目覚めは最悪
本編スタートです。
出だしから血表現と挿絵があるので、苦手な方すみません。
嫌な夢を見た、テロにあったのだ。
善良な日本人である俺がだ。
あり得ない夢だろう……。
「にしても暗いな」
俺は部屋の電気を点ける為に、起き上がろうとするが何かに身体が固定されるようで動く事が出来ない。
更に腹部に異常な痛みを感じた。
「痛っ……いったい何だ」
痛みを感じた箇所を手で押さえてみると、何かが手に付着したような気がしたので、暗がりの中ではあるが、俺は目を凝らしてみると、
「これって血だよな……」
つまりテロに遭ったのは夢……では無い。
もしテロに遭ったのが夢では無いとすれば、明らかに変だ、そもそも俺が爆発に巻き込まれたのはバスの中であり、どんなに思い返してみても、最後の記憶は爆風でバスから投げ出され、路上で横たわった自分の姿だ。
ここは病院なのか?
それにしては、窓もなければ電気も無い。
更に傷の治療すらされていない。
俺は自由の効く両手を動かしてみると、今いるこの場所がとても狭い事に気づいた、
「ここは……」
更に脚も動かしてみるが、膝を曲げる事すら難しいのだから、閉所恐怖症では無いが身体から鳥肌が立った。
暗くて……狭い。
俺の知ってる限りそんな場所は一つしか無かった。
「まさか棺桶?」
その思考が頭の中を駆け巡った途端、何かが弾けとんだかのように俺は大声を上げていた。
やばい……やばい……やばい!
「くそっ!ざけんなって誰かここを開けてくれ、俺は死んで無いから!生きてる人間がここに入ってるんだ。誰か!」
「うおああああああ――誰か――誰か」
数十秒なのか数分なのかわからないが、兎に角叫んだ。時折腹部にエグい痛みを感じるが、そんな事を気にする余裕も無く、内側から目の前の蓋を叩きまくるが、外からの反応は一切無い、
「折角生き残ったのに……こんなの無いだろっ」
爆破テロから生き残ったのに、また殺されるなんてあんまりだ。
棺桶に入れられたという事は土葬か火葬か……。
恐怖心が俺の全てを支配する……小刻みに震える身体。
暴れたせいでさっきよりも血の匂いが辺りで強くなっていて、頭も怪我をしているようで、血と涙が混ざり合い頬をつたい口の中へと入ってくる。
何度か意識を失いかけたが、失神したらもう終わりだと俺は自分に言い聞かせ、思考を常に回すよう、兎に角何でもいいから考えるようにする中、傷の手当をされなかった理由。
それは俺が死んでいると、思われたからだと気づいてしまった。
当然のこと過ぎて、笑えてきてしまう。
「そりゃ……当然だよな……ふふ」
泣きながら笑うなんて初めての経験な気がするなんて思った次の瞬間には、また大声を上げて蓋を叩きまくる。
常に移りゆく心の変化に思考は追いつかず、けれども生きる事への渇望だけはまったく薄まらない。
「死にたくない……誰か」
「そこ……お嬢……すか」
うっすらではあったが、確実に人の声が聞こえた。
「ここです…………ここにいます!」
最初は反応的に。
そして次は出来る限りの声を張り上げた。
そして声だけでは足りないと思った俺は蓋を叩き、そして蹴り上げた。
「お嬢様今助けます」
今度はハッキリと聞こえた
声の感じは若い女性で、お嬢様と言っていて、完全に人違いではあると思ったが、
「パンドラ開放!」
と女性の声が再度聞こえるのと同時に、バシュンという音を立てて棺桶の蓋が吹き飛んだ。
俺の目に飛び込んできた眩しい太陽の光。
それに対してこんなに感謝した事は無いと思えるくらいに、心の底から安堵した。
「リッカ様!リッカ様!生きていて……良かった」
「ありがとう御座います、助けて頂いて……本当に」
「リッカ様をこのような形で放置してしまうなんて、私……私」
そこまで俺を救出する事に責任感を持ってくれているのは嬉しい。
そして感謝だが……リッカって誰?
「ありがとう御座います、お嬢さん」
当たり前の俺の礼に対して。
「リッカ様、このような状況になっているのに、直ぐに駆けつけられなかったのは、このエイチの責任です……けれども、どうかそのように……他人のように私を扱うのは……どうか……どうか」
そう言いながら泣き出してしまった。
まじで状況が意味不明であるが、一先ずここはエイチちゃんに合わせるべき、
「いや、決してそんなつもりは無いから安心してください……エイチ」
そう言ってみたら、どうやら泣き止んでくれたが、俺は1つ気づいた事があった。
それは猫耳だ。
エイチちゃんの頭の上には三毛猫のような耳が乗っていたのだ。
しかもエイチちゃんの服装を見る限り、どう見ても軍服なうえに、俺自身もゴムのような素材で出来たボディスーツみたいのを着ている……確かさっきまではパーカーにトレンチコートだったような気がするが……。
つまり誰かに着替えさせられたのか?
明らかにおかしい。これはやはり夢?
もし夢では無く現実とするならば、答えは、
「これってドッキリ?」
「リッカ様……そのドッキリとは何でしょうか?」
動揺している!間違い無い!
何で俺は気付かなかったのだ。こんなのおかし過ぎるだろう。
・テロに合う
・棺桶に閉じ込められる
・変な服に着替えさせられる
・猫耳少女現る←今ココ
しかしだ、これだけ盛大な仕掛けのドッキリとなると、予算が凄まじいだろうな。
何より舞台セットとかを見る限り映画並みの予算だろうが、一般人の俺にしかけるなんて視聴回数伸びないのでは?
なんて商売人の俺は考えてしまう。
そして気になるのはカメラだ、これだけの仕掛けなんだ、もしもカメラに気づかれるような失態は出来ないはずだが、それらしい物は今のところ目にしていない。
ただ棺桶が、割とゴリゴリに機械的なのを考えると、間違い無くこの中に1台はありそう。
けれども、アングル的に俺を正面から捉えるカメラは必須のはずだが。
俺は慎重に辺りを観察すると……あっ……気づいてしまった!
俺の目の前でチロチロと動いている、エイチちゃんの猫耳!!きっとカメラなんだ、
「俺気づいてしまったよ。ゴメンその耳、カメラでしょ」
猫耳をビシッと指差す俺を、エイチは完全に困惑した表情でこちらを見ている。
流石にバラすのはまずかったかと思ったが、知らん。
そもそも素人にこんなドッキリをするのは悪質といえるのだから。
「リッカ様。何を仰るのですか、しかも俺などと殿方のような言葉使いまで。エイチは悲しいです」
「……えっ……ゴメン……じゃない!」
俺は立ちあがろうとするが、ガチャガチャと音を立てるだけで、背中に取り付けられたハーネスを外す事が出来ない。
「リッカ様、お願いで御座います。動かないで下さい」
「もう大丈夫。全部、分かっているから。そろそろネタバレしてもオーケー」
「駄目です!」
エイチは何とも真剣な表情で、俺の肩を押さえると、
「はっきり言います。リッカ様は致命傷を負われております」
……確かにそうだった。
ドッキリかと思ったが、この腹の傷はなんなんだ?
俺は必死にドッキリと傷の関連性を考えてみたが、思いつかない。
多分この怪我はリアルだ。
しかも致命傷って!つまり死の宣告みたいなものだよな。
嫌……嘘だろ。そんな訳無い。そもそも辻褄が合わない。
「あの誰かに、助けを呼んでくれないかな?」
「大丈夫です私がここで治療します」
「えっ……」
それは不味いだろう。
エイチちゃん、どっからどう見ても医者じゃないでしょ。しかもここで治療って、応急処置でどうにかなるような怪我じゃないって、流石に俺でもわかる。
てか、さっきから痛みが無くなっている上に、流れてる血で棺桶の底がバケツで水をぶちまけたみたいになっている。
これまじでヤバい。
「エイチ……医者を」
「ご安心ください。手術しますね」
「えっ」
「森の精霊達に命ずる対象を救済せよ、医療回復鏡」
エイチは上空にキラキラした宝石を投げると、一斉に宝石は砕け散り、突然目の前に現れたのは俺全体を写し出した巨大な鏡のような機械のような何かだった。
そしてその鏡には俺以外に緑色の羽の生えた妖精だか小人だかの何かが鏡の中で俺の腹を治療しているようだ。
そしてあろう事かみるみる腹の傷が塞がっているでは無いか。
手品だとしてもこれは凄い。
意味不明を通りこしてもはやファンタジーだ。
しかも身体の怠さや意識の混濁すらもみるみる回復されているようで、もはや奇跡ですと言われれば信じてしまいそうだ。
しかも……もっとも驚いたのは……。
鏡に映し出された俺の姿が。
めっちゃかわいい女の子だった訳だ。
もしかしたらと思い顔や胸など触ってみたが、柔らかく、そして咄嗟ではあったが男の特徴第一位に手を伸ばしたが。
「無い……あるはずの……あれが無い」
俺は考えた。
凄い考えた。
ドッキリじゃない?ドッキリだとしたらやり過ぎだ。
動画サイトで1億回されようが製作費を回収できるような金額は貰えないだろう。
富豪のお遊びだとしても意味不明すぎる。
そして猫耳エイチを見る限り、ガチで俺の事を心配しているように見える。
演技だとしたら凄いがそうは見えない。
俺は情報を再度整理した。
……これって。
……異世界転生ってやつ?
出だし凄く迷ったのですが、勘違いからの絶望。
絶望からのユーモアで進行してみました。
11/27挿絵変更しました。