◇7匹のゴブリン②◇
○
――例えば目の前に、積み重ねられた数枚のパンケーキがあるとするだろう。
きつね色のパンケーキは、まさに焼き立ての良い匂い。
そして、一番上のパンケーキには、四角いバターが乗せられているんだ。
そこに、ティーポットの様な容器からメイプルシロップがかけられる。
焼き立ての香り、甘い香り、バターの香り。
その3つが相まって、至高の逸――
「おい、話を聞いているのか、アンデッド娘!」
「……うるさい! 現実逃避していただけ! あとアンデッドじゃないから!」
「お前……自分の立場が分かっているのか!?」
そう、私たちは捕らえられたのだ。
捕まえに行って、捕まえられたのだ。
あのあと、落とし穴から引きあげられた私たちは、縄で上半身を縛られた。
そして、ホブゴブリン7匹に囲まれ、ずっと睨まれていたのだ。
まったく……従うのであれば――なんて条件をつけるなんて。
さすがはゴブリンといったところか。
悪賢い。ズル賢い。狡猾だ。
これ全部同じ意味だ!
「よし、黙ったな。それじゃあ一から話すぞ」
骨の被り物をしたホブゴブリンが腕を組む。
こいつがリーダーらしい。
「我らの目的はズバリ――村を襲った奴に復讐することだ」
……利害が一致しそうな予感。
「その目的の為、お前らには囮になってもらう」
「……は?」
「そうだな……まずはお前らの強さを測らせてもらおう。腕のない娘は論外だが、緑色のお前はなかなか筋がありそうだ」
サラっと侮辱された気がした。
被り物のゴブリンが指示を出し、別のホブゴブリンがナズチの縄を解く。
次に、ナズチを盾持ちのホブゴブリンの前に立たせ、顎をクイッと動かしナズチに攻撃の指示をした。
「えぇ!? 私、戦ったことなんてありませんよぅ」
「いいからやれ! 攻撃するだけでいい!」
「うぅ」
ナズチは胸の前で拳を作り、可愛らしく「えいっ」と盾持ちホブゴブリンを軽く押した。
「ぬわああぁぁぁ――――!!!」
優しく押したように見えたが、盾持ちホブゴブリンは遠くにふっ飛んだ。
飛ばされたホブゴブリンは、木に背中をうちつけてそのまま気を失ってしまった。
『…………』
その場は瞬時に凍り付く。
ホブゴブリンは目を疑ったのか、何度も何度も目を擦っていた。
……私はある程度予想はしていたぞ。
だって、ナズチはあの豪傑豚の娘なんだ。
そりゃあ、馬鹿力だろう。
「あ、あの……。いや、そんな強くやったわけじゃなくて、その……大丈夫ですか? あのゴブリンさん……」
ホブゴブリンたちは、目を点にしてみていた。
必死に弁明するナズチを。
「…………あ、あ、あねきぃぃぃ! こ、これまでの無礼、おおお許しください!!」
骨の被り物をしたホブゴブリンを筆頭に、5匹のホブゴブリンたちがナズチに向かって土下座した。
いいな、私もされたい。
「え、え? 皆さんどうしたのですか?」
「我ら、姉貴についていきます!」
「え、え~!」
なんだこの気分。
蔑ろにされているような、この微妙な気持ち。
それに、なんとも言えない茶番感。
「あの」
「アンデッド娘は黙ってろ!」
本当に蔑ろにされていた。
私の扱いは変わらないままなのか。
ちぇっ。
「しかし、これだけはお願いしたい! 我々の復讐など、姉貴にとっては無益かもしれません。ですが、我々は殺された仲間たちの死をこのまま見過ごしておくわけにはいかないのです……! どうか、お願いいたします……お願いいたします!」
ぷっ、地面におでこまで擦り付けちゃってる。
ぷぷぷっ。
「……つまり、弔い合戦――ということですか?」
「その通りです」
「ならば手を貸しましょう。その代わり、私たちの弔い合戦にも手を貸してください」
「――! ももも、もちろんです! 感謝しても感謝しきれません!! ありがとうございます! 姉貴様っ!!」
姉貴様……ねぇ。
本来私がこうなりたかったが、まさか仲間に先をこされるとは。
そのうち、ナズチがウィンクをし、アイコンタクトをとってきた。
まぁ、ゴブリンたちを仲間にできたし……私の目的は弔い合戦じゃないが、そこはよしとしよう。
良かった。
私の扱い以外は。
「あのー、取り込み中で悪いんだけど、この縄解いてくれないかな」
「黙れ!」
なんで?
「……私の扱いってどうなるのかな、ゴブリンさん」
「貴様は――我らより低い身分だ!」
「ええ……」
上下関係が複雑になってきたな……。
▽
それから、私たちはホブゴブリンを引き連れナズチの家に帰宅。
ナズミはホブゴブリンたちを見るなり、驚いて隠れていたが、すぐに打ち解けていた。
ちなみに、ホブゴブリンたちが過ごす場所は、ナズチの家の使っていない倉庫となったのであった。
――さて、道具は出揃った。
次は――奴らを墜とす策戦を考えるとしようか。
次話もよろしくお願いいたします!(誤字があれば報告いただけると嬉しいです!)




