§3-2. ミッションはコンプリートできましたので
おはようございます、こんにちは、アンドこんばんは。
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俺がメッセージを送ってからほぼタイムラグもなく、ふたりから『本当に!?』と『ありがとうリョウくん・遼成くん!!』のメッセージがやってきた。
まるでスマホの画面に貼り付いてまで俺からのメッセージを待ってくれていたかのような反応に、思わず笑ってしまう。
その光景というか、ふたりの表情も簡単に想像できるような気がして、余計に俺は笑った。
〇
メンバーにこの件を振ったのは、活動の締めに行う諸連絡のとき。大抵は神野先生からの通知くらいでさらっと終わることがほとんどなので、少々の意外性を持って俺の挙手が受け入れられた。
『お? 色男が何かを宣言するらしいぞ?』
そんな辰巳先輩からの意味不明な囃し立ては、当然のようにスルーをした上で――。
『放送局を見学したいっていう子がいるんですけど……』
『見学?』
全員のアタマにクエスチョンマークが浮かんでくるのが、実際に見えるような空気が漂い始め――しかしそれもすぐに消えていった。
『それは……難波くんの知り合い? それとも難波くんのクラスの子ってこと?』
『え? ええ、まぁ……』
質問の切り込み隊長は喜連川先輩。絶妙な質問。どちらにも当てはまってます。キレイに額のど真ん中を撃ち抜かれたようになってしまい、理由も意味もなく曖昧な返事をしてしまった。
『んー……? ……あ、ああ! もしかして、そういうこと?』
『え? ……あ、なるほど』
そんなミスリードを招きかねないような俺の回答から、何かを掴んだらしい喜連川先輩。その反応を見て、神野先生も同じように何かを把握したようだ。
俺からは正しく意思疎通ができているのかという心配しか増えていかないのだが、そんな俺を他所にふたりは何かを確信して、しかもふたりで視線を交わして何度も頷いている。
――何、そこのふたりはいつからテレパシーが使えるようになっているの。
『ああ、ごめんね難波くん。もちろんOKだから安心して』
俺の怪訝げな視線に気付いたのか、皆も大丈夫だよね、と全員に軽く確認を取る先生。全員がすぐに頷いてくれたので、ひとまずは安心できる展開にはなったらしい――のだが。
『はい、みんなも大丈夫ということなので……。難波くん?』
『あ、は、ハイ』
『彼女たち……じゃなかった。その見学希望の子たちって、いつ見に来たいとかっていう日取りに希望はあるの?』
『え? ……あれ?』
もはや、いきなりわざとらしく言い間違いをしたような雰囲気すら漂わせながら、先生は俺に訊く。さすがにそこまでの予想はしていなかった俺はしどろもどろになってしまった。
『あれ? 俺、……その、言いましたっけ?』
何を言ったかは敢えて言わないが、これは恐らく――。
『だって、『あの娘たち』なのかな、って思ったから。……ねえ?』
『難波くん、そうなんでしょ?』
先生に水を向けられた喜連川先輩も俺に訊いてくる。どうやらさっきの意思疎通はふたりの間で正しく行われていただけではなく、俺もふたりとは正しく意思疎通が出来ていたらしい。
安心すると共に、ふたりの察しの良さが少しだけ怖くなった。女の勘とかいうヤツだろうか、あれはやっぱり怖いモノらしい。
『ええ、まぁそういうことなんですけども』
『具体的な希望はあるの?』
『いえ、とくには……。ひとまず見学がOKかNGかを確認してから、OKだったらそこから日程を詰めていけたらイイかなと思っていたので』
『了解、把握』
大きくひとつ頷いて、神野先生はいつも携帯している手帳を開き、さらりさらりとメモを残す。流れるような所作。
この光景を見るからか、ウチの放送局はスマホを持ちつつもそちらのメモ機能はあまり使わず手帳にメモを残す人が多い。俺も実はそのひとりだったりする。
『じゃあ難波くんは、明日までに見学希望の日と時間を訊いておいてください。一応は来週以降ならいつでも大丈夫……かな? 何か問題ができちゃったら別途こちらから日程調整をしてもらうことにはなるだろうけど。……それでいいかな?』
〇
そんな顛末があって、晴れて季節外れの部活動見学の許可が下りたという話だった。
『さすがリョウくん! シゴトができる!』
『遼成くんありがとうね!』
俺たち3人で構成されているグループに、ふたりからの熱烈とも言えそうなほどの文字列とスタンプが投下されていく。俺が何かを言おうとする前にふたりは盛り上がっているらしい。
もしかしたら、本当に俺からの連絡を全力で待機していたのかもしれない。
そこまでして喜んでもらえるとこちらとしても嬉しい。それと同時に、あのタイミングで『無理じゃないかな』とかそんなネガティブなことを口に出して言わなくて良かったとも思う。
正虎の後押しがあったからというのももちろんある。日程が調整出来たら、アイツには礼を言っておくことにしよう。
〇
――翌週の月曜日。
「今日はよろしくお願いしまーす!」
「よろしくお願いします」
元気にがばっと大きく礼をするマナちゃん。
恭しさすら漂わせながらお淑やかに礼をするまみちゃん。
対照的な動きだが、違いはそれくらい。やっぱりふたりの瞳は爛々としている。
立居振る舞いは違えど中身は割と近しいのがよくわかって、実は観察してみると案外似通っていて面白いふたりだったりする。
「おお……!」
「……マジだった」
感動の声を上げる仲間の姿もちらほら。放送局には、俺と同じクラスの生徒は他にいない。そういう反応になるのも仕方がないことかもしれなかった。
ウチのクラスのヤツらならともかく、他のクラスや2年生、3年生らがふたりを見る機会はそれほど多くない。授業はクラス単位で行われるのがほとんど。
体育や芸術系の授業は複数クラスの合同でやることもあるが、その時に見えるのも隣のクラスが関の山。
だったら休み時間は――ということにもなるが、今のところふたりともお弁当持参。しかも教室の窓際、つまり俺の席あたりでランチタイムとなれば、自然と衆目に晒される機会も少なくなる。
『マジだった』という呟きも、高御堂愛瞳と四橋舞美花がこの学校に実在するということ自体を疑ってしまうくらいだという証拠かもしれない。
「……カワイイ」
「さて、と。とりあえず、ふたりには自己紹介をしてもらおうかな」
ぽそっと聞こえた喜連川先輩の呟きに重なって、神野先生が言う。元気ありあまるようなマナちゃんの返事を皮切りに、始業式の朝のホームルームと同じようにハキハキとした声が響き渡った。
それにしても、やはりさすがは本職、というか何というか。こんなことを言っては失礼に決まっているけれど、本気でウチの放送局にスカウトしたくなってしまう。
キラッと光った神野先生の目を見る限りは、先生も同じ事を考えているかもしれなかった。
「……ふふん」
「え、何スか」
ぼんやりと見ていたのはまさしく迂闊。神野先生の視線と思い切り交錯すると同時、何やら言いたげな笑みを浮かべられ、思わず俺はたじろいでしまう。まるで値踏みでもするような雰囲気もあって、当然居心地は良くない。
何だ、一体。
そんなことを思っていれば、スルスルとこちらに近寄ってきた先生は、何故か一旦ふたりの方を見てから俺の耳元に顔を寄せてきた。
――え、ちょ、……何?
「いやいや。……職員室ではウワサになってるからね」
「……えっ」
デカいリアクションを取らなかったことを褒めてもらいたい気分になる。
いや、別に普段からリアクションが大きい方ではないと自覚しているし、何なら飛んできたセリフがあまりにも予想の埒外だったもんで、大きな声を出すことも身動きを取ることすらもできなかっただけなのだが。
しかし、それよりも――。
――ウワサって何だよ、って話だ。
全く予想ができない。
そりゃあ、傍から見れば『なぜ難波遼成とかいうただの高校生が、アイドルや女優と知り合いなんだ?』的な疑問を持たれたとしても、何ら不思議ではない。
当然だ。こっちだって、幼稚園児だった頃に仲が良かった女の子がまさかこんな身分になっているなんて、思い至るわけがない。
そりゃあ、まぁ、当時からふたりとも可愛かったけれども。
ちょっとだけその頃の光景を思い出そうとして、ふたりの方へと視線を向け直す。
「……ん?」
ちょっと剣呑なムードが漂っているように見える。
というか、俺、――もしかして、ふたりから睨まれてる?
いや、睨まれているわけではないようだけれど、どことなくトゲが含まれているというか、そんな雰囲気。
俺、何か今、そんな風にされることしましたっけ?
ここまでのお付き合いありがとうございます。
放送局の件ですが何分調査不足のところもあるかと思いますので、何かありましたら遠慮無くどうぞ。
いろいろとお待ち申し上げております。