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蓋世の巨人   作者: ヒョーゴスラビア総統
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蓋世の巨人

 そこから夢が終わり目が覚めた。


 夢で見た鮮やかな茜の陽は百年にも及ぶ産業革命の影響で空気が冒されその明細は過去の栄光を失った皇国のように薄く暗くなっている。


「もう夕暮れか」


 孫の欲しい物もろくに覚えられない癖に嫌な記憶ほど忘れ難いとはな、歳は取りたく無いもの、来世は人間として生まれたく無いものだ。


 この島に来る前に日本で買って置いた桜の花束を小型のバックパックから取り出す。


「皆で帰って(これ)を見ながら酒盛りしたかったのう」


 温帯の気候でしか桜は育たないためこの島では年に数回ここに持って来ては飾り立てる。


 皇国に帰ったら皆で桜を見、各々の家族とともに酒を呑み、己の戦果を分かち合うと約束していたが……な。


「悲しいものよ、年老いた儂が生き残り若い君達が先に死ぬとは」


 夢で見たあの最後の戦は敵側の殲滅戦で終わった。


 この島に残っていた残りの師団は俺たちの隊だけだったためかまさか港に突撃戦を仕掛けるとは思っていなかったらしく、初めは此方が善戦していたが、敵の援軍、敵船の艦砲射撃により戦友は死んでいった。


 補給の滞った残りの弾倉、弾丸は湯水のようにすぐになくなり銃剣、腰の帯刀での近接戦を強いられたが刀は折れ、堕ちる。


 初めから負傷し動けない彼等は自決を思ってか、捕虜になるのを拒否したのか、敵の前線が近づいた時に人間地雷として自爆した。


 そして俺は左腹と左肩、右太腿を撃ち抜かれ大量出血で仮死状態へと陥ったが持ち前の生命力でボロボロの身体、虫の息であった呼吸音では死体と紛れ、敵兵が去った後雨風に晒され、戦後に帰ってきたこの島の国民により介抱されて生き延びた。


「あの時の銃槍は時より痛むぞ、特に肩の骨がピキピキな。しかしこれが生きている証拠なのかな。生き延びたお陰で愛する息子も孫も曾孫も沢山居るわ」


 カラカラと戦車に向かって笑い飛ばす。


 側から見れば老いぶれた老人が狂ったようにしか見えない。


「お前の形見は、妻は、子はキチンと守り切れたぞ」


 敗戦から十年後に俺は戻った。この島では治療機関が無いため作った銃槍を失うのに長く時間が掛かったためだ。


 堕ちた陽の皇国は惨めだったが、我等の皇帝閣下の神々しさは失われずそれに従う国民は活気に満ち溢れていた。


 瓦礫から拾い集めて作られた建物を動き出した鉄道に乗りながら眺め、戦友の遺族に訪れる。


 連合軍に回収出来なかった遺骨や遺品は何年もかけて集め其れを返す為に。



「夫が帰ってきたんですね。ありがとうございます」



 この言葉が俺の中で最も重い言葉だ。


 その後は何度(なんとも)も楽だった。その後、数年間は故郷だった日本には時々帰る程度で今ではこの島の命の恩人と仲良く暮らした。


 先程も言った通り、子宝には恵まれ、今では皆、各国で自分の望む職に就いている。


 極楽の如き今の時間を堪能に楽しみ後は死を待つだけ、


 とはいかない。


「三等陸佐、一等陸佐殿と将補殿のお呼びです」


「よし分かった」


 来たか、この頃毎日のように呼び出されるな。まるで先の大戦を思い出させる。


「まだまだやるべき事は有るのでな。戦友諸君、まだ冥土(そっち)には行けぬ」


 そう言いながら翁はもう一度バッグパックを開き中からソレを取り出す。


 ソレは今現在、日本を守護する|無影の英雄(*****)たちが着る自衛隊軍服。


 胸には無数の勲章が鏤められその過去の輝かしい栄光を放っている。


「大日本帝国()は退役したが自衛()は継続中でな」


 そう、軍と隊は全くの別物だ。退役したが彼は嘘は言ってはいない。


「この肉体が粉になるまで。否、我が子孫が安寧に暮らせるその日まで俺は戦うとしよう」


 そして軍服を来たか翁は今は亡き戦友を後にして歩み出す。


物語の内容はいかがだったのでしょうか、この物語は死んだ曽祖父から聞き儂自身で勝手に想像して書いた短編です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 作品の重みがなんか違うなと思っていましたが、曽祖父から聞いた話を元にした作品でしたか。 読んでいて主人公の過酷さや想いがよく伝わってくる作品だと思います。 自分も以前、仕事先のお客さんの…
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