら話は簡単なのだが。
「ここからは、わたし一人で行くから、ダンテはここで待っていて。ついでにエイチへ障壁を発動出来るよう準備するように伝えて貰えるかな」
「承知致しました。身の安全が第一ですので、無理をなさらいで下さいませ」
「勿論。私も死にたくはないからね」
坂道を登り切った場所に佇む大きな門や屋敷。
壁1つ取っても計算しつくされた印象を受ける。
更に有事における砦建設の才能がダンテにはあるのだと思った。
屈強で防衛に特化したこの場所を見れば、皆ダンテに一目を置かない訳にいかないと俺は思う。
もしここで籠城すれば、王国軍もそう簡単には落とす事は出来ないだろう。
ダンテもそれは気づいていたらしいが、フェルド帝国の地方都市であるナグラル家の本城を捨てるなど、言語道断といってダンテの父親は首都で徹底交戦をしたらしい。
結果は王国に蹂躙されたらしいが。
ちなみに武門のナグラル騎士が惨敗した理由は2体のパンドラの存在が大きかったそうだ。
俺はパンドラの所有数。
所謂この世界が保有している危険なパンドラがどれ程あるかを、ダンテに聞いてみたところ。
知られてるだけでも大陸中央に位置する帝国が15騎。
西の王国に14騎……1騎おれが破壊したから、残り13騎かな。
ついでに南の魔族領と東の通商連合国にも何十騎かいるらしい。
俺はダンテに、それならパンドラを召喚しまくれば良いじゃんという風に言ったが、どうもそれは難しいようで、レア度の高いパンドラを召喚するには希少性の高い聖輝石という石を使わないとらしい。
ちなみにその石一個で城を買えるというから驚きだ。
更に一流の魔力を持った召喚士でも100回に1回も軍事で使えるものは召喚出来ないそうだ。
ダンテはパンドラ召喚を実際見たことあるそうだが、その時の召喚士は城1つ買える聖輝石を使って、技巧が輝く料理鍋を召喚したというのだから、笑いを通り越してあまりにも哀れだ。
そんな事を考えながらも周囲の警戒は怠らない。
今の所襲撃は無い……もしかしたら俺が一人だから様子を見ているのであろうか?
それとも本当に別に戦う気の無い何者かが庭の中で飯を食っているだけなのか。
少なくとも俺達の存在には気づいているはずだけど。
それならば。
「|ヒート•ディテクション《熱探知》」
俺中心として半径100mの範囲に対して熱探知を発動してみると、やはり多数……エイチの言った通り20人ほどの人型の何者かが探知に引っかかった。
それも周囲に展開している訳では無く、俺の目の前にある大きな門の向こう側で集団として固まっているようだ。
「ふむ。一人だけ中々強い奴がいる気配……」
一先ず相手方にどう挨拶するかだよな。
門を破壊して豪快な挨拶か。
門を飛び越えて華麗な挨拶か。
それか普通にノックするかだ。
考えた結果俺は普通にノックする事にした。
多分一番平和的だからだ。
「すみませーん。誰かいますかー」
そう言いながら門を叩く。
しかし分厚い鉄製の門は中々もって音が響かないらしく、俺は大声を上げながら二度と三度と叩いているうちに、ガガガという音と共にゆっくりと門が開きだす。
「うるせーな嬢ちゃん。こちとら門を開くのすら大変な仕事なんだってーの」
俺の目の前には、大柄な男がバカデカイ剣を抱えながら、仁王立ちしていた。
強そうだ。
嫌、間違い無く強いだろう。
魔力量もさることながら威圧感が半端ない。
どこかの将軍ですと言われても、普通に信じるだろう。
夜盗の類ではなさそう。
という事は王国騎士の中隊が駐屯しているのか?
だとしたら、あまり良い方向に物事が進んでいない事になる。
目の前の190センチはある大漢の背後には屈強な騎士達がいる事になるが――しかし門が開ききると予想外な事に、大漢の背後で武器を構えていたのは、身長150センチほどの緑色の目が特徴的な。
ゴブリンの集団であった。






