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§5-1. 入局確定とそのお礼……?

おはようございます、こんにちは、アンドこんばんは。

そして、お立ち寄りいただきましてありがとうございます。

ぜひページのラストまでお付き合いくださいませ。


第5章、スタート。


 放課後に入りきる、そのちょっと前くらいのタイミング。


「リョウくーんっ!!」


 いつもより圧倒的なハッピー感を身にまとった(たか)()(どう)(まな)()――マナちゃんが元気よく飛びついてきた。


 いや、ちょっと待って! それは()()()()()マズい!


「落ち着きなさい」


「ぅえ」


 がしっとハグでもされるのかと思ったその瞬間、マナちゃんのカラダはピタリと動きを止めてくいっと後傾になる。何があったかと思えば、(よつ)(はし)()()()――まみちゃんがマナちゃんを絶妙のタイミングでセーブしてくれたらしい。さすが、彼女は手綱を引くタイミングを心得ている。


「いきなりそれはヒドくないっ?」


「時と場合を考えなさいっ」


「ちぇーっ。……見せつけちゃった方が早いと思うんだけどなー」


 ――おふたりとも?


「それで、どしたの?」


「あっ!」


 一瞬だけご立腹だったようなマナちゃんだったが、俺が声をかけたところですぐにご機嫌は麗しく元通り。姫君の扱いにも慣れてきた気がする。


「見てコレ!」


 まるで裁判所の玄関先で『勝訴』と書いた半紙でも掲げるかのように、紙を俺の目の前に突き出す。危ない。ちょっと勢いがよすぎて、そのまま俺の顔に貼り付けられるのかと思った。っていうか、一瞬(かす)った。近すぎて見えない。


「……ん? おおっ!」


 ちょっとだけ後ずさってその紙に書かれている内容を把握する。


 何のことは無い。さっきの物理の時間に返されたテスト答案。


 その得点は、82点。


 本人は苦手だと言っていて、件の勉強会でもかなり時間を割いていた科目。なかなかどうしてかなり優秀だ。学年全体の平均点が53点なので、これは文句のつけようはないはずだ。


 ――やっぱり『私、全然テスト勉強やってないんだー』と言いながらその実しっかりと点数を稼いでくるタイプじゃないか。


「ほらほら! マミちゃんも!」


「え、私も?」


「そりゃもー。だって、……ねえ?」


 半ば強引にテストを俺に見させようとするマナちゃんに、まみちゃんは少し渋る。だが、直ぐさま何かを耳打ちされてしっかりと納得したらしく、きちんとクリアファイルに入れていた物理の答案を見せてくれた。


「お、すごい」


 87点。トップクラスの点数だし、85点だった俺は地味に負けている。


 若干の悔しさはあったが、この点数を見て気付くこと――というよりは思い出したことがひとつあった。


「ああ。ってことはふたりとも……?」


「うんっ!!」


「……あ、私も出した方がいいかな」


 マナちゃんは『ばばーん!』とかいう効果音をセルフでくっつけながら、まみちゃんはそれに少しだけ遅れて静々と、やっぱり対照的な雰囲気で今日までに返されたテスト答案を見せてくれた。


 ざっと眺めた限り、赤点になりそうな科目はない。それどころか学年平均も余裕で超えている答案だらけ。むしろ成績優秀者の方にリストアップされるくらいのスコアだった。


「え。これ、ふたりともマジでスゴくない……?」


「でしょー?」


 ここぞとばかりにドヤるマナちゃん。何も問題は無い。むしろしっかり誇ってくれた方が清々しい。


 思っていたよりも相当このふたりは賢い。実際問題、このふたりに勝ってる科目の方が少ないような気がする。ふたりの部屋でエラそうに解き方のコツなんかを教えていた俺の存在って何だったんだろうと思いたくもなるくらいだった。


 ――あ、一応、2点だけ数学は勝ってる。よかった、メンツは保った。でも、国語系の科目が見るも無惨な敗北だ。頑張ろう、マジで。


「これで無事に放送局入りだよねっ!!」


 そう、それだ。


 このふたりが今回の定期テストをがんばっていた目的はただひとつ。


 俺が所属している桜ヶ丘高校放送局への入局を果たすためだ。


「うん。たぶんこれなら誰も文句言わないと思う」


 正式な順位は今週末に個別で配られるだろうけど、この点数なら間違いなく当初の目標順位を上回れるはずだ。


「……そうだったわ、アイツ」


「どういうコネなんだ……?」


「あー、そっかぁ、そっち行っちゃうのかー……。ウチのマネージャーになってほしかったんだけどなぁ……」


 ちらほらと背後から呪詛めいた言葉を刺されている感触。たしかに勧誘するきっかけを作った事実はある。最終的に『おいでよ』的なことを言ったのも事実だ。だけど、そもそもそうなることを提案したのも、その決断をしたのも彼女たちふたり自らであるわけで、俺はそこで何らかの文句を言われる所以は無い――はずだ。


「一応、俺からも(じん)()先生に伝えておく?」


「あ、うん! 念のためお願いしよっかな」


「後で時間見つけて私たちふたりでも伝えに行くけどね」


 俺が強引に引き込んだわけでは無い、彼女たちによる決断であるということは、言い方は悪いかもしれないが『解らせておく』必要はあるのかもしれなかった。


「よーしっ! お前ら、今日も体育祭練習行くぞっ!」


 まるで俺たちの話が落ち着くのを待っていたかのように正虎が気合いを入れて、クラスメイトがそれに呼応した。




     〇




 週末、土曜日。


 こんな日でも体育祭練習は行われている。廊下の窓を開ければすぐ下の方から元気な声がこちらまでガンガン届いてくる。


 もちろんさすがに休日ともなれば、相当意欲的なヤツらしか来ない。そのためか、今日は投擲系の種目を陸上部の指導の下で練習をする日になっている。体育の授業では然程練習する時間はない分野だ。要するにウチの体育祭はかなりガチなのだ。


 俺はと言えば放送局の活動。ただしいつも通りに活動時間は午前中だけ。後はどうぞご自由にお過ごしくださいというヤツだ。いわゆるブラック部活動ではない――と思う。


 とりあえずの予定も無かったが、時々ある誰かと元気に街とかに繰り出そうという気も無かった。それは上級生と同級生の区別が無くみんなも割とその傾向にあるようで、恐らくそれはテスト勉強からの解放を優先したかったからだろう。ゆっくり過ごしたいと思うことは、誰しもがあるはずだった。


 そういえば、テスト勉強はこれくらいの時間帯で集合したな――なんて思いながら性と玄関に到着した、まさにそのタイミングだった。


「ん?」


 ケータイに着信。通話アプリのメッセージだ。


 放送局のグループやよく使うお店のクーポンの配信など、受け取っているモノは割と多い(と俺は思っている)のだが、着信した時にリアルタイムで知らせるようにしているモノは実は少ない。毎度毎度スマホが振動されても(うるさ)いし(わずら)わしいというのがその理由だが、もちろん中にはそうではないと思っている着信もある。


 もちろん放送局のグループは、緊急連絡も兼ねていたりするので着信通知はオンにしている。


 ――ここで言うのは()()()()()()プライベート用チャンネルだった。


 玄関脇に設置されているベンチまで移動して、チェック。


 ――『やっほいリョウくん! 今どこ?』


 差出人はマナちゃん。即座の反応を期待しているのか、スタンプを軽く連打している。このあたり、普段の彼女の調子と全く変わらないので面白い。


「『今丁度放送局の活動が終わったとこ』……っと」


 学校に居ることもこれで伝わるはずだろう。


 ほとんど間を空けずに返信できた。即座に既読も付いたのでそのままベンチで待機していれば、案の定追加で届く。


 ――『あ、やっぱり!』


 ――『ちょうどよかった!』


 ――『リョウくんにお礼がしたいんだよね』


 お礼、とは。


 何だろう。そんなことをしたような覚えは――。


 ――『テスト勉強でお世話になったから、って』


「なるほど、それか」


 納得はするが、別にそこまでしてもらうなんて大袈裟な気もしてしまう。もちろんそう思ってくれる気持ちは嬉しいけれど。


 ――『ちょっとご招待させてね、って、ウチのお母さんとマミちゃんのお母さんが』


 何と、両者の親御さんのご指名だとは。


 予想外ではあったものの、思う節はある。


 昨日個別に渡されたテストのすべての結果を見せたのだろう。互いに見せ合ったのだが、事前に決められていた順位目標はふたりともクリアしていた。たぶんだが、その結果を導いた要因が俺とのテスト勉強だったと、マナちゃんのお母さん・(まな)()さんと、まみちゃんのお母さん・()()()さんが思ってくれたという流れなのだろう。


 しかし、ご招待となると、またあのふたりの家に行くことに――。


「……ということでリョウくん、お迎えに上がりましたよっ」


 ――――――。



 ――――。




 ――。







 ――――は?

ここまでのお付き合いありがとうございます。


夏季体育祭まではもう少々お待ちください。


何かありましたら、遠慮無くどうぞ。

いろいろとお待ち申し上げております。

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