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§I-IX: ((期待+不安)÷2)×2

おはようございます、こんにちは、アンドこんばんは。

そして、お立ち寄りいただきましてありがとうございます。

ぜひページのラストまでお付き合いくださいませ。


これにて第1章のラストです。



 寝る前の支度は全部終わった――と思う。


 向こうに居た時に住んでいた部屋と比べて少し広い。だけど、いくらか向こうで処分してきた分だけ荷物は以前より減っているので余計に部屋が広く感じる。まだ慣れない。


 いっそのこと、実家に戻るとかしても良いんじゃないかとも思ったけれど、事務所が反対した。せめて管理下に置かせろ、とそういう意味らしい。これはさすがに仕方ない。


 そのままベッドに横たわる。


 今日は少しテンションが上がりすぎてしまった。その分、今どっと疲れが出てきている感じがする。


 それもそうだ。こちらに戻ってこられたのも数日前。そもそも移動疲れもあるかもしれない。だとしたらここから体調を崩すこともあるだろう。このテンションのまま眠りにつけるのか今ひとつ自信は無いけれど、やるしかない。


 今更だ。自信なんて無くたって、やらなきゃいけないことなんか山ほどあっただろう。


「へこたれんな、マナミ」


 ぺちぺちと自分の頬を叩く。そこまで痛くはできないので、化粧水をたたき込むくらいの力加減だけど、やらないよりはマシなはずだった。


「それにしても……」


 そこまで呟いて、ベッド脇においてあるお気に入りのぬいぐるみをハグ。いつものルーティン。


「予定通りだけど、予定外なんだよなー……」


 当初のあたしの予定としては、『友達兼仕事仲間であるマミちゃんといっしょの学校に通えて、しかも同じ幼稚園にいたリョウくんに逢えるかもしれない』くらいのモノだった。だけれど、心の何処かでは、この機会は絶対に逃しちゃいけないような気持ちもあった。


 久しぶりにしっかりと学校に通えることも――もちろん、近々テストとかいう『(うん)ザ(り)・学生生活』的イベントもあるみたいだけど――、正直嬉しかった。


 学校に来ていきなりリョウくんに逢えて、マミちゃんと合わせて同じクラスになって、さらに嬉しかった。


 だけど――。


「まさか、マミちゃんもリョウくんと()()()()だったなんて、……思わないでしょー」


 何という偶然。最大のサプライズ。きっとこれ以上ない。


 嬉しい。


 もちろん、嬉しいに決まってる。嬉しくないなんてわけがない。


 もしもあたしたち全員がその頃からの知り合いだったときの現在はどうなっているんだろう――みたいなことも思ったりする。


 そして、複雑な気持ちになってしまう。嘘は吐けない。


 話したいことはある。聞いて欲しいことは――無いことも無い。


 だけれど、それは恐らく、マミちゃんも同じはずだった。マミちゃんは気付いていないと思うけれど、都心から離れれば離れるほど、地元へ近付けば近付くほどに、少しずつだけどいつも落ち着いているマミちゃんらしくないテンションになっていた気がしていた。


「……ふふぁ」


 あ、ヤバイ。意外と眠気が。


 とりあえずスマホは充電ケーブルに。部屋の灯りはゼロに。カーテンはちょっとだけ開けておく。自然光で目を覚ましたいお年頃なのだ。


「おやすみ、リョウくん」


 この睡魔に身を委ねるのが正解だと判断したあたしは、そのまま静かに目を閉じた。




        〇




「ふぅ……」


 くいっと背筋を伸ばす。このお仕事を始めてから欠かしたことのない作業である、今日の日記を書き終えたところで、夜もしっかり更けていた。


 明日の予定から鑑みれば、起きるのはそこまで早くなくてもいいかもしれないけれど、それとこれは別。ルーティンは大事。そろそろ寝ておいた方が健康的だ。


「……」


 改めて、今日の分の日記を眺める。


 ――遼成くんに逢えた。


「うん。……逢えちゃった」


 敬明学園桜ヶ丘高校への編入を決めたのは、『友達であり仕事仲間でもある愛瞳ちゃんといっしょの学校に通えて、しかも同じ幼稚園にいた遼成くんに逢えるかもしれない』という理由。久しぶりにしっかりと学校に通えること嬉しかった。わりと漠然としているけれど、何となく、この機会を逃してはいけないような気はしていた。


 そして、その遼成くんには、学校に来ていきなり再会することができた。再会するだけじゃなくて、これから同じ教室で同じ授業を受けられることにもなった。愛瞳ちゃんも同じクラスで、さらに安心感もあった。


 だけど――。


「まさか、愛瞳ちゃんも遼成くんの()()()だったとは思わなかったな」


 何という偶然。最大のサプライズ。こんなことってあるのだろうか、と今でもちょっと信じられなかった。


 嬉しい。


 もちろん、嬉しいに決まってる。嬉しくないなんてわけがない。


 そして、もしも、私たち3人が幼稚園のころから知り合いだったら――という、ちょっと面白そうなたられば展開も考えてしまう。


 それでも、複雑な気持ちになってしまう。嘘は吐けない。


 話したいことはある。聞いて欲しいことは――無いことも無い。


 だけれど、それは恐らく、愛瞳ちゃんも同じことを考えていそうだった。こちらにやってくるときに同じ飛行機を使っていたけれど、地元に近付けば近付くほど表情が和らいでいるように見えたのだ。


「……考えすぎかな」


 いずれは、話すときが来るかもしれない。


 でもそれは、きっと今すぐじゃない。


 だからとりあえず、今はベッドへ行こう。ゆっくりと目を閉じて、明日を迎えよう。


 そう思いながらも、私はしっかりと自分の未来に期待と不安を寄せていた。



ここまでのお付き合いありがとうございます。

次回からは第2章になります。


何かありましたら、遠慮無くどうぞ。

いろいろとお待ち申し上げております。

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